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歯冠歯根比が可撤性部分床義歯の
支台歯の予後に与える影響
1-5-117
- 臨床ベース縦断研究 -
○多田紗弥夏1,2, 池邉一典1, 松田謙一1, 荒木基之3, 岩瀬勝也3, 岡田政俊3, 大谷隆之4,
川畑直嗣3, 喜多誠一3, 吉備政仁3, 佐嶌英則3, 高端泰伸3, 田中邦昭4, 谷岡 望3,
中平良基3, 藤原 啓3, 三田和弘3, 山賀 保3, 山本孝文3, 山本 誠5, 吉田 実3, 前田芳信1
1.大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯学分野
2.Department of Restorative Dentistry, University College Cork Dental School and Hospital
3.関西支部,4.中国・四国支部,5.東海支部
目的
方法
部分床義歯による補綴治療を行うにあたり,残
存歯の予後を推定し,新たな歯列欠損の拡大を
防ぐ治療計画を立てることは,非常に重要である.
支台歯の予後を判定する因子として,歯冠歯根
比が挙げられるが,その判定基準について,実際
の症例に基づいて数値的に示し,臨床統計学的
に分析した報告は少ない1).
そこで本研究は,部分床義歯の長期経過症例
から,補綴診断時の歯冠歯根比が支台歯の予後
に与える影響を検討することを目的とした.
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研究デザイン:後向きコホート研究
対象患者:147名
平成14~15年に大阪大学歯学部附属病院咀嚼補綴科にて,クラスプを
支台装置とした可撤性部分床義歯を製作し,同義歯を継続して2年以上
使用していた全ての患者を対象とした.さらに,観察期間中,年に1回以
上の歯周メインテナンスを受診していることを条件とした.
対象義歯:236床
上記の条件を満たす患者147名が使用する全ての義歯.
対象支台歯:856本
対象義歯のクラスプが設置されていた全ての支台歯.
分析方法:支台歯を対象にした生存分析
生存期間は,義歯装着日から支台歯喪失日または観察打ち切り日まで
とし,観察期間は2年以上,最長7年で打ち切りとした.
統計学的分析には,単変量解析にKaplan-Meier methodおよびlog-rank
testを,時系列を考慮に入れた多変量解析に Cox’s hazard regression
model を 用 い , 分 析 用 ソ フ ト ウ ェ ア PASW Statistics 18(SPSS, an IBM
Company,東京)にて解析を行った.
有意水準は全て5%とした.
予後良好?
予後不良?
歯冠歯根比
結果
※調整因子
分析手順
年齢・性別・歯周メインテナンス来院頻度・咬合支持域
根管治療の有無・支台歯の種類・歯周ポケット深さ
 補綴計画立案時のX線写真か
ら歯冠歯根比を測定し,その値
をもとに以下の4群に分類した.
歯冠歯根比=歯冠長/歯根長
1.単変量解析
Kaplan-Meier method
≤1.00
1.01-1.25
1.26-1.50
≥1.51
2.多変量解析
Cox’s hazard regression model
1. 単変量解析
Kaplan-Meier methodおよび
log-rank testを用いて生存曲線
を示し,各群を比較した.
2. 多変量解析
Cox’s hazard regression model
を用いて,他の因子(※)の影
響を調整した生存曲線を示し,
各群を比較した.
単変量解析・多変量解析ともに
≤1.00群の生存と比較すると,
1.01-1.25群は有意な差は認め
ら れ ず , 1.26-1.50 群 お よ び
≥1.51群では有意に差があるこ
とが示された.また多変量解析
の結果より,≤1.00群に比べ,
1.26-1.50群は2.15倍,≥1.51群
は3.61倍,支台歯の喪失リスク
が高いことが明らかとなった.
log-rank test
Cox’s hazard regression model
(7年生存率)
(有意確率)
(ハザード比) (有意確率) (95%信頼区間)
86.1%
(Ref.)
(Ref.)
(Ref.)
(Ref.)
84.1%
0.663
1.03
0.932
0.53-2.02
79.3%
0.040*
2.15
0.036*
1.05-4.39
46.4%
<0.001**
3.61
<0.001**
2.32-5.61
歯冠歯根比
≤1.00
(n=610)
1.01-1.25
(n=99)
1.26-1.50
(n=53)
≥1.51
(n=94)
 検証試験
一般開業医院から得たデータを検証した.
対象:一般開業医院8施設
患者59名
部分床義歯93床
支台歯300本
(うち,279本が分析対象となった.)
※クラスプを支台装置とした可撤性部分床義歯
を装着し,同義歯を継続して2年以上使用して
いることを選択基準とした.
方法:Kaplan-Meier method により生存曲線を描き,
log-rank test により各群の生存曲線を比較した.
結果:歯冠歯根比1.26以上の支台歯の生存曲線が有意に低い.
歯冠歯根比
≤1.00
(n=176)
1.01-1.25
(n=44)
1.26-1.50
(n=25)
≥1.51
(n=34)
log-rank test
(7年生存率)
(有意確率)
81.8%
(Ref.)
79.5%
0.752
52.0%
<0.001**
58.8%
<0.001**
考察・結論
本研究の結果より,補綴治療計画立案時の歯冠歯根比が支台歯の予後に与える影響が明らかとなっ
た.歯冠歯根比が1.26以上となる場合,支台歯の生存率は有意に低くなり,Cox’s regression hazard modeling より具体的な支台歯
喪失のリスクが示された.さらに検証試験として,一般開業医院から得たデータ(一般開業医院8施設)からも同様の結果が得ら
れた.本研究によって,具体的な診断基準となり得る数値が示されたことは,臨床統計学的根拠に基づいた歯科補綴治療の発展
に寄与する非常に重要なエビデンスであると考えられる.
参考文献
1.
2.
Grossmann Y. and Sadan A. The prosthodontic concept of crown-to-root ratio: A review of the literature. Journal of Prosthetic Dentistry 2005;93: 559-562.
Tada S et al. Multifactorial risk assessment for survival of abutments of removable partial dentures based on practice-based longitudinal study. Journal of
Dentistry 2013; 41: 1175-1180