治療用フィルムによる 線量分布測定の 基礎的検討Ⅱ 名古屋大学大学院医学系研究科 捫垣 智博 田伏勝義 背景① 治療用フィルムによる線量分布測定は、2次 元の線量分布を得ることができ、かつ電離箱 では測定が困難である急峻な線量変化を示 す線量分布測定に便利である。 しかし、放射線エネルギーと入射方向の依存 性や現像条件の影響を受けやすいという欠 点がある。 背景② フィルムを検出器とする場合、線束中心をフィ ルムの直上から入射させると、一次線がフィ ルムに直接入射してしまう。 その場合、フィルムと水等価ファントムとの密 度や実効原子番号の違いなどにより、得られ る線量分布は水等価ファントムの線量分布で はなくなってしまうといった考えがあるため、 フィルムで線量測定を行う場合は、線束中心 をフィルムからずらして測定が行われている。 背景③ フィルムを線束中心からずらして測定を行う 際、中心からどれだけずらすか、またそれに よりどのような影響があるのかは明確にされ ていない。 フィルムを用いての線量測定の方法について も、明確に記述されている文献が少なく、施 設毎に異なる手法により測定が行われてい る。 目的 線束の中心をずらしたことで、フィルムによる 線量分布測定にどのような影響を与えている かを、フィルムを用いた2種類の測定方法によ る実測とそのジオメトリを再現したモンテカルロ シミュレーションコードEGS5によって検証する。 実験条件① 装置:VARIAN 21EX エネルギー:10 MV 線量:80 MU フィルム:X-Omat V (レディパック) ファントム:Tough Water DDシステム 実験条件② フィルムの濃度対線量の校正方法として、 フィルムを10 cm深にビーム軸と垂直に置き、 MU値を30~350と変化させて照射し、それぞ れのMU値における10 cm深での線量[cGy]を シャロー形電離箱により測定した。 すべての実験で使用されたフィルムは、同時 に現像された。 実験配置① X Y ファントム:フィルムの両側 30.0 cm×15.0 cm×30.0 cm フィルム: 24.5 cm×0. 3 mm×30.5 cm Z フィルム フィルムの長軸が、30 cm以上 あったため、ファントム表面より はみ出した状態で照射した。 ファントム 30.0 cm 30.0 cm 15.0 cm 実験結果①:PDD 100 0 mm film 10 mm 20 mm ion-chamber PDD [%] 80 60 40 20 0 0 5 10 15 Depth [cm] 20 25 PDDの変動性 以下の式でPDDの変動性をみた。 Variability PDDcomparison PDDstandard PDDstandard 100(%) PDDcomparison:比較の対照となるPDD PDDstandard :電離箱により取得されたPDD 実験結果②:変動性 15 0 mm 10 mm 20 mm Variability [%] 10 5 0 -5 -10 0 5 10 15 Depth [cm] 20 25 実験配置② X Y ファントム:フィルムの両側 30.0 cm×15.0 cm×30.0 cm フィルム: 24.5 cm×0. 3 mm×30.5 cm Z フィルム フィルムの上縁を、ファントム表 面に正確にそろえて照射した。 ファントム 30.0 cm 30.0 cm 15.0 cm 実験結果③:PDD 100 0 mm 10 mm film 20 mm ion-chamber PDD [%] 80 60 40 20 0 0 5 10 15 Depth [cm] 20 25 実験結果④:変動性 6 0 mm 10 mm 20 mm 4 Variability [%] 2 0 -2 -4 -6 -8 0 5 10 15 Depth [cm] 20 25 考察① フィルムにより得られた分布としては、どちら の照射方法でも電離箱によるPDDとはあまり 良い一致を示さなかった。 フィルムにより得られたPDD曲線において、 10 cm深で曲線に若干の折れが生じている。 この原因としては、10 cm深でフィルムの校正 を行ったため、フィルムのエネルギー依存性 などによると考えられる。 考察② また、フィルムにより得られたPDD曲線が電 離箱によるPDDと一致しなかった原因として、 ビーム軸に対して平行にフィルムがおかれて いるかどうか、深部でのOCRなどの実験自体 の精度の問題があると考えられる。 ここで、アライメントの問題を排除して考える ため、モンテカルロシミュレーションコードであ るEGS5を用いてシミュレーションを行った。 X ジオメトリ① Y Z ファントム:フィルムの両側 (片側) 30 cm×15 cm×30 cm フィルム: 24.5 cm×0. 3 mm×30.5 cm フィルム レディパックの遮光紙などを正確 に表現することで、2つの実験配置 をそれぞれできる限り細部まで再 現した。 ファントム 30 cm 30 cm 15 cm ジオメトリ② Y 検出領域:フィルム の中央部分。 2.0 mm X ファントム Z 14.0 cm 0.3 mm 20 mm 25.0 cm フィルム 14.0 cm シミュレーション条件① 入射粒子エネルギー:10 MV X-ray SSD:100 cm 粒子数:109 個 統計誤差:25 cm深で1%以下 カットオフエネルギー: 光子:0.01 MeV、電子:0.521 MeV 照射野:10 cm×10 cm シミュレーション条件② フィルム材質:重量比(%)*1 C:22、H:2.4、O:47、 N:9.9、 Ag:10、Br:7.7 遮光紙の材質:セルロース(C6H10O5)n Tough Waterファントム:重量比(%) C:0.6633、H:0.0821、O:0.2065、N:0.0221、 Cl:0.0040、Ca:0.0220 *1:Med. Phys.31(12) Åsa Palm et al. 結果①:PDD 100 0 mm 10 mm film 20 mm ion-chamber PDD [%] 80 60 40 20 0 0 5 10 15 Depth [cm] 20 25 結果②:PDD 100 0 mm 10 mm 20 mm ion-chamber PDD [%] 80 film 60 40 20 0 0 5 10 15 Depth [cm] 20 25 考察 線束中心をずらしたとき、シミュレーションに おけるPDDに顕著な影響は見られなかった。 測定方法の違いとしては、フィルムの上縁を ファントム表面と一致させて測定を行った方 がより電離箱により得られたPDDと近い曲線 となった。 まとめ 測定方法としては、フィルムの上縁とファントム表面 を一致させて測定を行うほうが良いと考えられる。 線束中心からフィルムをずらして置くことによる変動 は、実測とシミュレーションにおいても大きな変化は 無かった。そのため、実験全体の精度を考慮すると、 線束中心に一致させて測定を行う方が良いと考えら れる。 実測において、フィルムによる線量分布が10 cm深 で折れ曲がっていたため、濃度対線量の校正方法 について、他の方法を模索する必要があると考えら れる。 今後の課題 照射ヘッドをシミュレーションに組み込む。 より精度の高い実測を取り直す。 フィルムの校正方法の検討。 DDシステムの精度の検証。
© Copyright 2024 ExpyDoc