金沢工業大学における技術者倫理教育の現状と課題 -1学年1,600名を対象とした必修科目「科学技術者倫理」を中心に- 西村 秀雄 (金沢工業大学基礎教育部、科学技術振 興機構RISTEX) 目次 はじめに 全教育課程を通して行う技術者倫理教育 必修科目「科学技術者倫理」の概要 ケース・メソッド(グループ・ディスカッション) 教育効果の評価と測定(現状と今後の展望) 得られつつある成果 プロジェクトとの連携と、残された課題 終わりに はじめに ―なぜ今、科学技術者倫理なのか― “JABEE対応”? ↓ 技術者倫理教育は、工学の周辺領域に 新たに生じた付加的な問題ではなく、そ の中核を担う そもそも、金沢工業大学は… 建学綱領 人間形成、技術革新、産学協同 全学的な教育目的 「自ら考え、行動する技術者の育成」 そもそも、金沢工業大学は…(続) 技術者としていかに行動すべきかを、自律 的に考察し、自らの行動を「設計」できる能 力(=「人間力」)を育てる ↓ 個々の科目を越えて教育課程全体で達 成すべき学習・教育目標 それならば… 「全教育課程を通して行う技術者倫理教育」 (Ethics Across the Curriculum:EAC) 全教育課程を通じて、できるだけ多くの機会をと らえて、そこに存在する倫理的な要素を考察す る必要 「科学技術者倫理教育タスクフォース委員会」: 15学科から2名ずつの委員(委員長:教務部長) 全教育課程を通して行う技術者倫理教育 「科学技術者倫理」 必修科目「科学技術者倫理」の概要 科目設計・検討 札野 順(本学教授) 西村 秀雄(本学助教授) 栃内 文彦(本学講師) 金光 秀和(本学講師) 本田 康二郎(本学講師) 夏目 賢一(本学講師) 大場 恭子(本学科学技術応用倫理研究所研究 員) 金 永鍾(本学科学技術応用倫理研究所研究員) 「科学技術者倫理」の目的 科学技術が人間社会および環境に与える影 響の大きさ目的と深度について理解し、科学 技術の目的や役割、社会との関係について の考察を深めること 科学技術者が専門職として担う倫理的・社会 的責任を理解する 「科学技術者倫理」の目的(続) 実務を行う上で直面する倫理的な問題を検 討し、それらを解決する問題解決能力の向 上を図る 以上の学習を通して「科学技術者倫理」が単 に規範を遵守することではなく、現代社会に おける諸価値のバランスを取りながら、「自ら がなすべき行動を設計する」という、創造的 で知的な営みであることを学ぶ 「科学技術者倫理」の「行動目標」 学習・教育目標(行動目標)=科目終了時に受講 生が達成すべき行動 科学技術者として実務を行う上で、直面する可能性のあ る倫理的な問題の存在と種類について具体例を挙げな がら説明できる 科学技術者として要求される、倫理的な想像力、倫理的 問題を認識し分析する能力、責任感を向上させる必要 性などについて説得力をもって他者に説明できる 科学技術者として尊重すべき学協会の倫理綱領などに ついての基本的な知識を持ち、そこに含まれる安全性な どの「価値」群について具体例を挙げながら説明できる 「科学技術者倫理」の「行動目標」 行動目標(続) 科学技術者としての倫理的ジレンマを疑似体験し、そ の体験から得たことがらを自省的な小論文にまとめる ことができる 倫理的問題解決の方法(各種倫理テストや「セブン・ス テップ・ガイド」など)について理解し、これらの方法を具 体的な事例において適用できる 本科目で扱った具体的事例について、それらに含まれ る倫理的問題点に注目しながら、概説できる 本科目と本学の人間形成教育の目的・目標群との関係 について、具体的な例を挙げながら自省的な記述がで きる 金沢工業大学の教育システム 3学期制 60分授業 各学期11週 各学年約1,600名程度(29クラス編成) 必修科目「科学技術者倫理」の概要 各学期あたり約10クラス(全クラスを概ね3分割) 各クラス(約40名~70名)を5名の教員で担当 計22回(実質20回)(中間試験、達成度確認試験〔期末試験〕、自己点検授業を含む) 教科書:C.ウィットベック:『技術倫理1』、および書 き込み式の『講義ノート』 (担当者編集)を使用 パワーポイントによる資料提示 毎週の担当者打ち合わせ 「科学技術者倫理」の項目 用語(「価値」「道徳的行為者」「倫理」「科学技術」「技術者」など)お よび倫理理論の解説 科学技術者倫理の特殊性と必要性(環境倫理、生 命倫理、情報倫理) 技術者が共有すべき価値と倫理綱領(倫理綱領の 歴史、構造と機能) 倫理的意思決定の方法に関する解説(エシックス・テスト、 セブン・ステップ・ガイド、倫理的判断を促進/阻害する要因など) 「科学技術者倫理」の項目(続) 科学技術とリスク社会的合意形成の方法(サ イエンスショップ、コンセンサス会議など) 研究倫理 企業倫理(企業で働く科学技術者の責任と権利〔関連法令を含 む〕) 公益通報(内部告発)と拙速な内部告発がも たらす問題 現代高度技術社会における科学技術者の 社会的・倫理的責任、など ケース・メソッド 取り上げる事例 「スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事 故」(2回の講義) 「工学設計Ⅲ」にて(研究倫理) 「ギルベイン・ゴールド」(3回の講義) グループ・ディスカッション 他に多くのミニ事例を講義の中で取り上げたり、 課題として課す グループ・ディスカッション(初期) 事前の指示 なぜ、何を、どのように 個人学習→グループ討 議→クラス討議 自ら問題を発見、分析 し、意思決定を行う「当 事者としての意識」(道 徳的行為者) グループ・ディスカッション(初期) 報告書 事実関係の 確認 取り得る行動 の列記と意思 決定 選択の理由 重視した価値 グループ・ディスカッション(中期) 報告書 行動の選択 問題点の明 確化 事実関係 関連事項 選択した行動 の妥当性テ スト グループ・ディスカッション(後期) 報告書 ステイクホル ダー 選択し得る行動 の妥当性(複数 のテスト) 行動の選択 内部告発の是非 企業倫理 企業の社会的責 教育効果の測定と評価 現状 今後の展望 「科学技術者倫理」の成績評価 課題、試験、討議結果などを総合的に評価 事例分析レポート 筆記試験(中間・期末〔「達成度確認」〕の2回) グループ討議結果報告(3回) 学協会の倫理綱領に関するレポート 企業倫理プログラムに関するレポート 科学技術と倫理に関する新聞記事レポート(2回) 小テスト 討論への参加も評価(相互評価) 「科学技術者倫理」の成績評価 最終的な成績評価 「科学技術者倫理」の成績評価 討論への参加を 評価(相互評価) 教育効果の測定と評価 現状 今後の展望 突然ですが… 中世末期 「性質」の数量化への挑戦(マートン学派・パリ学派) 図版出典:吉田忠他, 『高校理科II』, 実教出版, 1983, p.137. 果たして成功だったのか… 成功した側面 その後の近代科学に引き継がれる しかし… 現実(物理現象)との対応を考えない空虚な理 論という側面 明らかに誤った場合も 重要なお知らせ 第2回国際シンポジウム「 科学技術倫理教育の課 題-倫理的推論能力の測定・評価-」 "A Science and Engineering Education Challenge: Assessment and Evaluation of Moral Reasoning Skills" 主 催:金沢工業大学科学技術応用倫理研究所 日 時:平成19年1月12日(金)、9:30~16:50 場 所:東京国際フォーラム・G-502会議室 参加費:無料(定員50名・先着順) 懇談会参加費:4,000円 重要なお知らせ(続) 主なプログラム: 基調講演(Dr. Charles E. Harris, Jr.) 講演 • • • • Dr. Henriikka Clarkeburn Dr. Muriel Bebeau Dr. Larry Shuman 本田 康二郎 パネル討論(Dr. Scott Clarkも参加) まとめ 得られつつある成果 約1,600名の学生を対象とした技術者倫理 教育を実施 ケース・メソッドの活用 得られつつある成果(続) 大人数でも実施可能な技術者倫理教育科目 パッケージの作成 明確化された学習・教育目標 ケース・メソッドを用いた教育手法 教材(グループ・ディスカッションのための事 例、提示・配布資料、課題群、など) 測定・評価手法(試験など) ※継続検討中 得られつつある成果(続) 学習・教育目標と学習内容および課題、グ ループ・ディスカッション、試験などを明確 に関連づける 科目改善が容易 設計・開発担当者以外も、本科目を担当可 能 プロジェクトとの連携と、残された課題 「Ethics Crossroads の形成と科学技術倫理 の構築」プロジェクト (科学技術振興機構社会技術システム「社会システム/社会技術論」領 域公募型プログラム) 倫理的判断能力の測定評価手法の開発・検 討 e-ラーニング教材「アゴラ」の日本語化と試 用および評価、等 学生による評価 記名式 講義終了間近に「本科目と本学の教育・学習目 標群との整合性に関する課題」を課す 無記名式 講義終了時に完全無記名でのアンケート実施 終わりに 連絡先 金沢工業大学科学技術応用倫理研究所 (ACES)
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