小売店舗での消費者の カテゴリー購買行動モデル CRM研究会(於:立教大学) 2002年9月18日(水) 大阪大学 里村卓也 はじめに • カテゴリーとは – カテゴリーとは、明確な管理可能な製品/サービスのグ ループで消費者が関連性があるとし、消費者のニーズを 満足するうえで代替性のあるもの。 – 小売業とメーカーの間での共通の視点はカテゴリーであ る。 • カテゴリー・マネジメントとは – カテゴリーマネジメントとはカテゴリーを戦略的ビジネス単 位(SBU)として管理し、顧客のニーズを満足させるために 店舗毎にカテゴリーをカスタマイズするプロセスである (Nielsen Marketing Research ; 1992)。単なる棚割りで はない。 – 1990年代から内外の多くの小売業・メーカー・卸売業で 2 実践されている。 研究の目的 • 研究の目的 – カテゴリー・マネジメントに有用な消費者のカテゴリー購買 行動モデルを構築する。 – 実証分析により、モデルの妥当性を検証する。 – カテゴリー購買行動モデルから、カテゴリー・マネジメント とCRMへの示唆を導く。 • なぜCRMではないのか? – CRMはエンジニアリングが先行し、消費者の購買に関す る理論構築が遅れている(HowではなくWhyを求めたい)。 – エンジニアリングのための理論を構築することを目指す (航空工学と流体力学の関係) – 食品小売業のマネジメント段階としてはCRMの前にカテ ゴリーマネジメントがある。 3 浸透率と総購入個数の関係 カテゴリーマネジメントの始まり? 総 購 入 個 数 浸透率 4 消費者視点からのカテゴリーの役割 高 すきま:Niches 重要:Staples 対象となる消費者には重要 であり非常に価格に敏感 一般にキー・アイテムで 非常に価格に敏感 ← 購 買 頻 度 補欠:Fill-ins 特定の対象層に利用さ れ多くは季節性があり、 価格感度は低い 必需品:Necessities 必要なときにすぐ手に入れ るべきもの、価格に敏感 → 低 低 ← 到達度(浸透率) → 高 Blattberg and Fox(1995) 5 売り上げ高を増やせ! オケージョンの開発と訴求 購 入 頻 度 店頭プロモーション アドオン・セリング コラボレーション・フィルタリング 浸透率 6 カテゴリー・マネジメントに関する3 つの疑問 • Aカテゴリーの顧客は少ないが、Aカテゴリーを購買 している顧客は総購入個数が大きい優良顧客であ るので、Aカテゴリーは売り場を充実し優良顧客の 要望に応えなければならない。 • 購買履歴データを用いてカテゴリーを分類する場合 に「浸透率×購買頻度」マトリックスを用いると消費 者視点からカテゴリーを分類することができる。 • カテゴリーの売上を伸ばすには、購買者数を増やす か、購入頻度を増やすかの2通りがある。 7 利用データ • 店舗 – 日本国内のあるスーパーマーケット・チェーンの2店舗の顧客購買履 歴データ • データ期間 – 店舗A:2001年4月下旬から6ヶ月間 – 店舗B:2000年4月下旬から5ヶ月間 • 分析対象カテゴリー – カテゴリーは当該店舗のくくりによる。 – 店舗A:食品および日用品の中で浸透率5%以上の224カテゴリー – 店舗B:食品および日用品の中で浸透率5%以上の212カテゴリー • 分析対象者 – 店舗A:期間中毎月来店した5400人(途中から新規加入、離脱したメ ンバーを除く) – 店舗B:期間中毎月来店した3647人(途中から新規加入、離脱したメ ンバーを除く) 8 9 市場における二重苦: Double Jeopardy (DJ) • 市場における二重苦(Double Jeopardy :DJ)とは「あるカテ ゴリーにおいてブランドの売上が低ければブランド購買者数 も少ない」という市場の法則 – DJの現象はマーケティングでは広く知られた現象である。 – マーケティング・ミックスや消費者変数はDJを説明するために必要 ではない。 – 製品・価格・流通・プロモーション等をいくら工夫してみても、ユー ザーを増やす(浸透率を上げる)ことにはつながるが、ロイヤルティ を上げる(購入頻度を増やす)ことにはほとんどつながらない。 • Double Jeopardyが確認された領域 – ブランド選択、店舗選択、パッケージ製品への態度 – メディア(特にTV)における番組選択、チャンネル選択、評価等 10 Double Jeopardyの例(シリアル) M arket share and A verage A m ount(24w ) of C ereals (Ehrenberg 1972) 8 average am ount 6 4 2 0 0 10 20 m arket share (%) 30 40 11 何故DJは生じるのか? 数理モデルによる説明 • Bernoulli Trial (ex.) 商品の魅力度に依存 Buy the product twice a year Purchase Prob. Per Capital Sales % Buying at Least Once Av. Purchases Per Buyer of Brand BrandA .7 1.4 91 1.54 BranB .3 .6 51 1.18 • W(1-b)=constant • Dirichlet model, Negative Multinomial model) Ehrenberg, Goodhardt and Barwise(1990) 12 浸透率と購買頻度:店舗A 13 浸透率と購買頻度:店舗B 14 浸透率と総購入点数:店舗A 15 浸透率と総購入点数:店舗B 16 17 18 カテゴリーの浸透率との関係 • 浸透率と購買頻度との関係 – 浸透率がカテゴリーでは購買頻度も低い。 – Double Jeopardy ? • 浸透率とカテゴリー購買者の購買金額 – 浸透率が低いカテゴリー購入者の購入個数は多 い。 • これらを説明する理論(モデル)は? • この現象は普遍的なものか? 19 浸透率と購買頻度の関係(1) • 記号 – – – – – N:分析対象者数 bi:カテゴリーi浸透率 wi:カテゴリーi購入頻度(カテゴリーi購入者中) bi|j:カテゴリーj購入者中のカテゴリーi浸透率 wi|j:カテゴリーj購入者のカテゴリーi購入頻度 • 仮定 – 仮定1:どのカテゴリーを購入している消費者も期間中の全カテゴ リー総購入個数は一定とする。 – 仮定2:1来店時には1カテゴリーあたり高々1個の商品を購入する。 – 仮定3:浸透率はカテゴリー間で独立である。 – 仮定4:購買頻度はカテゴリー間で独立である。 20 浸透率と購買頻度の関係(2) • x,y,zの3カテゴリーを考える。 • 仮定2より – カテゴリーx購入者の期間中総購買個数は Nbx wx N by|xbx wy|x N bz|xbx wz|x – カテゴリーy購入者の期間中総購買個数は Nby wy N bx| yby wx| y N bz| yby wz| y 21 浸透率と購買頻度の関係(3) • 仮定1,3,4より Nbx wx N by bx wy N bz bx wz Nbx Nby wy N bx by wx N bz by wz • 整理すると Nby wx (1 bx ) wy (1 by ) 22 23 浸透率UPか購買頻度UPか? カテゴリーの魅力度 をアップしてw(1b)=const.のライン上 を上っていくか? (浸透率UP⇒購買頻 度UP) 脱SMカテゴリーと して購入頻度を上 げるか? 24 25 26 浸透率と購買頻度の関係(4) • wx(1-bx)=constant law – この結果はEhrenberg(1972)の「ブランド購買頻度の関 係」を「カテゴリー購買頻度の関係」に拡張したものである。 – 仮定1の条件を満たすためには来店頻度の近い消費者 で分析をする必要がある。 • Kahn et.al. (1988) – wx(1-bx)の全体平均からの逸脱を用いて評価 • 全体平均より高い=>Niche(Loyal) • 全体平均より低い=>Change-of-Pace(Variety Seeking) 27 浸透率と購入頻度の関係(5) • w(1-b)=constantをwx(1-bx)の全体平均と考える • カテゴリー購買においてwy(1-by)>w(1-b)となる場合 – カテゴリー購入者の期間中の全カテゴリー総購入個数が他カテゴ リー購入者のそれよりも多い。 – by<b:他のカテゴリー購入者は必要としないために、独立して購買さ れるよりも浸透率が低い。 • カテゴリー購買においてwy(1-by)<w(1-b)となる場合 – wy<w:他のカテゴリー購入者が代替的に購入するものなので、独立 して購買されるよりも購買頻度が低い。 – by>b:他のカテゴリー購入者が代替的に購入するものなので、独立し て購買されるよりも浸透率が高い。 • 問題点 – カテゴリー購買者によって総購入個数が異なることを無視している (浸透率が低いカテゴリーの購入者ほど総購入個数が多い)。 28 購買頻度のモデル化(1) S : 期間中の個人の総購入個数 X i : カテゴリー iの購入個数 i : カテゴリー iの購入確率(総購入個 数中のカテゴリー iのシェア) exp( ) s P r(S s ) s! S xi Sx P r(X i xi | S ) i 1 i i xi P r(X i xi ) P r(X i xi s xi i x exp i | S ) P r(S s ) i xi ! 29 購買頻度のモデル化(2) • 変数の定義 ( 1 ,, m ) i i , m . i , (1 ,, m ) i 1 • Lukacs(1955)の独立ガンマ分布仮定 – 互いに独立な二つの正の確率変数X1とX2についてX1+X2と X1/(X1+X2)が独立であれば、X1とX2はそれぞれ共通のパラメータβを 持つ独立ガンマ分布に従う。 • 中西(1984)の独立ガンマ分布仮定の多変量への拡張 – λiが互いに独立な正の確率変数であり、 λ.とπが独立であれば、ξはガン マ変量であり同時密度関数は次式になる。 exp(i / )i g ( ) i ( ) i 1 i m i 1 30 購買頻度のモデル化(3) P r( X i xi ) P r(xi | i )h( i )di 0 0 i ( x i ) 1 x! (i ) 1 i xi xi ! 1 e i i 1 i e di i (i ) xi m P r(S s ) P r(X i xi ) i 1 . ( s .) 1 s! ( .) 1 負の多項分布と呼ぶ(中西1984) s m , . i i 1 1 31 浸透率と購買頻度との関係 i 1 bi Pr( X i 0) 1 Pr( X i 0) 1 1 ai wi E[ X i | X i 0] bi log(1 bi ) wi bi log( 1) 32 購買頻度と浸透率の関係: 負の多項分布モデル 33 ベルヌーイ購買の場合 34 Fr log(1 Pe) 1 Pe log / 1 35 現実の消費者の購買行動に近いの はどちら? 36 浸透率と総購入個数の関係 E[ S ] E[ S | xi 0] Pr(xi 0) . 1 ( s .) 1 s i 1 ( 1) 0 s! ( .) 1 s ds 1 1 i i i 1 ( 1) ただし i . i 37 浸透率と総購入個数との関係 負の多項分布モデル 38 カテゴリー購買からの示唆 • Aカテゴリーの顧客は少ないが、Aカテゴリーを購買している顧客の総購入個 数が大きい優良顧客であるので、Aカテゴリーは売り場を充実し優良顧客の要 望に応えなければならない。 ⇒浸透率が低いカテゴリーの購入者は総購入個数も多い。当該カテゴリー購入 者は優良顧客である可能性が高い。 • 購買履歴データを用いてカテゴリーを分類する場合「浸透率×購買頻度」マト リックスを用いると消費者視点からカテゴリーを分類することができる。 ⇒浸透率と購買頻度の間には関係が認められるため、浸透率と購買頻度からカ テゴリーを分類することは不適切である。 • カテゴリーの売上を伸ばすには、購買者数を増やすか、購入頻度を増やすか の2通りがある。期間中売上=浸透率×購買頻度。 ⇒SMカテゴリーであれば、浸透率が低いカテゴリーは浸透率を増やし、浸透率が 高い商品は購買頻度を伸ばす戦略をたてなければならない。 ⇒脱SMカテゴリーであるのならば購買頻度UPもありうる。 39 食品小売業CRMへの考察 • 浸透率の低いカテゴリーほど総購入個数が多い顧客が購入していること が多い。 ⇒カテゴリーの選択には、カテゴリー変更による利益(あるカテゴリーをカット して売り場を別のカテゴリーに配分した時の利益)とカテゴリーファン離脱 による損失(あるカテゴリーがカットされたために店舗を離れたカテゴリー 購入者のLTV)を比較してみることが必要である。(これはブランド、単品 にも当てはまるのではないか)。 • カテゴリーの浸透率と購買頻度との間には関係が見られる。 ⇒小売業でのカテゴリーとして認識しているのであれば、浸透率が低いカテ ゴリーは浸透率を増やし(個別顧客へのトライアル誘発、コラボレーショ ンフィルタリング)、浸透率が高い商品は購買頻度を伸ばす(個別顧客へ のリピート購買の促進)戦略をたてなければならない。 ⇒脱SMカテゴリーであるのならば浸透率が低くともカテゴリー利用顧客に対 し購買頻度UPのプロモーションを行う。 40 まとめと課題 • まとめ – 消費者のカテゴリー購買行動をモデル化し、現実のデー タとの整合性について検討した。 – w(1-b)=constant – 負の多項分布モデル • カテゴリー購買において浸透率と購買頻度に関係が認められる (浸透率が低ければ購買頻度も低い)。 • 浸透率が低いカテゴリー購入者の総購入個数は多い。 • 課題 – 総購入個数とカテゴリー選択確率との関係、カテゴリー間 での依存関係の考慮。 – 負の多項分布モデルにおける“0”購買のモデル化 – 現実のデータに当てはまるモデルの構築。 41 参考文献 • • • • • • • Blattberg, R.,C. and Fox, E.J.,(1995) “Category Management,” Food Marketing Institute(邦題 カテゴリーマネジメント(1997) 財団法人流通経済研 究所 監訳) Ehrenberg, A.S.C.(1972),Repeat Buying. Amsterdam: North Holland Publishing Company. Ehrenberg, A.S.C., G.J. Goodhardt and T.P. Barwise(1990) “Double Jeopardy Revisited,” Journal of Marketing, Vol.54, 82-91 Kahn ,B. E., Kalwani, M.U. and Morrison, D.G.(1988), ”Niching Versus Change-of-Pace Brands: Using Purchase Frequencies and Penetration Rates to Infer Brand Positionings,”, Journal of Marketing Research, Vol.25, 384-390. Lukacs, E(1955)”A Characterization of the Gamma Distribution,” Annals of Mathematical Statistics, Vol.26, 319-24. 中西正雄(1984),「市場占拠率モデルと負の多項分布」, 『商学論究』,第31巻,第4 号,21-50. Nielsen Marketing Research(1992),Nielsen Category Management :Positioning Your Organization to Win. NTC Business Books. 42
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