はじめに

腹水濾過濃縮再静注法(CART)について
Dec,2012 版
研修医・看護スタッフ向けマニュアル
福山市民病院 内科 辰川 匡史
Fukuyama City Hospital
CARTとは:
難治性腹水に対する腹水濾過濃縮再静注法
(CART:Cell-free and Concentrated
Ascites Reinfusion Therapy)のこと
腹水を穿刺→排液(すててしまう)のではなく、
採液バッグに入れ、透析に用いるようなFilter
を用い、必要なタンパク質などを濃縮して 再
び血管の中に戻す治療
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腹水に関する おさらい
腹水の性状
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腹水の貯留する原因疾患
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肝臓の働き
消化した栄養の取り込み
タンパク質の合成
代謝産物・薬剤・アルコールなど
の 分解(解毒)
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肝臓の働きが低下すると…
栄養が取り込めない×→栄養不良
タンパク質合成×→低蛋白(アルブミン)
代謝産物・薬剤・アルコールなどの 分
解(解毒)×→老廃物の蓄積・黄疸
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低蛋白>浮腫・腹水が出現する
腹水のない方(60歳 男性)
肝硬変・腹水の方(72歳 女性)
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肝性腹水の治療
結局のところ腹水が溜まるのは、肝臓の機能が
低下して、体液(水分・電解質・タンパク質などの
諸成分)バランスが崩れていることが原因。
肝臓を治す→これはなかなか難しい…
利尿剤>腎臓に働きかけて水分・電解質を体外
へ
アルブミン(血液製剤)点滴>タンパクを増やす
(リーバクト・アミノレバンなどの栄養剤)TNT
穿刺排液、再灌流(再腹注・再静注)
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それぞれの治療の 長所・短所
 利尿剤→腎臓に働きかけて水分・電解質を体外へ
腹水に直接作用しないので効果としては間接的
腎機能を悪化させる
口渇がひどい→水飲んだら無意味
 アルブミン(血液製剤)点滴→タンパクを増やす
アルブミン+ラシックスで、血液の膠質浸透圧を上昇させる→
利尿剤単独よりも効果が高い
血液製剤である
高価 保険にて数が限られている
 リーバクト・アミノレバンなどの栄養剤・TNT
必須の治療と考えたい。うまくいけば腹水が消えるが、時間が
かかるし、腹水が消える、までの劇的な効果は得にくい
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腹水穿刺 穿刺排液
○他の治療に比べると効果が早く直接的
○他の治療にて反応しない腹水にも効果がある
×お腹の中の腹水は完全には取れない(6割程
度)
×抜いた後永久に腹水が溜まらないようにするこ
とはできない(すぐたまる)
×合併症のリスク
×穿刺して排液した分、腹水に含まれているタン
パク質などは失われてしまう
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難治性腹水に対する腹水濾過濃縮再静注法
(CART:Cell-free and Concentrated Ascites
Reinfusion Therapy)
 腹水穿刺では排液すると、腹水に含まれていたタンパク質
などは失われてしまう
一時的には楽になるが、肝臓には負担になる
 透析の機械を利用して、取り出した腹水の中から水分を除
去し、タンパク質を濃縮したものを体内に戻す
特殊な機械をつかいます
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実際の手順
ベッドサイド
穿刺→採液→抜針
エコー
消毒
局麻
穿刺
アクセス
固定
透析室
静注→帰宅
採液したものを透析室に
て濾過・濃縮
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用意するもの
 腹水穿刺に必要なもの
消毒 スワブx2
局所麻酔(5mlでいい)
穿刺針(クイント 16/18G)
手袋(清潔もしくは通常)
エコー
 CARTに必要なもの
採液バッグ(1もしくは2個)
CART用ルート
(透析室にある 借り出し)
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ベッドサイド
 穿刺する前にしておく
こと
体重
バイタルサイン
(可能なら)腹囲
 腹水を抜くことに危険
はないか
 どれくらいの腹水量が
みこめるのか
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穿刺位置の決定
 エコーにて穿刺位置を決定する
エコー機はずいぶんバッテリーが弱
く、ACアダプタなければ10分以内
に電源が切れます。
 左か右か
 腹水の溜まっている場所(エコー
で黒っぽい場所)
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 消毒
 局所麻酔
 本穿刺
穿刺
 使用:クランプキャス 外筒16G 内筒
18G (pink)
 オプション(初回の人は可能性高い)
清潔手袋をつかうかどうか
穿刺液の採取を行うかどうか
採取>細胞診・一般性状・培養
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CART採液バッグへつなぐ→固
定
 ガーゼによる固定 簡単 ローコストしかしやや抜けやすい
ガーゼの摩擦を利用する クランプキャスの側方を繊維で締め込む
 テガダームを使用 しっかり固定できるが 剥がすのが面倒
 大量腹水の方は抜く前→後でお腹の形状が激変!
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完成図
穿刺部
チャンバー
(滴下部分)
青と青を
つなぐ
クランプする
このキャップはとっておく
バッグへ
 採液 (私は)全開、取れるだけとる
 バイタルが極端に悪い場合、血圧低下のおそれあり
 1パック5500ml強。ちなみに追加パック3000円
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CARTの機械
 2個のフィルターにつないで、濃縮
濾過している。
 回路としては透析よりも簡単。
 最近吸引型に変わり非常に速度
が速くなった。
 完成したパック:市販のアルブミン製剤の薄さ
の1/3~3倍程度(状況による)
 細胞成分・癌細胞、エンドトキシンなども吸着
されていることになっている
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再静注
 再静注前に
 生食100ml+リンデロン1.65mgx2A
 生食H 100ml+パンスポリン
 返液
最低でも返液までに終わっていること
ステロイドは最低でも20分前くらいに終わっていた方が
・再灌流液の返液による発熱予防
・再静注までの待ち時間……
時間が経てば血管内脱水がすすむ
献血したあとの状態に近い
動きまわって転倒させないように。
食事は有効、
飲水は……CARTの目的に真っ向勝負
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合併症:
穿刺に関する合併症:
 出血(腹壁血管の損傷など)
 内臓損傷など(腸、肝臓などの誤穿刺)
 排液による血行動態の変化>血圧低下・ショック
 穿刺孔からの感染
 胸水の場合、ARDS(重篤な肺障害)起こすことあり
再灌流に関する合併症:
 発熱(ひどい場合はDIC)
 血行動態の変化
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合併症に対するシミュレーション
血圧が低下した。
失神した。
出血が止まらない
悪寒戦慄がある
へそが出て痛い
穿刺後 お腹が痛い
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