自閉症の青年にみられる情緒 的行動の訓練と般化 Angeliki G, Patricia J. K., Lynn E. Mc. & Claire L. P.(1996) Journal of Applied Behavior Analysis, 29, 291-304 心理学科3回生 粟田愛絵 1 問題と目的 本研究での情緒的行動(情緒的反応)とは 表情、言葉遣い、姿勢、身振りなど、社会的コミュ ニケーション機能を持つ、観察可能な行動。ここで は感情的・生理的現象は含まない。 2 ・情緒的行動は社会的相互作用において弁別刺激とな るので(Rutter & Schopler,1987)、適切な表現能力が不十 分だと社会的発達そのものが遅れ他者との円滑な関 わり合いが持てない(Feldman, Philippot & Custrini, 1991; Walters, Barrett & Feinstein, 1990)。 ・自閉症児には、不適切な情緒的行動も含め深刻な社 会的スキルの欠如がみられる(McGee, Feldman & Chernin, 1991; Snow, Hertzig & Shapiro, 1987)。 3 一般の子どもに情緒的反応の示し方を教授した先行 研究 ・通常発達の子どもに、強化・修正の手続きを行い、 生物と無生物に対する一般的な感情表現を教授(Acker, Acker & Pearson, 1973) ・指示、モデリング、社会的賞賛がある場合に、学 習障害の子どもが社会的情緒反応を向上(Cooke & Apolloni, 1976) ・一般の幼稚園児に、要求に応じた表情をみせるこ とを教える様々な手続きの有効性の比較(Field & Walden, 1982) 4 しかし・・・自閉症児の情緒的行動の改善に焦点を当てた研究は なかった そこで、状況に応じた感情に関わる表情と言語表現を情 緒的反応として取り上げ、 (a)組み合わせた強化を用いて、文脈上適切な情緒的反 応を自閉症者に教授すること (b)新しいセラピストと場面設定を通じ、一ヶ月のフォ ローアップ期において、新規反応への介入効果をみ ること (c)同年代の子どもの受け入れに大いに関わる情緒的反 応(La Greca & Santogrossi, 1980)を訓練すること 以上を本研究の目的とした 5 方法 <参加者> ・自閉症と診断され、適切な情緒的反応が不十分な、11:4~18:11 の4人 ・プリンストンチャイルド開発研究所の教育プログラムに入って おり、教育的介入を8~13年受けてきた(全員が「不適切な笑 い」を減少させるプランを受けていた) Tony:スタンフォード・ビネー知能検査(第4版)49。比較的 はっきりした発音・完全な文で話した。 Alex:WISC-Rで全IQ46。表現的な言葉は流暢ではなく、発話は 乏しかった。 Ana:WISC-Rで全IQ58。完全な文で話し、わずかに声の抑揚が あった。 Dean:スタンフォード・ビネー知能検査36。表現的な言葉はたい てい真似言葉で分離しているが、機能的な言葉もあった。 6 <場面&セラピスト> セッション ・施設内の、参加者が普段使う教室より小さい教室。 ・参加者とセラピストが2人きりで向かい合って座った。 ・64×49cmの机を2つセラピストの右側に置き、データ用紙、トー クンシステム(正反応ごとにチェックする24のマスの表)、 セッションに使う材料(写真、雑誌など)を置いた。 ・参加者の席から対角線上の隅と、セラピストの正面にあたる位 置に、ビデオカメラを一台ずつ置いた。 →それぞれの顔のクローズアップが可能 介入後の尺度は、参加者の従来の教室や施設内の休憩所・食堂で 測定した。 メインセラピストが一人でベースライン・介入の全セッションを 行った。 参加者のよく知る教師が、新規人物への反応の監査役をした。 7 セッション中のイメージ図 参加者 セラピスト 8 <反応の定義> ・無関係な観察者が、参加者の情緒的反応が文脈上適切かどうか を判断した。 ・情緒的反応は次の場合適切であるとして点を与えた。 (a)表1の各反応カテゴリーで別々に記述されている言語的特徴・ 顔の特徴の両方を含む。 (b)セラピストが提示したシナリオに適している。 (c)シナリオ提示後5秒以内に表出される。 これらをひとつでも満たさなければ、反応は適切とされず点は 与えられなかった。 9 10 ・同情を示す適切な反応をみせない参加者2人は4つ、あとの2人は 3つの反応カテゴリーの訓練を受けた。←同情を示す反応は他 のカテゴリーとは対照的な表情が必要であるため。 ・プレテストのパフォーマンスに応じて、各参加者が不適切な反 応を示した反応カテゴリーを選び、訓練を行った。 ・各参加者の好みと言語表現力・言語理解力に応じて、特定のシ ナリオと標的言語反応を選んだ。 ex)『感謝を示す』:音楽好きには「このテープを借りたいです か?」、スポーツ好きには「一緒にバスケットボールをし ませんか?」 標的言語反応は「ありがとう」など感謝を示す返事。 *個人に応じた言語反応に関係なく、標的とする顔の表現はど の参加者も同じ。 11 <シナリオ> ・全実験フェイズを通して、セラピストはシナリオの提示と同時 に、文脈に合った表情をしてみせた。 ・シナリオの提示は、ベースラインと介入とで体系的には違わな かった。 ・各反応カテゴリーにシナリオ120本ずつ うち80本が訓練試行に、40本がプローブ試行にランダムに割り 当てられた。 12 <手続き> 全体的な手続き ・1試行:シナリオ提示→5秒まで反応を待つ→結果をもたらす (結果はベースラインと介入とで異なる) ・ベースラインと介入の両方で、セラピストはシナリオ提示後に 参加者の反応に応じた返答をした。 ・実験セッション:24回の連続試行(約15分間)×週5日 ―1セッションに計24本のシナリオ 4本は訓練試行 ・・・各カテゴリーから6本ずつ 2本はプローブ試行 -シナリオはランダムに提示。必要に応じて同じ順で繰り返 したシナリオが20組あった。 13 実験場面&デザイン 反応カテゴリーによる多層間ベースライン BL期:シナリオ提示→参加者の出席・参加をほめる→反応後5秒 あけてトークンを与える 介入期:①訓練試行 ・セラピストが適切な情緒的反応のモデルを示し、参加 者に言葉で促す「訂正の手続き」を用いた(不適切反 応をした1試行につき1~3回実施)。 ・シナリオ提示後5秒以内・訂正なしの適切な反応ごと にトークンを与えた。 ②プローブ試行 ・BL期同様、出席・参加に対しトークンを与えた。 ・情緒的反応に対しては強化も訂正もしなかった。 *トークンはセッション終了時に物や活動と交換。 23個以上→参加者が選んだ好きな雑誌・スナック・活動 23個未満→それ以外の雑誌・スナック・活動 14 別のセラピストと新規場面を通じた般化 ・セラピストA~CがBLと同じ手続きで人々への般化をテスト。 ・セラピストAは、BLと同じ手続きで、新しく訓練された反応が3 つの新しい場面で生起するかどうかもテストした。 ・介入の最後のセッションの後、メインセラピストが、新しく訓 練された反応が訓練とは別の3場面で生起するかテストした。 ・一日6本のシナリオを、2時間の授業の間に各参加者に提示。 →セラピストとやりとりを始めた時、活動の合間などに、ばら ばらに提示。 ・3つの実験セッション同様、72の反応が新規場面で各参加者に提 示された。 ・トークン強化システムが実験場面で機能していた場合のみ、訓 練試行中にトークンを与えた。通常の教室では与えたが、休憩 所や食堂での試行中には与えなかった。 ・訓練場面とは別の場面のセッションでは、訂正の手続きは行わ なかった。 15 1ヶ月のフォローアップ ・Dean以外の3人に対し、介入の最後のセッション後1ヶ月実施。 ・適切な情緒的反応に対する介入はなし。 ・場面と手続きは介入期と同じ。 社会的妥当性 ・介入効果の妥当性を2つの観察グループが評価 ①参加者の親 ②参加者を知らない、または研究目的を知らない心理の大学院 生 ・シナリオに対する参加者の反応を録画した2つの場面を見た (最後の3つのBL・介入セッションからランダムに選んだ)。 ・参加者がもっとも社会的に適切な反応を示した録画場面を確認。 16 現場の観察者間の一致 ・メインセラピスト、院生1人、施設で働くセラピスト3人 ・各参加者に対し、各実験場面で行ったセッションの33%以上で 一致。 ・実験とは無関係の、録画するセッションの前のデータでは80% 一致。 ・全参加者の全実験場面での適切な情緒的反応に対しては、訓練 ・プローブ試行で96~100%一致。 *BL期・介入期のメインセラピストの表情の信頼性を評価 実験に無関係な観察者2人が、さまざまなシナリオのメインセラ ピストの録画場面64個を採点。→100%一致 独立変数の測定 ・研究全体でプローブ試行では一度も強化・訂正をしなかった。 メインセラピストによる新規場面では訓練試行の65%で強化。 ・セラピストA~Cは実験全体で一度も強化・訂正をしなかった。 ・上述の方法(*)により、独立変数の信頼性は得られた。 17 結果 図1 Tonyのプローブ試行の結果 18 図2 Alexの結果 19 図3 Anaの結果 20 21 図4 Deanの結果 ・介入期で、参加者の親が「より社会的に適切だ」とした反応の 割合は、BLとは対照的に83~100%だった(参加者平均92%) 。 ・院生16人が「より社会的に適切だ」とした反応の割合は、416の 観察記録の平均が82%だった(範囲73~90%)。 22 考察 ・訂正と強化の組み合わせは、各参加者に文脈上適切な反応をも たらした。 ・直接訓練していないプローブ試行にも適切な反応が般化した。 特定の反応カテゴリーに関する訓練試行とプローブ試行の反応 は、機能的な反応類を示すようである(Baer,1982)。 ・BLの測定は訓練場面でしか得られなかった。全場面でのBLの測 定がなければ般化効果の実験的分析はできないが、逸話的な報 告では、参加者が介入前に文脈上適切な反応を示していたとい うことはない。 ・さまざまな先行研究によって、情緒的行動の形成における文化 的・環境的要因の重要性が明らかになっている。しかし、文脈 上適切な情緒的反応はオペラントの理論で教えられることが本 結果で証明される。 ・参加者に情緒的反応をもたらした弁別刺激は実験的に確認され たわけではない。しかし観察から、セラピストの表情や声のイ ントネーションが、シナリオの内容だけよりもはるかに影響を 与えたことは明らかである。 23 ・社会的妥当性の測定により、研究の最後までに参加者の情緒的反 応は上達したことがわかる。 ・今回の社会的妥当性の測定は大まかなものであり、反応の上達に 伴い参加者の社会的相互作用全体が向上したと証明したり、参 加者の反応を質的に評価することはできない。 ・将来的な研究では、感情表現の全体的な適切さを判断するのに必 要な音声反応の韻律的特徴(Knapp,1960)を扱う必要性。 ・本研究の介入プログラムが、家庭で親がセラピストの役目をしな がら行動の変化をもたらすのに十分かどうか 「社会的スキルの欠如により自閉症者が社会的相互作用を避ける」 という点では、 適切な情緒的反応の方法を身につけること =相互作用を促す社会的スキル 24
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