達成目標理論における 目標概念の変遷

達成目標理論研究の展望
~目標概念の変遷に着目して~
東京大学大学院教育学研究科
教育心理学コース博士課程1年
村山 航
本レビューの構成
1.達成目標理論の登場と発展
Dweck, Nicholls, Ames
2.多目標視点の登場
Wentzel
3.三目標視点の登場とその発展
Elliot
4.今後の展望
本レビューの構成
1.達成目標理論の登場と発展
Dweck, Nicholls, Ames
2.多目標視点の登場
Wentzel
3.三目標視点の登場とその発展
Elliot
4.今後の展望
Carol S. Dweck
Carole Ames
達成目標理論とは
達成状況において学習者が認知する
Achievement Goal Theory 「目標」が,学習者の認知・行動・動
機・感情に影響を与える,という理論.
達成目標理論
通常のテキストに掲載されている「達成目標」は2種類
Dichotomous Framework
Mastery Goal
(以後“MG”)
Performance Goal
(以後“PG”)
:課題を習得し,能力を高めるのが目標
= “ improve one’s ability ”
:自他に対し自分の能力の高さを示し,悪
い評価を避けるのが目標
= “ prove one’s ability “
達成目標理論の変遷
1970‘s
1990‘s
Dweck
完成
(LH)
Weiner
Nicholls
(原因帰属)
(能力観発
達)
Ames&Archer
(1987, 1988)
Ames
(目標構
造)
これまでの教室研究
Ames
(1992)
Dweckの理論
学習性無力感における帰属の「個人差」
⇒目標の違いに着目
Diener&Dweck(1978, 1980)
Learning Goal(LG)≒MG
Performance Goal(PG)≒PG
モデル:Dweck(1986), Dweck&Leggett(1988)
暗黙の知能観
増大的知能観
(incremental
theory)
固定的知能観
(entity theory)
達成目標
LG
PG
有能感
Orientation
高
Mastery-Orient
低
Mastery-Orient
高
Mastery-Orient
低
Helpless
Nichollsの理論
能力概念の発達理論
Nicholls(1979)
(←原因帰属理
論)
未分化概念(~7歳):努力=能力
分化概念(11歳~):能力-努力のトレードオフ(逆補償シェマ)
モデル:Nicholls(1984):上記の理論を達成場面に援用
大前提
人はCompetenceを
追求する
Competenceの定義
Involvement
未分化概念
Task-involvement
(≒MG)
分化概念
Ego-involvement
(≒PG)
Amesの理論
目標構造研究 (焦点はperformance)
動機づけに着目
Ames&Ames(1984)
競争的目標構造
Ability Focus (≒PG)
個人的目標構造
Mastery Focus (≒MG)
協同的目標構造
(Moral Responsibility Focus)
原因帰属・LHの個人差
状況変数に着目
e.g. Diener&Dweck(1978, 1980)
(Ames, et al. 1979, Ames 1984)
Ames & Archerの統合
Dweck
Learning Goal
&
Performance Goal
Nicholls
Task-Involvement
&
Ego-Involvement
Ames
Mastery Focus
&
Ability Focus
&
Performance Goal
(PG)
Ames&Archer Mastery Goal
(1987, 1988)
(MG)
Ames
(1992)
ただし
完成:授業研究のレビュー
「緩い統合」:概念的定義の検討が不十分
達成目標理論の意義Ⅰ
MGにおける,学習諸変数との高い相関
・認知的方略(Graham&Golan, 1991; Nolen, 1988など)
・メタ認知的方略(Nolen&Haladyna, 1990など)
・自己効力感(Pintrich&DeGroot, 1990など)
・内発的動機づけ(Heyman&Dweck, 1991など)
・原因帰属(Ames, 1984; 杉浦, 1996など)
・Instrumental Help-Seeking(Butler&Neuman 1995; Newman, 1998)
etc,,,,,
ただし
「学業成績」に関しては一貫せず
(Elliot & Church, 1997; Roeser, Midgley, & Utman, 1997など)
達成目標理論の意義Ⅱ
「操作可能性」:誘導(実験操作)を行いやすい
他者比較を強調するだけで,PGに誘導可能
(e.g.Elliot & Harackiewicz, 1996)
・達成動機づけ研究への示唆:動機づけ変数の因果制御が可能
達成目標
学習方略
※モデルとして定式化しやすい
・教育実践への示唆:比較的容易に実践しやすい
ただし
「実際の教室」はそれほど単純ではない
(Ames, 1992; Urdan, 1997; e.g. Covington & Omelich, 1984など)
Ames & Archer後の展開
1980‘s
(Dichotomous Framework)
1990‘s
Dweck
完成
(LH)
Nicholls
(能力観発
達)
Ames&Archer
(1987, 1988)
Ames
(1992)
Ames
(目標構
造)
これまでの教室研究
Wentzel
(多目標視点)
Elliot
(三目標視点)
本レビューの構成
1.達成目標理論の登場と発展
Dweck, Nicholls, Ames
2.多目標視点の登場
Wentzel
3.三目標視点の登場とその発展
Elliot
4.今後の展望
Kathryn R. Wentzel
多目標視点とは
(Multiple Goals Perspective)
学校での「目標」に関するボトムアップ的アプローチ
(Wentzel, 1989, 1991)
「多目標視点」の提唱
2種類の多目標理論
・多目標視点Ⅰ:MG, PG以外の目標の提唱
・多目標視点Ⅱ:MGとPGの組み合わせを重視
多目標視点Ⅰ
MG, PG以外の目標 = “Social
提言
Goals”
:Ames(1992)の批判
Blumenfeld(1992)ほか
実証
Wentzel(1989, 1991)ほか
レビュー
Social Responsibility Goal:学校成績と正の関係
Social Interaction Goal
:定義の精緻化・要因/結果の整理
Urdan&Maehr(1995)ほか
Elliot(1999):「Social Goalは達成状況で目指される目標で
あっても『達成目標』自身(per se)ではない」
=Social GoalはCompetenceを追求していない
多目標視点Ⅱ
質問紙調査:MG, PGは一貫して「直交」
学習者はMG, PGを同時に持ちうる!
「組み合わせ」の効果を検討
分析手法
・Median Split:Bouffard, et al.(1995), Pintrich(2000)など
・クラスタ分析:Meece&Holt(1993), Riveiro, et al.(2001)など
・一般線形モデルの交互作用:Harackiewicz, Barron, et al.(1997)など
多目標視点Ⅱ
HMG
LMG
LPG
HPG
両者もしくはMGに正
の主効果(=additive)
LPG
HPG
PGに抑制の効果
Pintrich&Garcia(1991)
Ames&Archer(1988)
Bouffard, et al.(1995, 1998)
Meece, et al.(1988)
Pintrich(2000), Riveiro, et al(2001)
LPG
HPG
両者の促進的交互
作用(=multiplicative)
Wentzel(1993)
「旨み」のある結果は得られていない?
多目標視点Ⅱ
違う目標は違う変数
に影響を与える?
HMG
LMG
動機づけ
成績
MG+PGが適応的
(Barron, et al, 2001)
LPG
今後の検討の必要性
LPG
HPG
HPG
動機づけ
成績
MG+PGが中庸
(Elliot&Church, 1997)
LPG
HPG
LPG
HPG
多目標視点の意義
・学業場面における目標の多様さを指摘(多目標理論Ⅰ)
※目標の数を増やすべきか?:R2とOccam’s Razor
・達成目標理論の「分析枠組み」を提供(多目標理論Ⅱ)
:三目標理論にも適用可能
・“Goal Coordination”方略の示唆(Wentzel, 2000)
本レビューの構成
1.達成目標理論の登場と発展
Dweck, Nicholls, Ames
2.多目標視点の登場
Wentzel
3.三目標視点の登場とその発展
Elliot
4.今後の展望
Andrew J. Elliot
三目標視点登場の背景
(Trichotomous Framework)
従来の達成目標理論の問題点
=PGの予測的妥当性の低さ
解釈案
PGが適応的な結果を生
むか否かが一貫せず
1.有能感による交互作用を未統制:オリジナルからの解釈
2.個人差変数を未考慮
3.PGの概念化が不明確:再概念化⇒三目標視点
(4.目標の組み合わせを未考慮:多目標視点Ⅱからの解
釈)
有能感による解釈
Dweck&Leggett(1988)のモデル(復習)
暗黙の知能観
増大的知能観
(incremental
theory)
固定的知能観
(entity theory)
達成目標
LG
PG
有能感
Orientation
高
Mastery-Orient
低
Mastery-Orient
高
Mastery-Orient
低
Helpless
結果の非一貫性は,有能感を統制していないから生じる
交互作用の検討
有能感による解釈
支持
実験研究
相関研究
不支持
Elliott&Dweck(1988)
Butler(1992)
Harackiewicz&Elliot(1993)
Barron, et al.(2001) study2
Barron, et al.(2001) Study1
Miller, et al(1993)
Kaplan&Midgley(1997)
Harackiewicz, et al.(1997)
有能感による解釈は一貫せず⇒他の枠組みの必要性
個人差変数による解釈
目標
従属変数
個人差変数
・特性的な達成目標
状況的な達成目標が特性的な達成目標の効果を排除する
(Newman, 1998)
・達成志向(Achievement Orientation)
達成目標と達成志向の交互作用:達成志向高⇒PG適応的
(Harackiewicz&Elliot, 1993)
個人差変数による解釈
個人差変数はModeratorではなく先行要因ではないのか?
Assigned GoalとSelf-Set Goalの区別の必要性(Barron, et al.
2001)
Assigned Goal
実験操作
目標の
決定
個人差変数
Self-Set Goal
個人差変数
結果変数
目標の
決定
結果変数
個人差変数による差が見られるのはAssigned Goalのみ!
しかし,非一貫性は調査研究で多く生じている⇒他の枠組み
三目標視点の登場
PG再概念化の動き
Hayamizu(1989):
PαG
& PβG
Elliot&Harackiewicz(1996):
Performance-Approach & Performance-Avoidance Goal
Skaalvik(1997): Self-Enhancing & Self-Defeating Ego Orientation
Urdan(1997):
Relative Ability & Extrinsic Goal
内容的に同一
後,ElliotのPerformance-Approach(Pap),
Performance-Avoidance(Pav)の枠組みが主流に
理論-実証的基盤
三目標視点とは
鍵概念は“Competence”
Elliot(1999)
Definition
絶対的/個人内
Nicholls
相対的
Valence
ポジティブ
(Approaching
Success)
Mastery-Approach
Goal(MG)
PerformanceApproach Goal
ネガティブ
(Avoiding
Failure)
MasteryAvoidance Goal
PerformanceAvoidance Goal
Atkinson
cf. Elliot&McGregor(2001)
三目標視点の意義
・PGの予測的妥当性の低さを解消
メタ分析でこれまでの研究の非一貫性を説明(Rawthorne&Elliot, 1999)
調査研究の非一貫性もレビューで解釈(Elliot&Church, 1997)
新たな研究でも三目標視点の枠組みの有用性を示唆
(Elliot & Harackiewicz, 1996)
・PGのポジティブな側面(=approach)に光を当てる
実際の教室場面では競争は不可避(cf. Blumenfeld, 1992)
←MGが最重要なのは認めるべき(Midgley, Kaplan, & Middleton,
2001)
・理論的・実証的基盤が厚い
レビュー・実証研究の数が多い
Elliotの2001年度APA award受賞
本レビューの構成
1.達成目標理論の登場と発展
Dweck, Nicholls, Ames
2.多目標視点の登場
Wentzel
3.三目標視点の登場とその発展
Elliot
4.今後の展望
Photo by Tomokazu Haebara
今後の展望
2つの方向性
・理論志向型研究:Elliot, Harackiewiczら
・教育志向型研究:Middleton, Midgley, Ryan, Pintrichら
理論志向型の研究Ⅰ
理論志向型研究
・例:Hierarchical Model…点線は負の効果(Elliot & Church, 1997)
達成動機
達成目標
達成行動
MG
成功欲求
動機づけ
Pap
失敗回避
成績
Pav
有能感
特性不安
状態不安(Elliot&McGregor, 1999)
理論指向型の研究Ⅱ
理論志向型研究:達成動機づけ理論の統合
学業成績
自己効力
状態不安
成功欲求
失敗恐怖
特性不安
達成目標
Target Goal
原因帰属
内発的
動機づけ
教育志向型の研究
教育場面での調査研究
懸案点
・殆どが調査研究
擬相関の可能性
←知能などを統制した研究
方法論固有の分散が蓄積(cf. Renkl, et al. 1996)
←観察などの方法論の併用と妥当化
(e.g. Turner, et al. 2002)
・達成目標理論は,教室における豊かな動機づけ構造を包
括的に記述できているわけではない(e.g. 社会的目標)
←適用範囲の自覚化
The End of Presentation
Thank you!
Murayama Kou
Special Thanks to
Masaharu KAGE
Masahiro NASU