がん医療における 悪い知らせ を伝える際の

がん医療における悪い知らせとは
「悪い知らせ」とは、患者の将来への見通しを根底から否定的
に変えてしまうもの
Buckman: British Medical Journal, 1984
がんを疑う
検査
難治がん
の診断
52万人/年
がんの
再発・進行
闘病者300万人
積極的抗がん
治療の中止
32万人/年
Fallowfield & Jenkins: Lancet, 2004
インフォームドコンセントと心の機能
説明
と
同意
知 → 情 → 意
説明→気持ち→同意
がん医療における
患者‐医師間のコミュニケーション技術
困難なケースに対応する
コミュニケーション技術
例:否認、怒り、「私死ぬんですか」
難しいコミュニケーション技術
例:難治がん、再発、抗がん治療中止を伝える
基本的コミュニケーション技術
例:通常の診療
がん医療におけるコミュニケーション研究のまとめ
1. 悪い知らせの際のコミュニケーションは患者のストレスに影響
する。Roberts et al., 1994; Takayama et al., 2001; Schofield et al., 2003
2. そのため悪い知らせの際のコミュニケーションに関するガイド
ラインが作成され、介入法が開発されている。 Fallowfield, 1993 ; Grigis
& Sanson-Fisher, 1995; Ptacek & Eberhardt, 1996; Okamura et al., 1998
3. しかしガイドラインやCSTは医療者の経験則に基づいて作成
されており、必ずしも患者の意向とは一致しない。Schofield et al.,
2001; Shilling et al., 2003; Wright et al., 2004
4. 悪い知らせの際のコミュニケーションには文化差がある。Holland
et al., 1987; Baile et al., 2002; Fujimori et al., 2005; Fujimori et al., 2007a
→ がんに関する悪い知らせの際のコミュニケーションに対する
患者の意向を明らかにし、患者の意向に基づいたガイドライ
ンや介入法が必要である。
推奨されているコミュニケーションと
患者の意向は必ずしも一致しない
推奨されているコミュニケーション
あらゆる情報を伝える
直接会って伝える
家族を同席させる
他の医療従事者を同席させる
情報が確実になってから伝える
手や肩に触れる
婉曲的な言葉を使わない
段階的に伝える
望む (%)
豪州
日本
78
77
57
13
-
79
91
78
18
58
7
17
32
Butow et al.: Cancer, 1996
Fujimori et al.: Psychooncology, 2007
悪い知らせを伝えられる際のコミュニケーション
に対する患者の意向は文化により異なる
日本(国立がんセンター東病院)
N=529
情緒的サポート *
14.5 %
米国(MDアンダーソンがんセンター)
N=351
情緒的サポート
10.7%
医学的情報
11.8%
明確な説明
11.5 %
場の設定 質問の奨励 **
6.8%
9.9 %
Fujimori et al.: Psychooncology, 2007
内容と伝え方
33.4 %
場の設定
6.3 %
Parker et al.: J Clin Oncol, 2001
* 患者の気持ちをやわらげ、患者が表出した感情に対して共感を示す
** 患者が質問できるように十分時間を取り、患者の質問には十分回答する
わが国におけるコミュニケーション
に対するがん患者の意向
対象:がん患者571名、医師7名
方法:半構造化面接、質問紙調査
解析:内容分析、因子分析
結果:619の発言から70項目作成し、4カテゴリーを抽出
1.サポーティブな: 誰に伝えるか(患者だけ/家族を同席させる/家族だけ)
環境設定
2.悪い知らせの:
伝え方
3.付加的情報:
伝えるタイミング(不確かでもできるだけ早く/確実な時だけ)
はっきりと伝えるが 「がん」という言葉は繰り返し使わない
納得できるまで説明する
予後(知りたい/知りたくない)
日常生活・仕事への病気の影響、代替療法、セカンド・オピニオン
4.安心感と情緒的: 気持ちに配慮する
サポートの提供
家族に対しても患者同様配慮する
Fujimori et al.: Psycho-Oncology, 2005; 2007
悪い知らせを伝えるコミュニケーション技術
Fujimori et al.: Psycho-Oncology 2005; 2007
準
次回は重要な面談であることを伝える。
備
家族の同席について触れる。場を準備する。
起
オープンクエスチョンで気がかりを知り、気持ちを和らげる。
経過を振り返り、病気に対する患者の認識を知る。
承
心の準備の言葉掛け。
悪い知らせをわかりやすくはっきりと伝える。
気持ちを受け止める(沈黙、探索、保証、共感の言葉)。
理解の確認。
転
治療を含め今後のことについて話し合う。
(治療、セカンドオピニオン、生活面への影響など)
結
理解の確認と保証。
内富庸介・藤森麻衣子編(2007)『がん医療におけるコミュニケーションスキル』医学書院
準備:面談を前に
Fujimori et al.: Psycho-Oncology, 2005; 2007
■次回は重要な面談であることを伝える。
「1週間後に検査結果が出揃い、慎重に検討した上で最終的な診断を10日後
にお話しすることが出来ます。次の面談は○月○日ではいかがでしょうか」
■家族の同席を促す。
「次回は検査結果をお伝えする重要なお話がありますので、ご家族の方など、
どなたかご一緒にいらしていただくこともできます」
■場を準備する。
静穏、プライバシー、十分な時間、電話
■基本的コミュニケーションを念頭に置く。
身だしなみ、時間遵守
起:面談を開始する
Fujimori et al.: Psycho-Oncology, 2005; 2007
■時候の挨拶や聴くスキルを用いて、気持を和らげ気がかりを聞く。
「暑い日が続いていますがいかがですか?」
「前回から今日まで何かお変わりはありませんでしたか?」
■聴くスキルを用いて患者の気がかりを聞きだす。
「暑い日が続いていますが、いかがですか?」
「前回から今日まで何かお変わりはありませんでしたか?」
■家族にも配慮する。
「ご主人も心配されましたでしょうね?」
■経過を振り返り、病気に対する患者の認識を知る。
「その後、病気についてどのようにお考えになりましたか?」
「ご家族にはどのようにご説明されましたか?」
承:悪い知らせを伝える
Fujimori et al.: Psycho-Oncology, 2005; 2007
■心の準備ができる言葉をかける。
「それではお伝えします。ご心配されていた結果かと思いますが、、、」
「大変申し上げにくいのですが」「残念なのですが、、、」
■悪い知らせをわかりやすくはっきりと伝える。
「がん」という言葉を用いる、写真、データ、紙に書く
■気持ちを受け止める(沈黙、探索、保証、共感の言葉)。
「...............(沈黙)...........どうお感じになりました?」
「...............(沈黙)...........大丈夫ですか?皆さん、混乱されます」
「...............(沈黙)...........とても驚かれたことでしょうね」
■理解を確認する。
「これまでの話はご理解いただけましたか?」
「話の進め方は早くないですか?」
転:今後のことを話し合う
Fujimori et al.: Psycho-Oncology, 2005; 2007
■治療について話し合う。
標準的な治療法、その他の治療法、治療の危険性、有効性、推奨する治療法
■治る見込みについて話し合う。
「がんを完全に取り去り完治することは厳しい状況ですが…現在の生活を保つ
ことが目標になります」
■日常生活、家事、仕事など生活面への影響について話し合う。
■治療選択に誰が関わるか尋ねる。
■患者が希望を持てる情報も伝える。 「痛みが、夕方までには取れます」
■患者が希望する話題、 よくある質問について話し合う。
セカンドオピニオン、利用できるサービス(医療相談、高額医療、介護…)
話題を扱うことが難しい場合には専門家を紹介する
結:面談をまとめる
■伝えた内容の要点をまとめる。
Fujimori et al.: Psycho-Oncology, 2005; 2007
要点をまとめて伝える「今日は○○についてお話しました…」
■理解を確認する。
「わかりにくかったところはないですか?」
「ご質問はありませんか?」
「わからないことがあれば、次回でもいつでもご質問ください。」
■説明に用いた紙を渡す
■最後まで責任を持って診療にあたること、見捨てないことを伝える
「私たちはあなたが良くなるように最善の努力を続けます」
「ご希望があればいつでも仰ってください」
■患者の気持を支える言葉をかける
「一緒にやっていきましょう」「大丈夫ですよ」
困難なケースに対応するコミュニケーション技術
■「わたし、死ぬんですか?」、「どれくらい生きられますか?」
■話が長く、中座できない
■怒りを向けられる
対応法
1. 患者の質問や反応に、安易に回答したり、感情的に対応したり
しない。
2. 共感スキルを用いて(沈黙を置いて受け止めて)から、患者の
質問や反応の背景を探る。
3. 知→情→意 を念頭に対応する。
4. その後も、対応を変えることなく患者に接する。
介入法:コミュニケーション・スキル・トレーニング
著者
(出版年)
Aspergan (1996)
CSTの
対象者
内容
研究デザイン
期間
数
RCT or Open trial
セミナー3回 33
共感的反応↑(CST後)
Open
+3日間
患者との関係に対する態度 →(CST後)
Baile et al. (1997)
3日間
9
自己効力感↑(CST後)
Open
Fallowfield
1.5 or
178
自己効力感↑(CST3ヶ月後)、
Open
et al.(1998)
3日間
コミュニケーションに対する態度↑(CST3ヶ月後)
Baile et al. (1999)
5時間
17
自己効力感↑(CST1週間後)
Open
Abel et al. (2001)
半日間
54
自己効力感↑(CST3ヶ月後)
Open
Fallowfield et al.
3日間
160
面接時の行動↑(CST3ヶ月後、1年後)
RCT
(2002, 2003a, 2003b) 自己効力感↑(CST3ヶ月後、1年後)
患者のケアへの満足感→
Jenkins &
Fallowfield (2002)
3日間
93
Farber et al. (2003) 2時間
15
Fujimori et al. (2003) 1 or 1.5日間 58
Lenziet al. (2005)
4日間
17
Back et al. (2007)
4日間
115
面接時の行動↑(CST3ヶ月後)、
心理社会的問題への態度↑(CST3ヶ月後)
自己効力感↑(CST3ヶ月後)
コミュニケーションに対する態度↑(CST後)
自己効力感↑(CST3ヶ月後)
自己効力感↑(CST後)
コミュニケーションに関する知識 ↑(CST後)
面接時の行動↑(CST後)
RCT
Open
Open
Open
Open