コモンズの悲劇と都市空間 中前太佑 コモンズの悲劇とは 生物学者のギャレット・ハーディンが 1968年に『サイエンス』に論文「The Tragedy of Commons」を発表したことで、一般に広く認知さ れるように。 コモンズの悲劇とは(牧草地の例) 共有地たる牧草地に複数の農民が牛を放牧 農民は利益の最大化を求めてより多くの牛を放牧。 共有地では、自身が牛を増やさないと、他の農民が牛を 増やしてしまい、自身の取り分が減ってしまうので、牛を 増やし続ける結果になる。 農民が共有地を自由に利用する限り、資源である牧草 が枯渇し、すべての農民が被害を受けることになる。 コモンズの悲劇とは 共同歩調を取れば、コモンズを利用する人、全 員が利益を増すことが出来る しかし、交渉なしに単独で自己利益を追求しよう とすると、結果的には、いずれの人の利益も減 少させることになる。 都市空間における「コモンズの悲劇」 ~屋外広告物を例に~ 公共空間を自由に利用できる ある人が派手な広告物を掲示すると、他の人が経済的 利益の最大化を図るため、より派手な広告を掲げるよう になる 負のスパイラルに陥り、公共空間は侵されていく コモンズの悲劇~解決策は?~ 利害関係者に所有権を与えて管理させる =共有地を分割・私有地化することで「コモンズの悲劇」 を防ぐ方策。 (私有地であれば、むやみやたらと牛の数を増やし続けようとはしない。) 「コモンズ」の形を残しつつも、課税や利用の禁止などの “規制”を用いる =“公的管理”により「コモンズの悲劇」を防ぐ方策。 「コモンズの悲劇」に対する批判 後の実証研究から判明したこと ⇒実際にコモンズの悲劇が起こるのはその共有地が オープンアクセス(非排除性・誰でも自由に使用できる)の場合に限ら れる。 伝統社会や地域コミュニティには、アクセスに制限があ るコモンズが存在(ローカル・コモンズ)。 ローカル・コモンズは、地域コミュニティの他のメンバー の利益に配慮しながら利用される。そこで、フリーライ ダー(ただ乗り)やモラルハザードが抑制される。 なぜ、「ローカルコモンズ」では、 モラルハザードが発生しにくいのか? 経済学者は“囚人のジレンマ”の「繰り返しゲー ム」で説明。 自分の利得は、自分が「非協力」の場合の方が大きくなる⇒1回限りのゲー ムでは、合理的な個人は非協力を選択(相手も同様) ⇒コモンズの悲劇発生 しかし、これを歴史的に繰り返すうちに、共に「協 力」という選択肢を選ぶルールが発生してくる。 日本の街並みは美しくないのか? 日本の都市の景観を欧州の都市と比較して どう思いますか ?(日本人に対して)社団法人中部開発センター2005年 日本の街並みは美しくないのか? 日本の都市の景観をあなたの国の都市と 比較してどう思いますか (外国人に対して)?社団法人中部開発セン ター2005年 日本の町の景観で美しいと思うのは どこですか(日本人に対して)? 日本の町の景観で美しいと思うのは どこですか(外国人に対して)? 日本の街並みは美しくないのか? 比較できないと答える割合は高いが、人々の意 識の中には、ヨーロッパ・アメリカ・オセアニアと 比べて、我が国の景観は良好ではないという印 象がある。 国を問わず、美しい街並みとは、「歴史ある伝統 的な街並み」・「眺望のよい海や山」である答え る人が多いのに対し、「ビルが立ち並ぶ都市の 中心部」と答える人は概して多くない。 我が国の建築確認制度 土地=個人の所有(公共空間という側面は強調されず) 「建築自由の原則」 建築「確認」 =行政サイドに裁量の余地のない行政行為 =「建築物の敷地・構造・設備及び用途に関する最低の基準」を定 めたものにすぎない。 ①法律の条文に明確に反していなければ確認を出さざるを得ない。 確認の対象となる法令に街づくり条例等の自主条例は含まず。 ②都市計画のマスタープランに適合するかどうかが、建築確認の条 件にされていない。住民参加・情報公開・事前手続きも欠如 我が国の建築確認制度(問題点) 一棟なら容積率で禁止されるような建築物が多数棟を 一棟と見なせば違反にならなくなったり、途中の階の床 を地面として下の階を地下と見なせば、高層建築物が規 制されている地区に高層建築物を建てられたりする。 これにより、七階建が低層扱いになったり、面積十五平 方メートルの家が建ったり、平屋の隣に三十階建マン ションなど、良好な環境及び景観を破壊する反社会的建 築物が「合法的」に建っている。 ドイツの建築審査制度 「建築不自由の原則」 「土地利用計画」たるFプランは、市町村が、将来の土地 利用の方向付けを行うプランで、中・長期的な都市の将 来像を図面に描くもの。行政内部にのみ拘束力あり。私 人には直接の拘束力は持たず。この時点で住民参加の 手続きあり。 Fプランをベースとし、「地区詳細計画(Bプラン)」がつく られ、これが私人に拘束力をもつ。土地の一区画毎に容 積率、建蔽率、建築物の高さ、屋根の角度など詳細なも のとなっている。一区画毎に建物の外観を規制できる。 ドイツの建築審査制度 美しい景観を担保するもの ドイツ=「建築不自由の原則」 ⇒構造上の安全のみならず、統一的な景観 を実現するため詳細な規制が存在 ⇒厳格なルールの下、「コモンズの悲劇」を 発生させないようにしている。 日本=「建築自由の原則」 ⇒構造上の安全を満たせば自由に建築。 我が国における新たな取り組み 2003年7月 「美しい国づくり政策大綱」 発表 「都市には電線が張り巡らされ、緑が少なく、 家々はブロック塀で囲まれ、ビルの高さは不揃 いであり、看板・標識が雑然と立ち並び、美しさ とはほど遠い風景となっている。」との認識を示 す。 これを受けて、2004年に景観法を制定。 ⇒景観を理由に建築を規制することが可能に。 宇治市 平等院の景観論争 2005年に市が実施した調査で、周辺住民の 89%が「高さ制限の見直しを行うべき」と回答。 ⇒06年1月、新たに建てられる建物の高さは20 メートルまでに規制。 ⇒景観法上の「景観行政団体」になり、2007年度 に、建物の形や色が周囲となじまない場合、デ ザインの変更を命じることのできる制度を制定。 「景観行政団体」とは・・・ 景観法に基づき、良好な街並みを保つため建物 の高さやデザイン、外観などについて独自の計 画(景観計画)を作ることができる地方自治体。 計画に沿わない建物には変更命令を出すことが でき、従わない者には罰則を科すこともできる。 都道府県と政令指定都市、中核市は自動的に 景観行政団体になっており、その他の市区町村 は都道府県が同意すればなれる。 京都市の景観政策 京都市では、2007年9月から、古都の景観を守るため、厳しい高さ 制限を盛り込んだ新たな景観規制を開始。 高さ制限(中心市街地): 45メートル(15階建て相当)⇒31メートル(10階相当)に引き下げ 「清水寺から見下ろした町並み」「賀茂川から見上げた大文字の送 り火」など、京都を代表する眺めを遮る建物の高さなども規制。 新しい規制を上回る高さのマンションやビルは約1800棟もあり、建 て替え時には現状より低くする必要が出てくる。 暮らしやすい京都の住環境を考える会 インタビュー マンションに住む市民らでつくる私たちの会としては、新 しい景観政策は納得できない。 大量のマンションやビルが、新しいルールにそぐわない 「既存不適格」となっており、将来建て替えようと思っても 同じ大きさの建物は造れなくなる。今の場所に住み続け たいなら、建物の寿命ギリギリまでマンションを残してお かなければならない。 結局、厳格な高さ規制により、マンションビルの立替が 進まず、街全体が老朽化し景観が悪化する可能性を指 摘している。 ⇒住民側も一枚岩ではない 今後の課題 「ローカルコモンズ」の応用は出来ないか? 規制に基づく景観の確保には、限界がある 私権の制限や代執行などの手続きは人権に優し いとはいえない。 そもそも、日本とヨーロッパでは景観に対する意 識が違う⇒同程度の規制がいきなり受け入れら れるのか? 「ローカルコモンズ」の考え方を応用した景観保 護制度設計の可能性を探りたい
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