ポスター口演:E-3-4(4/8) 洲本市における妊婦の喫煙問題の 現状と対策(第4報): 喫煙する男女は惹かれあう? 洲本市応急診療所 山岡雅顕 第6回日本禁煙学会学術総会 平成24年4月7日(土)~8日(日) 宮城県仙台市・仙台国際センター 目的と方法 成人喫煙率は、男性喫煙率が30% 台となるなど、全体に減少傾向にはあ るが、若い女性や未成年者の喫煙対 策が問題となっている。特に、妊婦の 喫煙は、胎児や乳児に深刻な影響を 与え、有効な対策が急務である。 今回は洲本市における妊婦の喫煙 問題の現状と対策(第4報)として、妊 婦喫煙率や喫煙の害についての知識、 受動喫煙の状況を報告し、夫婦の喫 煙について検証する。 方法は、2001年4月より、洲本市に 妊娠届を提出した全ての妊婦に対し、 喫煙状況と喫煙の害に関する知識に ついての調査を、自己記入式で実施 した。調査対象数は2001年4月~2011 年12月の11年間、4,162名であった。 喫煙状況が記入されていた有効回答数 3,777(91%) 妊婦さんへ 喫煙についてお伺いします。事実をありのままご記入下さい。 Q1 . あなたは、 現在、 たばこ を 吸っ ていま すか はい( Q2 へ) 吸っ ていたがやめた( Q3 へ) 以前から 吸っ ていない( Q4 へ) Q2 . ( 現在吸っ ている 方へ) 妊娠以前と 比べて本数は変わり ま し たか? 変わら ない( 本/日) 減っ た・ 増えた( 以前 本/日→現在 本/日) こ れから 禁煙し よ う と 思いま すか? 禁煙する つも り 禁煙し たいができ ない 禁煙する つも り はない Q3 . ( 禁煙し た方へ) 以前は何本吸っ ていま し たか? ( ) 本/日 いつやめま し たか? 最終月経以前 最終月経以後妊娠がわかる 以前 妊娠がわかっ てから 禁煙を 出産後も 続けま すか? 続ける 出産し たら ま た吸う つも り ど う なる かわから ない Q4 . ( 全ての方へ) 同居家族の方の喫煙本数を 教えて下さ い( おおよ そで結構です)。 吸わない場合は0 同居し ていない場合は× を ご 記入下さ い 夫 ( 本/日) 義父( 本/日) 義母( 本/日) 実父( 本/日) 実母( 本/日) その他の同居家族( 本/日) Q5 . ( 同居家族のど なたかが吸っ ている 方へ) ど こ でたばこ を 吸いま すか あてはま る すべてに○を 付けて下さ い 家の外だけ 妊婦が行かない部屋 換気扇の下 空気清浄機を つけて ど こ ででも 吸う その他工夫し ている こ と があれば( ) ( 参考: 換気扇や空気清浄機はたばこ の害を 完全に防ぐ こ と はでき ま せん) Q6 . ( 全ての方へ) 知っ ていたこ と には○ 知ら なかっ たこ と には× を ご 記入下さ い 妊婦が喫煙する と 早産や流産が増える 妊婦が喫煙する と 胎盤の血流が悪化し て胎児が苦し む 妊婦が喫煙する と 早期破水、 早期胎盤剥離が増える 妊婦が喫煙する と 低体重児が増える 妊婦が喫煙する と 先天異常( 口蓋裂、 無脳症、 二分脊椎等) が増える 乳幼児突然死症候群は妊婦または同居家族の喫煙と 関係がある 親が喫煙する と 子供の脳に鉛が沈着し て知能低下を 起こ すこ と がある 喫煙は男女と も に不妊の原因になる 喫煙は ED( 勃起不全) の原因と なる 喫煙する と 皮膚の老化が 10 年早く 進み、 し み・ し わが増える ( ( ( ( ( ( ( ( ( ( ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ( 上記の事実は喫煙の害の一部です) Q7 . 喫煙について何かご 質問等あり ま し たら 、 なんでも お書き 下さ い。 最後に、 やめる 気さ えあれば、 たばこ は必ずやめら れま す。 ご相談は保健婦ま でお気軽にどう ぞ。 結果 妊婦喫煙率 妊娠初期(最終月経時)喫煙率と妊娠届出時喫煙率 30% 25% 24.1% 21.3% 24.8% 24.3% 23.9% 23.4% 23.7% 21.5% 20.3% 19.7% 21.7% 20.5% 20.9% 20% 20.3% 18.1% 18.8% 最終月経時喫煙率 15% 17.6% 14.8% 17.6% 15.9% 妊娠届出時喫煙率 15.1% 13.7% 20代喫煙率(JT発表分) 10% 8.3% 7.0% 5% 6.4% 6.9% 5.8% 5.3% 5.9% 4.6% 4.1% 4.2% 1.9% 0% 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2011年は、妊娠初期(最終月経時)喫煙率 14.8% 妊娠届出時喫煙率 1.9%と過去最低となったが、 これは低下を続けている若年女性喫煙率の全国的な傾向ともいえる。 2011年は喫煙妊婦の約9割が妊娠届までに禁煙したことになる。 同居喫煙者がいる割合 80% 74.3% 70% 74.5% 65.3% 63.2% 64.6% 63.6% 55.5% 56.6% 60% 61.4% 61.3% 50% 40% 52.3% 51.6% 52.1% 50.2% 54.9% 51.2% 49.7% 42.0% 44.2% 41.2% 42.4% 43.3% 30% 受動喫煙率 20% 20代男性喫煙率(洲本市応急診療所受診者) 10% 0% 2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年2008年2009年2010年2011年 同居者に喫煙者がいる割合は減少が続き半数を切る直前まできたが、これは男性 喫煙率の減少によるものであろう (同居喫煙者のうち9割は夫である) 同居喫煙者の喫煙方法/場所(複数回答) 40% 35.7% 35% 30% 32.9% 31.4% 30.2% 32.5% 26.4% 22.9% 22.4% 23.7% 24.9% 24.2% 換気扇 22.8% どこでも 20.3% 18.0% 外だけ 15.7% 17.3% 15% 14.5% 5% 13.2% 12.3% 9.9% 15.3% 14.1% 13.2% 9.1% 8.0% 7.4% 6.4% 3.7% 0% 2002 2003 清浄機 12.6% 11.0% 4.4% 2001 行かぬ部屋 11.4% 7.7% 6.3% 15.4% 14.6% 14.4% 12.9% 10% 32.7% 27.8% 21.9% 17.0% 32.4% 35.6% 37.7% 29.9% 20.8% 20% 32.8% 32.1% 29.7% 26.8% 22.5% 25% 32.0% 37.0% 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 5.0% 2011 同居喫煙者がどこでも吸っている割合が2001年の31.4%から2011年は15.7%と減少した一方 で、外だけで吸う割合が17.0%から37.7%に増えており、ちょうど逆の動きが見られる。 しかし、換気扇で吸う割合は20.8%から32.7%に増えており、空気清浄機を使っている割合もま だ5.0%あり、今後さらに受動喫煙対策の啓発が必要である。 妊婦喫煙のリスクに関する有知識率の推移 100% 90% 86.9% 86.8% 86.3% 88.9% 87.2% 93.0% 92.4% 93.6% 92.7% 92.0% 90.3% 早産や流産 80% 低体重児 70% 胎盤の血流 60% 皮膚の老化 50% 胎盤剥離 SIDS 40% 先天異常 30% 34.8% 35.6% 20% 10% 22.6% 10.6% 12.6% 26.4% 27.8% 27.8% 30.1% 27.5% 知能低下 不妊 ED 16.8% 0% 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 全体的に有知識率は増加しておりほとんどの項目で過去最高値となった。グラフにはな いが特に喫煙妊婦でその傾向は顕著である。EDで増加率が大きいが、ここにEDを入れ ているのは、口コミによる同年代男性の禁煙啓発効果を狙っている。 禁煙妊婦と喫煙妊婦の有知識率の変化 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% n.s. n.s. 2001年 n.s. ** n.s. n.s. * 禁煙 (n=27) n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. 喫煙 (n=12) 10年後 *p<0.05 **p<0.01 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% * 妊婦喫煙調査開始時の2001年 には、禁煙した妊婦と喫煙を続 けた妊婦の有知識率をみると、 「SIDS」「先天異常」「知能低下」 の3つで有意の差があった。その ため、この3つの知識の啓発が 妊婦喫煙を下げるのに最も効率 的と考え、パンフレットを配布す るなど重点的に行ってきた。 n.s. 2011年 n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. 禁煙 (n=30) 喫煙 (n=7) 10年後の2011年には喫煙妊婦 の有知識率も増えて、いずれの 項目においても禁煙妊婦との間 に有意の差はなくなっている。 (喫煙を続ける妊婦の数も減っ ているので有意差が出にくくなっ ている) 夫婦の喫煙割合(11年間の変化) 60% 51.9% 50% 40% 30% 25.4% 52.2% 50.8% 39.2% 39.6% 34.7% 34.8% 41.2% 44.2% 44.3% 33.2% 32.5% 47.2% 47.8% 32.5% 31.3% 39.3% 37.8% 34.0% 31.4% 32.7% 夫婦非喫煙 夫のみ喫煙 24.4% 22.7% 19.9% 妻のみ喫煙 20.4% 20.6% 20.0% 20% 19.0% 17.1% 15.7% 夫婦喫煙 17.6% 12.2% 10% 2.8% 1.7% 2.9% 2001 2002 2003 4.4% 2.3% 2.6% 2005 2006 4.5% 4.2% 3.2% 2.9% 2010 2011 0.7% 0% 2004 2007 2008 2009 2001年調査開始時は「夫のみ喫煙」が全体の半数を占め「夫婦非喫煙」の倍ほどあったが、 2006年以降逆転しており、「夫婦非喫煙」の割合が過半数となった。「夫婦喫煙」は減少して いるが、「妻のみ喫煙」の割合はあまり変わっていない。つまり、この期間の前半は夫の喫 煙者の減少、後半は夫婦ともに喫煙者の減少が「夫婦非喫煙」増加に寄与したことが伺える。 夫婦の喫煙割合(未成年と成年妊婦の比較) 100% 18.3% 90% 42.2% 80% 夫婦非喫煙 26.7% 70% 夫のみ喫煙 3.3% 60% 妻のみ喫煙 50% 36.5% 夫婦喫煙 40% 51.7% 30% (χ2独立性検定、p<0.001(3.43E-77)) 2.9% 20% 妊婦を未成年と成年で比較すると、未成年では 「夫婦喫煙」が過半数を占め、成年の場合の約3 倍である。喫煙妻の夫の約9割は喫煙者である。 夫が喫煙者である場合、妻が未成年なら2/3は 喫煙者であり、成年の場合の約2倍である。 全年齢において、夫婦ともに非喫煙者または喫 煙者であることには有意の関係がある。 18.4% 未成年妊婦 成年妊婦 10% 喫煙妻の夫が 喫煙者である確率 喫煙夫の妻が 喫煙者である確率 0% 未成年妊婦 成年妊婦 (n=60) (n=3,021) 夫婦の喫煙本数 夫と妻の喫煙本数 I (夫:妻の妊娠届出時、妻:妊娠前の最終月経時、夫婦とも非喫煙除く) n=1,902 60 93.9% 86.4% 66.0% 33.6% 非喫煙夫 非喫煙妻 1285 喫煙妻 90 喫煙夫 1118 588 400組 妻喫煙本数 y=x (夫婦の喫煙本数が同じライン) 40 200 100 20 50 10 1 y = 0.0473x + 10.384 R² = 0.0041 0 0 20 40 夫喫煙本数 -20 60 i 夫婦ともに喫煙者である場合、その喫煙本 数の間には有意の関係があった(スピアマ ン順位相関係数検定、p<0.001(8.88E-09)) が、相関係数は小さく(r=0.226)やや相関が ある程度である。 夫と妻の喫煙フローチャート 妻未成年 0.8% 夫非喫煙 44.6% 妻成年 99.2% 夫 妻未成年 2.8% 夫喫煙 55.4% 妻成年 97.2% 妻非喫煙 83.3% 妻非喫煙 45.0% 妻喫煙 16.7% 妻未成年 1.9% 妻非喫煙 87.9% 妻喫煙 12.1% 妻喫煙 55.0% 妻 妻非喫煙 34.0% 妻喫煙 66.0% 妻非喫煙 66.4% 妻喫煙 33.6% 妻非喫煙 78.7% 妻成年 98.1% 妻喫煙 21.3% 夫非喫煙 40.7% 夫喫煙 59.3% 夫非喫煙 6.1% 夫喫煙 93.9% 夫非喫煙 53.6% 夫喫煙 46.4% 夫非喫煙 13.6% 夫喫煙 86.4% 夫側からみた場合、妻が非喫煙者である確率が高いのは、夫非喫煙で妻が成年の場合の 87.9%。妻が喫煙者である確率が高いのは、夫喫煙で妻が未成年の66.0%。 妻側からみた場合、夫が非喫煙者である確率が高いのは、妻が成年で非喫煙の場合の 53.6%。夫が喫煙者である確率が高いのは、妻が未成年で喫煙の場合の93.9%。 以上から、タバコの害や禁煙方法に関する啓発などの喫煙率低減策は、夫婦ともに影響し あう可能性があり、例えば、喫煙妻に男性喫煙のリスクを啓発する意味もある。また、未成 年ほど効果が期待できる。 考察 ● 妊婦喫煙率や受動喫煙率は減少傾向 にあるが、換気扇や空気清浄機など誤った 対策の啓発がさらに必要である。 ● 妊婦喫煙のリスクの有知識率は増加し て禁煙妊婦と喫煙妊婦の差はなくなった。 ● 夫婦間の喫煙の有無には有意の相関 があり、特に喫煙率の高い未成年妊婦ほど 夫婦をターゲットにした啓発が有効かつ重要 だと考える。 参考 : 洲本市禁煙専門外来&禁煙支援センターホームページ http://www1.sumoto.gr.jp/shinryou/kituen/ 2003年から改良しながら洲本市の全妊婦に 配布しているパンフレット (HPから各種パンフダウンロードできます)
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