国立大学図書館協議会の 電子ジャーナル・コンソーシアム活動 について 千葉大学附属図書館 情報サービス課長 尾城 孝一 [email protected] 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 1 アウトライン • 「雑誌の危機(シリアルズ・クライシス)」と大 学図書館 • 国立大学図書館協議会電子ジャーナル・タス クフォースの活動 • コンソーシアムを越えて 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 2 シリアルズ・クライシス • 継続的な価格高騰による購入額の大幅な増 加と購入タイトル数の減少 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 3 大学図書館における実態 日本国内図書館の外国雑誌購入費および受入れタイトル数 単位:千円 但し1982年度までは和雑 誌も含む 30,000,000 45,000 40,000 25,000,000 35,000 25,000 金額 15,000,000 20,000 10,000,000 数 30,000 タイ トル 20,000,000 15,000 10,000 5,000,000 5,000 0 0 (1971) 2002/7/26 私立 公立 国立 (1975) (1979) (1982) (1987) (1989) 年度 (1992) (1995) 第93回農学図書館情報セミナー (1998) (1999) 4 国立国会図書館における実態 • 科学技術関係外国雑誌 – 1990年 • 平均単価 • タイトル数 34,176円 11,174タイトル – 1999年 • 平均単価 • タイトル数 2002/7/26 133,882円 3,056タイトル 第93回農学図書館情報セミナー 5 北米の実態 • ARL(Association of Research Libraries) の統計(1986年→1999年) – – – – – – 雑誌タイトル単価 雑誌購入費 雑誌受入タイトル数 単行本受入タイトル数 教官給与 消費者物価指数 2002/7/26 +207% +170% -6% -26% +68% +49% 第93回農学図書館情報セミナー 6 無償供与のサークル(Circle of Gift) 研究者 ・論文投稿 ・査読、編集 著者 ・利用、提供 読者 図書館 学会(出版社) ・収集、組織化 ・保存、蓄積 2002/7/26 ・出版(配信) 第93回農学図書館情報セミナー 7 研究成果の過剰生産 • ビッグサイエンス – 20世紀半ば~ – 大規模研究プロジェクト(マンハッタン計画、アポ ロ計画、核融合等々) – 研究競争の激化、研究者数増加→論文数の増 加→刊行経費の上昇→価格高騰 • 「出版せよ、しからずんば、破滅せよ(publish or perish)」という評価システムの支配 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 8 商業出版社の進出と市場独占 • • • • 新たな出版経路への需要の高まり 商業出版社の進出 学会誌の吸収 買収による大規模出版社の寡占 – 買収による値上がりの実例(医学生物学分野) • Pergamon→Elsevier – 旧Pergamonタイトルは22%値上がり • Lippincott→Kluwer – 旧Lippincottタイトルは35%値上がり 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 9 学術雑誌の特殊性 • A誌a論文 ≠ B誌b論文 – 互いに代替できない • 非競争的な市場 • 価格に対する非弾力的な需要 – 医学生物学系1,000タイトルの価格は1988年から1998年の 間に3倍 – 194の医学図書館購読タイトル数は1.5%減少しているに過ぎ ない 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 10 大学図書館の対応 • 雑誌購入費の確保 – 大学当局や本省への増額要求 – 図書購入費の流用 • 購入タイトルのキャンセル • ILLへの依存 – 少数の図書館への依頼集中→機能不全 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 11 電子ジャーナルの登場と普及 • ギンスパーグ・ショック(1991年) – ロスアラモスのeプリントアーカイブ • 商業出版社による電子ジャーナル化の推進 • オンライン査読誌数の推移 (ARL Directory of Scholarly Electronic Journals and Academic Discussion Lists) – 1991年 – 1997年 – 2000年 2002/7/26 7タイトル 1,049タイトル 3,915タイトル 第93回農学図書館情報セミナー 12 電子ジャーナルのメリット • 利用者の立場から – 速報性、検索機能、リンク機能、時間的・空間的 制約の解消、複数利用者の同時利用 • 図書館の立場から – 重複購入削減、雑誌管理業務(受入・製本等)の 軽減、ILL業務の軽減、書架スペースの節約 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 13 価格面での期待と現実 • 価格低下への期待 – コスト • 製作コスト、頒布コストの低減化 • 電子ジャーナル < 冊子体 – 様々な試算 • 冊子体の24% (Fisher, J.H.) • 冊子体の80% (Fishwick,F. et al.) • 70-80%の節約可能 (Harnad, S) • 現実 – 冊子体との並行出版 – バンドル価格 – 冊子体キャンセル禁止条項の存在 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 14 コンソーシアムの形成 • コンソーシアム戦略 – 購買力と交渉力の強化 – Value for Moneyの向上 • 海外のコンソーシアム – 地域別 • OhioLINK、VIVA – 全国レベル • NESLI(英国)、CNSLP(カナダ)、CAUL(オーストラリア)、 KESLI(韓国) – コンソーシアムのコンソーシアム • ICOLC(国際図書館コンソーシアム連合) 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 15 日本のコンソーシアム • 先駆的活動 – EES共同利用(東京工業大学+長岡技術科学大学) – IDEAL、SwetScan共同利用(長岡技術科学大学+高 専) – Web of Scienceの試行(九州地区国立大学図書館) • 本格的コンソーシアムの形成 – – – – – 日本イデアルコンソーシアム 長岡技大-高専コンソーシアム 国立大学図書館協議会電子ジャーナルタスクフォース 国立情報学研究所ナショナルサイトライセンス 医学図書館協会、薬学図書館協議会 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 16 電子ジャーナルタスクフォース • 背景 – 電子ジャーナルの加速度的な普及 – シリアルズ・クライシスへの対応 – 情報格差 • 設置の経緯 – Elsevier社の円問題、SD-21への対応を契機と して – 平成12年9月に国立大学図書館協議会のもとに 設置 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 17 組織構成 • タスクフォースメンバー(25名) – 国立大学附属図書館、館長、部課長、専門員 • コア・メンバー(6名) – 出版社との交渉主体 • アドバイザリ・メンバー(3名) • 地区連絡担当者(11名) – 地区毎の問合せ窓口 • 出版社別担当者(8名) – 対出版社の窓口機能、動向調査 • 情報リテラシー教育講習会担当者(5名) – ユーザ教育担当者向け講習会の企画・立案 • 事務局 – 東京大学附属図書館資料契約掛 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 18 出版社との協議 • 平成13年度 – Elsevier、Wiley、Springer、Blackwell、ISI • 平成14年度 – Nature、Kluwer、IEEE Computer Society、 ProQuest、EBSCO – ElsevierによるAcademic Press買収への対応 – アーカイビング(保存)の可能性 • 国立情報学研究所の電子ジャーナルアーカイブ事業 との連動 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 19 教育担当者研修会 • 「電子ジャーナルユーザー教育担当者研修 会」 – 平成13年8月に東西地区(千葉大学、名古屋大 学)において2日間の研修会を実施。 – 対象は、国立大学附属図書館のユーザー教育 担当者、各地区60名の参加。 – 14年度も実施(8月26日-29日、東京工業大学、 大阪大学) 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 20 研修会のプログラム • 基調講演 • 出版社による、利用者教育のためのプレゼン テーション – Elsevier、Springer、Wiley、Blackwell、 Kluwer • 事例報告 – 「電子ジャーナル利用者教育の現場から」 • 全体討議 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 21 利用の現状と将来に関する調査 • 10大学(旧7帝大+千葉大学、東京工業大学、 広島大学)の教官、大学院生(3,000名)を対 象 • 平成13年4月に実施 • 結果報告書の刊行 • 定点観測の必要性 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 22 有料電子ジャーナル購入タイトル数 2001年 2002年 30,127 139,366 4,000- 1大学 2大学 3,000-3,999 0大学 4大学 2,000-2,999 3大学 17大学 1,000-1999 -999 5大学 93大学 41大学 38大学 総数 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 23 タスクフォース・コンソーシアムの特徴 交渉 購入経費 の一元化 契約窓口 一元化 利用イン ターフェイス ANUL TF OhioLINK NESLI ○ ○ ○ × ○ × × ○ ○ × ○ ○ KESLI CAUL ○ ○ × × × △ ○ × • 疎結合型コンソーシアム • 結束度は低いが、フレクシブル 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 24 タスクフォースのコンソーシアム形態 タスクフォース Elsevier コンソーシアム Springer コンソーシアム Wiley コンソーシアム 2002/7/26 Blackwell コンソーシアム ISI コンソーシアム 第93回農学図書館情報セミナー 25 モデル価格体系 • EJベース – 電子版は冊子体の90%から95%程度 – 冊子版はDDP(オプション) • たとえば定価の10% • 参加大学数によるスケールメリット • 値上げキャップ • 全てのバックファイルへのアクセスを含む 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 26 K社の価格体系 • EJ価格 – 2002年度購読タイトル(冊子体)の2003年度価格に対し て、 • 1-24校参加:95% • 25校以上参加:93% • 50校以上参加:91% • 累積された全てのバックファイルへのアクセス • 冊子体価格 – 通常価格の10%(オプション) • 値上げキャップ – 今後3年間:5% 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 27 タスクフォースの抱える課題 • 運営組織の脆弱化 – 国立大学図書館協議会のボランティア的組織 – 法人化後の体制? • 各図書館との連携強化の必要性 – 情報提供・収集、意見聴取 – 意思決定への反映 • 国内の他のコンソーシアムとの連携 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 28 コンソーシアムの本質的限界 • 値上げは続く! – Price Cap(値上げ率の上限設定)が最大限の努 力 • 単なる購読クラブ(Buying Club)? – 出版社のための集金マシンか 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 29 ビッグディール問題 • ビッグディール (Big Deal) とは – 商業出版社の大規模電子ジャーナルパッケージを対象と した包括契約 – ex. ScienceDirect、IDEAL、InterScience • ビッグディールのメリット – value for moneyの向上 • 危険性 – 選書権喪失 – 歪んだコレクション – 出版社への依存度強化 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 30 コンソーシアムの限界 • シリアルズ・クライシスの特効薬ではない • あくまで一時的な対症療法 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 31 ポストコンソーシアム戦略 • 研究者コミュニティとの連携 – 研究論文の著者、発信元である研究者コミュニ ティ(研究者個人、学会、学部学科等)との連携 が今後の大学図書館に求められている! 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 32 研究者によるイニシャティブ • eプリントアーカイブへのセルフアーカイビン グ • 著作権保持運動 • 編集委員の反乱 – 高額誌から離脱→リーズナブルな新雑誌創刊 • ボイコット運動 – PLoS (Public Library of Science) 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 33 SPARC • SPARCとは – 1998年に創設されたARLのプロジェクト – 米国その他の200を越える図書館が参加 • 使命 – 「科学を科学者の手に (Returning Science to Scientists)」 – 学術出版の市場における競争の促進 – シリアルズ・クライシスの解消 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 34 SPARCの活動と成果 • 主な活動領域 – 出版提携 • 高額誌と直接競合するタイトル(SPARCブランド誌)の支援 • 新しい学術出版モデルに対する援助 – アドボカシィ (Advocacy) • 図書館員、研究者、雑誌編集委員を対象 • 代替システムの提唱・擁護運動 • 成果 – 価格上昇の抑制 – SPARCブランド誌の認知度向上 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 35 国立情報学研究所での取り組み • J-SPARCに向けての概算要求準備 – JST、SPARC、学会、大学図書館との連携 – 国内の学会の情報発信力の強化 • 世界に通用する学会誌の創刊と育成 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 36 大学におけるSPARC的活動の可能性 • 共同購入プログラムへの参加 – SPARCブランド誌の積極的購入 • 大学リポジトリ(Institutional Repository)の構築 – DSpace(MIT)、eScholarship(カリフォルニア大学)等 • キャンパス内でのアドボカシィ運動 – Create Changeの日本語版の活用 – Create Changeのローカライズ • 国際連携 – ISCA、BOAI 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 37 まとめ • シリアルズ・クライシスを回避するには – 短中期的戦略 • コンソーシアム戦略の継続による電子ジャーナルの共 同購入体制の強化 – 中長期的戦略 • 研究者コミュニティとの連携による学術コミュニケー ションシステムのパラダイム転換 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 38 参考文献(1) • 伊藤義人. 国立大学図書館協議会のコンソーシアム構想について. 情報の科学と技術. 52(5), p.262-265(2002) • 土屋俊. 電子ジャーナル:-短い歴史から学ぶこと-. 情報の科学 と技術. 52(2), p.68-72(2002) • 済賀宣昭. 図書館コンソーシアムと学術情報コミュニケーション. 情 報の科学と技術. 52(5), p.256-261(2002) • 殿崎正明. 日本医学図書館協会(JMLA)における電子ジャーナ ル・コンソーシア形成の歩みと今後の展望. 医学図書館. 49(2), p.172-185(2002) • 母良田功. エルゼビア・サイエンス社問題と電子ジャーナル・コン ソーシアム契約. 薬学図書館. 47(2), p.169-171(2002) • 北條充敏. オーストラリアにおけるコンソーシアムによる電子情報 の動向について. 大学図書館研究. 62, p.48-61(2001) • 呑海沙織. 英国における学術情報資源提供システム. 情報の科学 と技術. 51(9), p.484-494(2001) 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 39 参考文献(2) • ビル・ステューダー. オハイオリンク・コンソーシアムでの事例. 大 学図書館研究. 61. p.54-64(2001) • 崔虎南[著],高木和子[訳]. 韓国における電子サイトライセンスイ ニシアチブ. 情報管理. 44(11), p.779-789 • McCabe, Mark J. The impact of publisher mergers on journal prices: an update. (http://www.arl.org/newsltr/207/jrnlprices.html) • Frazier, Kenneth[著],尾城孝一[訳]. 図書館員のジレンマ- ビッグ・ディールのコストについて考える. (http://home.catv.ne.jp/rr/ojiro/big_deal.html) • Mary M. Case著,尾城孝一訳. 競争への投資-SPARCの経済 的基盤-. (http://home.catv.ne.jp/rr/ojiro/sparc_tr.html) 2002/7/26 第93回農学図書館情報セミナー 40
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