新エネルギー技術の普及にロジスティック曲線を 適用した地球温暖化の動学的最適化モデル 畠瀬 和志 神戸大学 経済学研究科 研究員 研究の背景と方針 研究の背景 地球温暖化のエネルギー経済モデルの課題として、エネルギー部門の構造 変化のモデル化がある ⇒ 従来のモデルにおいては、新エネルギーの普及がシミュレーション結果 に十分に反映されていない。また、新エネルギーの利用上の制約について も考慮されていない。 研究の方針 ロジスティック曲線とラムゼー動学モデルを組み合わせたハイブリッド・モデ ルにより、エネルギー部門の構造変化をモデル化する 2種類の新エネルギー技術(既存代替エネルギー N、革新的エネルギー R) を仮定し、既存代替エネルギー Nのシェアに上限を設定 開発したモデルを用い、費用-効果原理に基づいたCO2削減の政策シミュ レーションを行う 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 2 エネルギー部門の構造変化のモデリング エネルギー部門の構造変化を考慮した動学的最適化モデル Goulder & Schneider (1999) DEMETERモデル(van der Zwaan et al., 2002) ENTICE-BRモデル(Popp, 2006) 各モデルの特徴 Goulder & Schneider DEMETER ENTICE-BR 本研究 内生的技術進歩 R&D LBD(Learning by doing) R&D+LBD LBD エネルギー技術 2種類 2種類 2種類 3種類 技術間の代替の 弾力性 σ=0.9 σ=2,3,4 σ=1.6,2.2,8.7 ロジスティック 曲線で定義 クラウディングア ウト 現在のR&Dを 先送りする なし あり なし 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 3 DEMETERモデルにおける技術拡散曲線(van der Zwaan et al., 2002) 2100年における新エネルギーのシェアは90%以上 新エネルギー技術のシェア拡大が直線的に起こる BAUケースでも2100年における新エネルギーのシェアは30% 出所:van der Zwaan et al., Energy Economics 24, 2002 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 4 ENTICE-BRモデルにおける技術拡散曲線(Popp, 2006) 400$ /tC のケースは現実的ではない 現実的なパラメータの下ではシェア拡大が非常に起こりにくい 出所:Popp, Energy Economics 28 (2), 2006 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 5 ラムゼーモデル、ロジスティック曲線、Learning-by-doingの連結 ラムゼーモデル T max 1 t Lt log Ct Lt t t 0 Kt 1 1 Kt It Yt At Kt L1t 1 Yt Ct It pt Et 1 Et 1 1 pt p0 c c j ,t S j ,t j j ,0 S j ,0 , j F, N, R j Learning by doing ロジスティック曲線 dSt aSt 1 St dt 2007/10/18 W j ,t c j ,t c j ,0 W j ,0 b t 1 W j ,t S j , 1E j , 1 1 N S j , E j , 神戸大学 六甲フォーラム 0 6 ロジスティック曲線 エネルギー投入は3種類のエネルギーから成るものとする Yt t Kt L1t 1 t 1 S N ,t SR ,t Et S N ,t Et SR ,t Et 1 1 SN ,t : 既存代替エネルギーのシェ ア SR,t : 革新的エネルギーのシェ ア 新技術の拡散はロジスティック曲線に沿うものとする dS j ,t dt a : coefficient 上式を不等式に修正: dS j ,t dt aS j ,t 1 S j ,t , j N , R aS j ,t 1 S j ,t コンピューター・プログラムにおいては、有限差分化して用いる: S j ,t 1 S j ,t aS j ,t 1 S j ,t t 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 7 Learning by doing 化石エネルギーのコスト cF は一定値 cF ,t cF 新エネルギーのコスト cN は経験に伴って低下 c N ,t WN ,t cN ,0 W N ,0 b cR ,t Wj ,t : 累積経験量 2007/10/18 WR ,t cR ,0 W R ,0 b b : 経験指数 経験指数の実証値(出所: McDonald & Schrattenholzer, 2001) エネルギー技術 期間 経験指数 b Nuclear (OECD) 1975 – 1993 0.09 GTCC(OECD) 1984 – 1994 0.60 Wind (OECD) 1981 – 1995 0.27 Photovoltaics (OECD) 1968 – 1998 0.32 Ethanol (Brazil) 1979 – 1995 0.32 神戸大学 六甲フォーラム 8 既存代替エネルギー N 、革新的エネルギー R のシェアを考慮したモデル式 ロジスティック曲線 S N t 1 S N t aN S N t S Nmax S N t t SRt SRtR t tR S R t 1 S R t aR S R t 1 S R t t t tR SOt 1 SN t SRt SNmax: 代替エネルギーのシェ ア上限 tR : 革新的エネルギーの実用化時期 Learning by doing cN t 1 cN t bN cN t cNmin cRt cRtR WN t 1 t tR R cRt 1 cRt b 2007/10/18 WN t 1 WN t min R cRt c WRt 1 WRt WRt 1 神戸大学 六甲フォーラム t tR 9 気候変動モデル Grubb et al. (1995) による最も単純なCO2蓄積モデルを適用 Mt 1 Mt EmistAnth EmistNat Mt M t M max M : CO2蓄積量 M max: CO2安定化目標値 : CO2の大気中から の除去率 人為起源CO2排出 EmistAnth O EOt EO : 既存エネルギー投入 O: CO2排出強度 自然起源CO2排出(Nordhaus, 1999 による) EmistNat Emis0Nat 1 d Nat 2007/10/18 t 神戸大学 六甲フォーラム dNAT: 自然起源排出の減少率 10 シミュレーションのシナリオ CO2安定化目標(Mmax=500ppm)を維持しつつ効用の総和を最大化(費用効果型シミュレーション) 代替エネルギー N の拡散曲線と革新的エネルギー R の寄与に注目 シミュレーションシナリオとパラメータ設定 将来シナリオ 係数 a (a) STC + LL + LSN 経験指数 b SNのシェア上限 0.08 0.2 40% (b) STC + LL + HSN 0.08 0.2 60% (c) STC + HL + LSN 0.08 0.4 40% (d) STC + HL + HSN 0.08 0.4 60% (e) FTC + HL + LSN 0.12 0.4 40% (f) FTC + HL + HSN 0.12 0.4 60% STC: Slow Technological Change FTC: Fast Technological Change LL: Low Learning HL: High Learning LSN: Low max of SN HSN: High max of SN 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 11 共通パラメータ マクロ経済関連のパラメータは主に DICE-99モデル、RICE-99モデル (Nordhaus, 1999)のものを適用(計算開始1990年、10年毎に計算) RICE-99モデルにならい、エネルギー投入 Et を炭素換算(GtCベース)でパ ラメタライズ Learning by doing に関連するパラメータは Anderson & Winne (2004)、 Gerlagh & van der Zwaan (2004) を参照 革新的エネルギー R には核融合を想定し、伊藤他 (2003) を参照 CO2蓄積モデルは大規模気候変動モデルの計算結果(Taylor et al., 1995) を用いてカリブレート エネルギー効率改善は全要素生産性で表現(Nordhaus, 1999 による) 革新的エネルギーの実用化時点における累積経験量 WR,tR は以下の式に より推定 WRtR 2007/10/18 cN 0 cRt R 1 b WN 0 cN 0 WN 0 cRtR WRt R 神戸大学 六甲フォーラム b 12 共通パラメータ:エネルギーコスト関連 コスト関連パラメータ エネルギー技術 初期コスト コストの下限 導入時期 初期のシェア 既存エネルギー F 3 c/kWh (3 c/kWh) (1990年) 95.9% 既存代替エネルギー N 10 c/kWh 3 c/kWh (1990年) 4% 革新的エネルギー R 30 c/kWh 3 c/kWh 2030年 (0.1%) 参考値(出所:Anderson & Winne, 2003) エネルギー技術 現在のコスト (c/kWh) 成熟時のコスト (c/kWh) 天然ガス 2–4 2–4 バイオマス 5 – 15 4 – 10 風力(オンショア) 3–5 2–4 風力(オフショア) 6 – 10 2–5 熱太陽光発電 12 – 18 4 – 10 太陽電池 20 – 80 –8 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 13 計算結果:各エネルギーのシェアの時間変化(1) 化石燃料 既存代替エネルギー 神戸大学 六甲フォーラム 2170 2200 2200 2110 2080 0% 2050 0% 2020 20% 2200 20% 2170 40% 2140 40% 2110 60% 2080 60% 2050 80% 2020 80% 1990 100% 1990 (d) STC + HL + HSN 100% 2007/10/18 2170 2200 (c) STC + HL + LSN 2140 0% 2140 0% 2110 20% 2080 20% 1990 40% 2170 40% 2140 60% 2110 60% 2080 80% 2050 80% 2020 100% 1990 100% 2050 (b) STC + LL + HSN 2020 (a) STC + LL + LSN 革新的エネルギー 14 各エネルギーのシェアの時間変化(2) 化石燃料 2200 1990 既存代替エネルギー 2170 0% 2140 0% 2110 20% 2080 20% 2200 40% 2170 40% 2140 60% 2110 60% 2080 80% 2050 80% 2020 100% 1990 100% 2050 (f) FTC + HL + HSN 2020 (e) FTC + HL + LSN 革新的エネルギー 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 2200 2170 2140 2110 2080 2050 2020 1990 100% 80% 60% 40% 20% 0% 15 各エネルギーの投入量の時間変化(1) (b) STC + LL + HSN 40 35 35 2200 1990 2200 2170 2140 2110 0 2080 0 2050 5 2020 5 (c) STC + HL + LSN (d) STC + HL + HSN 40 40 35 35 エネルギー投入 (GtC) 30 25 20 15 10 5 30 25 20 15 10 5 既存代替エネルギー 40 2200 2170 2140 2110 2080 革新的エネルギー 神戸大学 六甲フォーラム 2007/10/18 2050 2200 2170 2140 2110 2080 2050 2020 1990 化石燃料 2020 0 0 1990 エネルギー投入 (GtC) 10 2170 10 15 2140 15 20 2110 20 25 2080 25 30 2050 30 2020 エネルギー投入 (GtC) 40 1990 エネルギー投入 (GtC) (a) STC + LL + LSN 16 各エネルギーの投入量の時間変化(2) (f) FTC + HL + HSN 40 40 35 35 エネルギー投入 (GtC) 30 25 20 15 10 5 30 25 20 15 10 5 既存代替エネルギー 2200 2170 2140 2110 2080 1990 2200 2170 2140 2110 2080 2050 2020 1990 化石燃料 2050 0 0 2020 エネルギー投入 (GtC) (e) FTC + HL + LSN 革新的エネルギー 40 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 00 22 70 21 40 21 10 21 80 20 50 20 20 20 90 19 -10 17 (a) STC+LL+LSN (d) STC+HL+HSN 2007/10/18 (b) STC+LL+HSN (e) FTC+HL+LSN 神戸大学 六甲フォーラム 2200 2170 2140 2110 2080 2050 2020 700 650 600 550 500 450 400 350 300 250 1990 エネルギー価格 ($/tC) エネルギー価格の時間変化 (c) STC+HL+LSN (f) FTC+HL+HSN 18 CO2削減費用 Business as usualケースからの消費の差の現在割引価値を合計 既存代替エネルギーの利用可能度とLearning by doingの度合いがともに高 い場合に小さくなる CO2削減費用(1990 – 2000年) 将来シナリオ 費用($trillion) (a) STC + LL + LSN 5.50 (b) STC + LL + HSN 4.38 (c) STC + HL + LSN 4.32 (d) STC + HL + HSN 3.04 (e) FTC + HL + LSN 3.45 (f) FTC + HL + HSN 2.67 注)金額は1990年US$で表示した。 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 19 結果のまとめ 21世紀後半までは、将来シナリオを問わず、総エネルギー投入の成長率を逓 減させて、総エネルギー投入の抑制によるCO2削減を行わざるを得ない 既存代替エネルギー(太陽光、風力など)のシェア上限が大きい(=利用可能 度が高い)場合は、エネルギー転換によるCO2削減の寄与度も大きく、その分 総エネルギー投入抑制の度合いは低い エネルギー価格はLearning by doingの経験指数が大きければ抑えられる。 また、総CO2 削減費用は、既存代替エネルギーの利用可能度とLearning by doingの度合いがともに高い場合に小さくなる 結果を総合すると、既存代替エネルギー(太陽光、風力など)の利用可能度が 高いことLearning by doingの度合いが大きいことが、効率的なCO2削減に重 要であると結論できる 革新的エネルギー(核融合)については、22世紀以降はCO2 削減に顕著に寄 与しうるが、地球温暖化防止の成否を決める21世紀中においては、寄与は小 さくとどまる 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 20 今後の研究課題 英文への書き換えのポイント モデルのバージョンアップ(環境経済・政策学会では新バージョンを使用した) エネルギー価格に炭素税を含める(あるいは、エネルギー価格の図に代えて 限界削減費用を示す) シナリオの見直し(High max of SNのケースでCO2分離・貯蔵等をある程度 考慮出来るようにする、等) モデル改良のポイント モデルに更なるリアリティを与えるためには、CCS (CO2分離・貯蔵)を独立 に考慮した方が良い(エネルギー技術を4種類とする) 化石エネルギー価格上昇の考慮(Nordhaus は石炭の埋蔵量をもとに価格 上昇を計算しているが、もっとリアリティのある推定法が必要) エネルギー効率改善の内生化、Learning by doingに代えてR&Dモデルを 用いることの検討 2007/10/18 神戸大学 六甲フォーラム 21
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