WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 SDQ-S以外の 方向感覚質問紙について (株)原子力安全システム研究所 松井 裕子 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 話題提供の内容 1.SDQ-S以外の方向感覚質問紙 2.方向感覚質問紙の作成(松井,1997) 3.ビデオによる経路学習事態での課題成績と 方向感覚質問紙との関連 結果1~3 総合得点との関連 結果4 各尺度得点との関連 4.おわりに 2 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 1.SDQ-S以外の方向感覚質問紙 • 谷(1980,87)方向音痴質問票暫定改訂版 「とっさ音痴」「お出かけ音痴」「東西南北音痴」 「道尋き音痴」 • 高城(1985)方向感覚に関する質問紙 方向感覚の高低、探索活動、方向の伝達能力 • 加藤(1988)方向感覚能自己評価質問紙 「方向感覚能因子」 • 増井(1997)方向音痴意識尺度 • 浅村(1997)方向感覚質問紙 「迷いやすさ」「記憶のあいまいさ」 「空間の地図的把握」「目的地への自力到達性」 「目印の記憶」 3 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 その他の方向感覚と関連が指摘される要因 • Kozlowski&Bryant(1977) 意図的な努力 • Bryant(1982) 道に迷うことへの不安、 パーソナリティ • 増井(1996) 環境情報認識質問紙(倉本,1991) サーヴェイ的な情報への注意 • 本多・仁平・Pazzaglia(準備中) 空間情報処理方 略に関する質問紙;Questionnaire on Spatial Representation(Pazzaglia et al., 2000)の翻訳版 どこまで「方向感覚」に含まれるべきなのか。 4 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 2.質問紙の作成 作成当時の問題意識 • 「方向感覚がよい/悪い」という自己評価はどの ようなことに基づいているのか。 • 「方向音痴」にも、いくつかタイプがあるのではな いか。 • SDQ-Sに含まれない項目についても、大規模空 間での行動との関連を検討したい。 5 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 方法 • 竹内(1990)の方向感覚質問紙(51項目)を基本 に、内容の重複しない谷(1980)、加藤(1988)の 質問項目などを加えた80項目の質問紙調査。 • 調査対象 大学生を中心に171名 男性78,女性92 平均年齢23.9歳(18-30歳) • 有効資料154について、自己評定項目との相関の 高い項目について因子分析(主因子法、バリマックス回 転)を行い、4因子を得た。 6 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 結果:SDQ-Sとの質問項目比較 赤字:SDQ-Sの「方位と回転」、青字:「記憶と弁別」 第1因子:方位の感覚・利用 第2因子:道順や目印の記憶 • 電車(列車)の進行方向を東西南北で理解 することが困難。 • 知らない土地へ行くと、途端に東西南北が 分からなくなる。 • 道順を教えてもらうとき、「左・右」で指示し てもらうと分かるが、「東西南北」で指示さ れると分からない。 • 東西南北の感覚がとっさにわからない。 • 太陽が出ていれば、それだけで方向の推 測ができる。 • メートルやキロメートルで言われた距離を 感覚的に把握できない。 • 東西南北がすぐにわからなくなる。 • 移動しながら東西南北の方角を考えない (α=.9067) • 所々の目印を記憶する力がない。 • 景色の違いを区別して覚えることができない。 • 道を曲がるところでも目印を確認したりしな い。 • 何度も行ったことのあるところでも、目印にな るものをよく覚えていない。 • 道順を覚えようとしない。 • 初めての土地でも、目印になるものさえあれ ば迷わず目的地へ行ける。 • その土地の地名などをかいた看板や立て札 などによく注意を払う。 • 目印になるような建物や情景を良く覚えてい る。 (α=.8789) 7 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 結果:SDQ-Sとの質問項目比較 赤字:SDQ-Sの「方位と回転」、青字:「記憶と弁別」 第3因子:均質環境での定位 第4因子:他者への依存性 • 住宅地で同じような家がならんでいると、目 的の家がわからなくなる。 • 劇場などで、入るときと異なるドアから出る と、どちらに行けばよいかわからない。 • 地下駅や地下街から行きたい方向の地上 出口を見つけられる。 • 曲がり角が続くと、どの方向を向いて進ん でいるのか分からなくなる。 • 地下から地上に出るとき踊り場や曲がり角 がたくさんあっても、地上での方向の見当 をつけることができる。 • 反対向きの電車(列車)に乗りそうになる。 • 地下街では方向が分からなくなる。 • デパートの中を歩き回ると迷子になりそう だ。 (α=.8371) • 道がどうしてもわからなかったり急いでいる ときは、人に聞くと早いと思ってしまう。 • 初めての場所を歩くとき、よく人に道を尋ね る。 • 道がわからなくなったときも、すぐ人に尋ね ず自分で考えようとする。 (α=.7535) 累積寄与率53.2% 8 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 各質問紙の因子の対応 サーヴェイ的な ルートやランド 表象/方略 マークの記憶 SDQ-S 方位と回転 (竹内,1992) 記憶と弁別 他者への依 存性 その他 ― ― 谷(1980,87) 東西南北音痴 ― ・道尋き音痴 ・お出かけ音 痴 とっさ音痴 浅村(1997) 空間の地図的 把握 ・目印の記憶 ・記憶のあいま いさ 目的地への 自力到達性 迷いやすさ 本研究 方位の感 覚・利用 目印や道順 の記憶 他者への 依存性 均質環境 での定位 9 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 3.実験:ビデオによる経路学習と 質問紙得点との関連 方法 • 被験者 学生29名(男性18、女性11) 上位群12名(97.3(8.05)) 下位群15名(57.7(12.23)) • 課題 ビデオによる経路学習後、 ・経路の自由再生 ・地図上への経路再生 ・地図上での対象再認、手がかり報告 • 刺激 小工業地域を通る右折5回、左折11回を 含む経路を20km/hで移動する映像(約6分) 10 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 結果:自由再生課題 対象の再生 • 対象の再生数に差なし 上位群(6.3個)=下位群(6.7個) • 正しい位置に再生された対象の比率 上位群(68.4%)≧下位群(46.1%) (p<.1) 経路の再生 • 正しく再生された曲がり角の比率 上位群(87.1%)>下位群(62.1%) • 連続して再生された交差点数の最大値 上位群(8.9個)>下位群(4.5個) 11 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 結果2:地図上の対象再認課題 再 認 さ れ た 対 象 数 6 5 4 3 2 1 0 上位群 下位群 曲 が り 角 曲 が り 角 ・ 利 用 ・ 非 利 用 そ の 他 そ の 他 ・ 利 用 ・ 非 利 用 再認された対象数 ・上位群(6.6個) ≧下位群(4.3個) (p<.1) 再認された対象のタイプ ・曲がり角にある対象 上位群>下位群 ・方向感覚と手がかり利用 の交互作用に有意傾向 12 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 結果3:地図上の経路再生課題 7 上位群 下位群 再6 生 さ 5 れ 4 た ブ 3 ロ ッ2 ク 数1 再生された連続経路の最長 ・上位群(13.5ブロック) >下位群(7.5ブロック) 再生経路の長さの変化 ・前半>中間、後半 ・上位群>下位群 0 前半 中間 経路の区間 後半 13 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 各尺度得点と 結果4:地図上の再認課題成績との関係 再認項目数 手がかり 非手がかり 全体 方位の感覚 * n.s. n.s. 道順や目印の記憶 *** + ** 均質環境での定位 + n.s. n.s. n.s. * n.s. * + n.s. 他者への依存性 総合得点 ※順位相関係数、+ p<.1, * p,<.05, ** p<.01, *** p<.005 14 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 各尺度得点と 結果4: 地図上の再生課題成績との関係 再生ブロック数 前半 中間 後半 方位の感覚 全体 n.s. * + + 道順や目印の記憶 + + * * 均質環境での定位 n.s. + ** * 他者への依存性 n.s. n.s. ** + 総合得点 n.s. + ** * 15 ※順位相関係数、+ p<.1, * p,<.05, ** p<.01, *** p<.005 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 結果のまとめと考察 • 対象の再生/再認 ①上位群は下位群より対象の位置を正しく記憶した ②上位群は曲がり角にある対象を手がかりとして多く 利用した。 ③「方位の利用」「道順や目印の記憶」が高い被験者 は、より多くの曲がり角の対象を手がかりとして再生 した。 ④「他者への依存性」の低い被験者は、手がかりとしな かった対象についてもより多く再生した。 →曲がり角の対象の記憶が認知地図の高度化に関連してい る?課題要件? →環境情報の獲得に対する態度の反映? 16 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 • 経路の記憶 ①上位群の方が連続して経路を再生した。 ②経路が長くなると再生される経路が断続的にな るのは、上位群・下位群も同じ。 ③ただ、前半では質問紙得点との相関は低いが、 中間では「方位の利用」、後半では「道順・目印 の記憶」「均質環境での定位」「他者への依存 性」との相関が高かった。 →上位群は、経路が長くなるにつれて、それぞれの尺度と 対応する方略などを適用しながら、記憶の負荷を低減し ているのかも? 17 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 4.おわりに • SDQ-Sとは対応しない尺度でも、空間移動に関す る課題との関連が認められた研究を紹介しました。 • 「方向感覚質問紙」にどのような項目を含めるか -「方向感覚」をどのようにとらえるか ・実際に空間移動がうまくいくかどうか ・日常的に空間移動がうまくいっているかどうか ・空間移動に苦手意識があるかどうか -「自称 方向音痴」や自覚のない方向音痴 ・空間移動/情報の獲得に対する態度や不安 ・方略の柔軟性 • 「他者への依存性」も外的情報資源の利用という方 略と見なせる場合もある 増井(1993)、新垣・野島(1998) 18 日本心理学会第68回大会 WS 96 質問紙を用いた方向感覚研究の現状と問題点 おわり 日本心理学会第68回大会
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