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アジア企業における「知識人材」の
育成・活用
立命館アジア太平洋大学
福谷
正信
1
アジアの「知識人材」研究の課題設定
アジアにおける工業化の進展と産業構造高度化
初期工業化 → 本格的工業化 → (知識工業化)
現地高度技術者の需要増
多国籍企業のアジアにおける生産・販売・サービス活動の
拡大とネットワーク化
対外投資の増加、現地拠点の重要性増大
現地拠点マネージャー層の需要増大
技術革新、特に情報通信技術の急激な進歩と発展
現地IT技術者と研究開発人材の需要増大
21世紀のアジ
ア産業社会
企業や社会においてイノベーションを実践で
きるような知識と能力を持った新しい労働力
としての「知識人材」への期待
2
「知識人材」に関するいくつかの諸説
「科学的管理法によるマニュアルワーカーの生産性を高めるマ
ネジメントを開発・実践した20世紀とは異なり、21世紀の覇者
はナレッジワーカー(知識労働者)の生産性を向上させる仕組み
を開発・実践した国である・・・」 ドラッカー“Knowledge Worker
Productivity” 1999)
「工業化時代のブルーカラーがホワイトカラーにとって代わられ
たように、サービス経済化時代のホワイトカラーは、情報化時代
のゴールドカラーに代わられる」(キリー「ゴールドカラー・ビジネ
スを動かす新人類たち」1985)
「知識社会いわゆる脱工業化社会に関して重要なことは、工業社
会おいて資本と労働がまさに社会変革の戦略資源であったように、
“知識と情報が社会変革の戦略資源になる」(ベル「知識社会の
衝撃」1995)
福谷「産業構造の高度化と「知識人材」像(立命館経学54(3)より
3
「知識人材」の定義と範囲
技術・管理分野において高度の知識を有し、大学相当
以上の学歴的背景を有する職業人層
企業活動の中核を担い将来の発展を支える人材層
(技術・管理分野)
専門職的人材層 (研究者、技術者、エンジニア、会
計士、法律家、など)
新分野開拓のイノベーター的人材層(R&D従事
者、新規起業家など)
4
アジア太平洋の知識人材の存立形態
(求められる資質)
= グローバル・アイ
= 専門的知識
(KHR<知識人材>)
プロフェッショナル・リサーチャ
&エンジニア
技術者、専門職、研究者 etc
= 多文化対応力
= 言語能力
ストラテジック・アドミニスト
レーター
経営 管理職、MBA
etc
= 情報処理能力
= 革新的思考
イノベーター
起業家、思想家、etc
= リーダーシップ
社
会
経
済
発
展
の
中
核
層
知識産業社会のリーディング・パーソナリティー
グローバル化
IT革命
知識産業化
5
工業化と中核人材像
社会発展段階の比較
生産様式
経済セクター
工業以前の状態
工業社会
●第一次産業 Extractive
●第二次産業 Fabarication
農業
財貨生産
鉱業
製造業
漁業
耐久財
林業
非耐久財
石油とガス
社会変化の資源
自然エネルギー
風力、水力、家畜、人力
建設業
二次エネルギー
電力、石油、ガス、石炭、原子力
脱工業社会
サービス産業 Processing; re-cycling
●第三次産業
運輸、公共事業
●第四次産業
●第五次産業
保険、教育
調査、研究
貿易、金融
統治
保険、不動産
レクリエーション
情報
コンピューター、データ伝送システム
戦略資源
天然資源
資本
知識
技術
手工芸
機械技術
知的技術
技能者
職人、農民、肉体労働者
技師、半熟練労働者
科学者、技術者、専門職
D.ベル 『知識社会の衝撃』1995年
6
アジアの研究開発拠点
出所)通商白書2002
7
知識人材の需要構造と分野
・先端産業分野
・一般製造業分野
・公共分野
・農業・伝統分野
・金融・サービス分野
高度な
技術知識
弁理士
IT処理能力
MBA
言語能力
会計士
組織管理能力
弁護士
多文化対応能
力
・・・・
革新的思考
・・・
リーダーシップ
etc
・独立業種
(セクター)
技術士
・・・・
訓練トレーニ
ング
教育制度
生涯教育
キャリアー
アップ制度
R&D活動
(求められる能力)
(プロフェッショナルな資格)
8
知識人材の供給チャンネル
工学系
社系
特殊教育・
異分野教育
ポスト・グラ
ジュエイト
キャリ
アー・
アップ
研修
ジョッブ・
プレイス
メント
アンダー・グ
ラジュエイト
実務系
学校
中等教育
グレード評価
教育システム
カリキュラム構成
資格認定
言語教育
etc
入職評価
勤務評価
研修プログラム
9
調査項目と調査方法
(アンケートと聞き取り調査)
知識集約型産業の現状とマンパワー需給
大卒者(技術・管理分野)の進路分布
企業の中核人材キャリアアップの方向性と目的・手段
国における知識人材養成のプライオリティー分野と育成政策
企業の望む「中核人材」像とその確保
10
企業アンケート結果の概要
調査企業数 234社
中国
59社
台湾
19社
韓国
20社
マレーシア
17社
タイ
41社
フィリピン
20社
インドネシア
17社
インド
41社
製造業企業
107社
サービス系企業
127社
日系企業
113社
地元企業
101社
大企業
159社
中小企業
75社
11
「知識人材」研究プロジェクトで実施した具体的な
企業アンケートによる調査項目
企業の概要
企業の従業員構成
企業の(知識人材として)「求める人材」のイメージ
企業の(知識人材として)「求める人材」 の評価と育成戦略
企業の(知識人材として)「求める人材」 への教育・研修方法
企業の(知識人材として)「求める人材」 の問題点
(別添アンケート表参照)
12
13
「知識人材」(中堅層)の採用手段(国別比較)
大学からの直接採用が多数
留学生採用は台湾、中国、韓国、マレーシアが多い
職業専門学校からはアセアン諸国が比較的多い
国内他社からの採用はインド、台湾、中国など
タイ
フィリピン
マレーシア
インドネシア
インド
韓国
台湾
中国
0%
大学
20%
40%
専門学校
国内他社
60%
外国
80%
帰国留学生
100%
その他
14
中堅層(知識人材)として重視する項目(地元企業vs日系企業)
図3-4 知識人材としての重視項目
25.0
20.0
情報技術、指導力、数
値能力重視は共通
15.0
日系は資格重視でな
い
外国語能力重視
は共通
10.0
5.0
プレゼンテーショ
ン重視は共通だ
が地元企業の方
がやや高い
0.0
)能
語
力
力
)
か
ほ
能
ョン
A
力
B
(M
(英
語
国
外
識
能
シ
ー
材
人
地元企業
知
営
経
営
力
テ
ン
運
ゼ
織
組
レ
プ
能
力
能
つ
も
プ
ッ
を
力
理
能
現
表
章
処
術
シ
ー
技
ダ
値
文
数
ー
リ
報
情
(目盛りは60%以上の%数値)
日系企業
15
16
1.8
1.6
1.4
アジア諸国の
中国
台湾
韓国
マレーシア
タイ
ネシア
インド
1.2
1.0
0.8
0.6
技術分野マネージャーで
期待される能力
0.4
0.2
ほ
)能
か
力
)
力
能
語
(英
1.8
語
国
外
営
知
識
組
織
(M
B
運
A
営
能
現
表
図3-5 技術分野マネージャーで期待される能力
1.6
経
情
報
技
術
を
も
つ
人
力
材
0.0
1.4
(各国平均3.0を基準値としての加算率表示)
1.2
情報技術をもつ人材
表現能力
組織運営能力
経営知識(MBAほか)
外国語(英語)能力
各部門平均値
1.0
0.8
情報技術と外国語能力が高い評価
組織運営能力が相対的に高い評価
経営知識は比較的低い評価
0.6
0.4
0.2
0.0
中国
台湾
韓国
マレーシア
タイ
ネシア
インド
17
2.5
2.0
アジア諸国の
中国
台湾
韓国
マレーシア
タイ
フィリピン
ネシア
インド
1.5
1.0
製造分野マネージャーで
期待される能力
0.5
)能
か
ほ
語
A
語
国
外
識
知
営
2.5
(英
(M
B
運
織
組
図3-6 製造分野マネージャで期待される能力
力
)
力
能
営
能
現
表
経
(各国平均2.5を基準値としての加算率表示)
2.0
1.5
情報技術をもつ人材
表現能力
組織運営能力
経営知識(MBAほか)
外国語(英語)能力
1.0
組織運営能力が高い評価
0.5
情報技術能力が次に重要
ド
ア
イ
ン
ィ
リ
ネ
シ
ピ
ン
イ
タ
フ
マ
レ
ー
シ
ア
韓
国
0.0
台
湾
経営知識・外国語が意外に低い評価
中
国
情
報
技
術
を
も
つ
人
力
材
0.0
18
1.8
1.6
1.4
中国
台湾
韓国
マレーシア
タイ
フィリピン
ネシア
インド
1.2
1.0
0.8
0.6
アジア諸国の
営業部門マネージャーで
期待される能力
0.4
0.2
語
)能
か
ほ
1.8
1.6
経
外
国
知
識
営
語
(英
A
(M
B
織
運
組
営業部門マネージャーで期待される能力
力
)
能
力
営
力
現
能
表
情
報
技
術
を
も
つ
人
材
0.0
1.4
(各国平均3.0を基準値としての加算率表示)
1.2
情報技術をもつ人材
表現能力
組織運営能力
経営知識(MBAほか)
外国語(英語)能力
1.0
0.8
表現能力が重要
外国語能力が必須
0.6
0.4
0.2
ン
ド
イ
ア
シ
ネ
イ
ピ
ン
フ
ィリ
レ
マ
タ
ア
ー
シ
国
韓
湾
台
国
0.0
中
経営知識は一定水準が必要
19
3.0
2.5
中国
台湾
韓国
マレーシア
タイ
フィリピン
ネシア
インド
2.0
1.5
1.0
アジア諸国の
研究開発技術者で
期待される能力
0.5
ほ
語
)能
か
力
)
力
能
(英
語
国
3.0
外
営
知
識
組
織
(M
B
A
運
営
能
現
表
図3-8 研究開発技術者で期待される能力
経
情
報
技
術
を
も
つ
人
力
材
0.0
2.5
(各国平均2.0を基準値としての加算率表示)
情報技術能力が必須
2.0
情報技術をもつ人材
表現能力
組織運営能力
経営知識(MBAほか)
外国語(英語)能力
1.5
1.0
外国語能力が重要
0.5
表現能力応力が相対的に重要
0.0
中国
台湾
韓国
マレーシア
タイ
フィリピン
ネシア
インド
20
アジアの地域別に見た「知識人材」の
存立動向
1.知識情報型人材像
知識産業、先端産業が進展するなかで、情報技術能力、研究開発能力が
益々重要となり革新型イノベーター、組織能力向上が課題
2.工業化型人材像
本格的工業化、産業集積が進行する中で、情報技術能力、組織運営能
力の向上が重要な要素
3.混成型人材像
知識産業と本格的工業化が同時並行的に進む中で、情報処理能力、組
織運営能力、研究開発能力の向上が重要
4.初期工業化型人材像
工業化初期段階において、情報処理能力、語学力が重要
21
就業者の産業別構成比(%、 2003年)
国・地域
農林水産業
工業建設業
サービス業
アメリカ
2.5
20.4
77.1
シンガポール
0.2
23.5
76.3
日本
4.6
28.3
67.1
韓国
8.8
27.2
64.0
タイ
46.1
19.4
34.5
マレーシア
14.9
31.2
54.9
フィリピン
37.2
15.0
47.8
インドネシア
44.3
17.9
37.8
中国
44.1
16.6
39.3
ベトナム
67.2
12.5
20.3
出所) 労働政策研究・研修機構『国際労働比較2006』2006.1『Statistical Year book 2004』
22
アジア企業における「知識人材」育成の
課題
知識産業化が進む中、アジアでも有能な「知識人材」が益々必要とされる
アジアに展開する多国籍企業も現地採用による「知識人材」の供給、資質
向上への要求が加速度的に高まる
アジアにおける「知識人材」の供給、資質向上は、それぞれの地域の特性、
発展段階、企業の性格に合わせた重点化、戦略、方向性をもって充実す
べきである
技術部門、管理部門共に、専門性を高め人材需要に応えるため大学など
の高等教育機関の役割が益々重要となる
「知識人材」確保のために多様なチャネルを用意し充実をはかることが
求められる
企業において「知識人材」を定着させ活躍させるためには、多様な育成機能
とインセンティブ、訓練システムを体系化し、充実させる必要がある
23