公衆衛生レクチャーシリーズ 2 保健医療活動 (社)地域医療振興協会 柳川洋 主な内容 1.衛生行政の範囲 2.地域保健活動(地域保健法) 3.地域医療活動(医療法) 4.医療資源 5.国民医療費 衛生行政の範囲 衛生行政の範囲(1) 一般衛生行政(家庭、地域社会の生活)の内容 保健・医療行政(人の健康を対象) 保健医療従事者関係: 業務、免許、 保健行政: 疾病予防活動、健康増進活動 (保健所、市町村保健センターが中心) 医療行政: 医療制度、医療機関の統轄、薬事関係 環境衛生行政: 人の健康をとりまく環境 行政の流れ 国(厚生労働省) ↓ 都道府県(衛生主管部局) ↓ 都道府県(保健所) ↓ 市町村(衛生主管課) 市町村(保健センターなど) 衛生行政の範囲(2) 産業保健行政の内容 職場の環境: 労働条件、女子・年少者保護 職場の安全衛生: 安心して働ける快適な職場 労働衛生行政 : 事業所の健康管理 産業保健に関する監督指導 行政の流れ 国(厚生労働省労働基準局) ↓ 国(都道府県労働局) 各県1か所 ↓ 国(労働基準監督署) 全国339か所 衛生行政の範囲(3) 環境保全行政(外部の環境)の内容 公害: 大気汚染、水質汚染、土壌汚染、騒音、 振動、地盤沈下 地球環境:温暖化、酸性雨、オゾン層破壊、砂漠化 行政の流れ 国(環境省) ↓ ~1970年 厚生省所管 1971年~ 環境庁 2001年~ 環境省 都道府県(環境保全担当部局) ↓ 都道府県(保健所) 廃棄物行政 環境保全行政全般 ↓ (一部の都道府県) 市町村(環境保全担当部署) 衛生行政の範囲(4) 学校保健行政(学校生活)の内容 保健教育: 保健管理: 学校安全: 学校体育: 学校給食: 保健学習、保健指導 健康診断、健康相談、環境管理、感染症予防 安全教育、安全管理 保健体育、クラブ活動 食事の理解、豊かな学校生活、栄養改善、 食糧生産・流通・消費の理解 行政の流れ 国(文部科学省)~2000年 文部省 2001年~ 文部科学省 都道府県 公立学校(教育委員会学校保健主管課) ↓ 私立学校(知事部局私立学校担当課) 市町村(学校保健担当部署) 地域保健活動 地域保健法 趣旨と目的 趣旨 急激な人口の高齢化、疾病構造の変化に対応する ために ①地域保健対策の推進とその強化 ②国、地方自治体の責務の明確化 ③人材確保の支援 ④保健所、市町村保健センターに関する規定整備 目的 地域保健対策の基本指針、保健所の設置などの基 本事項を定めることにより、地域における対策が有 効に進められる環境を確保し、地域住民の健康保 持、増進に寄与 地域保健医療活動 国の行政組織 厚生労働省 地域社会、職場の健康問題 (衛生行政) 環境省 自然保護、環境保全、公害対策 (環境保全) 文部科学省 学校生活の健康 (学校保健) 地方の行政組織 都道府県、政令市、特別区(保健衛生主管部) 保健所、地方衛生研究所 市町村(保健衛生主管部) 市町村保健センター 民間の関係団体 医師会、歯科医師会、病院協会、看護協会、栄養士会など 住民組織・一般住民 地域保健法の意義 地域保健対策の推進に関する基本指針策定 保健所設置等の基本事項の策定 地域保健対策の総合的推進 関連の法律 対人保健 [例]老人保健法、母子保健法 対物保健 [例]医療法、薬事法 広域的保健 [例]検疫法、医師法 歯科医師法、ほか 保健所の設置 設置 都道府県 指定都市(地方自治法の政令による17市) 中核市(35市) 地域保健法施行令で定める市(政令市8市) 東京都特別区(23区) 2006年4月 535か所 都道府県396、政令市116、特別区23 職員 所長(3年以上の公衆衛生実務経験を有する医師) 医師、歯科医師、薬剤師、獣医師、保健師、助産師、 看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、衛生検 査技師、管理栄養士、栄養士、歯科衛生士、統計技 術者など 保健所の事業(必須事業) 地域保健に関する思想の普及、向上 地域保健に係わる統計 栄養改善と食品衛生 環境衛生(住宅、水道、下水道、廃棄物処理、その他) 医事、薬事 保健師 公共医療事業の向上、増進 母性、乳幼児、老人の保健 歯科保健 精神保健 長期療養を必要とする者の保健 伝染病予防(エイズ、結核、性病、その他の伝染病) 試験検査 その他(住民の健康保持、増進) 保健所の事業(必要なとき) 住民の健康保持に必要なもの 地域保健に関する情報収集、整理、活用 地域保健に関する調査研究 疾病の治療(歯科疾患、その他厚生労働大臣が指 定するもの) 試験・検査の施設利用 市町村相互の連絡調整、技術的助言、教育・研修 (都道府県保健所の任務) 他の法律による保健所(長)の業務 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 母子保健法 老人保健法 各種届出、申請の窓口 市町村保健センターの運営 市町村保健センターの数 2692か所 (2005.11現在) 運営の基本方針 1.地域保健に関する計画、実践 健康相談、保健指導、健康診査など 2.保健福祉の総合機能 老人介護支援センター、社会福祉施設との連携 総合相談窓口、保健婦・ホームヘルパーの活動拠点 3.専門職能団体、医療機関との連携 健康づくり推進協議会設置、医師会、歯科医師会などの協力 4.身近な保健サービス 精神障害者の社会復帰、認知症対策、歯科保健対策など 市町村保健センターの事業 市町村レベルの健康づくり活動を効率的に実施するための拠点 住民の自主的な保健活動の場 市町村が設置、国が施設、設備費の補助 事業の概要 老人保健 健康手帳の交付、健康教育、健康相談、基本健康診査、 がん検診、機能訓練、ほか 母子保健 妊産婦・乳幼児保健指導、健康診査(乳幼児、1歳6か月 児、3歳児) 予防接種 結核予防 乳幼児(ツ反応、BCG接種)、住民検診 地域医療活動 医療法 医療法 経過 – 1948年 医療施設に関する基本法として制定 以後人口の高齢化、医療の進歩、疾病構造の変化、要 介護者増加への対応などによる改正(1992年,97年,2000 年) – 2006年 医療制度改革の中核として、良質な医療体制確 立を目指した改正 目的 – – – – – 医療利用者の適切な選択の支援 医療の安全確保 病院、診療所、助産所の開設、管理 医療提供施設相互の機能分担 医療利用者の利益の保護、適切な医療の確保 病院、診療所の定義 病院・診療所 – 医師、歯科医師が公衆または特定多数人のために医業または歯科 医業を行う場所 病院: 20人以上の入院施設 診療所: 19人以下の入院施設または入院なし 地域医療支援病院(都道府県知事の承認) – 200人以上の入院施設 – 紹介患者への医療提供、他の医療従事者に施設・設備の利用体制 (診療、研究、研修) – 救急医療 – 地域の医療従事者の資質向上 特定機能病院(厚生労働大臣の承認) – – – – – 400人以上の入院施設、10以上の診療科 高度医療提供能力 高度医療技術の開発・評価能力 高度医療の研修能力 通常の病院以上の人員確保 医療計画 基本方針 – 厚生労働大臣が良質、適切な医療を効率的に供給する体制確 保のための基本方針 – 都道府県は基本方針に即し、地域の実情に応じて策定 計画(抜粋)[二次医療圏ごとに策定(地域保健医療計画)] – 生活習慣病対策 – 救急医療等の確保 救急医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療、小児医療等 – 医療連携体制 機能分担、連携、情報提供 – 居宅医療の確保 – 医療従事者確保 – 医療安全の確保 – 地域医療支援病院、その他の施設の整備目標 医療計画(医療圏) 一次医療圏 市町村ごと(プライマリー・ケア) 通常の外来診療、治療、健康管理、紹介など 初期医療(一次医療)を担う施設 二次医療圏 日常生活圏ごと365(2006.3) 一般の医療需要(入院医療)、特殊外来医療 病院の病床整備の基本単位 広域市町村単位(保健所所轄区域を考慮) 三次医療圏 都道府県ごと(北海道のみ6か所) 特殊な医療、先進的・高度専門医療、特殊医療機 器の整備 医療計画(基準病床数) 二次医療圏ごとに一般病床と療養病床の基準数を定める。精 神病床、結核病床、感染症病床は都道府県単位。(5年ごとに 見直し) 地域の病床整備目標、過剰病床の抑制の性格 基準病床数は二次医療圏内の人口、入院率、圏域内外の患 者の流出・流入を考慮して算定 病床過剰圏では、病院の開設、病床の増設を制限 都道府県知事は開設、増床、病床種別の変更について勧告 2006.3現在の状況 – 療養病床+一般病床: 10万6千床の過剰 – 精神病床: 1万9千床の過剰 – 結核病床: 1千床の不足 救急医療 救急医療体制の整備 第二次医療圏単位で、初期、二次、三次救急医療体制、役割 分担 – 初期救急医療機関 (休日夜間急患センター在宅当番医) [市町村が整備] 外来診療ですむ軽症患者 – 二次救急医療機関 (中規模救急病院、輪番制当番病院、 共同利用病院)[二次医療圏ごとに整備] 入院治療を必要とする重症患者 – 三次救急医療機関 (救命救急センター、高度救急救命セ ンター)[都道府県単位で整備] 二次救急で対応できない複数診療科領域の重症患者 へき地医療 へき地保健医療対策 へき地住民の治療、健康増進、疾病予防、リハビリテーション などを一体化した医療の確保のために、医療水準の向上、 医師確保、無医地区解消を目的とした対策 医療計画 → へき地医療の確保 無医地区 中心的な場所(例:役場)から平均4キロの区域内に50人以 上の人が居住し、容易に医療機関を利用することができない 地域(年々減少1966年:2920か所、2005年:786か所) へき地医療拠点病院 無医地区を対象に巡回診療、医師派遣、代診医派遣などの へき地医療活動を継続的に実施する病院 (都道府県知事が指定) 医療資源 医療従事者の現状(2004) 届出医師数 27万人(人口10万対212) 医療施設従事医師数 東京264~埼玉129 届出歯科医師数 9.5万人(75) 医療施設従事歯科医師数 東京120~福井46 届出薬剤師数 24.1万人(189) 医療施設従事薬剤師数 徳島166~青森96 就業保健師数 3.9万人(31) 就業助産師数 2.5万人(20) 就業看護師・准看護師数 114.6万人(897) 医療施設・病床の現状(2005) 医療施設数 17万3千施設(前年より0.3%増加) 病院 9千施設(減少) 一般診療所 9万7千施設(無床診療所のみ増加) 歯科診療所 6万7千施設(増加) 病床数 180万床(前年より0.8%減少) うち 病院病床数 163万床(わずかに減少) 人口10万対1280 一般診療所病床数 16万7千床(減少) 人口10万対130 病院における病床の種類 療養病床(35万9千床) 主として長期にわたり療養を必要とする者 精神病床(35万4千床) 精神疾患を有する者 感染症病床(1800床) 感染症法による一類感染症、二類感染症および新 感染症の患者 結核病床(1万2千床) 結核患者 一般病床(90万4千床) 上記以外 国民医療費 疾病構造の変化 死因 2005年 順位 総死亡 631 1975年 総死亡 858 内訳(%) 2005年 内訳(%) 1975年 100 100 1 悪性新生物 259 脳血管疾患 157 41 18 2 心疾患 137 悪性新生物 123 22 14 3 脳血管疾患 105 心疾患 89 17 10 4 肺炎 85 肺炎及び気管支炎 34 13 4 5 不慮の事故 32 不慮の事故 30 5 3 6 自殺 24 老衰 27 4 3 7 老衰 21 自殺 18 3 2 8 腎不全 16 高血圧性疾患 18 3 2 9 肝疾患 13 肝硬変 14 2 2 全結核 10 2 1 10 慢性閉塞性肺炎 11 国民医療費とは 「国民が医療機関において傷病の治療に要した費 用」をいう 内容 診療費、入院時食事療法費、訪問看護医療費、 調剤費、柔道整復師・はり師による治療費、移送 費(健保適用部分)、補装具(健保適用部分) 除外 正常妊娠・分娩、入院時室料差額、歯科差額、 美容整形、健康の維持増進を目的とした健康診 断・予防接種、介護保険法における居宅サービス、 介護療養型医療施設における居宅サービス、固定 した身体障害に必要な義肢、義眼など 国民医療費の内訳 財源別国民医療費 公費負担医療給付(国、地方公共団体の負担分) 公費負担医療制度、医療保険制度、老人保健制度 医療保険等給付(事業主、被保険者の負担分) 医療保険制度、老人保険制度、労災保険制度 診療種類別国民医療費 一般診療医療費 医科診療に関わる診療費、健康保険等給付対象と なる柔道整復師・はり師等による治療費、移送費、 補装具等 歯科診療医療費 薬局調剤医療費 入院時食事医療費 訪問看護医療費 国民医療費(2005) 33.1兆円(1人当26万円) 前年比増加率 3.2% 国民所得に対する比率 9%(前年度は8.9%) 制度区分別国民医療費 公費負担7%、医療保険47%、老人保健32%、患者負担14% 診療種類別国民医療費の内訳 一般診療医療費 75% (25兆円) (入院 37%、入院外 39%) 歯科診療医療費 8% 薬局調剤医療費 14% 入院時食事医療費 3% 訪問看護医療費 0.1% 一般診療医療費の傷病別(2005) 65歳以上 65歳未満 30.1 11.7 総数 11.7 21.5 0% 12.7 11.5 12.2 20% 8.5 7.8 7.7 7.0 循環器系 新生物 呼吸器系 泌尿性器系 精神・行動の障害 筋骨格系 内分泌・栄養・代謝 その他 47.0 9.6 8.5 8.1 7.6 40% 34.6 60% 42.0 80% 100% 国民1人あたり医療費、対国民所得割合の推移 300 10 1人あたり医療費 1 人 250 あ た り 200 医 療 費 ( 150 千 円 ) 9 対国民所得% 2005年国民医療費 33兆1千億円 1人あたり 26万円 対国民所得割合 9.01% 100 8 対 国 民 7 所 得 % 6 5 1985 90 95 2000 05 年次 年齢別1人あたり一般診療医療費 1990年と2005年の比較 700 2005年の年齢差 65歳以上(518千円)は15-44歳 (71千円)の7.3倍 600 400 2005年 1990年 300 200 100 ) + 70 +( 再 掲 65 4 45 -6 4 -4 15 14 0- 数 0 総 千円 500 年齢別1人あたり一般診療医療費の推移 700 600 70+歳(再掲) 65+歳 500 2005年一般診療医療費 0-14歳 94千円 15-44歳 71千円 45-64歳 183千円 65歳以上 518千円 70歳以上(再掲) 594千円 400 千円 300 200 0-14 15-44 45-64 65+ 70+ 45-64歳 0-14歳 15-44歳 100 0 1985 90 95 年次 2000 05 医療費の現状と問題点 背景 急速な高齢化と少子化の進行に伴い、社会保障制度の構 造改革が必要 現状と問題点 毎年1兆円の増加、1999年度には30兆円を越した (経済成長とのギャップ) 長期入院、多剤投与、過剰な検査 医療技術の高度化 老人医療費の増加が著明 各医療保険制度の財政赤字が深刻 健康保険本人の一部負担の増加(2割) 外来薬剤の一部負担 老人医療の外来1回530円負担
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