1 Prologでナッシュ遂行理論を学ぶ (Learning Nash implementation theory by Prolog) 平成14年11月17日 報告者:犬童健良 所属: 関東学園大学経済学部経営学科 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 1.はじめに 遂行理論(あるいはメカニズムデザイン理論)は、合理的エージェ ントたちの分権的メカニズムを論じるゲーム理論の一分野である[3]。 入札制度、排出権取引、電子商取引、エージェントシステムといっ た応用が研究されている。 しかし解概念にナッシュ均衡を用いる、抽象的な社会選択環境で のナッシュ遂行の必要十分条件は1990年代初めまでに解明され、 その条件を満たすSCCを遂行できるメカニズムが提案された [1,2,4]。 しかしその集合論的条件やメカニズムを理解することは、学習者に とって必ずしも容易ではないと思われる。本論文では、 Prologによ る論理プログラミングを用い、合理的選好や社会選択の領域をモ デリングする。ごく小さな選好領域におけるSCCに焦点を絞り、シ ミュレーションを通じて操作的に理解することを試みる。 以降の部分では、第2節でPrologによる論理プログラミングについ て簡単に述べる。第3節はSCCと合理的選好領域、第4節は単調 性やNVPなどSCCの重要な性質、第5節はナッシュ遂行シミュレー ションの順に論じる。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 2 実験システムの概要 今回作成した実験システムは、 SWI-Prolog 1.9.0を用いて開発・テストを 行った。その主な機能は以下のようである。ただし本発表では簡略版を示 す。 モデリング機能: 対象は、A)選好領域、B)社会選択対応、およびC) 社会選択対応の諸性質、D)ゲーム理論的メカニズムおよび、E)これらの 下でのナッシュ均衡である。 シミュレーション機能: 上記のモデルは、それぞれ対応する述語を用い て、条件成立のチェックまたは可能解生成によるシミュレーションを行える。 なお部分集合の枚挙( subset_of /3 )は可能解・事例の自動生成の基礎に なる。 ユーザインタフェース: 計算の効率化や作業の系統化を計るため、選 好領域のモデル設定(setup_domain /1)や可能なSCCの枚挙 (gen_test_sccs /3)、遂行シミュレーション(test_impl /0, /5)と共に、若干の 対話的CUIを追加した。 実験結果の再利用: 自動生成したメカニズム出力、SCC、最適反応な どについてはファイルに保存し、Prologシステムに読み込んで再利用できる。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 3 ナッシュ遂行理論の基本的仮定 遂行理論(インプリメンテーションセオリ)では、まず計画者(プラン ナー)が望ましいと考える目標を、社会選択対応(SCC)として定義する。 SCCはエージェントたちの真の選好状態によって変化する。計画者は、 ゲームのルール(=メカニズム)を設計し、その下でプレイされる非協力 ゲームの解の集合と所望のSCCとを一致させようとする。とくにナッシュ 遂行では ナッシュ均衡を解概念として用いる。 仮定1: 各エージェントは可能な社会選択の結果に対する選好順序 をもつ。その選好順序は、エージェント同士はお互いに既知だが、プラン ナーからは直接観察できない。 仮定2: プランナーはSCCとゲームの結果を一致させるため、ゲーム のルール(メカニズム)を設計する。 仮定3: メカニズムと、実際のエージェントの選好組のペアは一つの 非協力ゲームを定義する。 仮定4: (ナッシュ遂行の場合、標準形ゲームにおいて)各エージェ ントはナッシュ戦略、つまり最適反応を用いると仮定する。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 4 ナッシュ遂行理論の基本要素 ナッシュ遂行可能性: もし、真の選好状態の組(プロフィール)がどうで あっても、つねにナッシュ均衡の集合とSCCが一致するようなメカニズム を提案することができれば、そのSCCはナッシュ遂行可能である。(ナッ シュ遂行された、遂行に成功した、ともといわれる。) ナッシュ遂行理論の基本要素: 選択対象 社会のメンバー(=エージェント) 各エージェントの選好順序 以上をまとめて選好領域あるいは単に「領域」モデルと呼ぶことにする。 社会選択対応(SCC) (社会選択規則(SCR)ともいう) メカニズム(非協力ゲームのルールの部分) メカニズムの結果を予測する解概念(ナッシュ均衡) 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 5 6 ナッシュ遂行の図的説明 【選好順序】 preference(1,s2,[x,z,y,w]). preference(2,s2,[y,z,x,w]). preference(3,s2,[z,x,y,w]). メ ッ セ ー ジ 表 明 ルール1~3 ゲーム結果の計算 【社会選択対応】 (s2) scc(g,s2,[x]). 状態 【社会選択対応】 (s1) 【選好順序】 preference(1,s1,[x,z,y,w]). preference(2,s1,[y,z,x,w]). preference(3,s1,[z,x,w,y]). 2015/9/30 scc(g,s1,[x,w]). メ ッ セ ー ジ 表 明 ルール1~3 ゲーム結果の計算 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 2.Prologによる論理プログラミング 7 • 論理プログラミング言語Prologの特色を以下にまとめる。 述語論理学におけるホーン節をプログラムの単位とする。 その動作は導出原理と単一化アルゴリズム(Robinson,1965)に基づく自 動定理証明。 論理的知識表現と、AIで普及したリスト処理(2進木操作)を融合 。 バックトラッキング(後戻り処理)で可能解を探索・枚挙 。 こうして、宣言的意味と手続き的意味の両面性を獲得。 • Prologは1990年代前半までに入門書が数多く出版された [8,10] 。国際規格 (ISO IEC13211-1)や制約処理への拡張版もある。 • 以下に述語 member /2 と実行例を示す。なお /2 は引数の数(アリ ティ)を表す。 member(A, [A|B]). ?-member(X,[‘ 経 営 ’ , ‘ 情 報’]). member(A, [B|C]) :- X = ‘経営’; member(A, C). 2015/9/30 X = ‘情報’ ; No 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 8 Prologの例1(知識ベース) まず事実として、「スズメはトリである」、「ペンギンはトリである」、「ペンギ ンはトリの例外である」に対応する節を登録する。 トリ(スズメ). トリ(ペンギン). トリの例外(ペンギン). 「トリは飛べる」という知識を以下のようなPrologのルール節として表す。 ただし例外的条件に該当しない限りという制限をつける。ただし記号\+は 「否定」を表す。 飛ぶ(X) :- トリ (X), \+トリの例外(X). スズメは飛べるかどうかをゴール節として問い合わせると、 Prologシステ ムはYesと答える。 ?- 飛ぶ(スズメ). [enterキー ] Yes ペンギンはトリの例外として登録されており、以下の問合せに対し、 PrologシステムはNoと答える。 ?- 飛ぶ(ペンギン). [enterキー ] No 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) Prologの例2(問題解決システム) Prologを使って人工的な知的エージェントの問題解決の機構(プランニン グ・システム)を次のように作ることができる。 移動(状態(s1),手段(a),状態(s2),コスト(2)). 移動(状態(s1),手段(b),状態(s2),コスト(5)). 移動(状態(s2),手段(c),状態(s3),コスト(1)). 現在(状態(s1)). 再帰によるゴール追求 目標 (状態(G)) :-現在(状態(G)). 目標 (状態(G)) :目標 (状態(S)), 移動 (状態(S), _A,状態(G),_C). ?-目標 (状態(s3)). [enterキー ] Yes また手段系列(パス)を明示したり、到達コストを最小化するなども容易。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 9 Prologの例3(集合論的操作) 知識ベースの例: エージェント(名前(a),年齢(20),所得(0),身長(175)). エージェント(名前(b),年齢(32),所得(800),身長(180)). エージェント(名前(c),年齢(45),所得(1200),身長(168)). お金がない (X,Z) :- エージェント(名前(X),_,所得(Z),_), Z < 10. 若者(X,Y) :- エージェント(名前(X),年齢(Y),_,_), Y < 35. 背が高い(X,H) :- エージェント(名前(X),_,_ ,身長(H)), H >= 175. 全称仮説テスト(forall/2) 例.「お金のない人は若者であるか?」 ?- forall(お金がない(X,_Z) ,若者(X,_Y)). [enterキー ] Yes 成功するゴールの収集( setof/3, bagof/3, findall/3 ) ^は記号存在 ?- setof(X, A^若者(X,A), Y), setof(W, 背が高い(W,_M), Z). [enterキー] Y = [a, b] Z = [a] (条件に存在記号がないので_Mも単一化される) Yes 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 10 Prologの例4(合理的選択) 選好順序は推移的( transitive)、反射的( reflective)かつ完備 ( complete)な代替案ペアの比較、すなわち弱順序である。無差別な ペアa~bは、a>bかつb>aのように順序を交換した連言で表し、強順序の 場合は¬(a~b)かつa>bと定義する。以下の例では強順序を仮定する。 プログラム(事実節とルール節からなる) エージェント(1). 代替案(a). 代替案(b). 代替案(c). 選好順序(エージェント(1), 状態(s1), [a, b, c]). 選好順序(エージェント(1), 状態(s2), [b, a, c]). 合理的選択(Agent,State,Choice):選好順序(Agent,State, Z, [Choice|_]). ゴール節の実行例 ?-合理的選択(1,s2,X). X=b Yes 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 11 12 Prologの例5(ナッシュ均衡) 右図の標準形ゲームとそのナッシュ均衡を求める Prologプログラムの例およびその実行結果を示す。 ただし、これは後でナッシュ遂行のシミュレーションで 用いるものよりも、かなり簡単である。プログラムは略 すが、混合均衡の計算も試みている。 player 2 player 1 act(b1) act(b2) act(a1) [1,1] [ 2, 0 ] act(a2) [0,2] [-1, -1] ?- nash(A,B). A = [a1,b1] B = [1,1] ; % finding an equilibrium game( [player(1,act(a1)), player(2,act(b1)) ], payoffs([1,1])). game( [player(1,act(a1)), player(2,act(b2)) ], payoffs([2,0])). game( [player(1,act(a2)), player(2,act(b1)) ], payoffs([0,2])). A = [[1,0],[0,1]] B = [2,1] Yes game( [player(1,act(a2)), player(2,act(b2))] , payoffs([-1,-1])). nash( [S1,S2], [P1,P2] ):- game( [ player(1,act(S1)), player(2,act(S2)) ], payoffs([P1,P2]) ), \+ ( game([ player(1,act(_X)), player(2,act(S2)) ], payoffs([Px,_]), Px > P1 ), \+ ( game( [ player(1,act(S1)), player(2,act(_Y))], payoffs([_,Py])), 2015/9/30 Py > P2 ). 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 3.社会選択対応(SCC)と合理的選好領域 選好順序(プリファレンス・オーダー)は完備性、推移性、反射性を満た す代替案集合上の2項関係である。強順序領域では反射性を除き、反対称 性を加える。 非制限的領域は、すべての可能な選好順序から成り立つ。例えば2人 のエージェントN={1, 2}と2つの代替案A={a,b} の場合、各人の可能な選 好順序2通りずつ、計4通りある。これらに通し番号をつけて、状態集合 S={s1, s2, s3, s4}とし、状態上にSCCを定義し直すと便利である。 一般に社会選択対応(SCC: Social Choice Correspondence)f: Rs→2A/{}は、全エージェントN={1,2,…,n}の可能な選好順序組の集合Rs から有限の代替案集合A={a,b,…}の部分集合への関数であり、通常、空集 合は除外される。 PrologでのSCCのモデル化例。 scc(f,state(1),[a]). % f(状態1)= [a] scc(f,state(2),[b]). scc(f,state(3),[a]). scc(f,state(4),[b]). 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 13 選好領域(ドメイン)モデル 順序や部分集合については、Prologのリスト記法を用いるのが便利である。 preference(agent(1),state(1),[a,b]). %1は状態1と2においてaをbよりも好む。 preference(agent(1),state(2),[a,b]). preference(agent(1),state(3),[b,a]). preference(agent(1),state(4),[b,a]). preference(agent(2),state(N),[a,b]):-member(N,[1,3]). preference(agent(2),state(N),[b,a]):-member(N,[2,4]). 社会選択対応を表す述語scc /3 とエージェントの選好順序を表す述語 preference /3 は、ともに本論文のモデル化において最も基本的なデータを与える。 エージェント2の選好については、member /3を使って2つのルールにしてある。 また以下では代替案、エージェント、状態それぞれの集合を定義しているが、代 替案以外に組み込み述語setof /3 を用いた。 alternatives([a,b]). agents(Js):-setof(J,S^R^preference(J,S,R),Js). % 選好順序→エージェント集合。 states(Ss):-setof(S,J^R^preference(J,S,R),Ss). %選好順序→状態集合。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 14 劣位集合(Lcc)、2項関係、最善案 2項関係は前述の選好モデルから導出できる。強順序の場合、リスト結合append /3を使って以下のように、まず劣位集合の述語lcc /3を作り、次に2項順序の述語 is_prefer_to /4を作成する。劣位集合は後でナッシュ均衡の導出にも利用する。 劣位集合L(a,Rj) :={b∈A|a Rj b}はある代替案aを含みエージェントjにとってそれ より好ましくない代替案の集合である。またX⊆Aにおけるjの最善案a∈M(X,Rj)は a∈X⊆L(a,Rj) と定義され、述語is_maximal /3 で表す。 lcc([I,S,R],A,L) :preference(I,S,R), member(A,R), append(_Upper, [A|Lower], R), sort([A|Lower],L). % 整列 is_prefer_to(I,S,X,Y):lcc([I,S,_R],X,L), member(Y,L). is_maximal([I,S,R],A,X):lcc([I,S,R],A,Lcc), member(A,X), subset(X,Lcc). NAF(失敗による否定)のため、上のモデルは強順序と解釈される。無差別関係 ( (X,Y)かつ (Y,X))や強順序( (X,Y)かつ無差別でない)の扱いは別の工夫がいる。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 15 4.ナッシュ遂行の諸条件 1977年のE.Maskinの論文以降、SCCの単調性はその必要条件と して知られており、また拒否権なし(NVP)の条件が満たされていれ ば、単調性は3人以上では十分条件である[3]。 なおMaskin(と Vind)の開発したメカニズムを用いれば、単調かつNVPであるSCCを ナッシュ遂行できる。 Maskinの云う「単調性」とは、直観的には順位の逆転が生じない 限り、選好変化前のSCC結果は保たれるということである。ただし単 調性だけでは必要だが十分ではない。 また「NVP」は皆が最善と云う案を、誰も単独で覆せないことだが、 それ自体はナッシュ遂行の必要条件ではない。 なお、2人の場合を含めたナッシュ遂行の必要十分条件は、長ら く未解明だったが1990年代初めにMooreとRepullo、DuttaとSenに よって解かれた [2,4]。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 16 17 単調性のモデリング例 monotone(F):- scc(F,_,_)-> forall( ( scc(F,S,C), member(A,C), scc(F,S1,C1), \+ member(A,C1) ), ( nl,write( dropped(A,F,[S,C],[S1,C1])),tab(3), lcc([I,S,_R],A,L1), lcc([I,S1,_R1],A,L2), \+ subtract(L1,L2,[]), write(reversal (I,L1,L2)) ) ). 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 単調性のテスト • 明らかにfは単調だが、これを上のプログラムを実行して確認してみよう。 4 ?- monotone(f). dropped(a, f, [state(1),[a]], [state(2),[b]]) reversal(agent(2), [a,b], [a]) dropped(a, f, [state(1),[a]], [state(4),[b]]) reversal(agent(1), [a,b], [a]) dropped(b, f, [state(2),[b]], [state(1),[a]]) reversal(agent(2), [a,b], [b]) dropped(b, f, [state(2),[b]], [state(3),[a]]) reversal(agent(2), [a,b], [b]) dropped(a, f, [state(3),[a]], [state(2),[b]]) reversal(agent(2), [a,b], [a]) dropped(a, f, [state(3),[a]], [state(4),[b]]) reversal(agent(2), [a,b], [a]) dropped(b, f, [state(4),[b]], [state(1),[a]]) reversal(agent(1), [a,b], [b]) dropped(b, f, [state(4),[b]], [state(3),[a]]) reversal(agent(2), [a,b], [b]) Yes 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 18 NVPのモデリングとテスト veto_outcome(A,J,S,F):- nvp(F):- agents(Is), scc(F,S,C), scc(F,_,_)-> alternatives(As), forall(member(J,Is), subtract(As,C,D), member(A,D), \+veto_outcome(_A,J,_S,F) ). agents(Is), 6 ?- veto_outcome(A,J,S,f). preference(J,S,_R), A=b forall((member(K,Is),K\=J), J = agent(1) lcc([K,S,_Rk],A,As) ). 2015/9/30 19 S = state(1) Yes 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 20 SCCの自動生成(1) また部分集合枚挙ルーチンを作成し、選好領域上の可能な SCCを生成検査することは容易である(プログラムは省略)。上の モデルでは20個の単調性を満たすSCCと4個のNVP(+単調 性)を満たすSCCの存在を確認した。なおmonotoneの引数 gen(C)は、自動生成したSCCを変数Cで参照する。 10 ?- scc_tuples(C),monotone(gen(C)). C = [[s1,[b]],[s2,[b]],[s3,[b]],[s4,[b]]] ; C = [[s1,[a]],[s2,[b]],[s3,[b]],[s4,[b]]] ; C = [[s1,[a,b]],[s2,[b]],[s3,[b]],[s4,[b]]] ; (・・・途中省略・・・) C = [[s1,[a,b]],[s2,[a,b]],[s3,[a,b]],[s4,[a,b]]] ; No 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 21 SCCの自動生成(2) 4個のNVP(+単調性)を満たすSCC 11 ?- scc_tuples(C),nvp(gen(C)). C = [[s1,[a]],[s2,[a,b]],[s3,[a,b]],[s4,[b]]] ; C = [[s1,[a,b]],[s2,[a,b]],[s3,[a,b]],[s4,[b]]] ; C = [[s1,[a,b]],[s2,[a,b]],[s3,[a,b]],[s4,[a]]] ; C = [[s1,[a,b]],[s2,[a,b]],[s3,[a,b]],[s4,[a,b]]] ; No ところでこの領域では、#状態=(#順序)^2=(#代替案)!^2、# SCC=#(2^(#代替案)^#状態)である。2人と2代替案のときは256個、 非空だけのものは81個である。したがって以下で述べるDanilovの3条 件をチェックすれば、Hurwicz-Schmeidlerの不可能性定理[3,4]をシミュ レーションで観察できる。(→付録E) しかし代替案を1つ増やすだけで#状態=36となってしまう。実際、e m、mr、irの3条件を同時に満たすSCCは6つ生成され、そのうちパレー ト最適性を満たしたのは、fを含む2つの独裁的SCCだけであった。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 5.ナッシュ遂行のメカニズム例 ナッシュ遂行のメカニズムは、各エージェントjの戦略の集合 Mjと結果関数g: M1×…× Mn→Aを追加する。つまりメカニ ズムは可能な選好組ごとに、別々の標準形ゲームを定義する。 標準形ゲームΓ:=<N,R,A,g>のナッシュ均衡とは、各エー ジェントj∈Nの最適反応の組である。すなわち各j∈Nの可達集 合C (a,Rj)が、劣位集合L(a,Rj)に含まれる。可達集合は結果a をもたらす戦略組m∈Mに対し、jが単独で戦略変更して得られ る結果の集合である。 mechanism(gDict(1, f), [a,a], [a]). mechanism(gDict(1, f), [a,b], [a]). mechanism(gDict(1, f), [b,a], [b]). mechanism(gDict(1, f), [b,b], [b]). 2015/9/30 独裁的SCCは、つねに独裁者の主張する案を採択する上のメ カニズムによって、明らかにナッシュ遂行可能である。 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 22 独裁者用メカニズムgDict 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 23 遂行シミュレーションの例(1/1) checking the on-SCC patterns: [s1,a][s2,a][s3,b][s4,b] For state s1,outcome=a,rule=1, message= [a,a] • 右図は社会選 択対応fについ ての遂行シミュ レーションの結 果を、若干加工 して示したもの。 ただしCzsは元 の結果を除く可 達集合を表す。 agent=1,Czs=[b],Lcc=[a,b] agent=2,Czs=[a],Lcc=[a,b] < NE> For state s2,outcome=a,rule=1, message =[a,a] agent=1,Czs=[b],Lcc=[a,b] agent=2,Czs=[a],Lcc=[a] < NE> For state s3,outcome=b,rule=1,message=[b,a] agent=1,Czs=[a],Lcc=[a,b] agent=2,Czs=[b],Lcc=[b] < NE> For state s4,outcome=b,rule=1,message=[b,a] agent=1,Czs=[a],Lcc=[a,b] agent=2,Czs=[b],Lcc=[a,b] < NE> 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 24 遂行シミュレーションの例(1/2) checking the off-SCC patterns: [s1,b][s2,b][s3,a][s4,a] For state s1,outcome=b,rule=1,message=[b,a] agent=1,Czs=[a],Lcc=[b] agent=2,Czs=[b],Lcc=[b] For state s1,outcome=b,rule=1,message=[b,b] agent=1,Czs=[a],Lcc=[b] agent=2,Czs=[b],Lcc=[b] (以下省略) Summary Result [s1,a,yes,in][s1,b,no,out] [s2,a,yes,in][s2,b,no,out] [s3,a,no,out][s3,b,yes,in] [s4,a,no,out][s4,b,yes,in] 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 25 26 おわりに Prologの論理プログラミングによって、ナッシュ遂行理論をモデ リングした。具体的には、選好領域、社会選択対応、ナッシュ遂行のた めの諸条件、メカニズムを、ほぼ定義どおりモデリングし、シミュレーション することができた。また選好領域を固定して社会選択対応を自動生成し、 ナッシュ遂行可能性他任意の条件を満たすものを抽出できた。また文献 の定理等を用いて、開発コードのテストとデバッグを行った。 問題点として、メカニズムのモデリングには、まだデバッグ不十 分な所が残っている。経済学的環境などの特殊領域、より発展したメカニ ズムの実装を含め、改良の余地は多い。 また今回、Prologで実際にさまざまな集合論的条件をモデリングし てみると、確かに自分の貧しい想像力と計算力を補ってくれること が分かった。つまり、その正例や負例を自在に検証・生成できるよ うになった。しかし、網羅的なSCC生成やナッシュ遂行の逐次的テスト は、非常に小さな領域モデルに限られており、またメカニズムの直接的シ ミュレーションは計算効率が悪い。それゆえ直接の限界としては、計算 量の壁が厚い。またはメタ知識の水準での「洞察」に欠けている。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 27 今後の課題:知的CAIを超えるために 最後に本実験システムでのモデリングを、知的CAIの系譜として眺めてみ よう。明らかに、学習者モデルは欠如しており、また指導方略としては、「作っ てみて、動かして、デバッグして分かる」間接的指導といえるだろう。非明示的 な学習者モデルは自分の頭脳に暮らす虫(バグ)の生態を記録したプログラム を観察しつつ、仕様書代わりの定義・定理・証明にくらいついて、テストを繰り 返し、「ああ、そういうことか。」とようやく気づく。学習者の手本となるべき領域モ デルは、 学習者が定式化を忠実に論理表現できたとき、それ自体が問題を 解く能力を持つ規範的エキスパートシステムとなる。実際、SCCの遂行の 条件を厳密に判定したり、任意の条件を満たすSCCの正例や負例を生 成できた。しかし、遂行の諸条件やメカニズム自体を洞察あるいは帰納 する水準には至っていない。本当の意味で「メカニズムデザインという知的 作業」はモデリングされていないのではないかという疑念が生じた。もし将来 的に、メカニズム設計者・研究者の作業支援や、20世紀の知的遺産の継承 (教育)という高い目標を目指すのであれば、SCCに適合した最小メカニズム の提案、制約処理あるいは構文論レベルの証明の自動化などが必要だろう。 またメカニズム設計者の数学的な「洞察力」とそれを導いている「知的興奮」を 探求する認知科学的研究が考えられる。 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢) 28 文献 [1] Danilov, V. (1992). Implementation via Nash equilibria. Econometrica 60(1): 43-56. [2] Dutta, B. and A. Sen (1991). A necessary and sufficient condition for two-person Nash implementation. Review of Economic Studies 58:121-8. [3] Maskin,E. (1999). Nash equilibrium and welfare optimality. Review of Economic Studies 66:23-38. [4] Moore, J. and R. Repullo (1990). Nash implementation: A full charaterization. Econometrica 58(5): 1083-99. [5] Wielemaker, J. (1994). SWI-Prolog 1.6 Reference Manual. In Kantrowitz(ed.), CMU AI Repository.(http://www2.cs.cmu.edu/afs/cs/project/airepository/ai/lang/prolog/impl/prolog/s wi_pl/) 2015/9/30 経営情報学会2002秋季研究発表大会(金沢)
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