Are Trade Creditors Relationship Lenders? Hirofumi Uchida Wakayama University Gregory F. Udell Indiana University Wako Watanabe Keio University 2008年11月12日 Business and Economics Workshop (BEW) 青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 1 Introduction 2 企業間信用とは? 企業間信用(Trade Credit (TC))とは 売手・仕入先 販売 買手・販売先 納入後に支払い 信用の供与 TCは遍く用いられており、経済的にも非常に重要 – 多くの国に存在、重要な資金調達源 – Demirgüç-Kunt and Maksimovic (2001) – 中小企業(Small/Medium Enterprises (SMEs))の負債中 – 32% ・・・アメリカ、30% ・・・日本 3 TCに関する研究課題 TC決定メカニズムの解明が重要 – 企業レベル:信用管理手法の開発 – 中小企業政策:貸し渋り・倒産対策 – 国レベル:金融政策 解明のための重要な疑問 「なぜTCによって信用を供与するのか?」 – 企業間信用は一種の資金貸借(企業の資産・負債) – しかし資金貸借を専門に行う企業(金融機関)は数多く存在 – なぜ金融機関でなく取引先との間で貸借を行うのか? 4 なぜTCが用いられるのか? 学術分析におけるTC利用動機 – 取引動機(Operations-based theories) – 金融動機(Financial theories) ←この論文 Petersen and Rajan (1997), Frank and Maksimovic (2005), and Burkart, Ellingsen and Giannetti (2006) 5 なぜTCが用いられるのか? 金融動機に基づく説明 – 売手(販売側、貸手)には信用を供与する特別な能力を持つ 金融機関にはない能力 – 源泉・・・取引相手との密接な取引関係から生まれるメリット 私的情報 (Mian and Smith1992他) 排他的取引関係 (Cuñat 2007) 債務減免 (Wilner 2000) – 以上の理論:リレーションシップバンキングとの類似 ⇒企業間信用の「リレーションシップ貸出仮説」 6 本稿の目的 リレーションシップ貸出仮説を検証 – 直接検証した研究はほとんど無い データの問題 – 1) 企業間信用の量、条件 – 2) 取引関係の親密度 – 本稿:中小企業庁のデータを使うことで仮説検証 1)、2)ともに利用可能 7 検証仮説と検証の方法 検証仮説 「企業間信用はリレーションシップ貸出である」 検証の方法 – 親密な取引関係 ⇒企業間信用額増大? – 親密な取引関係 ⇒ 取引条件改善? 親密な取引関係の代理変数:取引関係の長さ – バンキングの分析手法の援用 8 分析結果 リレーションシップ貸出仮説は支持 されない – 親密な取引関係 ⇒ 企業間信用額増大という関係は存在 主要仕入先との長期取引関係 ⇒ 企業間信用(買掛金・支払手形)の総額が増大 – しかし、主要仕入先への依存度によって区別すると 依存度低い企業:上記関係存在 依存度高い企業:上記関係なし – 依存度高いほど企業間信用総額=主要仕入先に対する企業間信用 9 結果の解釈 ホールドアップ問題と外部効果 – 高依存度企業 主要仕入先に対する交渉力が弱い(ホールドアップ問題) 主要仕入先は取引期間が長くなっても企業間信用を増やさない – 低依存度企業 主要仕入先との長期取引関係が、他仕入先からの企業間信用を増やす – 長期取引関係は、外部効果を持っている 他の仕入先からの企業間信用に正の効果 – 原因:良い評判、高い評価 10 In More Details 11 Literature 12 なぜTCが用いられるのか? 取引動機理論(Operations-based theories) – 企業間信用を用いることに実質的なメリット 1. 取引費用最小化 (Ferris 1981) 2. 価格差別化 (Brennan, Maksimovic and Zechner 1988) 3. 品質保証 (Long, Malitz and Ravid 1993 and Emery and Nayar 1998) … 13 なぜTCが用いられるのか? 金融動機理論(financial theories) – 売手は金融機関に比べて信用供与の面で優れている 1. 高い担保評価、清算能力 – 金融機関よりも買手を高評価 (Frank and Maksimovic 2005 and Longhofer and Santos 2003) 2. 買手の流用が少ない – 資金(金融機関から借入)は流用容易、製品(仕入先から借入)は流用困難 (Burkart and Ellingsen 2004, Burkart, Ellingsen and Giannetti 2006). 3. 親密な取引関係 14 なぜTCが用いられるのか? 金融動機理論(financial theories) 3. 親密な取引関係⇒特別なメリット a. 売手は取引先情報の信用情報を得る⇒情報の非対称性を改善⇒資金制約緩和 – 長期に渡る取引関係を通じて、買手に関するソフトな情報を蓄積 (Mian and Smith 1992, 他多数) 銀行が得る情報と異なる情報である可能性もあり(Biais and Gollier 1997) b. 長期的取引関係を通じて製品を両者の取引に特殊化⇒当該取引相手の代替が効 かない⇒返済強制能力増加 – Cuñat (2007) c. 長期的な取引関係⇒将来の取引からもメリットも考慮して債務減免 – Wilner (2000) 15 検証仮説 この理論から得られる仮説 – 売手・買手間の親密な取引関係がメリットを生み 出す 銀行・借手間のリレーションシップ貸出仮説と類 似 ⇒「企業間信用のリレーションシップ貸出仮説」 16 関連する実証研究 Cuñat (2007) – 自らの理論(関係特殊性の涵養)を実証 – 結果 「企業年齢が増加するほど企業間信用に依存」 – 問題 企業年齢≠取引期間・親密度 – 本研究:取引期間を使用 17 関連する実証研究 McMillan Johnson and Woodruff (1999, AER) および et al. (2002, JLEO) – 取引期間と契約履行についての分析 – 結果 長期的な取引関係⇒現金払いでなく信用払い選択 – 分析対象 発展途上国、移行経済 – 焦点:制度環境(法、規制)が未整備な国での契約履行と長期的取引 関係 環境の違い⇒結果の違い? 18 Data & Methodology 19 Data Source データソース: 金融環境実態調査 – 中小企業庁、2002年11月実施 アンケート調査+企業属性+財務情報 中小企業白書の元となるデータ – 重要な情報が利用可能 1)企業間信用に関する情報 – 額:「買掛金」+「支払手形」 – サイト:「長期化」、「短期化」 2)主要取引先との取引期間 20 推計式 (a) Quantity test Quantity of trade credit = f (strength of the buyer-seller relationship, firm and entrepreneur control variables, regional and bank controls) (1) (b) Terms test Terms of trade credit = f (strength of the buyer-seller relationship, firm and entrepreneur control variables, regional and bank controls) (2) 21 主要な変数 (a) Quantity test Quantity of trade credit = f (strength of the buyer-seller relationship, firm and entrepreneur control variables, regional and bank controls) (1) Quantity of trade credit 1. TC_ASSET_RATIO (買掛金+支払手形)/(総資産) 2. TC_LOAN_RATIO (買掛金+支払手形)/(総借入) 3. TC_SHORT_RATIO (買掛金+支払手形)/(短期借入) Relationship Strength – LENGTH_TC 主要取引先との取引年数 22 主要な変数 (b) Terms test Terms of trade credit = f (strength of the buyer-seller relationship, firm and entrepreneur control variables, regional and bank controls) (2) Terms of trade credit 1. SHORTEN ダミー変数:「過去1年間に手形の支払いサイトが短縮」 2. LENGTHEN ダミー変数:「過去1年間に手形の支払いサイトが拡大」 3. SHORTEN_TIGHT ダミー変数:「SHORTEN+資金繰り悪化」 4. TC_TURNOVER (買掛金+支払手形)/((売上原価)/365) Relationship Strength – LENGTH_TC 主要取引先との取引年数 23 Terms testの問題 SHORTEN, LENGTHEN, and SHORTEN_TIGHT – 変数の問題 過去1年間の、企業間信用のサイトの「変化」 – 「水準」が分からない 例)SHORTEN=1 は 「既に短い満期がさらに短くなった」か「長い満期 が通常の長さになった」か? – LENGTH_TC(水準を表す)とのミスマッチ =1の観測数が少ない – よって以下ではQuantity testおよびTC_TURNOVERの結果を重視 24 データ上の問題 従属変数・独立変数のミスマッチ – Quantity of trade credit、terms of trade credit すべての企業間信用 – Strength of the buyer-seller relationship 主要仕入先との取引期間 改善方法 – MAINSUPPLIER:主要仕入先に対する仕入依存度60%以上(ダミー) 交差項を独立変数に用いる – LENGTH_TC ・・・主要仕入先非依存企業の効果 – LENGTH_TC × MAINSUPPLIER ・・・主要仕入先依存企業の(追加)効果 25 その他の変数 AUDIT:監査ダミー – 財務諸表の公認会計士監査を受けている、税理士の書面添付制度を 利用している – 企業間信用の「財務諸表貸出仮説」を検証 信頼できる財務諸表の情報に基づいて貸出(信用供与) 貸出技術(Berger and Udell 2002, 2006)の一つ 他の独立変数 – 企業のパフォーマンス、属性、経営者の特徴、産業ダミー、地域ダミー リスク、産業要因、地域要因をコントロール 特に重要な変数:有形資産比率 – 担保差し入れ可能性を表す – メインバンクの特徴を表す変数も利用 26 記述統計(抜粋) 平均的なサンプ ル企業 – 取引期間29年 – 社歴47年 – 仕入先7社 – 資産28億円 – 従業員76人 (中規模) 27 結果 28 (a) Quantity test 29 Quantity test結果(1) 結果 リレーションシップが強まると、TC は企業のバランスシート上で増加 企業間信用はリレーションシップ貸出である (???) 30 Quantity test結果(1) 結果 「取引関係の長期化 -> TC増加」はMAINSUPPLIER=0 のときのみ ↓↓↓ リレーションシップ貸出仮説は不支持 主要仕入先との取引関係は、依存度低いときのみTCに影響 他の仕入先からのTCに影響?(外部性) 31 Quantity test結果(1) 結果 信頼できる財務諸表の情報があるとTC増加 企業間信用は財務諸表貸出である 32 Quantity test結果(2) リレーションシップが強まると、TC は企業のバランスシート上で増加 企業間信用はリレーションシップ貸出である(???) 33 Quantity test結果(2) 「取引関係の長期化 -> TC増加」はMAINSUPPLIER=0 のときのみ ↓↓↓ リレーションシップ貸出仮説は不支持 主要仕入先との取引関係は、依存度低いときのみTCに影響 他の仕入先からのTCに影響? 34 Quantity test結果(2) 信頼できる財務諸表の情報があるとTC増加 企業間信用は財務諸表貸出である 35 Quantity test結果(3) 取引関係長期化の影響は無し ↓↓↓ リレーションシップ貸出仮説は不支持 36 Quantity test結果(3) 信頼できる財務諸表の情報があるとTC増加 企業間信用は財務諸表貸出である 37 (b) Terms test 38 Terms test結果(1) 結果 39 Terms test結果(2) 結果 40 Terms test結果(3) 結果 41 Terms test結果(4) 結果 MAINSUPPLIER=0 のときのみ「取引関係の長期化 -> TC回転率向上」 ↓↓↓ リレーションシップ貸出仮説は不支持 主要仕入先との取引関係は、依存度低いときのみTCに影響 他の仕入先のTCに影響? 42 結果のまとめ Quantity tests、TC_TURNOVERの結果 – リレーションシップ貸出仮説を支持しない 取引関係の長さ は企業間信用量に正で有意な影響 しかしその影響は主要取引先への依存度が小さい場合のみ – 主要仕入先との親密な取引関係には外部性が存在 – 財務諸表貸出仮説は支持 Terms testsの結果 – 明確な関係は無し – (ただしtest自体に問題) 43 結果の解釈(1) McMillan and Woodruff (1999), Johnson et al. (2002)との比較 – – 結果の矛盾 本稿:日本ではリレーションシップ貸出仮説不支持 上記研究:途上国、移行経済では支持 考えられる理由 リレーションシップ貸出は労働集約的⇒コスト ⇒ 他の貸出方法が安価に利用できる場合は選ばれにくい – 途上国:契約履行が保証されにくい、代替的な情報が得られにくい 日本では – 代替的な情報が得られやすい – 財務諸表貸出仮説を支持する結果とも整合的 契約の履行は保証されている リレーションシップによって契約履行を保証する必要が無い 44 結果の解釈(2) 外部性の解釈 1. 評判(reputation)効果 主要取引先との長期的な取引関係⇒その他の取引先の信用評価を改善⇒信用供 与増大 – 2. ネットワーク効果 主要取引先との関係強化⇒取引先間の情報のやり取りが容易になる – 3. (see McMillan and Woodruff 1999 and Boissay and Gropp 2007) 取引期間の相関 – 前提条件:主要取引先との長期的取引関係が外部から観察可能 主要取引先との長期的取引⇔他の取引先との長期的取引 以上は「リレーションシップ貸出仮説」と必ずしも矛盾しない(低依存度企業) しかし、主要取引先への依存度が高い企業に効果が見られない理由が別途必要 – 交渉力が弱く、囚われている(captured)? 45 結論 企業間信用のリレーションシップ貸出仮説不支持 – 長期的な取引関係は企業間信用量を増加させる – しかし、これは主要仕入先にあまり依存していない場合のみ … 外部性 が存在する模様 – 評判(Reputation), 情報のネットワーク, 取引期間の相関 … 財務諸表貸出仮説:支持する結果 46 おわり ありがとうございました 47
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