毒性試験から得られた統計解析 結果と無毒性量の関わり 毒性試験から得られた定量値の低用量に統計学的 有意差を示した場合,これらの変化が偶発的変化と 考察する場合の留意点 小林克己/nite 2010-12-2 前川先生勉強会後のトピックス 1 今回問題になったきっかけ 1. 化審法の28日反復投与・生殖試験併合試験 2. 用量群(低)の平均値(*)が背景値の2標準偏 差内に入っていることから,無影響量とした 3. 短期反復投与毒性試験では,上述の手法が 常用されている 4. 試験責任者の願望は,低用量 = 無影響量 5. 標準偏差は,群内のバラツキを表す 6. 用量群の値は,平均値で個体値ではない 2 試験責任者(SD)の判断 検定結果= flagging 毒性学的 有意差 意味がある 意味がある 意味がない 意味がない 統計学的 解釈 有意差 有意である 得られた知見・意味があるを採用 有意でない 得られた知見・意味があるを採用* 有意である 得られた知見は捨て,意味がある 有意でない 得られた知見・意味がないを採用 *標本数を増やして再度検定を実施するという見解もあるが, 著者は,毒性学的有意差を優先したい. 3 標準偏差(SD)と標準誤差(SE) 正規分布を前提 標準偏差 標準誤差 群内のバラツキ・分布 平均値の信頼性 2標準偏差: 約95%の個体が入る幅 2標準誤差: 平均値の95%の信頼区間 4 背景値 (historical control data) 全ての試験機関は,背景値を集積している 非投薬群の様々なデータである 通常は,毒性試験の対照群のデータを指す 週令が進むに従って,値が変化する 通常,投与後 4, 13, 26, 52, 78および104週の雄雌 データを集める.(+6週 = 週令) 6. 体重・飼料摂取量,血液・血液生化学,尿検査, 器官重量および病理学的所見など 7. ブリダーの都合で形質の変化アリ,5年分が妥当 1. 2. 3. 4. 5. 5 特に低用量群に統計学的有意差 (*P<0.05)が認められた場合の対処法 低用量群を無影響(NOEL)としたい. 用量相関性・依存性の検討 用量依存性を考慮したWilliamsの検定 関連検査項目との比較 背景データとの比較 試験責任者の判断 対照群の信憑性を疑う? 1. 2. 3. 4. 5. 6. 6 統計学的に背景データとの比較法 1. 背景値の2標準誤差内に試験群の用量群の平 均値が入っていれば差がないと結論する 2. 背景値の2標準偏差内に試験群の用量群の全 個体が入っていれば差がないと結論する 3. 背景値の平均値と試験の用量群の平均値の差 をt-検定で解析する.1.と同様の理論だが検定 のため動物数が加味されることから検出力は 高い.即ち,背景値からの逸脱率が高い ****************************************** 1. 一般的には,2SEを採用.正確には,動物数(N) で決まる.2≒2.2~1.96(t-分布表・5%, 2α) 7 実際の対処法・28日化審法から 副腎重量(mg) 用量群(1) 平均値±標準偏差 (用量) 背景値(2) 平均値±標準偏差 (動物数) 49±9* (低) 48±9* (中) 46±6* (高) 53±7 (40)# 2標準偏差の幅 67~39 背景値(2) 2標準誤差の幅 (95%信頼区間) 55.2 - 50.8 背景値(2) 2標準誤差 の範囲 (1) vs. (2) = P値 逸脱 0.248 (NS) 逸脱 0.150 (NS) 逸脱 0.038 (P<0.05) t-検定の結果 *P < 0.05 from control group. (NS): 差がない・逸脱しない. #N = 40, 自由度は,39 したがって,厳密にはt-分布表から2.023となる. 背景値数が20の場合は,2.093,200の場合は,1.97となる. したがって,背景値数は,小さい方がNOELを設定しやすい. 8 用量群に統計学的有意差があるがNOELとし ない理由/日本の化審法反復投与毒性試験数 毒性学的に意味がないとする理由 関連項目に差がない/毒性学的意義なし 生理学的な変動範囲内・背景値内/軽微な変動/ 一貫性なし 背景値内(mean±2SD) [動物数=N]の表示あり 用量相関・依存性なし(肉眼的判断) 対照群の変動が狭いまたは値が通常とは異なる 片性のみの差/器官左右別で有意差あり, 合計で有意差なし 126試験中 26 38 7 66 3 3 9 一般論文による用量群の統計学的 有意差を偶発性と考察する根拠 偶発性を認める根拠 公開論文数 用量依存性の有無(肉眼的) 関連パラメータに変化なし 対照群の値が高い/低い 試験責任者の判断(生物学的有意差なし・ 軽微な変化・生理的変動内・散発的など) 背景値・正常範囲内(肉眼的 or 統計学的?) 溶媒対照群以外の対照群との比較 33 9 3 背景値との統計学的処理 1 16 11 3 10 背景値の95%信頼区間(2S.D.)に 低用量群の全個体が入っているか否か? Mean pups weighs= 7.8 g (N=300) ↓ 5 6 7 ● a value in dose group 8 9 10 11 ●●●●● ←←← ←←← Mean±2S.D. →→→→ 11 まとめ・適切な対応 1. 背景値の2標準誤差内に用量群の平均値が 入っていれば差がないと結論する 2. 背景値と用量群の差をt-検定で解析する 3. 背景値の2標準偏差内に用量群の全個体が 入っていれば差がないと結論する 4. 用量依存性を統計学的に判断する.この場合, Jonckheere(ヨンキー)の傾向検定が最適 5. 信頼性は,試験の対照群 (concurrent control) > 背景値 12
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