JR福知山線脱線事故

JR福知山線脱線事故
2005/5/8
事故の読み方
• 被害者が「かわいそう」だけでは済まない
• 今後の社会の安全に寄与できる教訓をどう読み
取るか
• テクノロジーとともに生きている我々の社会の枠
組みを知る
– 個人を責めても、その後の改善になるのか
– 危ないテクノロジーは使わない、と言って済ませられ
るか
– 直接の被害者に対する救援や賠償とは違った、将来
の技術、制度を問題にする
背景を探る
• ×犯罪者の生い立ち、家庭環境を述べて、
加害者の弁護をする
• ×企業と従業員の場合は、被害者の援護
• ×ケア、悲しみからの回復
• ○将来(現在の当事者ではない)の被害者
を減らすための、科学技術、社会技術を探
る
複雑系
• 多様な安全確保
–
–
–
–
信号(閉そく)
スピード違反をしない
車両の衝突安全性
資格ある人だけが運転できる
• より安全にする方法はいつでもある
– 新型ATS、脱線防止ガード(当該の事故を防ぐ)
– 原因という言葉使い
設計
畑村洋太郎『設計の方法論』
設計の特徴
• 多様な制約の相互作用
• 制約間のトレードオフ
• 制約は価値
• 技術者の限定合理性(全知全能ではない)
テクノロジー
• 効率だけを目指す、とは言えない
• 程度の問題
• マグニチュード6に耐えるか、8に耐えるか
– 自動車の安全性に関しても、軽車両はダメだ
とするか、バイクはダメだとするか
• 安全設備を備えた場合の問題
安全設備
• ATSや車両の安全性を増すことは悪くない
• ただ、自動車事故の教訓として、欠陥車が言わ
れていた時代からは、車の衝突安全性などはず
いぶん改善した
• にもかかわらず、交通事故死者の数は(ここ2,3
年は減っているが)、車体の安全性の割りに減っ
ていない
• 安全な車に乗ればスピードを出す誘惑にかられ
るかもしれない
リスクホメオスタシス説
• リスクホメオスタシス説があるとすると、や
はりどこかで、ドライバーの教育が必要に
なる
• 保険の言葉で言うモラル・ハザードである
• 寝ていてもオーバーランしない装置がある
と、寝る人も出るかもしれない
運転士の問題
自動車事故
• 自動車事故では、ドライバーの運転の背
景が問題にされることは少ない
• 運送業できついノルマがあっても、非難さ
れるのはよっぽどのことだ
• すると、ドライバーが専門家であることが問
題なのかもしれない
• 操縦士、運転士の資格が国においても、
組織内でも決まっている
運転士
• 垣内剛社長らJR西日本の役員は26日、犠牲者
宅への弔問を始めた。
• 午後3時すぎ、西宮市山口町の会社員、福西
千明さん(61)宅を弔問後、垣内社長は、遺族か
ら「死んだ者を返して。どうして過去に何回も問
題を起こした運転士に運転させていたのか」と厳
しく迫られたと明かし、「運転士は再教育し、見極
めたうえで乗務させたが、結果が十分ではな
かったかもしれない」とうつむきがちに話した。
• 2005年4月27日読売新聞
専門家
• この場合、問題は専門家に依存した社会
になっていることだ
• パイロットや船長、運転士のいる世界だ
• 医者や弁護士が専門家というのと同じこと
になる
• つまり、専門家の資格を持っていても、ミス
を繰り返すと再教育が必要になる
再教育
• 医者においても、何度も手術ミスを行うリ
ピーターに対しては、医師免許の剥奪まで
行かなくても、再教育は必要だと言われて
いる
• 建築士でも一度免許をとれば一生使える
• 弁護士も
• 専門家を信じるということは、その人が能
力を持つことが基本である
日勤教育
• 再教育は必要にしても、どうやるかが問題だ
– 運転免許:事故のビデオ、新しい交通規則
• JR西日本の日勤教育は批判にさらされている
• 個人が気をつけると、オーバーランは防げるかも
しれない
• その場合には、ペナルティの大きさが影響する
かもしれない(犯罪の抑止の考え方)
OJT
• 管理の強化が必要かもしれない
• OJTが重要なように、線路ごとに注意すべきこと
が違っている
• この場合には、熟練した運転士が横について監
視、指導することが再教育として重要になるだろ
う
• 医者でも、研修医のような人には、ベテランがつ
いて手術などの指導をする
• 情報の開示(衆人の監視)
組織の問題
法人
• 被用者が事業の執行において、第三者に加えた
損害に対して、使用者賠償責任はある(民法715
条)
• もちろん、使用者責任は被用者の責任を前提す
る
• そして、使用者は行為者でなく責任の帰属主体
• つまり、親と子(未成年)の関係に近い
– 監督義務者の責任(民法714条)
組織の捉え方
• 組織内の環境を良くすることは、悪くはない
• どの点まで問題視するか
– 救助しない非番の運転手(緊急時、専門家、船長)
– ボーリング大会(女子アナとホリエモンとの宴会)
• ただ、JR西日本の組織全体の安全文化があまり
良いとは思えない
組織より専門家
• 組織が安全に責任を持つ
– 組織の一部がトラブルを起こすと、他の部門も自粛す
る⇒これを全従業員に、勤務中以外にも強制する
• ↓ ↑
• 専門家が安全に責任を持つ
– 安全に関わる専門家を育てる
– 専門的知識の研鑽、生涯教育が必要
– 医者、税理士、建築士、技術士の位置づけ
• 日本では専門家より、会社への忠誠を重視
リスクマネジメント
• JR西日本の企業としてのマスコミ対応は早
かった
• ただ、被害者とその家族への対応は下手
だった
• 客商売、サービス業ではなく、昔の市役所
の役人が市民に対する対応に似ている
マスメディアの問題
組織の扱い
• マスコミは、あらゆる組織を同様に扱うか
• 静岡のヘリコプター墜落は、壊された家の
住民の話やそれに対する(警察?)の対応
は伝えていない
• 結果的に原因は、整備会社、メーカー、操
縦士のどれにあるかはともかく
– JR西日本はどうして非難がこれほど大きいか
マスメディアの問題
• 非難することはどの程度許されるか
– (どんなに安全といわれているものも、想定する問題
点(安全、効率・・)が増えると、改良すべき点は出てく
る)
• 大企業は、通常権力を持っていて問題点の指摘
がしにくいので、これを機会に批判する、だけで
いいのか
• 「効率のため」「お金のため」という視点で十分な
のか
マスメディアの効用
• 外圧を利用した改革
• 古くからの慣行に手をつける
– (5月1日の社長の訓示)
• 大阪市でも同じようだった
• 組織事故の論点が大きくなり、組織の問題
がクローズアップされることによって、そこ
に安全と結びついた改良点が見えてくる
• 組織は変えがたい ←世間の目
リスクの問題
新型ATS
• 北側国交相は記者団に対し「(福知山線の)新三
田から尼崎まで新型ATSが整備されることが利
用者の信頼を得るための一つのシンボルだと思う。
しっかりやっていただかないと利用者の方も安心
できない」と語った。(5月2日)
• ★新型ATSは、シンボルに過ぎない。沿線の乗客
に対する不便とのトレードオフにしてはきつすぎる
– 原発などでは、ペナルティとしての安全対策は、国の規
制機関としての対処としてはありうるにしても、公共交
通機関に対して、日比谷線と比べて当を逸している
– 京都線などではついていない
リスクと利便性
• 新型をつけるなら6月下旬頃に開通
• つけないなら、連休明けあたりに開通
– 新型は、列車のスピード違反というリスクに対処する
– 旧型でも多分、2か月ぐらいはもちそうだ
– 国交省は制裁的意味で、新型を課した
• 5月下旬頃に世間の人々は、リスクとベネフィット
の評価をどう変えるか
• 沿線の乗客のリスクに関する社会実験が行われ
る
ペナルティの効用
• ペナルティは、JR西日本に効く
• ただ、実際は、乗客の利便性に効くことになる
• これは、製造物責任法が、メーカーへのペナル
ティとして効くだけでなく、製品に対する価格転嫁
によって消費者に効くのと同じ構造になる
• 消費者、乗客が安全にどの程度のコストを払う
かが事故の減少に、最終的に効くことになる
• 自動車でも、昔は走って止まればよかったが、安
全でない車を買わない消費者の出現で変わった
安全文化
• 安全文化は、JR西日本を責める道具では
なく、乗客、消費者が安全という価値にど
の程度のコストをかけるか、という生き方
の問題となる
• 建前でなく、本音で、どこまで列車の遅延
は許せるかとか、運賃の上昇は許せるか、
ということに関わる
• (自動車ではこの変化が起こった)
研究開発
• 研究開発に使える実験設備が必要
• 実物実験を行うことが、複雑な系には重要
になる
• 現在運行しているレールを使った試験では、
トラブルを起こせないために、極端なことは
できない
• ドイツでは、試験線がある