心電図勉強会 第3回 PQ時間、QRSの異常 鉄門癌の会勉強会 担当:候 聡志 今日の目標 PQ時間、QRSの異常を呈する心電図が読める。 目次 Ⅰ.前回までの復習 Ⅱ.PQ時間の異常 Ⅲ.QRS時間の延長、QRS平均電気軸の異常 Ⅳ.左室の高電位 前回までの復習(その1) R P波:心房興奮 QRS波:心室興奮 ST部:心室興奮極期 T波:心室興奮の消退 P T Q S 前回までの復習(その2) 心拍数が50/分未満のとき、徐脈という。 徐脈を呈する主な心電図 洞徐脈 洞房ブロック 洞停止 2:1房室ブロック 第Ⅲ度房室ブロック 前回までの復習(その3) 心拍数が100/分以上のとき、頻脈という。 頻脈を呈する主な心電図 洞頻脈 心房粗動 心房細動 心室頻拍 発作性上室性頻拍 → 今回説明します。 前回までの復習(その4) 本来の周期より早期に認められる収縮を、 期外収縮という。 期外収縮の種類 上室性期外収縮 心室性期外収縮 問題 P波がⅠ,Ⅱで陽性 Ⅰ 心拍数が50/分未満 30015010075 60 50 43 38 Ⅱ 同一のP-QRS関係が続く 洞徐脈 問題 Ⅰ Ⅲ Ⅱ QRSは2:1で伝導 aVF Ⅱ、Ⅲ、aVFでF波 心房粗動 問題 予測周期より早期にQRS出現 先行P波がない 心室性期外収縮 QRS幅が0.12秒以上 T波がQRSと逆向き PQ時間の異常 PQ時間は、心房→心室の刺激伝導時間。 PQ時間の正常値は? →0.12~0.20秒(0.22秒でもOK?)です。 PQの延長→Ⅰ度房室ブロック PQの短縮→WPW症候群など Ⅰ度房室ブロック 房室ブロックとは、房室間の伝導経路に障害 が生じた状態である。 第Ⅰ度房室ブロックでは房室伝導が遅延。 第Ⅰ度房室ブロックの判定 PQ時間 > 5mm(0.20秒) 房室伝導は1 : 1に対応していて、QRSの 脱落は認められない 房室ブロック → → → → → → 洞結節 心房 房室結節 His束 右脚・左脚 プルキンエ線維 心室 第Ⅰ度房室ブロック 房室伝導は1:1 Ⅱ PQ時間 > 0.20秒 房室ブロック(AV block)・・・復習 房室伝導系の障害で、心房から心室への興奮 伝導が遅延,途絶する状態。 一過性:虚血,心筋炎,薬剤性,迷走神経過緊張,心房頻拍,急性リウマチ熱 慢性:変性,心筋症,冠動脈疾患,石灰化弁,心筋炎,膠原病,特発性 Ⅰ度:房室伝導時間の延長(PQ時間≧0.20秒) Ⅱ度:心室への興奮伝導が間欠的に脱落する (Wenckebach型,MobitzⅡ型) Ⅲ度:房室伝導が完全に途絶する Wenckebach型Ⅱ度房室ブロック (主に房室結節でブロックが生じている) QRS波が間欠的に脱落 Ⅱ PQ時間が徐々に延長 MobitzⅡ型との鑑別をする際には、脱落前後 の波形におけるPQ間隔を比較してみるとよい MobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロック (主にHis束以下でブロックが生じている) QRS波が間欠的に脱落 Ⅱ PQ時間が一定 (たとえ正常より延長していても一定) Ⅲ度房室ブロック Ⅱ P波とQRSが無関係 P波もQRSも規則的 WPW症候群 房室間にKent束という副伝導路がある。 ケント束という副伝導路を介して心室に正常 よりも早く興奮が伝わる。 WPW症候群の判定 PQ時間<3mm(0.12秒) デルタ波が存在(例外あり) QRS時間≧3mm(0.12秒) WPW症候群 ケント束 → → → → → → 洞結節 心房 房室結節 His束 右脚・左脚 プルキンエ線維 心室 WPW症候群 デルタ波が存在(波の立ち上がりが緩やか) Ⅰ aVF V1 PQ時間 < 0.12秒 QRS時間 > 0.12秒 V6 WPW症候群の(非発作時)心電図の3パターン ちなみに・・・ Kent束の存在場所に応じてA型とB型に分類される。 ST-T異常や異常Q波を生じることがある。 A型 B型 発作性上室性頻拍(PSVT) 上室性の頻脈で、突然発症するもので、心房,房室結節, 副伝導路が成立に関与する頻拍の総称である。 WPW症候群ではKent束を逆行伝導するリエントリーに よって房室間を大きく旋回するPSVTが発生しやすい。 → 房室回帰性頻拍(AVRT) 房室結節内でリエントリを生じるものもある。 → 房室結節回帰性頻拍(AVNRT) 房室回帰性頻拍(AVRT) ケント束 → → → → → → 洞結節 心房 房室結節 His束 右脚・左脚 プルキンエ線維 心室 主伝導路(不応期長)と副伝導路(不応期短)が存在する 主路を順行して副路を逆行するリエントリー 房室結節回帰性頻拍(AVNRT) → → → → → → 洞結節 心房 房室結節 His束 右脚・左脚 プルキンエ線維 心室 速伝導路と遅伝導路が存在し、common typeは 遅伝導路を順行して速伝導路を逆行するリエントリー ↑上図:common typeにおける逆行性 P’波の現れ方 ←左図:uncommon typeにおける 逆行性P’波の現れ方 発作性上室性頻拍 発作性上室性頻拍の判定 規則的な頻脈,P’波が存在する QRS波形はほぼ正常 P’波がQRSの直後またはQRSと重なる 本当はAVRTとAVNRTで心電図上の所見が多少異なるし、 それぞれにCommon typeとUncommon typeが存在する 発作性上室性頻拍 QRS波はほぼ正常 Ⅱ V1 規則的な頻脈 P’波がQRSの直後 第2章のまとめ PQ時間の正常値は0.12~0.20秒。(0.22秒) PQ時間が異常となる主な心電図 PQの延長→Ⅰ度房室ブロック PQの短縮→WPW症候群 QRS時間の延長 QRS時間は心室内伝導時間を表わす。 QRS時間の正常値は? →0.10秒以下です。 QRS時間が延長するものは? 脚ブロック(右脚、左脚) 非特異的心室内伝導障害 WPW症候群 などなど。 QRS平均電気軸の異常 QRS平均電気軸が異常となるものは? 左脚前枝ブロック 左室肥大 左脚後枝ブロック 右室肥大 左軸偏位 右軸偏位(省略) QRS平均電気軸(復習) QRS波の表し方 最初の陰性波 → Q波 最初の陽性波 → R波 R波の後の陰性波 → S波 2番目の陽性波はR’波 3mm以上の大きい波は大文字 小さい波は小文字 qRs rSR’ QS 右脚ブロック 右脚本幹またはその分枝に伝導障害。 右室の興奮に遅れが生じる。 右脚ブロックの判定 QRS時間 > 0.10秒 Ⅰ,V6で幅広いS波、T波は陽性 V1がrsR’もしくはrSR’型で、T波が陰性 なお、0.10秒<QRS<0.12秒のものを不完全右脚ブロック(IRBBB)、 QRS≧0.12秒のものを完全右脚ブロック(CRBBB)と分類する。 右脚ブロック → → → → → → 洞結節 心房 房室結節 His束 右脚・左脚 プルキンエ線維 心室 右脚ブロック Ⅰ QRS時間 > 0.10秒 V1でrSR’型、T波陰性 Ⅰ,V6で広いS、T波陽性 V1 V6 左脚ブロック 左脚本幹または前肢・後枝の伝導が同時に 障害されて心室内伝導障害をきたす。 左室の興奮に遅れが生じる。 左脚ブロックの判定 QRS時間 > 0.10秒 V1がrSもしくはQS型で、T波が陽性 Ⅰ,V6でQRS上向き、R波はしばしば分裂 Ⅰ,V6でq波がない 左脚ブロック → → → → → → 洞結節 心房 房室結節 His束 右脚・左脚 プルキンエ線維 心室 左脚ブロック Ⅰ V1 QRS時間 > 0.10秒 V1でrS型、T波陽性 Ⅰ,V6でQRS上向き Ⅰ,V6でq波がない V6 非特異的心室内伝導障害 (nonspecific intraventricular conduction disturbance:IVCD) 右脚・左脚ブロックではない心室内伝導障害 で、プルキンエ線維や心室筋レベルでの広範 なブロックなどによって生じる。 非特異的心室内伝導障害の判定 QRS時間 > 0.10秒 右・左どちらの脚ブロックの特徴も示さない 左脚前肢ブロック 左脚は前肢と後枝に分かれている。 左脚前肢ブロックは、左脚前肢の伝導障害。 左脚前肢ブロックの判定 病的(著明な)左軸偏位(< -30゜) Ⅰ,aVLがqR型(普通はRaVL>RⅠ) Ⅱ,Ⅲ,aVFがrS型(SⅢ>SaVF>SⅡ) 左脚前肢ブロック → → → → → → 洞結節 心房 房室結節 His束 右脚・左脚 プルキンエ線維 心室 QRS平均電気軸 Ⅰ、aVFが+ →正常範囲 Ⅰが+、aVFが- Ⅱで- →病的左軸偏位 Ⅱで+ →正常範囲 [Ⅱ] 左脚前肢ブロック Ⅰ,aVLがqR型 Ⅰ aVL 病的左軸偏位 Ⅱ Ⅲ aVF Ⅱ,Ⅲ,aVFがrS型 第3章のまとめ QRS時間が延長する主な心電図 脚ブロック(右脚、左脚) 非特異的心室内伝導障害 WPW症候群 左軸偏位を示す主な心電図 左脚前肢ブロック 左室肥大 左室高電位とは・・・ 左室高電位の基準は? SV1+RV5 > 35 mm RV5 > 26 mm (RV6 > 20 mm) 左室高電位は正常でも生じることがあり、 必ずしも左室肥大を意味するものではない。 High voltage ≠ Hypertrophy 左室肥大(LVH) 左室肥大の判定 左室高電位 QRS時間の延長 (特に左室側誘導で心室興奮時間が延びる) Ⅰ、aVL、V5、V6等でのST-T変化 T波平低化 ST下降 ストレインパターン ストレインパターン 左室肥大 左室高電位 V1 V5 V6 V5,V6でのストレインパターン 左室肥大 Ⅰ Ⅱ 左室肥大では、左軸偏位となることが多く、左室側誘導で 陰性U波や左房負荷の所見がみられることもある。 第4章のまとめ 左室高電位は左室肥大を示唆するが、正常の 場合もある。 左室高電位 + ST-T異常 → 左室肥大 なお、左室肥大をきたす原因は色々あって複雑である 大動脈弁狭窄症,大動脈弁閉鎖不全症,種々の代謝疾患 心筋梗塞後のリモデリング,肥大型心筋症,高血圧・・・等々 参考文献 去年度「癌の会心電図勉強会」スライド http://www.cardiac.jp/ 心電図の読み方パーフェクトマニュアル(羊土社) 心電図のABC(日本医師会発行) 心電図を学ぶ人のために(医学書院) わかりやすい心電図の読み方(Medical View) 不整脈 ベッドサイド診断から非薬物治療まで (医学書院)
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