ソシオンシミュレーション

2004年9月14日 関西大学
日本心理学会第68回大会シンポジウム発表資料
ソシオン理論における
三者関係のシミュレーション
水谷 聡秀
(関西大学大学院社会学研究科)
概要


われわれは、ソシオン研究(木村・藤澤・雨宮,1990
など)の流れを受け、Heider(1958)のPOXモデルを
もとに、人間関係の好悪変化モデルを構築し、シミュ
レーションを行ってきた。
3者における各パターンは、どのように変化するか、
また、収束するか、バランス状態になるか、対称化す
るかについての結果と、収束するまでの時間(ター
ン)と変化のルールとの関連について示してきた。
(水谷・小杉・藤澤, 2002; 藤澤・水谷・小杉, 2003,etc)
はじめに

人間の心情(sentiment)、好悪はさまざまな要因
から構成されている。本研究では、人間関係の要
因のみが焦点に当てられる。
図 1.1 人間関係の図示表現
人間関係の諸側面(1)

人間関係は時間が経つにつれ変化する。 動的な人
間関係の理解を深めるため、このことを考慮にいれ、
モデル構築が行われた。
図 1.2 人間関係の動的な側面
人間関係の諸側面(2)

人間関係は符号付き値の方向性のある関係とし
て見なせ、モデルの構築やシミュレーションの際
には、非対称性が考慮された。
図 1.3 関係の非対称性
二者関係の変化


人間が2者の関係をもつとき、相手への好悪の変化は
どのようになるか。
人間関係の要因に焦点を当てる限り、 相手からの好
悪に影響され (Alonthon & Linder,1956,etc)、対称化
すると考える。
三者関係の変化


人間が3者の関係をもつとき、自分から相手への好悪
の変化はどのようになるか。
「自分と他者との関係」と「相手と他者との関係」とバラ
ンス状態になるよう、自分から相手へ好悪が変化する
(Heider,1958)と考える。
HeiderのPOXモデル
バランス
三者関係の関係で-の
数が偶数かゼロのとき
+
+
+
+
インバランス
三者関係の関係で-の
数が奇数のとき
+
-
+
-
図 1.4 バランス状態とインバランス状態
-
関係の記号と図
c
Wac
Wcb
Wca
Wab
a
Wbc
b
Wba
図 2.1 関係の記号と図による表現
記号Wabは、人aから人
bへの好悪の度合いを示
す(ソシオンの表現では、
好悪の荷重である)。
モデルの構築
前提条件



各人は他者の好悪荷重を歪みなく認識する。
各人は好悪荷重をそのまま行動に反映する。
3者の人間関係において、好悪荷重の変化は次の2つ
のルールから構成されるとする。
ダイアッドルール
トライアッドルール
変数の定義


変数「Wij」: 「i」から「j」への好悪荷重を示す。ここで、「i」
と「j」は、それぞれ関係をもつ「自分」と「相手」である。
さきの前提条件から、変数「Wij」を個人の認識空間、実
際場面、どちらの意味での好悪荷重としてもよい。
Wij > 0 : 好き
Wij < 0 : 嫌い
Wij = 0 : 好きでも嫌いでもない
i , j : a, b, c
ダイアッドルール
自分aから相手bへ
の好悪 Wab
Wba
相手bから自分aへの好悪
図 2.2 ダイアッドルールについて
トライアッドルール
Wac
自分aと他者cとの
あいだの好悪
Wca
Wcb
Wbc
他者cと自分aとの
あいだの好悪
自分aから相手bへ
の好悪 Wab
図 2.3 トライアッドルールについて
4種類の転移規則(1)
並列転移
図 2.4.1 転移規則1
直列転移
図 2.4.2 転移規則2
4種類の転移規則(2)
逆並列転移
図 2.4.3 転移規則3
逆直列転移
図 2.4.4 転移規則4
変化規則の例
c
⊿Wab(triad) = β(sign(Wac・Wbc)
×sqrt(|Wac・Wbc|) – Wab)
Wac
a
⊿Wab(dyad) = α(Wba – Wab)
Wbc
Wab
Wba
図 2.5 変化規則の例
b
4種類の変化式




変化式1 トライアッドルール:並列転移
DWij =a(Wji - Wij) + b{ sign(Wik*Wjk)・sqrt(|Wik*Wjk|) - Wij }
変化式2 トライアッドルール:直列転移
DWij =a(Wji - Wij) + b{ sign(Wik*Wkj)・sqrt(|Wik*Wkj|) - Wij }
変化式3 トライアッドルール:逆並列転移
DWij =a(Wji - Wij) + b{ sign(Wki*Wkj)・sqrt(|Wki*Wkj|) - Wij }
変化式4 トライアッドルール:逆直列転移
DWij =a(Wji - Wij) + b{ sign(Wjk*Wki)・sqrt(|Wjk*Wki|) - Wij }
ここで、if x=0 then sign(x)=0,
else if x>0 then sign(x)=+1,
else x<0 then sign(x)=-1.
三者関係のシミュレーション

Wij : 連続値 (好き嫌いの度合い)

更新規則 : 同期更新 (全荷重が一斉に変化)

変化式: 1,2,3,4 (並列、直列、逆並列、逆直列)

Wij初期値 : -1, +1 (全通り64パターン)

a,b係数: 0, 0.1,・・・0.5,・・・0.9 (100通り)
係数の範囲:0< a + b <1
結果
転移規則: 並列転移
α=0.2 β=0.2
(Wac Wca Wab Wba Wcb Wbc) = (-1 1 -1 1 1 1)
1.5
1.5
1
1
0.5
0.5
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
-0.5
-1
-1.5
23
(t)
荷重
荷重
転移規則: 並列転移
α=0.2 β=0.2
(Wac Wca Wab Wba Wcb Wbc) = (1 1 -1 1 1 1)
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
-0.5
W ac
W ba
W ca
W cb
W ab
W bc
-1
W ac
W ba
-1.5
図 3.1 Wijの時系列変化(並列転移)
W ca
W cb
W ab
W bc
23
(t)
収束時間の違い

全パターンのシミュレーションは収束することが確
認された。
表1 収束にかかった平均時間(1)
転移ルール
並列
直列
逆並列
逆直列
平均時間
10.53
16.31
10.53
12.25
標準偏差
8.35
12.66
8.35
9.81
収束時間の違い(非同期との比較)
表2 収束にかかった平均時間(2)
転移ルール
並列
直列
逆並列
同期・連続値
0 <α+β<1
10.5
16.3
10.5
非同期・離散値
14.3
18.9
14.7
逆直列
12.3
※非同期・離散値に関しては藤澤・水谷・小杉(2003)から引用。また、
ダイアッドルールは考慮されていない。逆直列転移は推移性が成立
しないため検討されなかった。
ダイアッドとトライアッドによる結果
表3 対称性とバランス状態 (a!=0,b!=0, 全2304通り, 表中は度数)
転移ルール
指標
並列
直列
逆並列
逆直列
対称性(
符号)
2304
2304
2304
2304
対称性
2304
2304
2304
2304
バランス状態(
符号)
2304
2304
2304
2304
バランス状態
2304
2304
2304
2304
トライアッドのみによる結果
表4 対称性とバランス状態 (a=0, 全576通り, 表中は度数)
転移ルール
指標
並列
直列
逆並列
逆直列
対称性(
符号)
576
576
576
248
対称性
576
576
576
184
バランス状態(
符号)
576
576
576
576
バランス状態
576
576
576
576
収束への影響(1)
平均収束
時間
35
30
25
20
α=0
α>0
15
10
5
0
並列
逆並列
直列
逆直列
図 3.2 収束に及ぼすダイアッドの影響(1)
平均収束時間
収束への影響(2)
α
α
並列
逆並列
直列
逆直列
図 3.3 収束に及ぼすダイアッドの影響(2)
平均収束時間
収束への影響(3)
β
並列
逆並列
直列
逆直列
図 3.4 収束に及ぼすトライアッドの影響
要点と展望


ダイアッドルールとトライアッドルールが働くときには、
すべてのパターンは収束し、対称関係になり、 バラン
ス状態になる。直列転移でもっとも収束時間がかかる。
トライアッドルールを入れていないにもかかわらず、逆
直列転移以外では、対称関係になる。逆直列転移だけ
がなぜ対称化を引き起こさないか。全体的に変化規則
で使われる荷重(関係)を整理すると、別個の2つのグ
ラフに分割可能で相互影響がないためである。



ダイアッドルールがまったく働いていないときよりも、
そのルールが加わることで、並列転移と逆並列転移
では、早くなる傾向がある。
しかしながら、ダイアッドルールの影響が変化量に大
きくかかわるほど、収束は早くなるとはかぎらない。
初期値によって収束の早さは異なる。
今後、本モデルで得られた結果が、実証研究により
得られた結果と、どの程度一致するか、どの範囲で
適用できるかといった、モデルの妥当性を検討する
必要がある。