4 企業間関係システム 2006年度「企業論」 川端 望 1 4-1 企業間取引 2 企業統合 水平的統合 同一業種内での統合 垂直的統合 継起的なプロセスの川上と川下にある業種間での 統合 コングロマリット統合 異業種間の統合 3 水平統合 同 一 業 種 プロセスの流れ 4 垂直統合 同 一 業 種 プロセスの流れ 5 コングロマリット統合 6 水平統合と規模の経済性 大規模なオペレーションによ る生産性の向上、コストの 低下 同 一 業 種 プロセスの流れ 7 コングロマリット統合と範囲の経済 共通の経営資源を同一企業内で別事業に用 いることによって、共通資源の利用に規模の 経済性が働くことによる生産性の向上、コスト の低下 8 水平統合と独占禁止政策 規模の経済性発揮 の限度を上回る拡 張 産業内の経済力集中によ る独占的行動の可能性 同 一 業 種 この議論は広く認めら れているが、批判も高 まっている。本講義の 第1章、詳しくは泉田 [2003]を参照。 プロセスの流れ 9 独占禁止政策とコングロマリット統合 一般的集中度上昇による独占 的行動の可能性(1) 外見はコングロマリットでも経 営資源や市場に共通性があり、 水平的統合と同様の効果をも たらす可能性(2) (1)は1960年代にS-C-Pパラ ダイムによって主張されたが、 水平的統合批判ほど認めら れていない。(2)は水平的統 合批判と同様に認められてい る。 10 独占禁止政策と垂直統合 販売における差 別的取り扱い 仕入れにお ける差別的 取り扱い 内部取引を利用 した略奪的価格 設定 同 一 業 種 プロセスの流れ ただし、これらが 可能になるのは 各産業での集中 度が高いからであ り、水平的統合の 問題に還元される という見方もある 11 垂直統合と取引費用の節約 垂直統合して内部取り引きした方が、別 企業として外部取り引きする場合よりも取 引コストが低い場合 同 一 業 種 第1章スライド40説 明の「権限による統 治の利益」を参照。 プロセスの流れ 12 例:垂直統合によるホールド・アップ問題の 解決 自動車メーカーA社と、A社専属の部品メーカーB社 少数性と機会主義が結びつき、競争均衡しない A社の自動車専用の部品Cを製作するためのB社の投資は取 引特殊的になる 双方独占の懸念から取引が成り立たない B社はA社によるホールド・アップをおそれて投資しない A社はB社によるホールド・アップをおそれてCを採用しない 解決としての所有の統一 他の条件が等しければ、どちらがどちらを買収しても同じ A社がB社を買収し、部品部門としてCの製作を命じる 問題点:権限による統治の限界 セクショナリズム、コミュニケーション不全、組織内権限拡張 競争などにより、権限による統治が妨げられる 13 チャンドラーによる「見える手」(Visible Hand)の経営史 (チャンドラー[1977=1979][1990=1993])によるアメ リカ経営史のとらえかた 市場の価格メカニズムという「見えざる手」による調整 ↓ 階層的管理組織の権限という「見える手」による調整 その動力:統一市場を背景とした大量流通と大量生 産 財の流れの規模と速度の増大 「見える手」の利益 規模の経済 範囲の経済 取引費用の節約(チャンドラー自身はあまり明示していな い) 14 中間組織と関係的契約 取引コスト削減の方法 垂直統合、市場取引のほかに中間組織があり得る ウィリアムソンの「関係的契約」(第1章スライド38、39)。 系列関係、長期継続取引 「系列」の分類 異業種から構成される系列(三井、住友のような旧六大企 業集団など)(広義の系列) 特定産業の生産・販売活動における系列(狭義の系列) 本章では、製造業における完成品メーカーと部品サプライ ヤーの関係を中心に取り上げる。そのシステマティックな側面 を捉えて「サプライヤー・システム」ということもある。 15 部品取引の統治機構が持つ特徴のTCE的 理解(1) 部品取引に取引特殊的投資が必要になる場合 特定用途に特殊化されたカスタム部品が必要である場合で、 かつ そのカスタム部品を開発・生産・販売する際に独自の資産 (機械設備、技能、ノウハウ)が必要な場合 カスタム部品の取引には、取引特殊的資産に固有の 問題が伴う 投資には長期継続取引の保障や期待が必要 不完備契約が必至。機会主義の可能性 双方独占問題 情報の非対称性によるホールドアップ問題 16 部品取引の統治機構が持つ特徴のTCE的 理解(2) 取引費用だけでなく生産費用の抑制も重大 な課題 合理化、革新を促進する取引統治機構か否かが 問われる これは本来TCEではあいまいになっているが、浅 沼[1997]が提起した。 日本の下請研究では以前から論じられてきた。 17 4-2 サプライヤー・システム 18 TCEのサプライヤー・システム論と系列・下 請論 TCEのサプライヤー・システム論の問題提起 TCEは従来の系列・下請論が強調していた「大企 業によるより小規模な企業の支配」という関係を否 定するか、あてはまる範囲を小さく限定する。それ はなぜか。 TCEはメーカーとサプライヤーの関係をどうとらえ るか。 もしTCEのとらえ方にも問題があるとしたら、系列・ 下請論が「支配」「従属」としてきた関係は、どうとら えられるべきか。 19 日本の自動車・電機産業における部品外製 率の高さ 自動車産業の例(1980年代) 日本メーカー 200-300社 完成車メー カーが取引す る部品メーカー 数 部品内製率 20-30% アメリカメー カー 1000-1500社 60-70% 20 内製率の低さと部品メーカー数の関係 日本の方が、完成度 の高い部品まで部品 メーカーで外製。 日本の完成車メーカー ・「システム納入」(機 能的一体性)または ・「モジュール」(構造 的一体性) アメリカの完成車メーカー 21 外製における購入品と外注品の違い 電機メーカーの例(浅沼[1997]) テキスト197頁が自動車と書いているのは浅沼 [1997]に対する読み間違い 購入品(市販品の購入):30.5% 外注品(カスタム部品の外注):43.0% TCEでは、取引特殊的資産、取引特殊的技能による説 明が試みられる 内製:26.5% 22 長期継続取引の枠組み(復習) TCEによれば、長期継続取引において契約 は不完備とならざるを得ないので、機会主義 の危険がある。ここがどうコーディネートされ ているかが問題となる。 双方独占や、一方による他方の搾取の可能性 23 TCEにおける部品取引契約把握の特徴(1) (浅沼[1994]) 単純関係的契約(a) あるサプライヤーが、ある中核企業に対し、所与の 品目の所与のモデルを一定期間に渡り継続的に 納入する関係を管理している契約的枠組み a 24 TCEにおける部品取引契約把握の特徴(2) (浅沼[1994]) 複合関係的契約(b) あるサプライヤーと、ある中核企業との間に張られ る、時間的に見て前後関係にある複数の、それぞ れ単純関係的契約で管理されている納入関係を、 全体として管理している契約的枠組み b a a a a 25 TCEによる部品取引を統治する契約の枠組 み把握(1) 基本取引契約書の内容 通常1年だが自動更新事項あり 取引の当事者が守るべき一般的義務 月間生産予定表が個別契約となる かんばんシステムは微調整である 価格再交渉の機会を定期的に設ける 価格設定の時点や納入の継続期間は記載されて いない 26 TCEによる部品取引を統治する契約の枠組 み把握(2) 部品開発の際に取引期間と価格が決まる フルモデルチェンジ(4年)とマイナーチェンジ(2年) ノン・スイッチングの慣行:上記期間はサプライヤー切り替えず モデル存続期間は、サプライヤーは地位を保証される 複社発注:部品の各種類について 完成品メーカーにとっての安定供給確保とサプライヤー間の競争促進の ため ただし特定モデルの特定部品は一社発注 次期モデル開発の際のサプライヤー決定の根拠 完成品メーカーの既存サプライヤー評価 サプライヤー間の発注シェア割り振りについての完成車メーカーの政 策 新規部品に関するサプライヤー提案に対する完成車メーカーの評価 27 契約後の微調整のメカニズム 金型費についての生産量変動リスクの吸収 (自動車メーカー) サプライヤーが納入部品の金型に投資する場合 生産実績が予定数に満たなかった場合、完成車 メーカーは未償却分をサプライヤーに補償 関係特殊的資産への投資問題の一種 28 単価改訂時にサプライヤーの合理化を促す メカニズム サプライヤーのコスト上昇を部品単価に転嫁するこ とを完成品メーカーは認めるか 人件費増→認めない。サプライヤーに合理化を促す。 エネルギーコスト増→例外的な事態以外認めない 設計変更によるコスト増→認められ得る 査定加工費と実際加工費 加工費(円/個)=工数(分/個)×レート(円/分) サプライヤーは、合理化すれば余剰を取得できる 査定加工費-実際加工費>0ならOK 29 VA・VE効果の還元によるサプライヤーの合 理化促進 VE(価値工学)とVA(価値分析)の慣例的な 意味 VE:開発過程での原価低減 VA:量産開始後の原価低減 VE、VAの効果は完成品メーカーと部品メー カーで分け合う 例:VAで原価低減→一定期間は単価をもとのまま にする 30 完成品メーカーによるサプライヤーの利益管 理 完成品メーカーは、単価改訂(おおむね半年 に1度)に際して以下を比較衡量 部品値下げによる完成品メーカーの利益 部品値下げ要求によるサプライヤーの合理化促進 部品サプライヤーの成長のための利益水準確保 31 TCEによる部品メーカー(一次サプライヤー) の分類(浅沼[1997]) 取り引きする部品の支配的な部分について の設計図面の性質を指標とした分類 承認図メーカー(開発と製造を行う) 承認図:完成品メーカーが大まかな仕様を提示し、 その仕様に適合するような部品をサプライヤーの 側が開発し、完成車メーカーが図面に承認を与え、 サプライヤーに製造を行わせる。 貸与図メーカー(製造のみ行う) 貸与図:完成品メーカーが部品の設計を行い、サ プライヤーに貸与して製造を行わせる。 32 TCEによる部品とサプライヤーの分類(浅沼 [1997]) 完成品メーカー内製 カスタム部品 貸与図の部品 Ⅰ 買い手企業が工程についても詳細に指示する Ⅱ 供給側が貸与図を基礎に工程を決める Ⅲ 買手企業は概略図面を渡し、その完成を供給側に委託する 承認図の部品 Ⅳ 買手企業は工程について相当な知識を持つ Ⅴ IVとVIとの中間領域 Ⅵ 買手企業は工程について限られた知識しか持たない 市販品タイプの部品 Ⅶ 買い手企業は売手の提供するカタログの中から選んで購入する 能力向上によって、ⅠからⅥに向い進化する。 33 伝統的な系列・下請論DO テキストの用語法の誤り 完成車メーカーと一次サプライヤー(承認図・貸与図 メーカー)との関係を「系列関係」、一次サプライヤーと 二次サプライヤーの関係を「下請関係」と呼ぶ根拠がな い。 系列:継続的な取引先 下請け: 大企業がより規模の小さい企業を支配するというニュ アンスを含む。 高度成長期までは現象的に説得力があったが、一次 サプライヤーの成長とともに説得力が低下し、また理論 的説明が不十分だった 34 下請・系列論によるサプライヤー分類(清 [2002]による) 完成品メーカー内製 独立系企業、他産業大手企業 下請企業(広義) 発展形態 グループ企業・関連会社 直系子会社(資本系列下) 系列企業(納入関係の継続性) 下請企業(狭義) 専属下請(地域的制約から専属) 浮動的再下請(二次サプライヤーなど) 浮動的再々下請(三次サプライヤーなど) 35 TCEによる関係的技能論 浅沼[1997]の関係的技能:中核企業(完成品企業) のニーズまたは要請に対して効率的に対応して供 給を行うためにサプライヤー側に要求される技能 表層:所与の中核企業との取引を通じて獲得される学習の 蓄積に対応する 基層:一般的な技術的能力 「関係的技能」論は取引特殊的技能論を、いくらか 修正したもの 完成車メーカーA社との取引で培った能力が、完成車メー カーB社との取引に生きる場合がある。 36 関係的技能の内容(浅沼[1997]を簡略化) →いつ見える 能力か 開発初期 開発後期 生産段階(納 入) 市販品部品 ブラックボック ス ブラックボック ス 品質保証 ブラックボック タイムリーな納 ス 入 承認図部品 製品開発 工程開発(BB 仕様改善提案 もあり) VEで原価改 善 品質保証 工程改善で原 タイムリーな納 価低減(BBも あり) 入 VAで原価低減 貸与図部品 (関係なし) 品質保証 工程改善 タイムリーな納 VAで原価低減 入 工程開発 VEで原価改 善 生産段階(価 格再交渉) 37 4-3 TCEによるサプライヤー・システム論の 問題点DO (本節は全体がテキストと異なる見解であるため、ひとつひとつのスライドに DOはつけない) 38 基本取引契約のあいまいさ、無限定性の見 落とし(清[2002]、本間[1994]) 基本取引契約の無限定性 「コスト削減」、「納期遵守」、「不良品は納入しない」「甲の満 足する品質」、適合品質についての「全ての責任」など無限 定な義務がサプライヤーに課されており、完成品メーカーは、 サプライヤーにQCD等について無限定に要求できることに なってしまう 契約書が慣行を規定するというより、取引慣行を契約書が 表現している 通用しない例 アメリカでM自動車工業が基本取引契約書にサインを求めた ところ、現地サプライヤーは拒否。経営を守れず、株主に対す る責任を果たせないから。 39 無限定な要求から生じる効果と問題 パフォーマンス・ギャランティ(清[1989]) スペックを守るかどうかではなく、完成品メーカーにとってのパ フォーマンス(結果としてクレームが来ないなど)が要求される JISを上回る厳しいスペックなのでJISは基準にならない 完成品メーカーが不具合とみなしたら、サプライヤーの責任で是正し なければならない 巨大鉄鋼メーカーでさえもこの傾向はある(川端[1995]) この関係の中で品質や技術水準は確かに向上するが、欧米 基準から見ると対価が払われないことになる 例:イギリスに進出したM電器。(清[2002]) 現地部品メーカーの試作品が耐久試験に合格せず。50V、1mAの規 格の抵抗器に80V、1.5mAの過負荷をかけていた それを聞いたサプライヤーの言い分。「最初から80V、1.5mAと言っ てくれればつくれる。ただし値段は高くなる」。 裏返すと、日本では規格が50V、1mAの部品を80V、1.5mAに耐え 40 られるように納入させている。 原価低減と価格決定における契約の特異性 の見落とし(1) 契約の常識的なモデルでは、生産の前に単価と数 量が決まっていなければならない サプライヤー選択と価格決定の関係(清[1991])(図 表1) 欧米:競争入札で同時決定 日本:サプライヤーは開発初期に決定されるが、化アックは 量産直前に決定。量産開始してから決定することもある(= いくらもらえるかわからないのに、仕事を始めている)。 サプライヤー決定→原価低減活動→価格決定 ある完成車メーカーでは、完成車メーカーの担当者が1-1.5年、 サプライヤーの開発セクションに貼り付く 41 原価低減と価格決定における契約の特異性 の見落とし(1) サプライヤー決定と価格決定の分離は、抽象 的には機会主義を生み出す可能性がある 力関係の強い方がホールドアップを行えるはず 完成車メーカーにコストアナリシス能力があり、 サプライヤーの業務に対して介入して管理す る能力があれば、可能になる。 他社の工場なのに、管理・監督している 経営権に属してもおかしくないサプライヤーの情報 が完成車メーカーに把握されている 42 原価低減運動の意味と存立条件 浅沼[1997]が指摘した完成品メーカーによる利益管 理は、原価低減運動に支えられて機能する。 サプライヤーは、原価が下がり、それによって価格 が下がることが長期継続的発展につながるとの期 待を持ちうる 完成品メーカーの競争力 サプライヤーへの高い評価 長期的なプラスサムの関係が期待される条件下で のみ受容される 43 開発と製造の未分離という取引のあいまい さの見落とし(1)(植田「2000]) トヨタ自動車の単価決定式(1980年代。植田[1989]による) 製品単価=直接材料費+加工費+一般管理販売費+利益+VA効 果還元分+型償却費 直接材料費=素材費+購入部品費+外注加工費 加工費=工数×加工費率(レート)+製造間接費 承認図メーカーが開発をおこなっても、開発費、設計費は部 品メーカーにはそれとして払われない 製品単価に何らかの形であいまいに組み込まれている 開発と製造が分離できることの傍証:委託図方式(藤本 [1997]) サプライヤーA社が開発→完成品メーカーが図面買い取り。設計料 支払い→サプライヤーB社に量産委託。製造料支払い 欧米に多く、日本には少ない。車体メーカーにはある。 44 開発と製造の未分離という取引のあいまい さの見落とし(2)(植田[1989][2000]) 承認図に対する権利のあいまいさ サプライヤーのものという見解もある(藤本[1997]) 「承認図部品の第三者への販売に関する契約の 内容」アンケート結果では、使用に制約 取引先自動車メーカーの事前承認を受けなければ販売 禁止(76.0%) 取引先自動車メーカー以外への販売は全面的に販売禁 止(13.6%) 45 開発と製造の未分離は、特定の条件の下で 成り立つ(植田[2000]) 問題が表面化しなかったわけ 長期継続取引が期待できた:サプライヤーは長期 的に開発費を回収できた ある部品メーカーが作成した承認図が、別の部品 メーカーによる製造に用いられることはなかった 問題が表面化する兆候 1990年代末の系列縮小・再編 完成品メーカーの海外展開 46 海外展開に伴う問題とその調整 完成品メーカーが既存モデルを製造し、部品は現地のサプ ライヤーから調達する場合の問題 日本のサプライヤーが作成した承認図を現地サプライヤーにわた すことができるか?あいまい 自動車部品ではメーカーはわたしていない(植田[2006]) しかし金型では、完成品メーカーが図面を現地メーカーに渡すケースで 問題が表面化(植田[2004]) 承認図には、すべての情報は書かれていないので、たとえわたし てよいとしても製造できないこともある 完成車メーカーとサプライヤーの共同開発、たびかさなる設計変更で朱 が入り、書かれていない暗黙の了解も多い このようなケースが重なると、サプライヤーは承認図にあえて情報を集 約しなくなる 当面の解決 日本のサプライヤーから現地サプライヤーへの技術支援を仲介 47 する 承認図VS貸与図ではなく、コストアナリシス VSブラックボックスが利益を左右する(1) (清[2002]) 承認図VS貸与図の二分法は以下のTCE的命題に つながる 承認図メーカーの方が技術的に(関係的技能が)優れており、 技術をブラックボックス化しやすく、それゆえ利益も多く取る ことができる 現実にはそうではなく、同じ承認図でもブラックボッ クス化の程度は大きく異なる 例1:サプライヤーX社のゲスト・エンジニアがカスタマーの 指示にもとづいてスペック作成→自社に持ち帰って詳細設 計→総組立図のみをカスタマーに提出。承認。カスタマーは 詳細把握できず。 例2:サプライヤーY社のゲスト・エンジニアがカスタマー社 内に常駐して詳細設計→製品設計に関する全データがカス タマーのデータベースに加えられる。 48 承認図VS貸与図ではなく、コストアナリシス VSブラックボックスが利益を左右する(2) (植田[2000]) 承認図VS貸与図の議論は、理論的には何 がおかしいか 区別を曖昧にするから分からないが、実は開発と 設計という二つの取引の場面である 貸与図:製造する部品の取引 承認図:開発サービス(の表現としての設計図)の取引と 製造する部品の取引 取引場面がAだけか、AとBかということと、どちら の方が利益が上がるかは別である 49 承認図VS貸与図ではなく、コストアナリシス VSブラックボックスが利益を左右する(3) (清[2002]) コストアナリシス能力とブラックボックス化能 力に注目した部品別の特徴 パワートレイン:完成車メーカーが図面詳細、製造 ノウハウ把握 電装品、個別機能部品:基本ノウハウはサプライ ヤーが支配(承認図であれ貸与図であれ) 車体・フレーム・内装部品:完成車メーカーが製造 ノウハウを把握。サプライヤーは効率的に安く製造 できるという理由で発注されている 承認図メーカーになっても開発を安上がりに外注された だけになる可能性(取引場面拡大は利益増大ではない) 50 ブラックボックス化と承認図論のインプリケー ションの違い 承認図メーカーへの進化は技術水準(関係的技能)の高まり とともにあるとされた 技術・技能向上→成長と利益向上 ブラックボックス化は技術水準と一義的に結びついておらず、 その根拠は単純には特定できないが、社会関係の中にある 雇用システムの場合と同じく、TCEが想定する因果関係は 転倒しているのではないか テクニカルな関係的技能→評価→サプライヤー・システムの発展 ↓ 一定の社会関係の中のサプライヤー・システム→評価基準の決 定→ある種の能力が関係的技能となる 51 関係的技能の関係特殊性 浅沼[1997]自身が、技能を関係特殊性に一 面化していない 表層の関係特殊性技能 基礎の一般的技能 関係特殊性については、テクニカルな側面だ けではなく、社会的に構成される側面がある と考えるべきである 52 日本における完成品メーカーと部品サプライ ヤーの関係はどう把握されるべきか(1) ヒントはテキストにおける雇用関係とのアナロ ジー 本来、雇用関係と部品取引は性質が異なる 部品取引 代金 完成品メー カー サプライ ヤー 部品・設計図面 サプライヤーの責 任で生産活動 53 日本における完成品メーカーと部品サプライ ヤーの関係はどう把握されるべきか(2) 雇用関係 賃金 労働者 使用者 技能の使用権 行使 使用者の指 揮下で労働 54 日本における完成品メーカーと部品サプライ ヤーの関係はどう把握されるべきか(3) 実質的には、完成品メーカーはサプライヤー の部品を受け取るのではなく、技術・技能を 使用する権限を受け取っているかのようであ る。その意味で雇用関係に似ている。 代金 サプライ ヤー 完成品メー カー 技術・技能を使用 する権限 行使 完成品メーカーの管理 下で開発・製造 55 日本における完成品メーカーと部品サプライ ヤーの関係はどう把握されるべきか(3) 特異な契約的枠組みの二つの意味 雇用関係と同様に、権利・義務・所有権のあいまいさが部品 取引関係を支配する 責任範囲が限定されず、無限に柔軟に仕事を引き受けること で高い評価を得るシステム 専門的技能の使用権や収益が、発揮する当事者に個別的に 帰属しない 完成品メーカーが、個々の取引を越えてサプライヤーを管 理する権限を正当化する契約的枠組みはないために、あい まいさや無限定性が生じる 現実を正当化するために特異な基本取引契約書がつくられる 56 日本における完成品メーカーと部品サプライ ヤーの関係はどう把握されるべきか(3) このようなあいまいさが品質・技術水準の向 上につながることがある 資本主義発展と親和的という意味において普遍的 である このようなあいまいさは、契約の明快さを重 んじる社会では許容されない そのまま海外に適用できないという意味において 特殊的である 57 4-4 企業間システムの変革 58 何がサプライヤー・システムの変革を促して いるか 問題1:グローバル化の影響 問題2:機能不全と強化への系列の二極化 問題3:モジュール化の影響 59 グローバル展開の影響 あいまいな契約での長期的関係を海外に持 ち込むことの無理 現地社会での契約、現地サプライヤーとの契約に は、より明確な規定が求められる 日本のサプライヤーとの関係に問題が生じる(前 述) 現地サプライヤーは進出した日系完成品メーカー との取引比重が大きくないので、日系完成品メー カーが力関係で要求を通すこともできない 海外企業との提携、海外企業の傘下入りによる調 達方式の共通化 60 サプライヤー・システムとバブル バブル期に何が起こっていたか 行き過ぎた多品種・多仕様・小ロット化 売り上げは一部のモデルに集中 多品種・多仕様・小ロット化は部品サプライヤーの 利益機会となる(植田[1995]、藤本[2001a]) 部品の開発は、単価引き下げ阻止・技術のブラックボッ クス化のチャンス バブル崩壊後に採算が合わないことが露見 61 系列機能不全の例:日産自動車 「日産の系列は機能していなかった」(カルロス・ ゴーン」 「系列を使い、立派に利益をだしているところもあるわ けだから、単に日産のやり方がまずかったということ だ」(『日経ビジネス』2000年11月3日)。 サプライヤーに対する利益管理の成否(清[2005]) (図表2) 90年代前半の利益率 完成車メーカー<部品メーカー 90年代後半の利益率 トヨタ、ホンダ:完成車メーカー>部品メーカー。両方向上。 日産:完成車メーカー<部品メーカー。両方低迷。 62 利益率管理の貫徹と不貫徹(清[2005]) 系列の利益率管理 複社発注など、サプライヤー間の競争促進 部品メーカーのコスト管理 自社内に技術を確保してコストアナリシス徹底 コストテーブル提出要求、工程監査 ターゲットプライス設定と原価低減 利益率管理が貫徹しない(が管理しようとする)ケー ス コストアナリシス困難 力関係で様々な形での値引きを迫る 一面では露骨な支配従属だが、部品メーカーはコストテーブ ルを提出するよりは利益の一部を確保できる場合もある。 63 日産自動車リバイバル・プランとその結果 1999年10月発表。以下のコミットメント 2000年度における連結黒字化 2002年度末までの営業利益率4.5%の達成 自動車関連事業における連結有利子負債の7000億円以下 への削減 2002年3月で達成。 購買コスト20%削減目標も達成 部品・資材購買の集中化・グローバル化 サプライヤー数を約半分に ルノーとの共同購入、サプライヤー共通化 64 アーキテクチャのモジュール化とは何か(藤 本[2001b][2003][2004]) アーキテクチャとは、以下に関する基本的設 計構想のこと どのように製品を構成部品や工程に分割し、そこ に製品機能を配分するか 部品・工程間のインターフェースをいかに設計・調 整するか 65 アーキテクチャの分類軸 第一の軸:部品や部分的工程の機能と構造の関係 モジュラー・アーキテクチャ:機能と構造の関係が1対1に なっている インテグラル・アーキテクチャ:機能と構造の関係が錯綜して いる 第二の軸:部品間・工程間のインターフェース オープン・アーキテクチャ:インターフェースが業界標準 クローズ・アーキテクチャ:インターフェース設計ルールが1 社、または1企業グループで閉じている 66 アーキテクチャの基本タイプ(藤本[2004]) ク ロー ズド (囲 い込 み) オー プン (業 界標 準) インテグラル(擦り合わせ) モジュラー(組み合わせ) クローズド・インテグラル型 自動車 オートバイ 軽薄短小型家電 ゲームソフト 他 メインフレーム 工作機械 レゴ 他 オープン・モジュール型 パソコン・システム パソコン本体 インターネット製品 自転車 ある種の新金融商品 他 67 日本のサプライヤー・システムはクローズド・ インテグラル型アーキテクチャと親和的(藤 本[2004]) クローズド・インテグラルアーキテクチャ製品 部品あるいは生産工程の設計パラメータを相互に 調整することが必要 最適設計された専用部品あるいは自前の生産工 程が必要 日本のサプライヤー・システムとクローズド・ インテグラル製品の親和性 企業間での情報共有と濃密なコミュニケーション 明示的な限定のないパフォーマンス・ギャランティ 68 モジュ-ル化の潮流(1) IT機器・システム、IT利用分野がオープン・モジュ ラーアーキテクチャを活用したビジネス・モデル構築 パソコン、IT機器、情報システム、ネットビジネス、金融のIT 利用など ファブレスとOEM・ODMの台頭 ファブレス:開発に特化 OEM:製造に特化し、ファブレスを含む様々な企業から受注。 ファウンドリもほぼ同義 ODM:製造と一部の設計業務を請け負い、ファブレスを含む 様々な企業から受注。 →アメリカ産業の復権と日本産業の競争劣位 69 モジュール化の潮流(2) 中国製造業による「アーキテクチャの換骨奪胎=擬 似モジュール化」の台頭 クローズド・インテグラル製品を、多少の無理があってもモ ジュール化してしまう コピー商品から擬似業界標準をもとにしたバラエティを形 成:オートバイのケース 日本モデルの部品をタイプわけ→そのバラエティを「開発」→ 組み合わせで各種のオートバイを製作 コア部品を外部調達して製品を自社ブランドで組み立てる: 家電のケース 日本企業や合弁企業からコア部品を買い、組み立てる • テレビ:ブラウン管 • エアコン:コンプレッサー →日本企業はインテグラル設計の高級品か、高度部品供給に 集中することを迫られる 70 モジュール化の潮流(3-1) 自動車のモジュール化 モジュール:複合部品やサブアセンブリを組み合わせた物 理的な単位やかたまり フロントエンド、シャシー、コックピット、ルーフ、ドアなどがモ ジュール化の対象 欧米完成車メーカーが推進した理由 開発コスト低減 サプライヤー数絞込み 完成車とサプライヤーの賃金格差利用 サプライヤー数絞込み 最終組立工場の負荷軽減 →一部は日本完成車メーカーが従来から追求してきたこと 71 モジュール化の潮流(3-2) 自動車モジュール化の限界 オープン・アーキテクチャ化しにくく、一部のクロー ズド・モジュラーにとどまる コア部品(とくにエンジン)の汎用部品化はごく一部 巨大化したモジュール・サプライヤーの経営不振 デルファイの経営破綻 むしろ、グローバル競争のもとでのサプライヤ淘汰 と部分的Japanizationが主要内容になっている →自動車は日本の一部メーカーに優位性あり 72 アーキテクチャと日本産業の新たな戦略パ ターン クローズド・インテグラル製品での優位性維持・強化 ボリュームゾーン死守:自動車、オートバイ? 高級品特化:デジタル家電(高品位TV、超小型ノートPC) クローズド・インテグラル製品へのカスタム部品・素 材供給(中インテグラル/モジュラー・外インテグラ ル) 自動車部品、自動車用鋼板 コア部品供給(中インテグラル・外モジュラー) 電子材料・電子部品 開発・組立・SCMで国内市場防衛(製造モジュラー・ 顧客サービスインテグラル) 開発し、OEM、ODMに部品を発注し、セル生産で国内組立 し、JIT供給(パソコン) 73 第4章 主要参考文献(1) 浅沼萬里[1994]「日本企業のコーポレート・ガバナンス」『金融研究』第13 巻第3号、日本銀行金融研究所、9月。 浅沼萬里(菊谷達弥編集)[1997]『日本の企業組織』東洋経済新報社。 泉田成美[2003]「産業組織論の系譜」『公正取引』第635号、公正取引協 会、9月 植田浩史[1989]「自動車産業の企業階層構造(1)」『季刊経済研究』第 12巻第3号、大阪市立大学経済研究会。 植田浩史[1995]「自動車部品メーカーと開発システム」 (明石芳彦・植田 浩史編『日本企業の研究開発システム』東京大学出版会)。 植田浩史[2000]「サプライヤ論に関する一考察:浅沼萬里氏の研究を中 心に」『季刊経済研究』第23巻第2号、9月。 植田浩史「2001」「自動車生産のモジュール化とサプライヤ」『経済学論 纂』第41巻第5号、中央大学経済学会、3月。 植田浩史[2001]「下請はリスクシェアリングか」(上井喜彦・野村正實編著 『日本企業 理論と現実』ミネルヴァ書房)。 植田浩史[2005]「企業間関係:サプライヤー・システム」(工藤章・橘川武 郎・グレン・D.フック編『現代日本企業 企業体制(上)』有斐閣)。 74 第4章 主要参考文献(2) 川端望[1995]「日本高炉メーカーにおける製品開発」(明石芳彦・植田浩 史編『日本企業の研究開発システム』東京大学出版会)。 清晌一郎[1990]「曖昧な発注、無限の要求による品質・技術水準の向 上」(中央大学経済研究所編『自動車産業の国際化と生産システム』中 央大学出版部)。 清晌一郎[1991]「価格設定方式の日本的特質とサプライヤーの成長・発 展」『関東学院大学経済経営研究所年報』第13号、3月。 清晌一郎[2001]「日本的系列・下請管理手法のヴァリエーションとその経 済効果」『経済学論纂』第41巻第5号、中央大学経済学研究会、3月。 清晌一郎[2002]「契約の論理を放棄した『関係特殊的技能』論:浅沼萬里 氏の混乱した議論について」『関東学院大学経済経営研究所年報』第24 号、3月。 清晌一郎[2005]「グローバル購買・ベンチマーク導入によって変わる日本 的購買方式」(池田正孝・中川洋一郎編著『環境激変に立ち向かう日本 自動車産業』中央大学出版部)。 藤本隆宏[1997]『生産システムの進化論』有斐閣。 藤本隆宏[2001a]『生産マネジメント入門』(I)(II)日本経済新聞社。 75 第4章 主要参考文献(3) 藤本隆宏[2001b]「アーキテクチャの産業論」(藤本隆宏・武石彰・青島矢 一編『ビジネス・アーキテクチャ ―製品・組織・プロセスの戦略的設計 ―』有斐閣)。 藤本隆宏[2003]『能力構築競争』中公新書。 藤本隆宏[2004]『日本のもの造り哲学』日本経済新聞社。 本間重紀[1994]「自動車・自動車部品工業における下請基本契約書の 特徴」『法経研究』第42巻第2号、静岡大学法経学会、2月。 アルフレッド・D・チャンドラー,Jr.[1977=1979](鳥羽欽一郎・小林袈裟治 訳) 『経営者の時代(上)(下)』東洋経済新報社。 アルフレッド・D・チャンドラー,Jr.[1990=1993](安部悦生ほか訳)『ス ケール・アンド・スコープ』有斐閣。 Oliver E. Williamson, Transaction-Cost Economics: The Governance of Contractual Relations, Journal of Low and Economics, Vol.22, 1979 76
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