杉並区科学館 区民科学講座 特別講演会 2010/9/25 全地球凍結と生命進化 田近 英一 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 氷河時代とは? =氷床(大陸氷床,大陸氷河)が存在する時代 *氷床とは,氷河の形態のひとつで,基盤の 地形に影響されずに氷河自身が形態を作 る大規模なもの 現在は氷河時代! 現在 (間氷期) 約2万年前 (氷期=氷河期) フェノスカンディア氷床 北半球 (北極中心) グリーンランド氷床 ローレンタイド氷床 南半球 (南極中心) 南極氷床 [From NOAA web site] 大陸氷床の証拠 “ダイアミクタイト” ヒューロニアン累層群ゴウガンダ層 (カナダ・オンタリオ州) 大陸氷床の証拠 “ドロップストーン” 大陸氷床 氷山 岩石片の落下 ドロップストーン *氷床の流動によって削り取られた岩石が, 氷山によって沖合まで運ばれたもの 0 新生代氷河時代 ゴンドワナ氷河時代 オルドビス紀後期氷河時代 ガスキアス氷河時代 マリノアン氷河時代 スターチアン氷河時代 10 “スノーボールアース” (雪玉地球,全球凍結) イベント 原生代 15 20 ヒューロニアン氷河時代 25 30 太古代 年代 (億年前) 5 顕生代 地球史における氷河時代 ポンゴラ氷河時代 地球史年表 地球形成 0 現在 5.5 冥王代 -45.5 21 40 太古代 -40 デボン紀 石炭紀 -5.5 ペルム紀 三畳紀 古生代 5.45 顕生代 原生代 -25 カンブリア紀 オルドビス紀 シルル紀 45.5 ジュラ紀 白亜紀 中生代 2.5 0 第三紀 新生代 0.65 0 (単位: 億年) 原生代後期(約6億5000万年前)の氷河作用の痕跡 * 氾世界的に氷河堆積物が分布している ! * カンブリア紀の動物の爆発的多様化の直前に 氾世界的な氷河時代? 原生代後期の氷河時代の謎 (1) 低緯度に大陸氷床が存在 約6億5000万年前 10ºN 20ºN 0º 20ºS まあ信頼できる 非常に信頼 ほぼ信頼できる できる*当時の各場所の古緯度を推定した結果 20ºS [Evans (2000) Am. J. Sci., 300, 347-433. に基づく] *当時の赤道域に大陸氷床が存在していた ! (約6億5000万年前,約7億年前,約22億年前) 原生代後期の氷河時代の謎 (2) “謎”のキャップカーボネート キャップカーボネート (炭酸塩岩) 熱帯環境 ダイアミクタイト (氷河堆積物) 極域環境 原生代後期(約6億5000万年前,ナミビア) 原生代後期の氷河時代の謎 (3) 縞状鉄鉱床の形成 鉄鉱床の生成量 原生代初期氷河時代 原生代後期氷河時代 鉄鉱床が 形成されていない 40 [http://www.snowballearth.org/ より] 30 20 年代 (億年前) 10 0 [Kirschvink et al. (2000) PNAS, 97, 1400-1405. に基づく] *約10億年ぶりに縞状鉄鉱床が形成されている !? “スノーボールアース”(全球凍結)仮説 ■ 原生代後期の氷河時代の特徴 (1) 赤道域にまで氷床が発達 (2) 氷河性堆積物直上に熱帯性の炭酸塩岩 (キャップカーボネート) (3) 縞状鉄鉱床が形成 (4) 光合成活動の停止(炭素同位体比の負異常) ■ 仮説 ★ 当時,地球の表面全体が氷に覆われていた!? “スノーボールアース”(全球凍結)仮説 1992年 ジョセフ・カーシュビンク教授 (米国・カリフォルニア工科大学) 1998年 ポール・ホフマン教授 (米国・ハーバード大学) 地球のエネルギー収支 地球放射 太陽放射 太陽放射 (可視光) *太陽放射の30%を反射 (雲,氷などは反射率高い) 地球放射 (赤外放射) 赤外線の吸収・再放射 CO2+H2O 温室効果 地球環境システムの3つの安定状態 寒冷期(氷河時代) 温暖期 部分凍結状態 (現在) 無凍結状態 (約1億年前) 通常の気候変動 温室効果の極端な低下 気候ジャンプ 温室効果の極端な増加 全球凍結状態 (原生代前期・後期) 超寒冷期 20 温暖状態 0 -20 -40 大氷冠 不安定 臨界点 (CO2 ~ 10ppm) 気候ジャンプ 全球凍結状態 -60 0 60 30 緯度 90 年間平均気温 (oC) 年間平均気温 (oC) 全球凍結現象における地球環境変化 80 60 40 20 0 -20 -40 -60 0 無氷床状態 (高温状態) 気候ジャンプ 臨界点(CO2 ~ 0.1気圧) 全球凍結状態 30 60 緯度 90 平均気温マイナス40℃の寒冷環境からプラス60℃の高温環境へ! 全球凍結仮説による謎解き ■原生代の氷河時代の特徴 (1) 赤道域に氷床が存在した → 全球凍結したと考えれば当然 (2) 氷河堆積物直上に熱帯性の炭酸塩岩 (キャップカーボネート) (3) 縞状鉄鉱床が形成 (4) 生物活動が完全に停止 (炭素同位体比の負異常) → 生物が大量絶滅したと考えれば説明可能 海洋表層1000メートルが凍結する! Ts 273 温度 (K) ~1000 m 1 水深 (km) 水深 (km) 0 2 3 4 0 30 緯度 60 90 地熱 ~100 mW/m2 *海洋は表面から凍結していく! *ただし,表層の1000m 程度が凍結すると熱平衡に達する *全球凍結の継続期間は1000万年間 程度 原生代後期の氷河時代の謎 (2, 3) キャップカーボネートと鉄鉱床の形成 (a) 全球凍結中 (b) 全球融解直後 ・火山活動でCO2が脱ガス ・風化で大量の陽イオンが供給 → 大気中に蓄積 → 炭酸塩の沈殿 (キャップカーボネート) ・海底熱水系から鉄イオンが供給 ・深層水が湧昇して鉄イオンが酸化 → 海水中に蓄積 → 酸化鉄の沈澱 (縞状鉄鉱床) CO2の蓄積 O2 -40℃ 氷 Fe2+ CO2 ~0.1気圧 O2 60℃ 2+ 風化 Ca , HCO3CaCO3 Fe(OH)3 湧昇流 Fe2+ 全球凍結仮説による謎解き ■原生代の氷河時代の特徴 (1) 赤道域に氷床が存在した → 全球凍結したと考えれば当然 (2) 氷河堆積物直上に熱帯性の炭酸塩岩 (キャップカーボネート) → 全球融解直後の激しい風化によって沈殿 (3) 縞状鉄鉱床が形成 → 全球凍結中に蓄積した鉄イオンが酸化沈殿 (4) 生物活動が完全に停止 (炭素同位体比の負異常) → 生物が大量絶滅したと考えれば説明可能 → ひとつの仮説ですべて説明可能! 全球凍結仮説の問題点 陸も海も完全に氷で覆われる → 大絶滅の危機!? 生命(とくに光合成藻類)はどこで生き延びたのか ? 9億年前の藻類の化石 [http://www.snowballearth.org] 考えられる可能性 海氷河 海水 海氷河 海水 海氷河 海水 海氷河を考慮しない場合 緯 度 1.赤道域の海洋 は凍結して いなかった? 2.赤道域の海氷は とても薄かった? (<数十メートル) → しかし,結局, 赤道域の海も氷も “海氷河”の流動 によって厚い氷で 覆われる [http://www.snowballearth.org/ より] 3.スノーボールオアシス? スノーボール・オアシス 氷のはらない地面(砂漠) 大陸氷床 海氷河 あるいは・・・ 4.火山地域では氷が融けていた ? 真核生物 リボソームRNAに基づく系統解析 ・真正細菌 (Bacteria) ・・・細菌(大腸菌,シアノバクテリアなど) ・古細菌 (Archaea) ・真核生物 ・・・好熱菌,高度好塩菌,メタン生成菌 (Eukarya) ・・・植物,動物,原生動物,菌類 真正細菌 (Bacteria) 古細菌 (Archaea) 共通祖先 生命の起源 真核生物 (Eukarya) 最古の真核生物の化石 Scale bar = 1 cm, A,B & D = C Grypania spiralis (a megascopic eukaryotic algae) *約19億年前の地層から発見された [Han and Runnegar, 1992] 最古の多細胞動物(胚化石?) *約5億9000万年前の地層から発見 南中国のドウャントゥオ層 *最も古いものは約6億3000万年前? *三胚葉動物? [Xiao et al. (1998) Nature, 391, 553-558.] 0 5 顕生代 全球凍結と生物進化の謎 新生代氷河時代 ゴンドワナ氷河時代 オルドビス紀氷河時代 ガスキアス氷河時代 [Xiao et al. (1998) Nature, 391, 553-558.] 15 原生代 10 20 最古の真核生物の化石 [Han and Runnegar (1992) Science, 257, 232-235.] ヒューロニアン氷河時代 25 30 太古代 年代 (億年前) マリノアン氷河時代 スターチアン氷河時代 最古の 多細胞動物の化石 約5億9000万年前 ~約6億3000万年前 約19億年前 ポンゴラ氷河時代 スケール 1 cm 原生代における酸素濃度の増大 約22億年前 約6億年前 大酸化 イベント 顕生代 原生代 ? 1.0 0.1 ? 0.01 全球凍結 40 30 20 10 年代 (億年前) 0.001 0 酸素レベル (現在=1) 太古代 *大気中の酸素濃度は, 原生代前期(22億年前頃)と後期(6億年前頃)に増加 [Canfield (2005) Ann. Rev. Earth Sci.] 全球凍結とマンガン鉱床 キャップカーボネート 鉄鉱床 マンガン鉱床 ドロップストーン 溶岩(洪水玄武岩) 22.22億年前 古緯度 11°± 5° ダイアミクタイト (氷河堆積物) 不整合 24.15億年前 トランスバーグ累層群 南アフリカ共和国 マンガン堆積量(百万トン) 不整合 マンガン鉱床 4000 3000 BIF-type deposits Black shale deposits Pisolitic deposits Karst deposits Kalahari Manganese Field 2000 1000 ...Trace in carb. 0 40 3500 4000 100 30 3000 2500 20 2000 10 1500 1000 Age 年代(億年前) (million years) 鉄鉱床 500 00 Algoma-type deposits Superior and Sishen-type deposits Rapitan-type deposits Oolitic and Pisolitic deposits 80 ・ 約22億年前の氷河堆積物の直上に 60 地球史上最初のマンガン鉱床が形成 40 ・ マンガンを酸化するためには, 20 酸素分子が必要不可欠 0 *全球凍結直後に酸素濃度が増加 !? 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 Age (million years) Kirschvink et al., Fig. 2 [Kirschvink et al. (2000) PNAS, 97, 1400-1405. に基づく] 酸素大発生のメカニズム (a) 全球凍結中 栄養塩の蓄積 (~数千万年間) CO2 (b) 全球融解直後 温暖化と栄養塩の供給増加 大酸化イベント CH4 風化 PO4 PO4 O2 CO2 富栄養化 爆発的な光合成活動 湧昇 PO4 全球凍結イベント → 大酸化イベントを誘発 全球凍結ー大気進化ー生物進化 全球凍結イベント 10-1 カラハリ・ マンガン鉱床 1 10-1 10-2 パスツール・ポイント 10-3 真核生物 10-2 多細胞動物 10-3 10-4 10-5 硫黄同位体 MIF消失 10-13 堆積性 ウラン鉱床 太古代 30 と 大酸化イベント 木炭化石 10-4 10-5 縞状鉄鉱床 赤色土層 原生代 20 10 時間 (億年前) と 酸素レベル (現在=1) 酸素分圧 (気圧) 1 顕生代 0 が密接に関係?
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