バウムテストにおける5枚法 に関する基礎的研究 丹治光浩(花園大学社会福祉学部臨床心理学科) 問題 バウムテストの実施方法についてはほぼ定式化 されているが、2枚法などの変法が用いられるこ とも少なくない(三船・倉戸、1992)。Koch (1952)自身も「被験者が2回目に描いたも のが、被験者の姿を表わしていることが多く、ほ とんどの場面がそうであるといってよいくらいで ある」と述べていたり、「再テストをくり返すこ とで,より深層に到達することができ、かつ同一 被験者のいろいろな層を次々ととらえることがで きる」という層分析法(method of layer analysis) をもとに考えると、被験者に3枚以上の木を描い てもらうことの有用性を指摘することができる。 目的 本研究は、①バウムテストにおいて、どのくらいの 枚数なら被験者が無理なく樹木画を描くことができ るかについて予備調査を実施した上で、②描画の枚 数(情報量)が被験者(作者)を特定することにど の程度寄与するかについて検討することを目的とし ている。 方法① 予備調査としてバウムテストの多数回法を実施し た。対象は、臨床心理学を専攻する大学生89名( 平均年齢19.0歳±0.8歳)で、集団式で実施 した。調査日は2012年10月であった。 教示は、「実のなる木を1本、できるだけ丁寧 に描いて下さい。次にもう一枚別の木の絵を描いて ください。枚数制限はありませんので、できるだけ 多くの枚数の木を描いて下さい」とし、A4版ケン ト紙を一人あたり10枚ずつ配布し、足りない場合 は挙手によって紙を追加配布する方法をとった。 方法② 予備調査において、約80%の被験者が5枚以上 の樹木画を描くことができたこと(平均6.0枚) を受けて、本調査では、臨床心理学を専攻する学生 10名(平均年齢20.6歳±0.7歳)を対象に バウムテストの5枚法を個別に実施した。全員がバ ウムテストの名称は知っていたが、実際に木を描い たのは初めての経験であった。実施時期は2013 年3月で、被験者は同じ演習ゼミに所属する同級生 であり、全員が1年以上の顔見知り以上の間柄であ った。 次に、筆者がバウムテストの解釈法に関するレク チャーを90分実施した後、自分以外の9名が描い た樹木画の作者を推測する試みを個別に2回(ラン 結果1 描画をランダムに提示した場合の的中率の平 均は9.2枚(20.4%)、5枚連続提示し た場合の的中率の平均は11.9枚(26.4 %)で(図1)、5枚連続提示した場合の的中 率の方が若干高かったが、有意な差ではなかっ た(t=0.21,n.s.)。 次に、5枚連続提示した場合について詳しく 見ていくと、 1枚目では的中しなかったが、 5枚目で的中したものは10ケースあった。一 方、1枚目で的中していたが、5枚目で外れた ものは3ケースであった。 (枚) 14 12 10 8 6 4 2 0 ランダム提示 連続提示 図1.提示法による的中枚数の差 結果2 描画の提示枚数が増えるにしたがって作 者の的中数(率)がどのように変化するか をみたところ(表1、図2)、1枚目の的 中数は90枚中15枚(16.7%)、2 枚目は16枚(17.8%)、3枚目は2 2枚(24.4%)、4枚目は22枚(2 4.4%)、5枚目は23枚(26.7% )と上昇傾向がみられたが、有意な変化で はなかった(χ2=3.73、n.s.)。 1枚目 的中数 15 (枚) 的中率 (%) 2枚目 16 3枚目 4枚目 5枚目 22 22 23 16.7 17.8 24.4 24.4 26.7 表1.描画の作者の的中数、および的中率の変化 1枚目 2枚目 3枚目 4枚目 5枚目 的中数 (枚) 15 16 22 22 23 的中率 (%) 16.7 17.8 24.4 24.4 26.7 30 25 20 15 10 5 0 1 2 3 4 図2.的中率の変化 5 (枚目) 考察 一谷ら(1985)が、「臨床的経験からすると 何枚描いてもらってもそれぞれに意味深い表現がみ られ、考えさせられる」と述べているように、被験 者が描いた絵の提示枚数を増加させることで被験者 に関する情報量が増え、結果的に描画の作者(被験 者)を特定できる率(的中率)が高まることが考え られたが、今回の調査では有意な上昇を見出すこと はできなかった。 ただし、青木(1977)が「2枚目からは心の ひだのより深部が伺える」と指摘するようにバウム テストで得られる情報の質が意識化されにくい心の 深層部分を表している可能性を考えると、的中率の 無変化は必ずしも多数回法(2枚法)の意義を否定 考察2 また、的中率の変化が見いだせなかった要因とし て①バウムテストに関する基礎的な教育を受けたとは いえ、評価者である学生の解釈能力が不十分であった こと、②あるいは被験者の数が少なかったこと、③1 枚目で推測した作者を最後まで変えない評価者の存在 などが考えられる。 今後さらに被験者を増やすことや事例研究など を通じてバウムテストにおける多数回法の有用性を引 き続き探る必要があると考えられる。 引用文献 青木健次(1977):バウム・テストにおけるバウム ・イメージの多様性を測る 、19-23. 心理測定ジャーナル、13 一谷彊・津田浩一・山下真理子・村澤孝子(1985) :バウムテストの基礎的研究〔Ⅰ〕-いわゆる「2枚実施 法」の検討- 京都教育大学紀要No.67,17-30. Koch,C(1952):The tree Test.Hans Huber.(林勝三・国 吉政一・一谷彊訳(1970):バウムテスト-樹木画に よる人格診断法- 日本文化科学社) 三船直子・倉戸ヨシヤ(1992):バウムテスト2回 施行法試論Ⅰ-基礎的調査資料- 大阪市立大学生活科 学部紀要No40、313-327.
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