ガンマ線バースト偏光観測装置の実機モデルの製作と性能評価 米徳大輔、村上敏夫 (金沢大学)、三原建弘 (理研)、郡司修一、門叶冬樹 (山形大学)、 鶴剛 (京都大学)、林田清 (大阪大学)、他 Polaris GRB グループ ガンマ線バースト(GRB) は10秒程度の間に、1052 erg ものエネルギーをガンマ線放射として開放する『宇宙で最大の爆発現象』で あるが放射メカニズムについては良く分かっていない。理論的に予測されているシンクロトロン放射ならば、ガンマ線は強く偏光して いるはずで、その直接検出が放射メカニズムを解明する唯一の方法と考えられている。我々は小型衛星やソーラー電力セイル衛星 に搭載する目的で、ガンマ線偏光計の開発を行っている。本稿では実機モデルとして製作した検出器の紹介と、金沢大学内の実験 室に建設したビームラインを用いた実験結果について報告する。 ガンマ線偏光計の原理と設計 偏光ガンマ線がコンプトン散乱した場合、散乱光子の強度分布 に異方性が生じる。散乱断面積は Klein – Nishina の式から dσ 2 2 2 = Z r0 (1 – sin θcos φ) dΩ と表され、θ= 90度の平面内で考えると sin2φ に比例した 強度分布が得られる。このとき、偏光ベクトルに垂直な方向に 散乱光子は飛びやすい。 プラスチックシンチレータのような軽い物質でコンプトン散乱させ、 それと同期したイベントを周囲に配置した CsI シンチレータのよ うな重たい物質で捉えることでガンマ線偏光が測定できる。 図1.(左) GRB ガンマ線偏光計の概念図。中心には散乱体として12角形の プラスチックシンチレータを置き、その周囲には CsI シンチレータを配置した。 (右) 実際に製作したモデル。シンチレータと PMT を一体化して円筒ケースに 収めてある。横の四角いケースは VA-TA ASIC と呼ばれる読み出し回路。 図1に示すように、現在のプラシンチにはテーパー加工を施していないので 集光効率を上げるような工夫を考えている。また、プラシンチ用 PMT の ゲインを上げることで LD レベルの微細な設定を可能にするつもりである。 Counts 図2に検出器で測定した 241Am のスペクトルを示す。現在の検出器構成で プラシンチと CsI の LD レベルは、それぞれ 7.0 keV と 7.5 keV である。 例えば60 keV の入射光子が90度散乱した場合、プラシンチには 6.3 keV 程度しかエネルギーを落とさないため、プラシンチに関しては改善が必要で ある。CsI に関しては十分な LD レベルを達成していると考えている。 Counts スペクトル特性と LD レベル LD = 7.0 keV LD = 7.5 keV Energy (keV) Energy (keV) 図2.プラシンチと CsI に 241Am を照射したときのスペクトル。 ビームラインによる偏光測定実験 製作した検出器モデルと模擬した mass model を作成し、偏光計の性能を表す M 因子、検出 効率ηを見積もった。入射光子は 100% 偏光 とした場合のエネルギー毎の特性を図3に示す。 金沢大学の実験室に建設した全長約 6m の X 線ビームライン (図4)を用いて、 偏光測定実験を行った。X 線発生装置は約 15% の偏光度を持っている。 M-factor, η, M(ηS)1/2 EGS シミュレーションによる検出器性能評価 Energy (keV) 図3.EGSでシミュレートした検出器の M因子、検出効率η、 感度 M(ηS)1/2 のエネルギー依存性。S は有効面積。 ここから、GRB に典型的なエネルギーである 100 keV 付近に最も感度が高い設計になって いることがわかる。GRB のスペクトルはベキ型 が基本なので、低エネルギー側の ηを改善す ることで光子統計の良い測定が可能となるだろう。 図4.(左) 全長6メートルのビームライン。100 keV までの X 線を発生させることができ、 偏光度は約 15% を持っている。(右) ビームラインで測定したモジュレーションカーブ。 入射角度を 0度(黒)、5度(赤)、10度(緑)、15度(青)、20度(水色)、25度(桃)、30度(橙) で 測定したときの角度レスポンスを示している。 過去に BATSE 検出器で得られた GRB の強度分布を考慮すると、偏光度が 30%以上あるならば、この検出器1台では年間数例、4台では年間10例程度 の GRB で偏光検出が可能になる。幾何学的対称性の良い12角形を用いて いるために、アイソトープを用いた実験から、擬似モジュレーションは 2%以下 に抑えられていることを確認している。
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