人 権 意 識 - 福祉ネットあおもり(青森県

障害者福祉施設等設置者・管理者の責務①
~事案が起きた場合の対応~
平成26年度 青森県障害者虐待防止・権利擁護研修
公益社団法人日本社会福祉士会
平成26年度障害者虐待防止・権利擁護指導者養成研修から
講義と演習
講義において
虐待事案が発生した場合の障害者福祉施設等
設置者・管理者としての責務と役割、組織的対応
について学ぶ。
演習において
事例をもとに、責務と役割と組織的対応を実際に
考えてみる。
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講義のねらい
 虐待発生時における設置者・管理者の責務と役割、
組織的対応に関する知識及び虐待発生時において
設置者・管理者としての誠意ある対応を行うための
意識について学ぶ 。
 虐待の相談があった場合の対応について学ぶ。
 虐待発生時の被虐待者への初期対応について学ぶ
 虐待発生時の市町村への通報について学ぶ。
 通報者の保護について学ぶ。
 市町村・都道府県による事実確認への協力について
学ぶ。
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講義のねらい
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組織的な虐待対応について学ぶ。
虐待対応における関係機関との連携について学ぶ。
被虐待者への対応について学ぶ。
虐待者への対応と責任者の責任について学ぶ。
再発防止と虐待事案からの立ち直りについて学ぶ。
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演習のねらい
 設置者・管理者の立場で、虐待事案における責
務と役割について学ぶ。
 演習事例について、設置者・管理者の立場で、
虐待発生の要因を抽出し、それを踏まえた上で
の具体的対応について学ぶ。
 演習事例のような虐待発生とその対応から、虐
待が起きてしまった後の立ち直りの視点を学ぶ。
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利用者を守ること、事業所を守ること
人権擁護に取り組む法人・事業所で起こる重大な虐待事件の構図

事業所を守ることが、利用者を守ることという錯覚に陥る
・9人の利用者の人権を守る事業所が、1人の利用者へ虐待が起こる
・9人の利用者を守る名目で、1人の利用者への虐待を見逃がしてしまう
一人の利用者の人権を守れない「形式的権利擁護」から

一人の利用者を守ることが、事業所を守るという現実を意識
・1人利用者への虐待は、人権を守っていた9人の利用者への虐待の芽を
生んでいる
・1人の利用者への虐待の早期発見、早期対応は、1人の利用者を虐待か
ら守り、9人の利用者への虐待を防止することにつながり、それが結果的に
事業所を人権侵害から守ることになる
一人の利用者を守る「実質的権利擁護」へ
設置者・管理者の責務(関係法令)
 法令遵守等の業務管理体制の整備
(障害者総合支援法第51条の2、第51条の31)
 利用者の人権擁護、虐待の防止等のための責
任者の設置等の体制整備の実施
(障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービス事業(障害者
支援施設)等の人員、設備及び運営に関する基準)
 障害者の人格の尊重と法律に基づく命令の遵
守と忠実な職務の遂行
(障害者総合支援法 第42条第3項)
虐待対応における責任者
 虐待対応責任者は障害福祉施設等の設置者・管理者
・法人理事長、施設・事業所の施設長・所長など
 虐待対応責任者であることを自覚
・どこでも虐待は起きるという意識を持つこと
・虐待防止や対応について準備することは、早期発見・早期対
応につながる
 「虐待防止マネージャー」(サービス管理責任者やサー
ビス提供責任者)との役割を明確化
・組織としての実行を管理するのは、法人代表、役員、施設長、
所長などの責務である
・サービスとしての実行を管理するのは、サービス管理責任者
やサービス提供責任者などの責務である
虐待対応における責任者
 虐待対応責任者は障害福祉施設等の設置者・管理者
・法人理事長、施設・事業所の施設長・所長など
 虐待対応責任者であることを自覚
・どこでも虐待は起きるという意識を持つこと
・虐待防止や対応について準備することは、早期発見・早期対
応につながる
 「虐待防止マネージャー」(サービス管理責任者やサー
ビス提供責任者)との役割を明確化
・組織としての実行を管理するのは、法人代表、役員、施設長、
所長などの責務である
・サービスとしての実行を管理するのは、サービス管理責任者
やサービス提供責任者などの責務である
虐待対応責任者に求められるもの
虐待は必ず起こるという意識 → 備えるという意識につながる
責任者として
虐待防止の仕組みをつくることの実行
⇒ 早期発見
具体的対応の検討と周知することの実行 ⇒ 早期対応
対応がわからないと隠したくなる
内部解決は再発防止につながらず
虐待が繰り返し起こるようになり、やがて隠し切れない
重大な虐待が起きる・・・
虐待相談の対応
 虐待相談
・虐待を受けた利用者(被虐待者)、その家族
・事業所に入るボランティア、実習生、相談を受けた第三者等
・職員からの報告
 聞き取り
・アセスメント・事実確認が生命線
・時間、場所、行為、行為主体、理由など可能な限り詳しく
・一見無関係な事柄も記録しておく
・相手の立場や状況を踏まえて受け止める
・先入観をなくしてじっくり聞き取る
・相手の言葉を正確に記録する
利用者の「声なき声」に耳を傾ける姿勢(例)
1999年、470人の神奈川県の施設利用者の直接の声でつくられた施設
利用者権利宣言、しかしその採択後に重大なる虐待事件が県立施設で
起こりました。
「ぼうりょくはんたい」緊急アピール
2000年1月 神奈川県施設利用者懇談会
ぼうりょくはんたい
ぼうりょくをする しょくいんは くび ゆるせない
ことばの ぼうりょくは たたくより しまつがわるい
しょくいんは しかとしないで ちゃんと きいてほしい
よわいものいじめは しょくいんも りようしゃも やめよう
しょくいんは かんじょうを ださないで やってほしい
わたしたちを もっと たいせつに してほしい
虐待発見チェックシートの活用
虐待されていても訴えられずに、傷ついていることがある。
言語によるコミュニケーションが苦手な障害者の場合、訴えではなく
行動や様子に現れ、それが理解されないことがある。
虐待が疑われる場合のサインとして虐待発見のチェックシートが
あるので活用してみる。
チェックリストの項目の例
□急におびえたり、怖がったりする
□話す内容が変化し、つじつまが合わない
□食欲の変化が激しい、摂食障害(過食、拒食)がみられる
□無力感、あきらめ、なげやりな表情になる、顔の表情がなくなる
□眠れない、不規則な睡眠、夢にうなされる
□事業所に出てこない
虐待相談の対応
 内部組織「虐待防止委員会」等への報告
・事業所だけで虐待の判断をするのではなく組織的に事実確認
する
 法人・事業所内だけで事実確認し事態を収束させない
・虐待の疑いや事実があった場合速やかに市町村へ通報する
→通報義務
虐待発生後の対応
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被虐待者(利用者)への初期対応
市町村への通報(通報義務)
通報者の保護
市町村、都道府県の事実確認・調査への協力
組織的な虐待対応
関係機関との連携
被虐待者(利用者・家族)への初期対応後の対応
虐待者(職員)への対応と責任者の責任
再発防止と虐待事案からの立ち直り
具体的対応について検討しマニュアル化する
「虐待防止委員会等」で検討する
被虐待者(利用者)への初期対応
 被虐待者(利用者)の安全確保(保護)
・身体的虐待、性的虐待の場合は医療機関受診
・虐待者(職員)との分離(配置転換、出勤停止など)
・虐待の疑いであっても、事実確認の段階であっても身体的、
心理的安全確保
・被虐待者(利用者)の生活環境をできるだけ変えない
市町村への通報(通報義務)
 障害者福祉施設従事者等による虐待を受けたと思わ
れる障害者を発見した場合の市町村への通報義務
(障害者虐待防止法第16条)
通報先は市町村の「障害者虐待防止センター」等の窓口
通報者に虐待の正確な判断を求めていない
いわゆる「グレーゾーン」でも通報をためらわない
通報せずに内部で事態を収束させた場合は通報義務違反
通報は行政や関係機関とパートナーシップを組み、
より良い支援や組織づくりに向かうためのきっかけとなる
通報者の保護
施設・事業所の虐待の多くは内部告発によって発覚
内部告発者は不利益を覚悟しないといけない状況
「なぜ報告・相談してくれなかったのか」
「上司や同僚を落し入れるためではないか」
内部事情よりも虐待を解消させることを最優先すべき
 通報した職員は法律によって保護される
・障害者虐待防止法
秘密漏示罪、守秘義務違反などに問われない(第16条第3項)
解雇その他の不利益な取扱を受けない
(第16条第4項)
※通報が虚偽、一般的に合理性がない「過失」によるものを除く
通報者の保護
・公益通報者保護法(平成18年4月施行)
国民の生命、身体、財産など(公益)を守るため、事業所内部で法令違反
行為が行われた、行われようとしていることを、一定条件を満たして、
公益通報(内部告発)を行った場合、解雇は無効 とされ、不利益な扱いは
禁止される
※行政機関への通報の一定条件とは
不正目的ではないこと、真実であると信じる相当の理由があること
施設・事業所での通報者保護の法律を周知し理解を進める

通報者への職場内での身分保全や心理面での支援
「虐待防止委員会」等で検討する
市町村・都道府県の事実確認・調査への協力
 市町村による事実確認、訪問調査
この段階では施設・事業所は任意で協力
※市町村は必要に応じて都道府県に相談・報告
 被虐待者(利用者)の秘密保持や安心して事実確認
が行えるための場所の設定と提供
 関係法令に基づく調査
障害者総合支援法(第10条、第48条、第49条)
社会福祉法(第70条)
 関係書類の開示や提出
 虚偽報告・答弁の禁止
虚偽報告・答弁の禁止
長崎県は6日、島原市の障害者支援施設「島原療護センター」を
特別監査した結果、介護福祉士ら7人による入所者への虐待が
相次ぎ、暴行が2006年からの7年間で約300回繰り返されていた
ことが分かったと発表した。また、前理事長が07年に入所者が
けがした原因が虐待と知りながら県に「原因不明」などと報告して
いたことも判明したという。毎日新聞 2013.6.7
障害者総合支援法第111条
市町村・都道府県の報告徴収、立入検査での虚偽報告、
虚偽答弁をした者は30万円以下の罰金に処する
組織的な虐待対応
 虐待防止委員会等への報告
 虐待対応組織等の設置
「虐待防止委員会」等で対応するだけでなく、外部の目を入れ
た「検証委員会」等も設置する
 第三者性を確保する
第三者委員の他、外部の有識者など
 アセスメント、事実確認
被虐待者(利用者)、発見者(通報者)、虐待者(職員)
責任者、その他職員等
法人など組織的に行われた場合は他事業所の内部調査
 検証
組織の構造的な問題など、客観的に原因を分析する
 報告
虐待対応における関係機関との連携
 必要に応じた警察・医療との連携
 「市町村障害者虐待防止センター」、「都道府県権利
擁護センター」との連携
 権利擁護ネットワーク等の活用
 成年後見制度等の活用
 地域自立支援協議会との連携
被虐待者(利用者・家族)への
初期対応後の対応
 被虐待者(利用者や家族)への事実の報告と対応の
説明、謝罪等、誠意ある対応を行う。
必要に応じ設置者・管理者がその他の利用者・家族への
説明、謝罪を行う
 被虐待者(利用者)が安心・安全に過ごせるように、心
理面での支援を行う。
 行政の指導・助言、虐待対応組織等の検証を踏まえ
た虐待対応を含む個別支援計画の作成と実行
虐待者への対応と責任者の責任
 責任を明らかにする
行政の指導・助言、虐待対応組織等の検証を踏まえ職員個
人の責任だけではなく、責任者の責任を明らかにする
 責任の所在に応じた組織的処分
労働関連法規、法人の就業規則の規定等に基づく
 処分を受けた者の教育や研修
虐待防止、権利擁護、職業倫理等
再発防止と虐待事案からの立ち直り
 市町村・都道府県の指導・助言、虐待対応組織等
の検証を踏まえた再発防止策の検討と実施
虐待防止体制、人権意識・支援技術の向上、開かれた運営
体制、職員管理体制、研修管理体制、苦情処理体制、外部
のチェック体制等
 行政とのパートナーシップの構築
 関係機関との連携体制の構築
 虐待事案の対応を通じて、組織的・構造的に解決
が難しかった問題が解決に向かって動き出し、虐待
という負の連鎖から組織が解放される
 その先には、利用者も家族も職員も求めたものが、
現実のものとして見えてくる
「○○者」ではなく「○○さん」 の人権として考える

当事者の声を聴くことが何よりの虐待防止・権利擁護
世間の人は障害者っていうけれど、もし自分に障害があったらどんな気持
ちがするでしょうか。障害がある人もない人もみな同じ人間です。同じような
ことを考えます。今まで私たちは、障害がない人たちと一緒に勉強してきた
り、過ごしたりすることがあまりありませんでした。だから障害がない人たち
のものさしでわたしたちをみているのではないでしょうか。
権利宣言だけでは、世の中は変わらないと思います。施設の中だけでなく、
もっと社会へ訴えていかなければ、私たちの本当の権利は守られないと思
います。
1999年あおぞら宣言(施設利用者権利宣言)神奈川県施設利用者懇談会

虐待防止法に当事者の切なる声、声なき声を注ぎ込む
障害者虐待防止法が、2012年10月に施行されましたが、私たちは人権擁
護を、制度によって下ろされた課題としてではなく、障がいがあっても自分ら
しく豊かに生きたいという、利用者の○○さんの声をしっかりと受け止めると
ころから考えなければなりません。そうした意味で、「○○者」の人権ではな
く「○○さん」の人権として、「あおぞら宣言」のような当事者の声の結集がこ
れまで以上に必要な時代になったといえます。