帆船の安定性: 近代セーリングクルーザーと伸子帆を もつスクーナー(ラガー)の比較 青木 一紀(大阪大学:研究当時) 増山豊(金沢工業大学) 梅田直哉(大阪大学) 緒言 これまでのヨットの安全に関する研究 レーシングヨットが軽排水量化により転覆しや すくなっている傾向(野本) クルージングヨットがレーシングヨットに近づく傾 向にある(青木ほか,関西造船協会論文集 240号) 350艇分のヨット船型主要目の分析によって判明 2 比較研究 主要目検討の次のステップ: 詳細設計情報による新旧帆船の安定性比較 近代セーリングクルーザー:1990年代 伸子帆をもつスクーナー(ラガー):1890年 代 100年の間に帆走の安定性にどのような変 化があったか? 3 実際のヨットの転覆の原因 これまでの研究の主体 1.横波による波浪外力 2.風速・風向の変化による不安定化 風による不安定性も無視できない これまでの横波に対しての耐転覆性能とは 違ったアプローチが必要 4 対象としたヨット 金沢工業大学所有セーリングクルーザー KIT34 船型主要目 LOA LWL Bmax Draft (Fin Keel) Cb Sail Area (Mains’l) (Jib) (Spin) 10.68 [m] 8.55 [m] 3.04 [m] 1.94 [m] 0.398 35.69 [m2] 35.69 [m2] 61.58 [m2] 5 風速と針路による 釣り合い点の変化 風速 船速 U [m/s] 6 5 0 4 -10 3 -20 2 -30 1 -40 0 30 60 90 120 ヒール角 φ [deg.] 10 150 γ -50 30 180 60 90 120 150 γ 6 180 ラガー 近代型のセーリングクルーザーとは別の 「伸子帆」と呼ばれる帆を持つ帆船にも適用 伸子帆 明治・大正期の和船から 洋船への過渡期に,日本 各地で広く用いられた帆。 和帆船の横帆と比較して 風上帆走性能が優れ,上 手回しも容易だった。 7 対象としたラガー 伊勢・市川造船建造(明治26年)の長さ25.9mのスクーナー 「自在丸」に伸子帆装備(ただし長さをKIT-34に揃えた)と想 定 船型主要目 LOA LWL Bmax Draft Cb Sail Area (total) 10.00 [m] 8.99 [m] 2.41 [m] 0.93 [m] 0.496 50.00 [m2] 8 伸子帆の性能実験 大阪大学工学部研究用風洞にて実験を実施 実験模型主要目 帆模型 Sail Area (Main) (Fore) 船体模型 Lpp B 0.194 [m2] 0.126 [m2] 0.956 [m] 0.200 [m] 9 ラガーの定常航走状態 ラガー 最大速度:8.7kt 最大のぼり角:33.5度 近代クルーザー 最大速度:10.6kt 最大のぼり角:30.0度 リーフなしの場合 10 ラガーの固有値による安定判別 Vw=9.0m/s,Γ=100° VwVw 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 -0.2 Vw Vw 12 12 TE’=0.1, c1=1, c2’=0.1 11 10 9 8 7 6 5 4 u v r p φ γ δ TE’=0.1, c1=2, c2’=0.1 3 2 0 20 Vw Vw 12 11 11 10 10 9 9 8 8 7 7 6 6 5 5 4 4 3 3 40 60 40 60 80 100 120 140 160 TE’=0.1, c1=3, c2’=0.1 TE' = 0.1,C1 = 3,C2' =1 180 γ 2 2 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 γ 0 20 80 100 120 140 160 180 γ 11 結言 近代セーリングクルーザー(KIT-34)とラガー(市川 造船建造自在丸)の例を対象に、前後・左右・旋 回・横揺れの運動について、その定常帆走状態と そこでの局所安定性を検討し,時間領域シミュレー ションによってそれらを確認した。 伸子帆の空力データについては、風洞試験を実施 した。 ラガーは、近代セーリングクルーザーにその速力、 のぼり性能では劣る。 12 残された課題 帆走制御系としては、本来、舵角とセール トリムが制御変数であるべき。 しかしながら、本研究では舵角のみ。 その原因は、セールトリムはそれぞれの条 件下で推力最大となるように風洞試験時 に調整しているため。 セールトリムを制御変数とするためには、 風洞試験の工数が飛躍的に増加。 13 謝辞 野本謙作先生(ラガー全般についてのご教示) 中野義彦先生(伸子帆の操作法ご指導) 当時伊勢工業高校・景山裕二先生、鳥羽商船高 専・伊藤政光先生(ラガー船型調査ご指導) 神社みなとまち再生グループ・中村清理事長ほ かの皆様(ラガー船型調査ご協力) 全日本造船機械労働組合市川造船分会・中村 実男執行委員長ほかの皆様(ラガー船型調査ご 協力) 14
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