言語教育における インタビュー調査 東京外国語大学大学院地域文化研究科 博士後期課程1年 杉山香織 本発表の流れ 1.インタビュー調査の理論 (定義、目的、種類、工程と作業内容、 利点と問題点、注意点) 2.インタビュー調査の実践 インタビューの定義 • 面会。会見。特に報道記者が取材のために 行う面会。また、その記事。 広辞苑 第五版(1998) • 面接、面談。 インタビュアーや研究者と情報提供者の間の 相互的な行為。 応用言語学事典(2003) インタビューの目的 • 直接観察できない、感情、思想、意図、過去 の行動などを見つけ出す目的をもって行われ ることが多い(Patton 1990)。 • 3つの目的( Kerlinger 1970) -情報を収集する目的 -仮説検証や新たな仮説を立てる目的 -他のリサーチ手法と併用し追跡調査を行う目的 調査目的⇔インタビュー目的 インタビューの種類 • インタビューの種類の区別を行う上で最も核 となるものは、構造の度合いの違いである (Kvale 1996) Structured interviews Semi-structured interviews Unstructured interviews インタビューの種類(構造の度合い) Structured interview ⇔ Unstructured interview 数、統計、客観的事実、量的データ ⇔ 会話、コメント記述、主観的、文字ベース 多肢選択式 ⇔ 自由回答式 回答の測定、他の回答との比較、 回答の相関関係、特定項にあては まる人数 ⇔ 特定のシチュエーション、独自性の検証 形式化、回答数、カテゴリーの詳細 ⇔ 不確かな調査目的、インフォーマル 規則の発見、データの一般化 ⇔ 独自の描写、状況の複雑性、回答の質、 回答に至る経緯の理解 (Morrison 1993) インタビューの種類 アプローチとその利点欠点 量的アプローチ Structured interview 分析が早い 質的アプローチ Unstructured interview ( Scott. 2002 ) 分析が大変、時間がかかる インタビューに取り掛かるまで データ収集の着手は早い に時間がかかる (cohen et al. 2000) インタビュー調査では質的アプローチを用いることが多い インタビュー調査の進行 7段階の工程 1. テーマ付け 2. 調査デザイン 3. インタビュー 4. 記述 5. 分析 6. 確認 7. 報告 インタビュー調査の進行 1.テーマ付け • • • • 研究の理論的基盤 広い目的 実用性の価値 インタビューという手法を選択した理由 調査目的の決定の段階 *後の段階の基礎となるため、最重要段階 *目的さえ注意深く設定することができれば、問い に対する答えを導くようなデータが得られる。 インタビュー調査の進行 2.調査デザイン • 質問事項 (経験、態度、知識、比較、感情など) (Spradley 1979, Patton 1990) • 質問方法(直接的/間接的、全体/部分、事実/仮想) (Tuckman 1972) • 回答方法(多肢選択式、段階評価、自由回答式) structured interview ⇔unstructured interview *他にも、問題の性質、回答者とインタビュアーの関 係が調査デザインを決定する(Cohen et al. 2000) インタビュー調査の進行 3.インタビュー • インタビューの性質や目的の説明 *バイアスを与えない • 回答を録音する場合 ⇒説明、同意を得る • 回答しやすい雰囲気作り • バイアス、意見、興味などによって回答者に 影響を与えない *質問の本質からそれた雑談を避ける (Tuckman 1972) インタビュー調査の進行 4.記述 • 録音/録画した場合⇒文字化 • 内容だけの記述ではなく、他のデータも参考 話者のトーン、声の抑揚など • ビデオ録画 ⇒非言語コミュニケーションが記録可能 (Cohen et al. 2000) インタビュー調査の進行 5.分析 • • • • • • インタビュー全体を聞き返す 重要な点を描写する 余剰性を排除し焦点を当てテーマを決定する インタビュー結果の要旨をまとめる 必要であれば2回目のインタビューを行う 全てのインタビューから一般的なテーマや独 自のテーマを探す (Cohen et al.2000) インタビュー調査の進行 6.確認 • もう一度分析までの過程を全て確認 • 調査の妥当性の検証 ⇒調査目的と一致しているかを重視 インタビュー調査の進行 7.報告 • 報告 *イントロダクション、研究方法論のアウトライン、結 果、考察 (Cohen et al. 2000) • インタビューの性質と報告方法 *量的アプローチ、Structured interviews ⇒図表を用いた数的データ *質的アプローチ、Unstructured interviews ⇒文字中心 インタビューの利点 • 回答者が操作可能な対象であるとみなさない • 個々の人間の外にデータがあると考えない (Kvale 1996) • 少人数のケーススタディにも、大人数を扱う調査にも有効 (Bateson. 1990) • 深い研究が可能 • 回答者の参加態度が積極的 • 高い回答率が得られる 1992) (Decter. 1970, Borg 1963) (Oppenheim. インタビューの問題点① • インタビュアーのバイアスがかかりやすい (Borg. 1963) • 変数が影響⇒常に同じ結果にならない可能性 • 答えにくい質問⇒答えが得られない可能性 • 回答者が適当な言葉が見当たらない可能性 • インタビュアーと回答者との理解のズレ • 全ての観点を引き出すのは不可能 (Cicourel 1964) 個人間インタラクションから起因する問題 インタビューの問題点② • データの曲解、簡略化を招くおそれ • 選択的なデータ ⇒視覚情報、非言語情報側面の情報はなし • データはインタビュー時の時や場所から独立 • インタビュー時の全ての情報は含まれない (Cohen et al. 2000) データの性質から起因する問題 問題点をなくすために • • • • • 錯乱肢を減らす 敏感な問題を避ける トピックの変更を避ける インタビューの時間を確保する バイアスや主観を与えない (Cohen et al. 2000) 理想的なインタビュー • 自発的な回答、豊富で独自の回答 趣旨や意図を説明(バイアスを与えない程度) • インタビュー中にインタビュアーによる回答解 釈を回答者に確認 • インタビュアーの質問時間が短く、回答時間 が長いインタビュー インタビュー調査の注意点 • コミュニケーションのエキスパート (会話を持続、回答者のモチベーションの維持) • 質問のことば(学術用語⇒日常的な用語) • 質問の流れや構造(簡単な質問⇒難解な質問) (Kvale. 1996, Patton. 1990) • 回答者の目線に立った態度(服装、言葉遣い) (Kvale 1996) • 倫理的な問題 ⇒インフォームドコンセントの作成、秘密性の確保、 有益性や非有害性の保障 本発表の流れ 1.インタビュー調査の理論 (定義、目的、種類、工程と作業内容、 利点と問題点、注意点) 2.インタビュー調査の実践 インタビュー調査の進行 7段階の工程 1. テーマ付け 2. 調査デザイン 3. インタビュー 4. 記述 5. 分析 6. 確認 7. 報告 インタビュー調査の実践 1.テーマ付け 1.理論的基盤 先行研究:戸田(2005)『「発音の達人」とはどのような学習者か -フォローアップ・インタビューからわかること- 』 2.目的 (Patton 1990)より 発音能力に優れた学習者の学習背景や発音習得に関わる意識を観察する。 ( Kerlinger 1970)より 仮説検証や新たな仮説を立てる目的 ⇒留学経験も無く、インプットも少ない発音学習成功者には、どのような特徴があるのか? 3.実用性の価値 発音教育に活かすことができる 4.インタビュー調査という手法を使った理由 発音テストを2回し、3人の教師(NS1、NNS2)によって発音能力が優れていると判断された 学習者が1名いた。次段階として、インタビューで学習者の学習背景や意識を深く観察したい。 インタビュー調査の進行 7段階の工程 1. テーマ付け 2. 調査デザイン 3. インタビュー 4. 記述 5. 分析 6. 確認 7. 報告 インタビュー調査の実践 2.調査デザイン • 質問事項 (経験、態度、知識、比較、感情など) • 質問方法 (直接的/間接的、全体/部分、事実/仮想) • 回答方法 (多肢選択式、段階評価、自由回答式) *調査者→教師、回答者→生徒という関係 semi-structured interview インタビュー調査の進行 7段階の工程 1. テーマ付け 2. 調査デザイン 3. インタビュー 4. 記述 5. 分析 6. 確認 7. 報告 インタビュー調査の実践 3.インタビュー • 性質や目的の説明 • 録音の説明、同意 • 回答しやすい雰囲気作り →教室で1対1のインタビュー • バイアス、意見、興味などによって 回答者に影響を与えない (?) (?) インタビュー調査の進行 7段階の工程 1. テーマ付け 2. 調査デザイン 3. インタビュー 4. 記述 5. 分析 6. 確認 7. 報告 インタビュー調査の実践 利点の確認 調査者:はい。あとは、フランス語の全体的なレベルはどれくらいですか? 回答者:えー・・・。 調査者:あっ、文法とか、全体含めてどれくらいだと思いますか? 回答者:えー・・、うーん、日常会話はまだできないと思うんですけど、一応文章とかを読んで、少し理解できる くらいなので、英語で言う、中学1年生終わったくらいだと思います。 (中略) 調査者:はい、では、発音のレベルは自分ではどれくらいだと思いますか? 回答者:えー、自分では、あまりフランス語を聞く機会がないんで、自分でこう比較するってのは難しいんで、 自分ではそんなに上手だとも思っていないです。 調査者:周りの人の発音を聞いて、自分の発音と比べて、どう思いますか? 回答者:うー・・・。 調査者:たとえば、授業中とか。 回答者:うー、授業中の友達の発音を聞く限りだと、あのー、Rの発音だったりとか、流れだと、自分の方が ちょっとだけ、ま、できてるんじゃないかと、たまに思います。 調査者:友達の悪いところとか、わかったりする?ここ違うなっていうのを気づいたりしますか? 回答者:はい、気付きます。 質問の説明補足 回答者の回答解釈の確認 インタビュー調査の実践 問題点の指摘との一致 バイアス (Borg. 1963) 変数 答えにくい質問 回答者が適当な言葉が見当たらない可能性 説明を補足することで解決可能 インタビュアーと回答者との理解のズレ 全ての観点を引き出すのは不可能 (Cicourel 1964) データの簡略化、選択的、すべての情報は含まれな い(Cohen et al. 2000) 間、間投詞のニュアンスが伝わりにくい インタビュー調査の実践 本調査の問題点① 調査者:えーっと、まず1つ目。フランス人とどれくらいフランス語で話しますか? 回答者:えーっと、フランス語で会話することはまずない、です。 調査者:はい。 調査者:話す、としたら○○(ALTの名前)くらい? 回答者:はい。そうです。 調査者:そうですね。えー、次の質問ですが、フランス人の友達はたくさんいますか? 回答者:えーっと、一人もいません。 調査者:一人もいません。(笑い) 調査者:ま、知り合いの、フランス人の、で、知っている人は○○(ALTの名前)くらい? 回答者:はい。 調査者,回答者:(笑い) 調査者:そうですよね。 調査者:では、次の質問です。フランス語母語話者と接する機会は多いですか? 調査者:えーっということは・・ 回答者:ということは、 回答者:○○(ALTの名前)だけです。 調査者:○○(ALTの名前)だけだよね。 調査者,回答者:(笑い) 1つの質問が他の質問に連鎖して影響 インタビュー調査の実践 本調査の問題点② 調査者:また、歌は上手だと思いますか? 回答者 :でもー、あのー、音楽の授業で歌ったりとかすると、あのー、普通の、合唱みたいな曲ですけど、それは、うまいってほ められました。 調査者:うーん、カラオケとかは? 回答者:カラオケは、高い声で歌えないので、低い声で歌っ、た時に、は、うまいねとは言われたことがあります。 調査者 :あーあー、はい。 (中略) 調査者:はい、えーっ。ピアノとドラムはどれくらい上手に演奏できますか? 回答者:えっ、ピアノは、えー、うー、高校の、音楽の授業のときに先生に披露したときは、音大に行きたいのって言われて、た ので 調査者:すごいですね 調査者,回答者:(笑い) 回答者:それぐらいは弾けるのではないかと思います。 回答者:なんか、中学のときも合唱コンクールの時の伴奏で賞もとったので・・・ 調査者:すごーい。 調査者:ドラムは? 回答者:ドラムは、吹奏楽で3年ぐらいしかやっていないんですけど、 調査者:はい 回答者:普通に楽譜どおりだけじゃなくて、適当にアドリブも入れてたたくことができます。 調査者:あー、すごいですね。 回答者:はいー。 調査者の期待する答えをくみとる⇒バイアスを与えた? インタビュー調査の実践 まとめ • インタビューの利点の再確認 • 先行研究で指摘される問題点との一致 • 新たな問題
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