スライド 1

血友病患者のリハビリ
テーション
広島大学病院リハビリテーション部
木村 浩彰
2006.5.28
血友病による運動器の障
害
関節内出血
筋肉内出血→筋肉の直接損傷
中枢神経組織に出血
脳出血・脊髄出血
末梢神経周囲に出血→圧迫による
末梢神経障害
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
関節内出血
2006.5.28
関節内出血の症状
関節部の痛み・腫れ・熱感
関節を動かせない
動きが不自然
使いたがらない・かばう
触ると痛がる
左右の大きさが違う
注意深い観察が必要
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
関節内出血
(膝)
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
出血の初期症状
「ムズムズする」「ひっかか
る」 などの違和感
「痛み」
「熱をもった感じ」
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
関節内出血を生じたら‥‥
製剤の注射⇒止血
家庭輸注/病院
局所の冷却
冷シップ・氷嚢・アイスノンの冷却
血管収縮⇒出血↓
組織の炎症↓
冷やしすぎに注意!
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
出血を生じたら‥‥
しっかり圧迫止血をする
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
関節内出血時の処置:RICE
Rest:安静
Icing:患部の冷却
Compression:圧迫
Elevation:挙上
出血部位を心臓より高くする
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
関節内出血に対する穿刺
関節内の血液は凝固しません。
関節軟骨を損傷します。
補充療法で止血できるので、関節内の
血を抜く(穿刺)は問題ありません。
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
滑膜炎による膝軟骨損傷
関節リウマチ患
者
軟骨が剥がれて、
骨が露出していま
す
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
関節内出血の合併症
下肢短縮⇒骨盤傾斜⇒側弯
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
筋肉内出血
原因:打撲・運動・無理な姿勢での負荷な
ど
血腫による圧迫>血圧となれば止血する
圧迫による組織障害
末梢神経障害
阻血による神経・筋肉の損傷
切断となることもあります。
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
出血の治療
2006.5.28
足関節内出血の慢性期治療
凝固因子の補充
原因となるような運動や生活習慣の有
無
体育で縄跳び、跳び箱、長距離走、幅跳びをして
いた
休み時間にサッカーをしていた。
靴の変更:クッション・足底版
文献的には効果ないようです。
装具・サポーターの使用
運動療法
等尺性運動:関節を動かさない運動
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
血友病の重症度と治療・予
防
凝固因子
重症度
(対正
症
1%以下
中等症
1~5%
軽
5%以上
重
症
2006.5.28
出血頻度
治療・予防
月に数回
関節出血↑
1回の出血⇒数日の製剤投与
補充投与:月平均10回
1回/数ヵ月
関節内出血を繰り返す事+
殆ど無し
抜歯・ケガ⇒補充投与必要
血友病患者のリハビリテーション
出血の予防
運動・生活習慣の制限⇒実際は難しい
親の言うことはきかない
自分で行動制限するには幼い
幼少時からの症状の場合、特におかしいと思わ
ない⇒親に報告しない
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
スポ-ツ活動
安全なスポーツ
エアロビクス、アスレチック、バド
ミントン、バスケットボ-ル、登山、
サイクリング、ゴルフ、乗馬、ボ-
ト、ランニング、ヨット、スケ-ト、
スキ-、スカッシュ、水泳、 テニ
ス、卓球、ヨガ
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
スポーツ活動:注意点
格闘技
剣道:試合は禁止。
柔道・空手:受け身や型の練習は可。試合は禁止。
なわとび・跳び箱:足首の関節内出血に注意
サッカー:足首の変形・出血⇒中止
野球:接触プレーに注意。
鉄棒:転落して頭を強打した時のみ注意。
マラソン:準備運動を十分にする。マラソン大
会などの場合、心配なら予防投与を行う。
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
関節内出血後のリハビリテーション
⇒血が止まったらリハビリに励みましょう
第1段階:等尺性運動
関節は動かさない
つま先を上に向けボールを軽く押さえつ
ける
反動をつけない
1セット:5~20回
1日:1~2セット
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
第2段階:自動介助運動
補助を受けながらゆっくり膝を伸
ばす
反動をつけずにゆっくり元に戻す
1セット 5~20回
1日 1~2セット
(徐々にふやす)
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
第3段階
自動運動
補助なしでゆっくりと膝を伸ばす
反動をつけずにゆっくり元に戻す
1セット 5~20回
1日 1~2セット
(徐々にふやす
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
第4段階
抵抗運動
弾性バンドなどの抵抗を加えてゆっく
りと膝を伸ばす
決して反動をつけない
1セット 5~20回
1日 1~2セット
(筋力に応じ抵抗・回数を
調節する)
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
股関節の
運動療法
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
筋力トレーニングの種類
筋収縮形態
動的収縮
等張性収縮
isotonic
等速性収縮
isokinetic
静的収縮
プライオメトリックス
priometorics
短縮性収縮
concentric
伸張性収縮
eccentric
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
等尺性収縮
isometoric
等張性収縮 isotonic
ダンベルやバーベルを用いた自然な筋収縮
速度が大きくなると、トルクが減少する
トルク:等尺性運動>等張性運動
1回だけ持ち上げられる重さの2/3を8-10
回繰り返す
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
等速性運動isokinetic
運動速度一定
筋力(トルク)の評価
筋力増強訓練
BIODEX SYSTEM 3
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
血友病性関節症
2006.5.28
血友病性関節症
小児期(15歳以下):足首・
肘・膝の順に関節症+
足首の関節:10~15歳の約50%に
関節症+
利き腕・利き足等の左右差なし
危険因子
血友病の重症度
インヒビターの発生
反復する関節内出血
受診間隔↑⇒関節症進行+
2006.5.28
右足関節正面レントゲン写真
血友病患者のリハビリテーション
血友病性関節症
発生頻度: ①膝関節 ②足関節 ③肘関節
易出血性
関節内出血
悪循環を形成
関節破壊
慢性滑膜炎
関節軟骨破壊
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
カテプシンDや酸性
フォスファターゼ等
種々のサイトカイン
による刺激
関節内出血遷延のメカニズム
関節支持性
低下
関節内出血
小児の関節
解剖学的に未熟
遊びが多い
幼少時からの出血+
腫脹・疼痛
筋力低下
出血に慣れている:
運動制限困難
安静・固定
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
血友病性関節症:DePalmaの分類
グレード1.
グレード2.
グレード1.
関節自体に変化はないものの、
出血により関節に痛みやX線撮
影で腫れたように陰が見られま
す。
グレード2.
グレード4.
グレード3.
止血治療が十分でなかったり、
何回も同じ関節に出血が繰り返
されると、滑膜が厚くなり慢性
的な痛みが生じることもありま
す(滑膜炎)。骨端部は萎縮し
たり過成長したりしてきますが、
関節の働き(機能)は保たれま
す。
グレード3.
骨先端の変化はさらに進み、軟
骨表面が破壊され変形が見られ
ます。関節面の隙間が狭くなり、
関節面がかみ合わなくなるため
に動かした時の痛みは強くなり
ます。関節の働き(機能)が少
しづつ悪くなっていきます。
グレード4.
2006.5.28
関節面の隙間がほとんどなくな
り、骨端部も硬くなり、関節を
血友病患者のリハビリテーション
動かすことができなくなります。
レントゲン写真評価:Pettersson score
(以下P score)
評価項目
所見:点数
骨粗鬆症
なし: 0、 ある: 1
骨端核の拡大
なし: 0、 ある: 1
不規則な軟骨下骨表面
なし: 0、 部分的: 1、 全体的: 2
関節裂隙の狭小化
なし: 0、 関節裂隙1mm以上: 1、
関節裂隙1mm以下: 2
軟骨下骨嚢胞の形成
なし: 0、 1つ: 1、 1つ以上: 2
関節端の不整
なし: 0、 ある: 1
関節面の不一致
なし: 0、 わずか: 1、 明白: 2
関節変形(角ばっている、変位)
なし: 0、 わずか: 1、 明白: 2
合計
1)
0点(正常)~13点(最大増悪)
Holger Pettersson,et
al.: A Radiologic Classification
of Hemophilic Arthropathy. Clinical
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
Orthopaedics and Related Research 149:153-159, 1980
血友病性関節症:疼痛とP score
T.Wallny et al.Haemophilia,8:802-808,2002.
血友病性関節症60例
レントゲン写真:Pettersson scale (P score)
疼痛:visual analogue scale
P score↑
(悪化)
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
疼痛↑
血友病性関節症:疼痛と日常生活動作
T.Wallny et al.Haemophilia,8:802-808,2002.
血友病性関節症60例
疼痛:visual analogue scale
日常生活動作:世界血友病連合のスコアリングシステム使用
日常生活
動作↓
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
疼痛↑
血友病性関節症の治療
凝固因子の補充 (予防的補充療法)
約79%の関節症を予防(Lofquvist、1997)
インヒビター陽性例や関節症進行例に対する効果は低い(Arnold
ら、1977)、(Lofquvistら、1997)
理学療法
RICE処置(急性期)
運動療法
装具療法
手術
滑膜切除術
人工関節置換術
関節固定術
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
血友病性足関節症
2006.5.28
血友病性関節症の発生頻
度
足首は10歳以下から発症
肘・膝は20歳以上で著明
足首の関節
2006.5.28
肘関節
血友病患者のリハビリテーション
膝関節
足関節内出血が多い理由
足関節の解剖学的特徴
立位面の不整を代償
底屈・不安定⇔背屈・固定
いろいろな方向に動く⇔捻挫しやすい
関節が小さいので単位面積当の圧力↑
筋肉で被覆されていない⇒鍛えられない
⇒立位し始めてすぐに関節内出血が生じる?
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
足関節内出血/血友病性
足関節症の予防
北欧では1-2歳から定期的補充療法を
開始し、関節症の発症予防効果あり。
何歳から定期的補充療法をすべきかは
難しい問題ですが、足関節内出血を予
防するためには立位可能となる頃から
治療を開始すべきと考えます。
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
装具療法:足関節
金属支柱付AFO
大きくて重い・外観不良
AFOにより関節内出血↓可能
両親がAFO装着を強制して欲しい。
小学校高学年になると、装具のメリットを本人も理解で
きるようになり、率先して装具を装着するようになりま
す。
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
装具療法:足関節
プラスティックAFO
装着容易・外観良好
固定性:プラスティック<金属支柱
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
装着の容易なプラスティックAFO
急性期の安静には有用?
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
我々が考案した短下肢装具AFO
②
筋肉内出血の予防
①内張りを追加
②エッジを丸める
③下腿前面パッドを作成
強固な固定
金属支柱式継手
足関節内外反を制動
底背屈は制動なし
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
③
①
AFOの効果をレントゲン写真で評価
血友病性足関節症:AFOを処方した10名17関
節
初診時年齢:5~27歳(平均10.9歳)
血友病重症度
重症(凝固因子<1%) : 8名
中等症(1%≦ <5%): 1名
軽症(5%≦ <25%) : 1名
経過観察期間:1年~10年2ヶ月(平均4年4ヶ月)
予防的補充療法 開始時年齢:5ヶ月~3歳2ヶ月(平
均1歳2ヶ月)
装具療法 開始時年齢:5~21歳(平均10.9歳)
インヒビター:陽性(1名)、 陰性(9名)
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
P scoreの推移 (n=17)
13
増悪
P score
※
※
※AFO装着頻度↓
改善
0
初診時
最終評価時
増悪9関節・維持7関節・改善1関節
P score 0.18点/年で増加(悪化)
増悪した9関節中8関節(89%)は6~12歳の
学童期であった
Pscore:0.32点/年
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
装具療法の利点
関節症進行の予防
Fischerら:加齢ともに進行(1.04点/
年)
装具療法により0.18点/年に抑制
学童期においても有効(0.32点/年)
骨粗鬆症の予防
廃用による骨粗鬆症:2関節(12%)のみ
装具によって十分な体重負荷可能
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
装具療法の課題
外観が悪い
いじめの原因
本人/両親/周囲の理解と協力
廃用性の筋萎縮がおこる
足関節の可動域制限/不安定性は生じない
等尺性運動療法の指導
装具料金の自己負担あり
→
一旦全額を立替払いし、その後保険から給付
小児慢性特定疾患:装具料金は対象外
育成医療は使えないのか(料金の1割負担)
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
装具療法のコスト
早期補充療法のコストから比較すると
僅か
インヒビターを生じている方に有用
か?
発展途上国の血友病治療に有用か?
小児特定疾患では、医療用装具の費用
は担保されない。
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
靴型装具
文献的には否定的
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
装具の有無による足関節への衝
撃
三次元動作解析装置VICON 612
装具無し
金属支柱付きAFO
プラスティックAFO
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
血友病性膝関節症
2006.5.28
関節内出血:膝関節
膝周囲筋の筋力増強⇒膝関節制動性↑
適切な運動療法+装具による関節制御
運動を前提とした関節内出血の予防・制御
靭帯損傷用膝装具:DONJOYなど
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
カーボン製短下肢装具AFO
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
カーボン製装具
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
膝関節滑膜炎
2006.5.28
正常
滑膜増生
血友病患者のリハビリテーション
慢性血友病性滑膜炎の治
療 Haemophilia,7:1-5,2001.
E.C.Rodriguez-Merchan
化学的
放射性
外科的
方法
Osmic酸
リファンピシン
Gold-198
Yttrium-90
Phosphorus-32
手術
関節鏡
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
効果
45%
85%
70%
85%
85%
70%
70%
両膝血友病性関節症
右
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
右人工膝関節置換術
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
自家関節軟骨細胞移植
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
血友病性股関節症
2006.5.28
左血友病性股関節症
右
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
人工股関節置換術後(TPP)
右
右
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
血友病性肘関節症
2006.5.28
左血友病性肘関節症
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
関節内出血:肘関節
屈曲+回旋:理想的な装具なし
局所の固定は可能
装具の適応↓
荷重関節でない
自分で痛くないようにコントロール可能
日常生活動作の影響↓(両側性は重度)
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
肘関節の装具
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
血友病のリハビリ
テーション
2006.5.28
医学の関心の方向
リハビリテーション
現
代
医
学
2006.5.28
医
学
血友病患者のリハビリテーション
国際生活機能分類(ICF)
健康状態
心身機能・構造
<機能障害>
活動
<活動制限>
環境因子
物的環境
人的環境
社会的な制度やサービス
2006.5.28
参加
<参加制約>
個人因子
性別・年齢
ライフスタイル
価値観
意欲
血友病患者のリハビリテーション
ICF:人が「生きる」
事
生命の面ばかりでなく、これらをトータ
ルに向上させることが重要である
心身
機能
活 動
参 加
生 命
生 活
人 生
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
リハビリテーション:チーム医療
理学
療法士
リハ医
作業
療法士
患者
MSW
MSW:
医療ソーシャルワーカー
2006.5.28
言語
聴覚士
義肢
装具士
主治医
看護師
血友病患者のリハビリテーション
使える物は何でも使います!
医療保険
インフォーマル
サービス
身体障害福祉
→自立支援
介護保険
年金
生命保険
2006.5.28
保健(行政)
血友病患者のリハビリテーション
関節破壊++⇒身体障害者手帳
利点
税金の減額
障害者雇用均等法の活用
身障4級以上で公務員試験を2回受験可
ハローワークでも別枠で対応
障害基礎年金受給
自家用車の駐車禁止除外申請
教育
義務教育中:先生の加配
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
リハビリテーションの
過程
マイナスの減少
⇒障害を軽減させる
プラスの増大
⇒潜在能力の開発・増進
障害受容を促進し、新し
い生活を提案する
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション
リハビリテーションの目標
最高のQOLの
実現
QOL:人生の質⇒人によって異なる!
2006.5.28
血友病患者のリハビリテーション