関数の初歩としての倍概念 -分数の乗法を目指す教材系列-

関数の初歩としての倍概念
-分数の乗法を目指す教材系列-
日本カリキュラム学会第25回(関西大学)大会
2014年6月29日10:50~11:15
自由研究発表 C103
正 田
良
国士舘大学文学部
関数の初歩としての倍概念
発表概要
倍操作を含む関数の初歩を、小学校の算数の中に正統に(意識的
に)、かつ、系統的に(数学的にも、認識論的にも)扱うことを提
案する。
分数の乗法は、単元の導入とねらいとが乖離する。子どもにとっ
て、実は授業者にとっても、量を表す数を扱っていたはずが、知ら
ないうちに、倍操作という数に比べて抽象度が高いものを扱わされ
ている。この抽象化は、分数を扱っている途中で無自覚に行われる
べきものではない。
その倍操作が関わる授業書のプランについて、DIMEプロジェクト
(1980年代のスコットランドの草の根の教材開発)を参考にしたも
のを例に提案する。
1.分数の乗法の教えにくさ
単元の冒頭では、例えば、
1
1
㎡の壁を塗ることができるペンキが、2 dL あります。
4
7
1
これで、 2 ㎡の壁を塗ることはできるでしょうか。
2
1dL で、1
と文章題が提示される。これから扱おうとする計算操作に対応する事象を示し、
現実世界と計算とを関連付けるためである。
一方、この単元の目標としては、「分数の乗法は、分子どうしの積を分子と
して、分母どうしの積を分母とする分数である」ことを知り、約分などを含む
計算技能を習熟させることが挙げられる。
道草学習のすすめ
~公的カリキュラムへの挑戦!~
より(「分数の割り算」での検索)
「おもひでぽろぽろ」という映画があ
ジブリの映画で
る。
主人公のタエコが回想シーンの中でリンゴをフォークでつつきながら
「3分の1を4分の1で割るっていうのは…」とつぶやく印象的なシーンがあ
る。
それに対して、タエコの姉は「ひっくり返して、掛ければいいのよ。ほら、
こうして」と答える。
だけど、タエコは納得できないのだ。「えっ、だけど、リンゴ3分の1を4
分の1で割るんでしょ。だから、リンゴはうんと小さくなって‥‥。どうして
増えちゃうのよ」
しかし、算数の得意な姉は続ける。「そんなこと考えなくていいの、ひっく
り返せば…」と。このような思いをだれもが一度か二度、抱いたことがあるの
ではないだろうか。
http://blog.livedoor.jp/yoursong2005/archives/50621680.html
2. 帯分数と仮分数の対立
• 分数の定義
分数は、ペアノの公理によって定義される自然数体 N を用いて次のように定義
される。
整数: Z={ m  n | m  N, n N
},有理数:
Q={
m
| m Z,n N}
n
• 括線の上と下で分けること(約分での便宜)
筆算を教える際にも、位を揃えて、くりあがりなどがしやすいように
という、形式を工夫することの「よさ」を教えている
(配布資料にはありませんが、予稿集によってこのページを補います)
(分数×分数)の前に関数の初歩を取り込む
• 分数を掛けるということを、数を掛けるのでは
なく、整数倍操作と等分操作の合成としてとら
えられるようにする。
• 被乗数に対する操作を、旗の図のような図と
して、形にする。
3.「倍概念」への注目
「倍」は小学校2年生では、何個分の言い換えとしての意
味しか持たない。しかし学年を経るにつれ、関数の初歩と
しての意味を取り込んでいく。
藤枝美智子(1983)は、「倍は、もともと関数なの
です。ですから量×量の乗法の意味がわかり使い
こなせるようになってから、5,6年生あたりでと
りあげた方がよいのです。」
4.関数を表す半具体物
関数は、
物-(量に注目)→ 数
-(数と数の関係に注目)→ 関数
-( 関数の関係に注目)→ 関数の演算子
の抽象度系列の途中(礒田正美、1987)。
教具論:松下佳代(1985)
[具体物]-[準具体物]-[半具体物]-[記号]
ここでの準具体物としては、具体物との形態的類似性を持つものとして、半
具体物としては、記号との統辞体系の共通性が求められる。
以下、少し具体的に小石を並べます
3本の旗の合成を考えます。
×3
×2
÷3
入力
5
2
7
それぞれの出力を計算しましょう。
授業書を作成する試みについては、須田・酒井(2002)に啓発されることが大き
かった。須田・酒井は「単位分数」を基軸のひとつとしているが、ここでは、「関数
の初歩」としての四則という立場から、「倍」と「等分」とし、単位分数は、「倍」と
「等分」の合成の中での退化型として扱った。
旗の入れ替えと置き換えから、商分数へ
整理番号
メニュー項目
具体例
(1)
どちらも+の 2 枚
[+2]→[+3]
=[+5]
加法の結合法則。
(2)
どちらも-の 2 枚
[-2]→[-3]
=[-5]
減法は加法の逆と(1)。
(3)
+
[+5]→[-3]
=[+2]
[+5]を[+2]と[+3]に分けて、後者
と
-
の混在
その根拠
を[-3]とキャンセルする。
※数の大小の場合によっ
て、[+M]になったり[-
[+5]→[-9]
=[-4]
[-9]を[-5]→[-4]とみて、前者を
[+5]とキャンセル。
M]になったりする。
(4)
どちらも×の 2 枚
[×2]→[×3]
=[×6]
乗法の結合法則
(5)
どちらも÷の 2 枚
[÷2]→[÷3]
=[÷6]
除法は乗法の逆と
(6)
×
[×12]→[÷4]
=[×3]
[×12]を、[×3]→[×4]とみなして、
[÷3]→[×12]
=[×4]
キャンセル。
[÷12]→[×4]
=[÷3]
上と同様。
[×3]→[÷12]
=[÷4]
と
÷
の混在
(1)
(7)
×
と
÷
の混在
(2)
(8)
×
と
÷
の混在
(3)割り切れない場合
[÷3]→[×2]
=?
(資料 C 参照)
[÷3]→[×2]
(4)
。
とはものを 3 等分し
たものを、2 倍することです。これ
を分数で、『
2
にする』と言いまし
3
た。また、2倍にしてから3等分し
た結果です。
分数の乗法までに行っておきたい内容
そこで、
[×
A
C
] → [× ]
B
D
を示すことができる。
=
[×A]→[÷B]→[×C]→[÷D]
=
[×A]→[×C]→[÷B]→[÷D]
=
[×(A×C)]→[÷(B×D)]
=
A C
[×
]
B D
授業書全体の構想(その1)
配当時数
I
1.
主な内容
表1など
先習を要
との関連
する内容
06~12
等分除
・{入力・出力の組}から四則の1
13~15
包含除
回で表わされる操作を選ぶ。
資料 A
・「2倍してから5を足す」という
16~19
関数の初歩
数の対応
(2H)
・入力と操作から出力を当てる
・出力と操作から入力を当てる
II
2.
関数の合成と関数の逆
操作の合成
(1/1)
ような操作を扱う。
・入力と旗の並びから、出力、旗の
並びと出力から、入力を当てる
・入力と出力の組と、一か所を欠い
た旗の並びから、欠けた旗を当て
る。
授業書全体の構想(その2)
II
関数の合成と関数の逆(承前)
2.
操作の合成
(1/1)
・入力と出力の組となるように、並
べるべき旗の組を、適切に並べ直
す。
3.
逆操作
(1H)
・逆移動で表示される旗の裏。
20,21
4.
合成関数の逆
(2H)
・[×2]してから[+3]の逆は、
23~25
[-3]してから[÷2]すること。
III
複数の旗を1本にまとめる
5.加法と減法の旗の
並び
(3H)
・ [+6]
と [-2] とを
表 2 の
加法の交
並べる。それと同等な機能を持つ1
(1)~
換法則・結
本の旗を求める。
(3)
合法則
・並びから、それと同等な1本を当
てる。
・同等な1本と、並びのうちの1本
から、残りの1本を当てる。
・旗の並びが、
[+M]と[-N] の
形のもののみのときには、旗の順を
自由に入れ替えることができるこ
と。
授業書全体の構想(その3)
6.乗法と除法の旗の並
(4H )
(資料 B の授業書)
表 2 の
乗法の交
び(整数の範囲で割り
(4)~
換法則・結
切れる場合)
(7)
合法則
・分数の形式でまとめて、見通しよ
表 2 の
同じ大き
く約分のような操作を行う。
(8)
さの分数
7.乗除法の旗の並びと
(2H)
商分数
・資料 C の授業書
8.分数倍の合成
(1H)
9.恒等変換
(1H)
・
[×M]は、
[×
[÷M]は、
[×
M
]と扱え、
1
1
]と扱える。
M
学習指導計画の提案と標準的な時間配当と比較
提案
東書
啓林
テーマ
内容の補足
復習と準備運動
小数のかけ算,割合など
1
操作の合成でのキャンセル
約分参照。また表 3
2
分数倍の合成
表3
III8.参照。
3
恒等変換(特殊な場合としての整数倍)
表3
III9.参照。
4
分数倍の逆操作
1
III7.参照。
5
1
2
分数を掛けることの意味
6
2
3
分数×分数の求め方(一般化)
3
5a
約分のある場合
提案では第 2 時に代える
7a
4
4
整数や帯分数を含む場合
提案では一部を第 3 時に
7b
6
5b
3 口の計算
7
6
逆数
8
7
練習
8
分数倍の意味。割合の第 2 用法
9
分数を使った面積の求め方
提案では第 5 時に扱う
積の大きさ
乗数が1未満だと縮小
8
5
10
9
9
11
確かめ
提案では第 4 時に代える
引用参考文献など
•
•
•
•
•
藤枝美智子(1983)「かけ算の導入」日本教職員組合(編)『さんすうの授業
第1階梯』一ッ橋書房、pp.149‐181。
礒田正美(1987)「関数の思考水準とその指導についての研究」『日本数学
教育学会誌』第69巻第3号,pp.2-12。
松下(野中)佳代(1985)「教具の構成に関する一考察」『教育方法学研究』
第11巻。
須田勝彦・酒井義信(2002)「学習プリント『倍と分布』と授業記録」『教授学
の探究』, 19: 25-75
(HSCAP http://hdl.handle.net/2115/13629)
正田 良(1989)『DIME授業書による楽しい数学』明治図書。
また、今回作成した授業書に関しては、二ノ宮夏奈・秋葉真子(国士舘大学文
学部初等教育専攻学生)との議論に負うところが大きい。ここに記して謝意
を表する。
連絡先など
正 田
良(しょうだ
りょう)
154-8515 世田谷区世田谷4-28-1
国士舘大学文学部初等教育専攻
[email protected]
この電子ファイルは、私のホームページの中の、「学会での発表」
http://kks-el01.sakura.ne.jp/ACD/index.htm に当分の間おくつも
りです。
ご清聴ありがとうございました。