現代の薬物乱用問題 ー青少年の薬物乱用の実態とこれからなすべきことー 岐阜薬科大学 勝野 眞吾 薬物乱用の危険 薬物乱用の危険 薬物の特徴的な3つの有害性 (1)依存性(習慣性) ・止めたくても止められなくなる性質 ・精神的依存性、身体的依存性 (2)脳や他の臓器への害 ・精神障害、肝・腎障害等 (3)フラッシュバック ・薬物中止後に突然現れる精神障害 脳 血液脳関門 Blood Brain Barrier 血液 有 害 物 質 エネルギー (糖分) 酸素 有 害 物 質 向精神薬 覚せい剤・シンナー 大麻 麻薬 ニコチン アルコール 薬物乱用と薬物依存 薬物依存 薬物乱用 人間 動物 ー 薬物乱用・依存の自然史と予防対策 時間の流れ 健康 ハイリスク の状態 薬物未使用 健康な 生活の 維持 健康教育 環境改善 リスクの早期発見 危険因子のチェック 第一次予防 試験的 使用 乱用・依存 (早期) 乱用・依存 (進行期) 危険信号 社交的使用 娯楽的使用 環境的使用 状況的使用 乱用・依存の防止(早期発見・早期治療) 自覚症状のチェック 生活指導 治療 第二次予防 依存の 悪循環 増強的使用 強迫的使用 回復期 リハビリテーション 経過観察 再発防止 第三次予防 MDMA乱用の危険性 MDMA MDMAの有害性:興奮・幻覚作用 [主成分] メチレンジオキシメタアンフェタミン Methylenedioxymethamphetamine, [有害作用] * ・覚せい剤と同様の精神病症状興奮・妄想 妄想、精神錯乱等の精神分裂病症状 *アルコールヤ他の薬物と一緒に乱用されると 危険はより複雑になり、有害性は著しく増す 大麻乱用の危険性 大麻(マリファナ等)の有害性Ⅰ:幻覚 [主成分] テトラヒドロカンナビノール Δ9-tetrahydrocannabinol:THC [有害作用]* ・大麻精神病 幻覚、妄想、感覚異常 ・知的機能の低下*他の薬物と一緒に乱用 されると危険は、より複雑になり、有害性は 著しく増す ・無動機症候群 無気力・集中力低下・判断力低下・無為 大麻(マリファナ等)の有害性Ⅱ ・青少年における薬物乱用の連鎖 “Entry Drug / Gateway Drug” 喫煙 有機溶剤(シンナー) 飲酒 大麻・マリファナ 覚せい剤 麻薬類 薬物乱用の歴史・現状 日本の薬物乱用の動向 我が国における最近の青少年の薬物乱用の実態 (生涯経験率:Recent school surveys: lifetime prevalence) 有機溶剤 覚せい剤(ATS) MDMA (Ecstasy) 国 調査年 対象年齢 Project 大麻 日本 2008 13 厚労省調査 0.2 0.6 0.2 - - - 2008 14 厚労省調査 0.3 0.7 0.3 - - - 2008 15 厚労省調査 0.5 1.0 0.4 - - - 2009 16 JSPAD 0.3 0.4 0.3 0.3 - - 2009 17 JSPAD 0.3 0.4 0.3 0.2 - - 2009 18 JSPAD 0.5 0.7 0.4 0.3 - - 2007 18-22 JSPAD 1.4 1.2 0.5 0.5 - - 厚労省調査:和田清他 「薬物乱用に関する全国中学生意識・実態調査2008」 JSPAD: Japanese School Survey Project on Alocohol and other Drugs 勝野眞吾他 岐阜薬科大学 コカイン ヘロイン 我が国における青少年の薬物乱用の実態 (推定人数) 対象年齢 大麻 有機溶剤 覚せい剤(ATS) MDMA(Ecstasy) コカイン ヘロイン 13-15歳 (2008) 中学生 12,205 28,227 11,089 - - - 16-18歳 (2009) 高校生 12,387 16,160 11,018 9,282 - - - - 105,644 90,552 37,730 37,730 18-22歳 大学生他* (2007) (32,141) (27,550) (11,478) (11,479) 厚労省調査:和田清他 「薬物乱用に関する全国中学生意識・実態調査2008」 JSPAD: Japanese School Survey Project on Alcohol and other Drugs 勝野眞吾他 岐阜薬科大学2009 世界の薬物乱用の動向 世界各国における最近の青少年の薬物乱用の実態(生涯経験率:Recent school surveys: lifetime prevalence) 国 日本 大韓民国 ベトナム共和国 アメリカ合衆国 ドイツ スペイン フランス イタリア オランダ スウェーデン イギリス 調査年 対象年齢 Project 大麻 有機溶剤 2008 2008 2008 2009 2009 2009 2007 2007 2007 2009 2009 2009 2007 2007 2007 2007 2007 2007 2007 13 14 15 16 17 18 18-22 16-18 16-18 13 15 17 15-16 15-16 15-16 15-16 15-16 15-16 15-16 厚労省調 査 厚労省調 査 厚労省調 査 JSPAD JSPAD JSPAD JSPAD ASPD ASPD MTF MTF MTF ESPAD PNSD ESPAD ESPAD ESPAD ESPAD ESPAD 0.2 0.3 0.5 0.3 0.3 0.5 1.4 0.7 0.6 15.7 32.3 42.0 20.0 37.0 31.0 23.0 28.0 7.0 29.0 0.6 0.7 1.0 0.4 0.4 0.7 1.2 1.0 14.9 12.3 9.5 11.0 3.0 12.0 5.0 6.0 9.0 9.0 厚労省調査:和田清他 「薬物乱用に関する全国中学生意識・実態調査2008」 JSPAD: Japanese School Survey Project on Alocohl and Drug Abuse 勝野眞吾他 岐阜薬科大学 MTF: Monitorimg the Future Study (U.S.A.) Lloyd D Johnston et al. ESPAD: European School Survey Project on Alcohol and other Drugs EMCDDA PNSD: Plan Nacional Subre Drogas ASPD: Asian School Survey Project on Drug Abuse 勝野眞吾他 兵庫教育大学教育・社会調査研究センター 覚せい剤(ATS) MDMA(Ecstasy) 0.2 0.3 0.4 0.3 0.3 0.4 0.5 0.6 0.6 6.6 13.1 12.3 5.0 3.0 4.0 4.0 2.0 2.0 2.0 コカイン ヘロイン - - - - - - - - - 0.3 0.2 0.3 0.5 0.6 1.0 2.2 5.5 6.5 3.0 3.0 4.0 3.0 4.0 2.0 4.0 - - - - - - - - 2.6 4.6 6 3.0 4.0 5.0 5.0 3.0 2.0 5.0 0.1 1.3 1.5 1.2 1.0 1.0 3.0 3.0 1.0 1.0 1.0 世界の薬物乱用者の推移(国連推計) 百万人 180 165.6 3.9% 1990年代後半 2001/2002 2004/2005 2006/2007 160 144.1 140 120 100 80 60 40 24.2 24.7 20 4.5 9.0 14.0 16.0 13.5 16.5 9.2 12.0 0 大麻 覚せい剤 MDMA (エクスタシー) コカイン あへん類 ヘロイン Bremen, Germany, 2001 日本の薬物乱用の動向 経年的変化 高校生の喫煙と飲酒経験率(年経験率)の推移 (2004-2009) % 100 % 30 2004 2006 2009 2004 2006 2009 80 20 18.27 64.2 60 13.8 44.4 41.9 7.98 10 61.2 55.5 55.5 40 10.14 7.87 4.85 0 20 0 男子 女子 男子 女子 薬物:生涯経験率(%) 薬物:生涯経験率(%) % 2.5 2.2 2.0 2004 2006 2009 1.8 女子 男子 1.5 1.2 1.1 1.1 1.0 1.1 0.9 1.0 0.8 0.7 0.7 0.5 0.5 0.5 0.6 0.5 0.5 0.5 0.4 0.5 0.4 0.4 0.3 0.3 0.2 0.2 0.3 0.3 0.3 0.2 0.2 0.0 薬物 シンナー 大麻 覚せい剤 MDMA 薬物 シンナー 大麻 覚せい剤 MDMA 違法薬物入手の可能性 % 100 JSPAD2004 JSPAD2006 JSPAD2009 米国MTF2009 81.1 80 60 47.1 40 35.1 22.4 20 19.9 17.9 22.3 20.0 17.9 17.6 16.7 16.4 覚せい剤 MDMA 0 大麻 大麻乱用経験(年)と勧誘された経験、 身近に乱用経験者がいる生徒の推移 % 5.0 2004 2006 2009 4.0 3.0 2.62 2.58 2.0 1.63 1.65 1.35 0.82 1.0 0.40 0.41 0.28 0.0 年経験率 誘われた経験 乱用者身近にいる 覚せい剤乱用経験(年)と勧誘された経験、 身近に乱用経験者がいる生徒の推移 % 5.0 2004 2006 2009 4.0 3.0 2.0 1.48 1.43 0.85 0.87 1.0 0.25 0.27 0.22 0.54 0.81 0.0 年経験率 誘われた経験 乱用者身近にいる MDMA乱用経験(年)と勧誘された経験、 身近に乱用経験者がいる生徒の推移 % 5.0 2004 2006 2009 4.0 3.0 2.0 1.0 0.31 0.31 0.23 0.56 0.66 0.51 0.93 1.07 0.8 0.0 年経験率 誘われた経験 乱用者身近にいる 大麻乱用の有害生を認識している生徒の割合 日米高校生の比較 2004 % 2006 100 80 89.9 91.2 92.9 60 57.9 54.6 40 52.4 20 0 日本JSPAD 米国MTF 2009 大麻乱用に対して拒否的態度をもつ生徒の割合 日米高校生の比較 2004 % 2006 100 95.8 80 97.4 94.8 80.7 82.2 60 40 20 0 日本JSPAD 米国MTF 80.3 2009 薬物乱用流行の要因 薬物乱用・依存の3要因 薬物 Agent ヒト Host 環境 (社会環境) Environment 19 70 19 71 19 72 19 73 19 74 19 75 19 76 19 77 19 78 19 79 19 80 19 81 19 82 19 83 19 84 19 85 19 86 19 87 19 88 19 89 19 90 19 91 19 92 19 93 19 94 19 95 19 96 19 97 人/未成年% x1000 20000 覚せい剤事犯と未成年の割合の推移(1970-1997) 25000 未成年%x1000 全体 覚せい剤乱用者による通り魔殺人事件 15000 10000 5000 0 年 乱用薬物の隠語 乱用薬物の隠語 覚せい剤: スピード, エス, クラック 大麻 チョコ, : ヒロポン, 猫の目錠,(やせ薬) 突撃錠, コカイン: シャブ, グラス, LSD : アシッド MDMA: エクスタシー (メチレン・ジオキシ・メタンフェタミン) マリファナ, ハシッシ 寄与率% 中・高校生の大麻乱用の要因 47.0 50 44.8 8年生 生活習慣: 学校欠席,夜間外出, アルバイト時間 10年生 36 40 12年生 態度・認識: 30 大麻乱用に対する拒否的態度 18.2 20 大麻乱用の危険についての認識 18.7 15.3 時代要因: 10 1.9 2.8 各年の大麻乱用の全国平均 1.6 0 生活習慣 態度・認識 時代要因 Bechman JG et al. Amer. J. Public Health Vol.88, 1998 米国高校生における大麻乱用の危険に対する認識と大麻乱用 % 50 過 去 3 0 日 間 の 大 麻 乱 100 90 40 80 70 30 60 50 20 40 30 10 過去30日間の大麻乱用 大麻乱用の危険性の認識 入手しやすさ 0 20 10 0 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 L.D.Johnston et al. Monitoring the Future Study % 大 麻 危 険 性 の 認 識 と 入 手 の し や す 学校における 薬物乱用防止教育 新学習指導要領 平成20年3月公示 小学校体育科 保健領域 (3)病気の予防 エ 喫煙,飲酒,薬物乱用などの行為は,健康を損なう原因となること 中学校教科保健体育 保健分野 (4)健康な生活と疾病の予防 ウ 喫煙,飲酒,薬物乱用などの行為は,心身に様々な影響を与え,健康を 損なう原因となること。また,これらの行為には,個人の心理状態や人間関係, 社会環境が影響することから,それらに適切に対処する必要があること 高等学校教科保健体育 教科保健 (1)現代社会と健康 イ 薬物乱用は,心身の健康などに深刻な影響を与えることから行っては ならないこと。 薬物乱用防止教育にあたって強調・留意するべき点 " Learning to Live Drug Free " US US Dep Departme artment nt of of Educa Education tion ○ ほとんどの若者は薬物乱用をしていない ○ 薬物乱用の可能性があるか, ないかという観点で生徒を 区別しない ○ 乱用薬物に関する情報はセンセーショナルに表現される べきではない ○ 薬物乱用をしないということ個人としても社会の一員 としても 誇るべきことである 薬物を使用しないことということが生徒自身の健康・安全だけでなく, 地域社会の健康・安全にもつながる 薬物乱用防止教育における不適切な教材 1.児童・生徒に薬物乱用の” 教材 いいわけ” の口実を与える 2.児童・生徒に違法薬物の入手, ような図書, ビデオなど 調製,使用法を教える 3.薬物乱用経験者の更正, 社会復帰のための教材: 特に, スターなどの例を用いたロールモデル 4. 「責任ある使用」 ,「限定された使用」 などの誤解を 与えるような用語が用いられている教材 5. 「薬物乱用をするか否かは児童・生徒自身が決めること であると言うような表現のある教材 薬物乱用防止教育における不適切な教材 1.児童・生徒に薬物乱用の” 教材 いいわけ” の口実を与える 2.児童・生徒に違法薬物の入手, ような図書, ビデオなど 調製,使用法を教える 3.薬物乱用経験者の更正, 社会復帰のための教材: 特に, スターなどの例を用いたロールモデル 4. 「責任ある使用」 ,「限定された使用」 などの誤解を 与えるような用語が用いられている教材 5. 「薬物乱用をするか否かは児童・生徒自身が決めること であると言うような表現のある教材 高等学校における薬物乱用防止教育において 取り扱った薬物 100 % 80 1996 82.4 80.9 82.6 79.7 1999 2005 76.9 64.8 56.2 63 64.7 52.2 60 51.8 57.0 55.1 50.2 54.5 50.6 45.4 40.0 38.6 40 19.5 17.0 20 9.0 0 有機溶剤 覚せい剤 大麻 MDMA あへん系麻薬 コカイン LSD その他 % 「薬物乱用は良くないことだ。許されるべきではない。」 と答えた児童生徒 100 90 80 70 60 男子 50 女子 1997 2000 2006 40 30 20 10 0 5年生 6年生 1年生 2年生 3年生 1年生 2年生 3年生 小学校 中学校 高等学校 5年生 6年生 1年生 2年生 3年生 1年生 2年生 3年生 小学校 中学校 高等学校 「薬物乱用は危険である」と答えた児童生徒 % 100 90 80 70 1997 60 50 2000 40 2006 30 女子 男子 20 10 0 5年生 6年生 1年生 2年生 3年生 1年生 2年生 3年生 小学校 中学校 高等学校 5年生 6年生 1年生 2年生 3年生 1年生 2年生 3年生 小学校 中学校 高等学校 「薬物乱用」に関する情報を学校で得たと答えた児童生徒 % 100 1997 2000 2006 90 80 70 60 50 40 30 男子 20 女子 10 小学校 中学校 高等学校 小学校 中学校 高等学校 生 3年 生 2年 生 1年 生 3年 生 2年 生 1年 生 6年 生 5年 生 3年 生 2年 生 1年 生 3年 生 2年 生 1年 生 6年 5年 生 0 「薬物乱用」に関する情報を本・雑誌から得た と答えた児童生徒 % 50 男子 女子 40 30 20 1997 2000 2006 10 小学校 中学校 高等学校 小学校 中学校 生 3年 生 2年 生 1年 生 3年 生 2年 生 1年 生 6年 生 5年 生 3年 生 2年 生 1年 生 3年 生 2年 生 1年 生 6年 5年 生 0 高等学校 「薬物乱用」に関する情報を学校で得たと答えた児童生徒 % 100 1997 2000 2006 90 80 70 60 50 40 30 男子 20 女子 10 小学校 中学校 高等学校 小学校 中学校 高等学校 生 3年 生 2年 生 1年 生 3年 生 2年 生 1年 生 6年 生 5年 生 3年 生 2年 生 1年 生 3年 生 2年 生 1年 生 6年 5年 生 0 「薬物を使用すると気持ち良くなる」 と答えた児童生徒 % 50 1997 2000 2006 40 男子 女子 30 20 10 高等学校 小学校 中学校 生 3 年 生 2 年 生 1 年 生 3 年 生 2 年 生 1 年 生 6 年 生 5 年 生 3 年 生 2 年 生 1 中学校 年 生 3 年 生 2 年 生 1 小学校 年 生 年 6 5 年 生 0 高等学校 「依存」を知っている児童生徒 100 % 90 80 70 60 50 男子 40 女子 30 1997 20 2000 10 2006 0 5年 生 6年 生 小学校 1年 生 2年 生 3年 中学校 生 1年 生 2年 生 3年 生 高等学校 5年 生 6年 生 小学校 1年 生 2年 生 3年 中学校 生 1年 生 2年 生 3年 生 高等学校 「フラッシュ・バック」を知っている児童生徒 % 100 90 80 70 60 50 40 30 1997 2000 2006 男子 20 10 女子 小学校 中学校 高等学校 小学校 中学校 生 3年 生 2年 生 1年 生 3年 生 2年 生 1年 生 6年 生 5年 生 3年 生 2年 生 1年 生 3年 生 2年 生 1年 生 6年 5年 生 0 高等学校 米国高校生における大麻乱用の危険に対する認識と大麻乱用 % 50 過 去 3 0 日 間 の 大 麻 乱 100 90 40 80 70 30 60 50 20 40 30 10 過去30日間の大麻乱用 大麻乱用の危険性の認識 入手しやすさ 0 20 10 0 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 L.D.Johnston et al. Monitoring the Future Study % 大 麻 危 険 性 の 認 識 と 入 手 の し や す
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