社会統計 第11回 多重分割表分析の論理(第10章) 寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 [email protected] イントロダクション • ここまでは,主に,2変数間の関係を検討して きた – 2変数の分割表 – 1要因分散分析 • 第10章と第11章では,3変数以上の関係を検 討する.多変量解析(multivariate analysis) – 多重分割表(multivariate contingency table) – 重回帰分析(multiple regression analysis) 10.1 . 付加変数の統制 • イギリスでは,コウノトリの多い地域では,出生 率が高い.コウノトリが赤ちゃんを連れてくるの だろうか? – 参考:太郎丸『カテゴリカル・データ解析入門』第6章 – 10.1.1節では,イギリスではなくオランダとしている. • X と Y に共変動(covariation)が見られても,それ は直ちに因果関係の存在を意味しない. – X が Y に影響(間に Z を媒介する場合も含む) – Y が X に影響 – 第3の変数 Z が X と Y の両方に影響 • 都市化が進むと,コウノトリの数は少なくなり, 出生率も下がる. コウノトリの数 都市化の程度 出生率 • コウノトリの数と出生率の間に因果関係が まったく存在しないことは,常識的に明らか. – これは明らかに,みかけの共変動 – 一般に,2変数間の関係を明確化するために,こ の関係に混入しうる第3の変数の影響を統制す る必要がある. • 2変数の真の関係を明確にするために,他の 変数(Z)の影響を統制したい. – 2変数間の真の共変動がどれだけあるかを確か めるには,みかけ上の共変動から他変数に起因 する部分を除去する必要がある. • 実験における変数の統制 – 恒常化:どの条件においても,変数の影響を一定 にする – 無作為化:変数の影響をランダムにする. • 調査研究では,実験のような変数統制ができ ないことがほとんど. – 研究対象となる人あるいはものの属性を,研究 者が物理的に操作できない. • 2変数の関係に影響すると考えられる付加変 数を確定し,その付加変数を測定し,統計的 操作によって付加変数の影響を統制する. • 2変数関係に影響する要因のすべてを識別し て分析に加えることは不可能. • したがって,付加変数として何を取り上げるか を決めるために,理論が極めて重要となる. • 2変数間関係に他変数が混入するパターン – 疑似関係(疑似相関) – 媒介関係 – 複合因果 10.1.1. 疑似関係 • 疑似関係(spuriousness):2変数 X と Y の共 通原因となっている別の変数 Z が存在するた めに,2変数 X と Y の間に相関関係(疑似相 関,spurious correlation)が見られること. – 例:コウノトリの数(X)と出生率(Y) • 因果関係を主張するために必要なこと – 時間的順序 – 理論的説明 – 疑似相関の検討 • 興味ある2変数間に因果関係はないが,共通 する原因変数が2変数間に共変動をもたらし ている場合,その共通原因の影響を統計的 に一定に保つことによって,見かけ上の共変 動を除去できる. • 統計的統制を行っても共変動関係が残れば, 2変数間に因果関係が存在する可能性は高 くなる. 10.1.2. 媒介関係 • 媒介関係(intervening relation):独立変数と 従属変数を媒介する変数が存在する関係. – 例:年齢(X)と道徳的保守性(Y)を信仰の強さ (Z)が媒介.信仰の強さを一定にすれば(たとえ ば,信仰の程度が同程度の人を集めれば),年 齢と道徳的保守性の共変動は小さくなる. X Z 媒介関係 Y • 直接効果と間接効果 直接効果 X Y 間接効果 Z 直接効果がなくても,X と Y の相関を疑似相関とは言わ ない.間接的とはいえ,因果関係が存在するから. • 媒介関係と疑似関係 X Y Z X Y Z • 疑似関係と媒介関係は,第3の変数の影響 を一定に保ったときに興味ある2変数の共変 動関係が小さくなるという点において同じ. • しかし,関係の実質的意味は異なる. • 疑似関係なのか媒介関係なのかは,統計分 析からは決定できない.理論や,解釈のしや すさから決まる. 10.1.3. 複合因果 • 人間の行動が単一要因によるものだと断定 する社会理論はほとんどない. • 複合因果(multiple causation):原因となる変 数が複数ある因果関係 • 興味ある従属変数に対して,複数の独立変 数が持つ,複合的で同時的な関係を検討す る. • 検討されるもの – 独立変数(要因)の集合全体としての効果 – 疑似関係や媒介関係を統制したときの,独立変数そ れぞれの効果(相対的な重要性) – 要因の組み合わせの効果(交互作用) • 分析方法 – 多要因の分散分析 – 重回帰分析 – 多重分割表の分析(疑似関係,媒介関係の分析によ く用いられる) 10.2. 2×2 表における 第3の変数の統制 • 多重クロス表:3変数以上の変数のクロス表 • 2変数間の関係がクロス表に整理されている とする.このとき,第3の変数の影響を検討す るために,3重クロス表を用いる. – 立体的な表を作ることは難しいので,第3の変数 の値に応じて,2重クロス表を複数作成する. – ここでは,どの変数も2値変数である場合を説明 する. 2×2×2表 10.2.1. 仮想例:家族の信仰と 10代の性行動 • 零次の表(zero-order table):統制される変数 がない分割表 • 信仰の強さと婚前性交の間に相関関係 家族は信仰深い? いいえ [0] はい [1] 計 39.1% 16.0% 27.1% 婚前性交 ある [1] 60.9% 84.0% 72.9% ない [0] 計 100% (92) 100% (100) 100% (192) ファイ係数:φ = -0.26 • 家族の信仰と婚前性交との関係に,何らかの 第3の変数は存在するか? – 性体験を促す機会が頻繁にあるかどうかが,婚 前性交の有無に影響するのでは? – 信仰深い家庭は,行動への束縛が強く,そうした 機会が少ないのでは? – 自動車を日常的に使用しているかどうかを,第3 の変数として検討してみてはどうだろうか. • 第3の変数の影響を検討するために,1次の 表(first-order table)を作る. – 第3の変数のカテゴリごとに,興味ある2変数の クロス表を作成する. – 次数は統制される変数の数を表す. • これにより,第3の変数の影響を一定にして (第3の変数の影響が同じ部分ごとに),興味 ある2変数間の関係を検討できる. 10.2.2. 第3変数に効果がない場合 • 1次の表(下位表)で認められる関係が,零次 の表で認められる関係と変わらなかったとす る(次のスライド).このとき,第3の変数は (零次の表での)共変動に効果を持たない. – 条件つき相関係数(conditional correlation coefficient):第3の変数ごとに作った分割表(下 位表)におけるファイ係数.これらの値はほぼ同 じで,零次の表でのファイ係数と変わらない. – オッズ比も変化していない.(確かめてみよ) 家族は信仰深い? いいえ はい 39.7% 15.9% 自動車を日常的に 使用しない 婚前性交 ある 60.3% ない 計 100% (63) 84.1% 100% (69) 計 27.3% (36) 72.7% (96) 100% (132) ファイ係数:φ = -0.27 自動車を日常的に使 用する 婚前性交 ある ない 家族は信仰深い? いいえ はい 37.9% 16.1% 62.1% 83.9% 計 100% (29) ファイ係数:φ = -0.25 100% (31) 計 26.7% (16) 73.3% (44) 100% (60) • 統制される変数(自動車の使用)と,興味ある 2変数それぞれとのクロス集計表を作成して みる. – 1次の表での周辺度数を使って作成できる. – 信仰深い家庭では,そうでない家庭に比べ,自動 車を自由に使用させているのか? – 自動車を日常的に使用している若者は,そうでな い若者に比べ,婚前性交の経験率が高いのか? 自動車を使 用? 家族は信仰深い? いいえ はい 31.5% (29) 31.0% (31) 計 31.25% はい 68.75% いいえ 68.5% (63) 69.0% (69) 計 100% (92) 100% (100) 100% (192) ファイ係数:φ = -0.006 婚前性交 ある ない 自動車を使用? いいえ はい 27.3% (36) 26.7% (16) 72.7% (96) 73.3% (44) 計 100% (132) 100% (60) ファイ係数:φ = -0.006 計 27.1% 72.9% 100% (192) 10.2.3. 第3変数が部分的効果を 持つ場合 • 下位表において,興味ある2変数の関係は依 然として認められるが,その関係の強さが弱 くなったとする.(次のスライド) • このとき,第3の変数は,2変数間の連関を 部分的に説明する. – 家族が信仰深くてもそうでなくても,自動車を使 用することで,婚前性交の経験率が上昇する. – 興味ある2変数の共変動関係は,弱くはなったが 残っている. 家族は信仰深い? いいえ はい 25.5% 12.9% 自動車を日常的に 使用しない 婚前性交 ある 74.5% ない 計 100% (47) 87.1% 100% (85) 計 17.4% 82.6% 100% (132) ファイ係数:φ = -0.16 自動車を日常的に 使用する 婚前性交 ある ない 家族は信仰深い? いいえ はい 53.3% 33.3% 46.7% 66.7% 計 100% (45) ファイ係数:φ = -0.17 100% (15) 計 48.3% 51.7% 100% (60) 10.2.4. 第3の変数による完全な説明 • 2つの下位表におけるファイ係数がゼロ.つ まり,第3の変数の影響を一定にすると,興 味ある2変数間の関係が消失したとする. • このとき,第3の変数は,興味ある2変数間の 関係を完全に説明する. – 家族の信仰は10代の若者が自家用自動車を日 常的に使用できるかを規定し,自動車使用機会 が婚前交渉の主要な決定因となる. 自動車を日常的に 使用しない 婚前性交 ある ない 家族は信仰深い? いいえ はい 9.1% 9.1% 90.9% 計 100% (44) 90.9% 100% (88) 計 9.1% 90.9% 100% (132) ファイ係数:φ = 0.00 自動車を日常的に 使用する 婚前性交 ある ない 家族は信仰深い? いいえ はい 66.7% 66.7% 33.3% 33.3% 計 100% (48) ファイ係数:φ = 0.00 100% (12) 計 66.7% 33.3% 100% (60) 練習問題 • 第3変数の効果がない場合の表をつくりかえ たように,第3変数による完全な説明が成り 立つ場合の表を作り変えよ(テキスト表10.4を 作り変える).2つの下位表の周辺度数を用 いればできる.ファイ係数も計算してみよ. – 信仰と自動車使用機会の表 – 自動車使用機会と婚前性交の表 自動車を使 用? 家族は信仰深い? いいえ はい 52.2% 12.0% はい 47.8% いいえ 計 100% (92) 計 31.25% 88.0% 68.75% 100% (100) 100% (100) ファイ係数:φ = -0.43 婚前性交 自動車を使用? いいえ はい 9.1% 66.7% 90.9% 33.3% ある ない 計 100% (132) 100% (60) ファイ係数:φ = 0.60 計 27.1% 72.9% 100% (192) • 周辺度数分布において,X と Z,および,Z と Y に関連があるために, X と Y の間に関連が 現れた. – 周辺度数による elaboration(後述) – X(家族の信仰)と Z(行動への束縛)の関連につ いて,次のスライドを参照. 自動車を日常的に 使用しない 婚前性交 ある ない 家族は信仰深い? いいえ はい 9.1% 9.1% 90.9% 計 100% (44) 90.9% 100% (88) 計 9.1% 90.9% 100% (132) ファイ係数:φ = 0.00 自動車を日常的に 使用する 婚前性交 ある ない 家族は信仰深い? いいえ はい 66.7% 66.7% 33.3% 33.3% 計 100% (48) ファイ係数:φ = 0.00 100% (12) 計 66.7% 33.3% 100% (60) • 第3の変数が,元の2変数(X,Y)のいずれと もゼロでない相関を示すときだけ,この第3の 変数を媒介変数として,もとの2変数の共変 動を説明できる可能性がある. – 一般には,2変数の相関が正なら,第3の変数と これら2変数との相関はどちらも正か,あるいは, どちらも負.(そうでないこともありうる) – 2変数の相関が負なら,第3の変数との相関は, 一方が正で他方が負. (そうでないことも) • 第3の変数による完全な説明は,媒介関係の 場合だけでなく,2変数の相関が疑似関係で あるときにも見られる. • 第3の変数を媒介変数と考えるか,2変数の 共通原因と考えるかは,理論や解釈のしやす さによる.統計的な結果からは決められない. 10.2.5. 第3変数の交互作用効果 がある場合 • 2つの下位表で連関の程度(ファイ係数,オッ ズ比)が大きく異なる. – 零次の表と比べると,たとえば,一方の下位表で は連関が減少し,もう一方の下位表では連関が 増大する. – 連関が逆方向(プラスとマイナス)になることもあ る. • 交互作用効果(interaction effect):第3の変 数の値によって,興味ある2変数の関係が異 なる. 自動車を日常的に 使用しない 婚前性交 ある ない 家族は信仰深い? いいえ はい 50.0% 11.8% 50.0% 計 100% (52) 88.2% 100% (68) 計 28.3% (34) 71.7% (86) 100% (120) ファイ係数:φ = -0.42 自動車を日常的に 使用する 婚前性交 ある ない 家族は信仰深い? いいえ はい 25.0% 25.0% 75.0% 75.0% 計 100% (40) ファイ係数:φ = 0.00 100% (32) 計 25.0% (18) 75.0% (54) 100% (72) 自動車を使 用? 家族は信仰深い? いいえ はい 43.5% 32.0% はい 56.5% いいえ 計 100% (92) 計 37.5% 68.0% 62.5% 100% (100) 100% (100) ファイ係数:φ = -0.12 婚前性交 自動車を使用? いいえ はい 28.3% 25.0% 71.6% 75.0% ある ない 計 100% (120) 100% (72) ファイ係数:φ = -0.04 計 27.1% 72.9% 100% (192) • 3重クロス表を構成してみないと,交互作用 効果の発見はできない. • 2変数 X と Y の単純相関が,条件つき相関と, どのように,どれぐらい異なるのかは,3重ク ロス表を構成しなければわからない. 10.2.6. 条件つき効果のまとめ • グラフを利用すると,3重クロス表から明らか になった関係が,よりわかりやすくなることが 多い(テキスト p.239 ,図10.2) – 2要因分散分析で学習した図と本質的に同じ. • 第3の変数を導入して3重クロス集計を行い, 関連の分析を深化させることを,elaboration と呼ぶ. – 零次の表での関連が疑似相関かどうか – 原因と結果の間を媒介する変数は何か – どんな条件のもとで,零次の表での関連が明確 になるか • 疑似相関を暴いて,零次の表での単純関連 の見かけ性を説明するタイプの elaboration を,explanation と呼ぶ. • 媒介関係の分析は,独立変数と従属変数の 間の間接的な因果関係をより詳しく解釈する ことに役立つので,interpretation と呼ばれる. 注意:テキスト(p.284)では,explanation と interpretation の意味を区別していない. • 交互作用効果を明らかにする elaboration は, specification と呼ばれる. – 特に,第3の変数が独立変数 X と関連を持たな い場合.たとえば,第3の変数が性別,独立変数 が年齢の場合. 10.3. 偏相関係数 • 条件つき相関係数は,第3の変数 Z のカテゴ リごとに,X と Y の相関係数を計算したもの. • 第3の変数 Z の影響を一定にしたときの, X と Y の関連の強さを表す指標はないだろう か? – 第3の変数 Z のカテゴリごとに計算される数値で はなく,条件つき相関係数を合算したもの. – X と Y それぞれから Z と関連した部分を除去した ときの,X と Y の相関. • 偏相関係数(partial correlation):第3の変数 を統制したときの,興味ある2変数間の相関 係数. rXY rXZ rYZ rXY Z 2 2 1 rXZ 1 rYZ • 3変数とも連続変数の場合に定義された式だ が,これを離散変数間の相関にも適用する. • 変数 X と Y の相関係数 [XY] は,いくつかの 要素の,ある種の和である. XY XY : z1 [ XY : z 2] XZ ZY ここが偏相関係数 [XY: Z] – [XY: z1]:第3の変数 Z のカテゴリが z1 であるとき の,X と Y の条件つき相関係数.[XY:z2] も同様. – [XZ]:X と Z の相関係数.[ZY] も同様. • 通常の数式のように変形(移項)すると,以下 の式が得られる.これは,偏相関の定義式で 分母を無視した形である. XY : Z XY XZ ZY rXY Z rXY rXZ rYZ 1 r 2 XZ 1 r 2 YZ • [XZ] および [ZY] の両方がゼロでないとき,疑 似関係あるいは媒介関係による elaboration が可能になる.偏相関係数の値は,零次の 表での単純相関 [XY] よりも小さな値になる. XY : Z XY XZ ZY • [XZ] または [ZY] がゼロであるなら,偏相関係 数の値は,零次の表での単純相関 [XY] と近 い値になる.[ZY] = 0 とすると, XY : Z XY XZ ZY XY rXY Z rXY rXZ rYZ 2 1 rXZ 1 rYZ2 rXY 2 1 rXZ • 偏相関係数がゼロなら,[XY] は [XZ] と [ZX] の積に等しい. XY : Z XY XZ ZY 0 XY XZ ZY rXY Z rXY rXZ rYZ 1 r rXY rXZ r YZ 2 XZ 1 r 2 YZ 0 • テキスト(p. 294)では,交互作用効果がない 場合に偏相関係数を計算できると書かれて いる. • 実際には,交互作用効果の有無にかかわら ず,偏相関係数を計算することができる. – 定義式の右辺にある,3つの相関係数が計算で きればよい. • ただし,交互作用があるときには,偏相関係 数を計算することにあまり意味はない. – 交互作用がないとき,2つの条件つき相関係数 は似た値になるので(図10.2参照),これらをあわ せて偏相関係数としている. XY : Z XY : z1 [ XY : z 2] • 交互作用効果があると,X と Y の偏相関係数 は,単純相関(零次の表での相関係数)と近 い値になることが多い. – 家族の信仰深さと婚前性交の例では,単純相関 は -0.26 であり,偏相関は -0.27 となる. – 偏相関係数だけ見ても,Z が無効果の場合(偏相 関係数は単純相関と一致)と区別できない. • 偏相関係数は3つの単純相関([XY], [XZ], [ZY])から計算する.これら3つの相関を示す クロス表からは,詳細な関係(たとえば,交互 作用効果)はわからなかったことに注意.偏 相関係数を計算するだけでなく,必ず3重クロ ス表を検討するべきである. 10.3.1. 例示:3変数間相関 • 外に飲みに行った経験(X)と,婚前性交への 態度(Y)とのクロス表 婚前 性交 外に飲みに行った経験 ない ある 計 55.2% 19.3% 37.2% 悪い 44.8% 88.2% 71.7% 悪くない 計 100% (774) 100% (781) 100% (1,555) ファイ係数:φ = -0.371 1983年GSS調査より • 家庭外で飲酒した経験がある者は,そうでな い者に比べ,婚前性交を悪くないと考える. – 「経験がない者は悪いと考える」と言ってもよい • これら2変数の両方に相関を持つ変数として, 性別(Z)が考えられる. – 女性は,家庭外での飲酒と,婚前性交の両方に, あまり寛容ではないだろう. – 性別を共通原因とする疑似相関ではないのか? • 性別(Z)と,婚前性交への態度(Y)とのクロス 表 性別 婚前 性交 男 女 計 30.0% 42.6% 37.2% 悪い 70.0% 57.2% 62.8% 悪くない 計 100% (669) 100% (866) 100% (1,555) ファイ係数:φ = 0.128 1983年GSS調査より 10.3.1. 例示:3変数間相関 • 性別(Z)と,外に飲みに行った経験(X)とのク ロス表 性別 外に飲みに 行った経験 男 女 61.1% 42.0% ある 38.9% 58.0% ない 計 100% (774) 100% (781) ファイ係数:φ = -0.190 計 50.2% 49.8% 100% (1,555) 1983年GSS調査より • 偏相関係数を計算すると, rXY Z rXY rXZ rYZ 2 1 rXZ 1 rYZ2 0.371 (0.190) (0.128) 1 (0.190) 2 1 (0.128) 2 0.357 • これは X と Y の単純相関(-0.371)よりも低い が,その差はわずか.性別による elaboration はうまくいかない. • 性別が共通原因である疑似相関を疑ったが, 2変数 X と Y に対して性別(Z)はあまり影響 しておらず,偏相関は単純相関と少ししか違 わなかった. • 偏相関係数を説明するための例だったので, 3重クロス表の構成は行っていない.もちろん, 実際の分析では3重クロス表を構成するべき である. 10.3.2. 偏相関係数の有意性検定 • 第3の変数による統制を行っても,興味ある2 変数間には相関が存在する(つまり,母集団 での偏相関係数はゼロではない)と言える か? – 帰無仮説 H0:母集団での偏相関係数は0 – 対立仮説 H1:母集団での偏相関係数は0ではな い(両側検定の対立仮説) 注意:テキストでは,外に飲みに行った経験があると 婚前性交に対して寛容になると考えて,対立仮説を片 側にしている. • 検定統計量 F1, N 3 2 rXY Z ( N 3) 2 1 rXY Z t N 3 rXY Z N 3 1 r 2 XY Z 理解確認のポイント • 第3の変数 Z による,(X と Y の)疑似関係と は何か,説明できますか? • 第3の変数 Z による,媒介関係とは何か,説 明できますか? • 多重クロス表を構成する目的を説明できます か? • 多重クロス表を構成することができますか? – 零次の表 – 1次の表 • 条件つき相関係数から,媒介関係あるいは 疑似関係を明らかにすることができますか? • 条件つき相関係数から,交互作用効果を見 つけることができますか? • 偏相関係数とは何か,説明できますか? • 偏相関係数を計算することができますか? – 定義式は覚えなくてもよい. • 第3の変数 Z による媒介関係あるいは疑似 関係が存在する場合,X と Y の偏相関係数 は,零次の表での相関係数と比べて,どのよ うに変化しますか?
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