創傷管理 2012年4月 徳島大学病院 褥瘡対策室 皮膚・排泄ケア認定看護師 三谷 和江 一般的な手術創 手術創は目的を持って作られた「切創」 皮膚や組織が鋭的に切断されている「一次縫合創」 縫合糸やステイプラー(医療用のホッチキス)テープ などによって一時的に閉鎖された傷 新人研修理解度チェックリスト 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 清潔/不潔の区別ができる 滅菌物の取り扱いができる 清潔操作ができる 使用物品の処理ができる 包帯を巻くことができる ドレーンを固定するためのテープを切ることができ る ドレーンを抜けないように固定することができる 術後の創部の処置 創傷治癒の基本形 溝上祐子著 カラーとイラストで見て分かる創傷管理より 創傷治癒過程 炎症期 増殖期 成熟期 「炎症期」 手術後24時間後には上皮細胞が創面を 覆い始め、48時間で完了する 「増殖期」 線維芽細胞によるコラーゲンの生成や 毛細血管の増殖が盛ん 3週間程度持続 「成熟期」 肉芽の強化 瘢痕形成 1年以上 術後の創部の状態について 術後創部のような一次縫合創では適切な創 傷処置が行われた場合は、術後48時間で上 皮細胞が創面を覆いバリア機能を持つため、 外界からの細菌が創内に侵入することはな いと考えられる 術後の消毒は? 術後創部の感染は手術中の汚染が主な原因 閉鎖した創に外から消毒薬を塗布しても感染 位には到達しない 消毒薬はタンパク質を変性させることで細菌 を死滅させる作用がある 創傷治癒過程に必要な線維芽細胞や上皮細 胞も死滅させる可能性 術後感染を防止するためには? フィルムドレッシングを 用いて外界からの細菌 の侵入を防ぐ 術後の創部の血液や 皮脂を除去するには大 量の水(生理食塩水)で 洗い流すことが効果的 術後ドレッシングで被覆する理由 低酸素の方が血 管や肉芽が早く 増殖する 創の保護 湿潤環境を保ち 創を治す細胞を 乾燥させない そのため傷を創傷被覆材で保 護し湿潤環境を作る ドレッシングの実際 テガダーム カラヤヘッシブ ドレッシングの交換の頻度は? 48時間まではドレッシングの交換は不要 浸出液が多い場合にはガーゼや吸収パッド付きフィ ルムドレッシングを使用する いずれも創をよく見て毎日浸出液の量、感染の兆候 を観察する ドレッシング オプサイトポストオペビジブル IV3000 オプサイト メディポアパッド IVHの消毒 内側から外側に向かっ て消毒する 消毒薬→ヘキザック AL®液1%、ネグミン使 用 週1回交換 【鑷子の正しい使い方】 消毒薬を浸した綿球を取り扱うときは,液が垂れてこないように 鑷子は下向きにする。 ガーゼ交換の方法 看護師 医師 医師 消毒液は しぼってね 看護師 医師 不潔にしない 看護師 ガーゼの種類 さばけるのは これ! 4つ折ガーゼ 眼科用 ガーゼ ツッペル ガーゼ 5枚4つ折ガーゼ 長折ガーゼ さばきガーゼの作り方 ガーゼはさばきやすい ようにはじめからずらし て折られている 5枚4つおりガーゼの1 と3の角をつかむと ガーゼの対角線上の角 をつかんだことになる それを左右に広げぐる りと丸める 創部の感染が疑われたら? 発赤・腫脹・熱感・疼痛 の観察 ガーゼ汚染の観察(浸 出液の量・性状) 分泌液(浸出液)の細 菌培養検査で起炎菌 を同定 創感染に対する対策は? 創感染の原因:壊死組織(手術による血流不 全)、血腫、体液の貯留(リンパ液・漿液)、脂 肪壊死、異物(縫合糸膿瘍)など 感染縫合糸の抜糸 創の開放(膿のドレナージ):ペンローズドレ ーンの挿入 壊死組織のデブリートメン:攝子やハサミを用 いて施行 感染創処置時の注意事項 感染創の患者の処置は最後に行う 創が2つ以上ある場合、非感染創の創から処置を行 う 創処置の場合はディスポーザブルの手袋を着用し、 浸出液、汚物が多い場合にはガウンを着用する 汚染されたガーゼ類は速やかにビニール袋に入れ て感染性医療廃棄物容器に廃棄する 創処置時にベッドサイドに回診車を持ち込まず、患 者専用のセットを使用する 感染予防 浸出液の臭いや 量などを観察 処置前後に 速乾性手指消毒剤 で消毒を 必要時 感染性 ガウン・エプロン 廃棄物 手袋着用 患者毎に交換 交換車 滅菌物の取り扱いにつ いて 消毒・滅菌方法と滅菌物の 取り扱い 消毒 (Disinfection) 人畜に対し有害な微生物 て、または目的とする対象微 生物だけを殺滅すること ●低水準消毒 ●中水準消毒 ●高水準消毒 滅菌 (Sterilization) 物質中の全ての微生物を 殺滅または除去すること (日本薬局方第14改訂) ●オートクレーブ ●化学的滅菌 【Spauldingの分類】 分類 対象 器具 処理 Critical クリティカル器具 通常、無菌の組織 や血管に挿入さ れ るもの 手術器具 心臓カテーテル 尿路カテーテル インプラント ●滅菌処理 Semicritical 人工呼吸回路 ●高水準消毒 損傷のない粘膜 ●中水準消毒 セミクリティカル器 および創のある皮 麻酔関連器材 具 膚に接触するもの ペッサリーリング 軟性内視鏡、膀胱 鏡など Noncritical ノンクリティカル器 具 損傷のない皮膚 に接触する器具 (粘膜とは接触し ない) モニター類、血圧 計のマンシェット 聴診器、ベッドバ ン、ベッド柵・床頭 台、食器・家具類 松葉杖など ●低水準消毒、ま たは洗浄、清拭 消毒(Disinfection) 高水準 消毒 ・化学的殺菌剤を使った 高度消毒 グルタール30 分~1 時間 過酢酸5 分以上 ・ウオッシャーディスイン フェクターを使った熱水消 毒(80℃,10 分) 中水準 消毒 ・ポピドンヨード ・次亜塩素酸ナトリウム ・アルコール 低水準 消毒 グルタラール(サイデックス ®) 過酢酸(アセサイド®) フタラール(ディスオーバー ®) ネグミン®液 ミルトン® ピューラックス® 消毒エタノール® ・塩化ベンザルコニウム 塩化ベンザルコニウム®液 ・グルコン酸クロルヘキシ ステリクロン® 液 ジン テゴー51 ® ・両面界面活性剤 滅菌 (Sterilization) 高圧蒸気:オートクレーブ(AC)滅菌 滅菌有効期限:3ヶ月間 エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌 滅菌有効期間:3ヶ月間 過酸化水素ガスプラズマ(PZ)滅菌 滅菌有効期間:6ヶ月間 一般的な滅菌法と特徴 滅菌法 滅菌時間 滅菌温度 適応 適応外 高圧蒸気 AC :auto clave ●短い ●121~ 135℃ ●金属製小物 ●リネン類 ●シリコン製品 ●ガラス製品 ●耐熱性のな いもの ●耐水性のな いもの エチレンオ キサイド (酸化エチ レン)ガス EOG ●長い ●滅菌後 のエアレー ションの時 間が必要 ● 55 ~60℃ ●プラスチック製 品 ●カテーテル ●ゴム製品 ●内視鏡 ●55~60℃に 耐えられない もの ●緊急に使用 するもの ●45℃ ●植物繊維 (セルロース) ●長い狭腔を 持つもの 過酸化水 ●短い 素ガスプラ ズマ PZ ●医療器具から プラスチック製品 まで広範囲 【滅菌済みサインの例①:AC】 オートクレーブ前 オートクレーブ後 オートクレーブ滅菌工程を終了すると、オレンジ色 の「AC」の表示がグリーンに変化する 【滅菌済みサインの例②:EO】 EOG 滅菌前 EOG 滅菌後 EOG 滅菌の際に使用するパックのインジケータ 赤がブルーに変化する 【滅菌済みサインの例③:PZ】 プラズマ滅菌の際のインジケータ ピンク→黄色に変化 滅菌パックの開け方 ① 滅菌パックの端をしっかり持 ち,内側(清潔部分)にパックの 端が入らないように気をつける ② 滅菌パックは外側に折り返し ,内側には触れないように気を つける * 開封途中で,万が一,清潔 部分を手で触ってしまったりし た 場合は,すみやかに新しいものと 交換する。 清潔・不潔の区別 滅菌物の保管は,高温・多湿を避け,塵埃で汚染されないよ うな場所で行う 滅菌パックを開ける前に,汚染(汚れ,浸水など)や破損(破 れている)がないか確認する 滅菌有効期限内であることを必ず確認する 開封途中で,万が一清潔部分を手で触ってしまったりした場 合は,すみやかに新しいものと交換する。 テープの貼り方 剥がし方ついて 院内にあるテープ エラテックス メディポアドレッシング キノプレス シルキーテックス トランスポア 優肌絆 テープの貼り方 テープは巻きのまま貼らない!切って中央を貼り、押さえ えてから端を貼る 月刊ナーシング2007Vol.27.No7 P50 より抜粋 ガーゼの固定方法 テープを引っ張って固定すると皮膚も引っ張られズレ・ 摩擦をおこします→緊張性水泡の原因 絆創膏皮膚炎 症状 浸軟 ガーゼ 角質・表皮剥離 緊張性水疱 一時刺激性接触性皮膚炎 アレルギー性接触性皮膚炎 絆創膏 皮膚 伸縮テープの使用方法 テープの剥がし方 ・角度は180度 ・押さえながら剥 がす 半透過性ドレッシングの剥がし方 月刊ナーシング2007Vol.27.No7 P30 より抜粋 ドレーンの挿入部位と 固定について ドレナージの目的による分類 情報的ドレナージ 術後出血や胆汁漏出などの不慮の事態に備えて念のため 腹腔内の状態を把握する目的で短時間だけ挿入する 予防的ドレナージ 治療的ドレナージ 手 術後の細菌感染や浸出液貯留などを防止する目的で行わ れる 腹 膜炎などによる腹腔内腫瘍や貯留した浸出液の排除に対し て行われる ドレーン挿入部位(腹腔内) 腹腔内で浸出液がたまりやすい場所に挿入される 瘻孔・ドレーンのケアガイダンス 日本看護協会出版会より抜粋 ドレーン挿入部位(胸腔内) 排液ドレーン 排気ドレーン 胸腔ドレーン 気胸等の空気漏れが ある場合→肺上部に 挿入 胸腔の炎症などによ り漿液が多量に浸出 した場合、肺下部に 挿入する。 ドレーン固定に使用するテープ (テープの伸びる方向) エラテックス、マルチポアは、 巻きだし方向 シルキーポアは横方向 ドレーンの固定は伸びる方向と垂 直にテープを貼る 伸びる方向に力がかかる場合は、固定性 が弱まる! チューブ固定方法の一例 瘻孔・ドレーンのケアガイダ ンス 日本看護協会出版会 より抜粋 ドレーンの全 周にわたっ てテープを密 着させる チューブ固定方法の一例 テープにスリットを 入れ補強 ドレッシング ドレッシング・ドレーンの固定 3 1 テガダーム エラテックス 2 メディポア (シルキーポア) 3 包帯法 弾性ストッキングの装着方法 について 弾性ストッキングの効果 四肢の静脈血、リンパ液のうっ滞を軽減又は 予防する等、静脈還流の促進を目的に使用 される医療用の弾性ストッキング(腕用の弾 性スリーブも含む)である。末梢から中枢に向 かい漸減的に圧迫を加える機能を有する DVT(深部静脈血栓症) 予防 弾性ストッキングの具体的な効果 弾性ストッキングは足の静脈の血流を改善し 血管の中で血が固まる病気が起こるのを防 ぐ働きがある 手術を受ける患者さんと飛行機に乗っておこ る静脈の血栓症(いわゆるエコノミークラス症 候群)で予防が明らかにされている 弾性ストッキングのはき方 ストッキングを裏返しし、踵から入れる しわのないように持ち上げてはかせる このような履き方にならないように つま先をモニタリングホールか ら出すと指先の血行障害(血の めぐりがわるくなる)や皮膚炎, かぶれを起こすことがある ストッキングの上端部が丸まる と2~3倍の圧力がかかり,皮 膚炎やかぶれ,むくみなどをお こしやすい ストッキングによる圧迫 ストッキングによる圧迫→皮膚障害がある場合は一時的にスト ッキングを主治医と相談の上中止する 毎日履き替えて観察 足背に皮膚障害→フットポンプは下肢をしめるものに変更する 弾力包帯の使用→巻く圧が一定しない、段差で皮膚障害の可 能性があり 御苦労さまでした 実際にやってみましょう!
© Copyright 2024 ExpyDoc