敵対的M&A防衛策について

ジョイントベンチャーのための事業体整備(日本版LLP制度の導入)
2 0 0 4 年 8 月
経済産業省産業組織課
【LLC,LLPとは何か】
○LLC(Limited Liability Company有限責任会社)は90年代に開発された米国の会社類型。
LLP(Limited Liability Partnership有限責任組合)は2000年に創設された英国の組合類型。
・米国では、この10年間でLLCが70万社創設され、100万社増加した株式会社と並んで米国における創業
の半分を担う。(日本では、同時期に26万社が創業し、そのほとんどが株式会社とミニ株式会社の有限会社)
○いずれの組織も、
①株式会社のように、出資者は有限責任しか負わない、
②組合のように、内部自治が徹底していて機関(取締役会など)設置強制がない、
③組合のように、構成員課税(組織に対する課税はパススルーされ、出資者に直接課税される)
という3つの特徴を満たす。いわば、組合の良さと株式会社の良さを併せ持つ組織体。
【日本の現状】
○ 企業同士の共同事業(研究開発や設備集約のためのジョイント・ベンチャー)、企業と大学の共同事業
(産学連携)、専門人材の共同事業(IT産業など)は、新産業創造の重要な担い手。
○ しかし、我が国には、ハイリスク・ハイリターンの共同事業にふさわしい組織制度が整備されていない。
〔株式会社の一長一短〕
◎出資者は有限責任
→ ハイリスクの共同事業への出資が容易
○ただし、取締役の設置など組織の設計に関する法律
上の規制があり、組織の柔軟性に欠ける
○法人課税が適用される
→ 法人段階には法人課税、出資者への利益分配(配当)
には配当課税が課され、二重課税が生じる
→ 事業開始当初などに生じる損失を、親会社や個人出資
者の他の所得と通算できない
〔民法組合の一長一短〕
◎組織の設計は原則自由(内部自治の徹底)
◎組合段階では課税せず、出資者(構成員)
に直接課税(構成員課税)
→ 二重課税は生じない
→ 事業開始当初などに生じる損失を、出資
者の他の所得と通算できる
○ただし、出資者は無限責任
→ ハイリスクの共同事業への出資の障害
【海外の状況】
○ 他方、海外では、出資者の有限責任制、内部自治の徹底、構成員課税の3つを兼ね備えた組織制度が
整備されている。
〔米国のLLC制度〕
○ジョイント・ベンチャーやIT産業、
サービス産業などが幅広く活用
〔英国のLLP制度〕
○大手監査法人などの空洞化を防止
するために、2000年に創設
〔シンガポールのLLP制度〕
○創業や高度サービス産業の振
興のために創設を検討
○この10年間で株式会社が100万社
増加する中でLLCも70万社増加
○KPMGなどの大手監査法人やIT
企業など、制度創設後3年間で3千
社が既に活用
○米国のLLCや英国のLLPを参
考に制度を検討中で、2004年に
創設予定
【日本版LLP制度の創設】
○そこで、民法組合の特例として、日本版LLPを早急に整備し、「有限責任・内部自治・構成員課税」を兼ね備
えた組織の選択肢を拡大。
(1) 有限責任事業組合(LLP)制度の創設(平成17年通常国会で法案提出予定)
民法組合の特例として、民法組合の出資者に有限責任制を付与したLLP制度を創設する。
(2) LLPの構成員課税
LLPは民法組合の特例であることにかんがみ、民法組合と同様に、LLP段階では課税せず、出資者(構成員)に
直接課税する仕組み(構成員課税)を適用する。
【効果】 LLP創設によって、米国LLCと同様な新たな選択肢を早期に実現
【LLPは出資者の有限責任制である】
○出資へのインセンティブがある。
【LLPは内部自治が貫徹する】
○取締役などの設置強制がない。
○出資比率にこだわらず利益の配分を決めることができる。
【LLPには法人格はないが、法的主体性はある】
(建設JVや映画制作委員会で活用されていることからも分かるように、民法組合の法的主体性は問題ない。)
契約
○LLPは契約を行える。代表者の肩書き付き名義で契約し、契約の効果は全組合員に帰属する。
○LLPは財産(不動産、動産、著作権、特許権)を所有できる。
○LLP所有の財産は組合員からは独立している。組合員やその債権者が差し押さえることはできない。
所有
○LLP所有の不動産である旨の公示は、組合員連名で行うことができる。さらに代表者の肩書き登記
といった簡便な登記方法を検討中。
○LLPは代表者の肩書き付き名義で組合として訴訟行為を行うことができる。
訴訟
許認可
○LLPは、許認可を受けることもできる(許認可の対象は通常法人に限定されていない)。
【LLPには構成員課税のメリットがある】
○収益が出れば二重課税を回避できる。
○損失が出れば出資者が他の所得との損益通算のメリットがある。
【促進される共同研究開発、産学連携、専門人材の共同事業】
構
成
員
課
税
課税
課
税
な
し
〔共同研究開発〕
(情報家電分野)
半導体
A社
電機 製造装置
B社
C社
有限責任制
半導体回路
共同研究開発LLP
〔産学連携〕
A社
大学教授
B
〔専門人材の共同事業〕
(IT産業)
〔専門人材の共同事業〕
(企業支援サービス)
個人
A
会計士
A
個人
B
個人
C
有限責任制
有限責任制
産学連携LLP
ソフトウエア
共同開発LLP
会計士
B
有限責任制
会計士事務所
LLP
【注】 日本版LLC制度(=合同会社)について
○LLP類似の制度として、会社法現代化でLLC(「合同会社」)が平成18年度には創設される予定。
○LLCは、法人ならば法人税という現在の課税体系を前提とすれば、法人課税の扱いとなる点が課題。
○LLCの構成員課税化の実現には、こうした現在の課税体系の抜本的な改正が必要。
○LLC同様所有と経営の一致した合名会社などの課税の扱いをどうすべきか、収益が安定している中小
企業にとっては構成員課税よりも法人税のほうが有利といった実態に配慮すればどういう税制が望ましい
のかといった点も考慮した検討が必要。