消費者庁と消費者委員会の 役割と今後の課題 NCOS講演会 2009年10月22日 一橋大学教授 松本恒雄 1 講演の概要 1 2 3 4 消費者行政一元化の経緯 消費庁関連3法の内容とその修正 消費者行政をめぐる今後の課題 むすび 2 1 消費者行政の一元化の経緯 3 食品偽装から冷凍ギョウザ事件へ 相次ぐ偽装事件 • 福田前首相の消費者・生活者重視 • • • 2007年のキーワードは「偽」 所信表明演説で、「消費者保護のための行政機能の強化に取り 組みます」(2007年10月) 国民生活センター(相模原)視察(10月) 消費者・生活者の視点からの行政の総点検指示(11月) 施政方針演説(2008年1月) • 第1の柱に、「生活者・消費者が主役となる社会」 農薬入り冷凍ギョーザ事件(1月末発覚) • 事業者及び行政の対応の悪さ 4 消費者行政推進会議から法案提出へ 消費者行政推進会議発足(2008年2月) • 「各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的 に推進するための、強い権限を持つ新組織の在り方を検 討し、その組織を消費者を主役とする政府の舵取り役とす るため 」 同「とりまとめ」(6月) 閣議決定「消費者行政推進基本計画」(6月) 消費者庁設置関連3法案国会提出(9月) 5 守るべき3原則(福田元首相、4月23日) 1 国民目線の消費者行政の充実は、地方自治そ のものであること 霞ヶ関に立派な消費者庁ができるだけでは意味がない 2 行政組織の肥大化を招くものであってはならない むしろ、各省の重複や、時代遅れの組織を整理することに もつながる 3 消費者行政の体制強化は、消費活動はもちろん、 産業活動を活性化するものでなければならない 消費者利益にかなうことは企業の成長をもたらし、産業の 発展にもつながる 6 消費者行政推進基本計画の3つの柱 ①政策立案と規制の一元化 ②情報の一元化 ③相談窓口の一元化 7 政策立案と規制の一元化 消費者庁を設置し、消費者の視点から政策 全般を監視するための強力な総合調整権 限・勧告権の付与、法案を含む幅広い企画 立案機能、表示・取引・安全に関する法律 の所管・共管、既存の法律のすき間事案に ついての独自の権限を与える。 8 情報の一元化 消費生活センターや事故情報データバンク、 保健所・警察・消防・病院等の関係機関、企 業、従業員等からの情報を一元的に集約・ 分析し、司令塔として適切な対応を行う。 9 相談窓口の一元化 地方の消費生活センターと国民生活セン ターをだれもがアクセスしやすい一元的な 消費者相談窓口と位置づけ、全国ネット ワークを構築し、代表的な窓口が365日24 時間対応できる体制を構築する。 10 2 消費者庁関連3法の内容とその 修正 11 消費者庁関連3法案 2008年9月29日国会提出 • • • 消費者庁設置法案-政策立案と規制の一元化 関係法律の整備法案-政策立案と規制の一元化 消費者安全法案-3つの一元化すべて 2009年1月5日衆議院に特別委員会設置 3月17日衆議院審議入り 4月17日衆議院で修正案可決 5月29日参議院で可決成立 衆参両院合わせて審議時間88時間、参考人質 疑、地方公聴会 12 消費者安全法案 地方の消費生活センターの法的位置づけ 事故情報の消費者庁への集約 消費者被害の防止のための措置 • 都道府県は必置、市町村は努力義務 • 行政機関の長、自治体の長等に報告義務 • 他省庁に法執行を要求 • すき間事案について、事業者への改善措置の勧告・ 命令、緊急の場合の譲渡禁止・使用禁止(6ヶ月以内 の期間) 13 民主党の消費者権利院法案 消費者権利院とその長としての消費者権利官 • • • • • • 内閣の所轄 国会の議決を経て、内閣が任命、天皇が認証 任期は6年(再任なし) 出先として地方消費者権利局と地方消費者権利官 消費者権利院、地方消費者権利局に国家公務員としての消費 生活相談員配置 相談、苦情処理、情報提供、啓発、教育、商品テスト等 消費者権利官の権限 • • • • 他の行政機関に対する資料提出・調査要求権 他の行政機関に対する処分等の勧告権 裁判所に対する緊急命令の申立権・財産保全命令の申立権 一定の権限行使に消費者権利委員会の議決必要 14 国会での修正の主な内容 消費者委員会の独立と権限強化 • • • • • • • 「消費者政策委員会」を「消費者委員会」として消費者庁の外(内閣 府本府)に出す 「消費者庁及び消費者委員会設置法」に変更 消費者委員会に関係行政機関への資料提出要求権 内閣総理大臣・各省大臣・」消費者庁長官への建議権 諮問に応じた重要事項の調査審議 消費者被害の発生・拡大防止のための内閣総理大臣への勧告権 事業者に対する調査や処分の権限はなし 担当大臣による消費者行政に関する総合調整機能の明確 化(内閣府設置法) 事故情報の収集の結果の公表及び国会報告(安全法) 消費者教育を国、自治体の責務に追加(安全法) 15 消費者委員会の2つの役割 審議会機能 • 関係法律の規定に基づき、また関係大臣・長官からの諮 問に応じて、調査・審議する 監視機能 • • • • 消費者の意見を消費者行政に直接届ける透明性の高い 仕組み 消費者庁を含めた関係省庁の消費者行政全般に対して 監視する 重要事項に関し、自ら調査審議し、内閣総理大臣、関係 各大臣又は消費者庁長官に建議 消費者安全法の規定により、内閣総理大臣に対し、必要 な勧告 16 消費者庁に移管・共管される法律 表示関係 6(食品衛生法は表示と安全の 双方に関連) 取引関係 8 業法関係 4 安全関係 5 その他 7 新規 3(消費者庁及び消費者委員会設置 法、消費者安全法、米トレーサビリティ法) 17 健康食品の場合(1) 食品衛生法 • • • 表示基準の企画立案、執行を消費者庁に移管(都道府県知事 等の権限は従来通り) 表示基準策定・改正に当たり、厚生労働省にあらかじめ協議 厚生労働省は、表示基準の策定・改正を要請可 健康増進法 • • • • 表示基準の企画立案、執行を消費者庁に移管 消費者庁は、地方厚生局長に権限の一部を委任(都道府県知 事等の権限は従来通り) 表示基準策定・改正に当たり、厚生労働省に協議 特定用途食品(特保を含む)の表示の許可 18 健康食品の場合(2) JAS法 • • • • • • 表示基準の企画立案、執行を消費者庁に移管 表示基準策定・改正に当たり、農林水産省にあらかじめ協議・ 同意 農林水産省は、案をそなえて表示基準の策定・改正を要請可 消費者庁は、農林水産大臣に報告徴求・立入検査及び指示の 権限を包括委任 消費者庁は、自ら報告徴求・立入検査及び指示を行うほか、 農林水産大臣に対してこれらの事務を個別委任可 農林水産省は、消費者庁に対し、措置命令を要請できる 19 健康食品の場合(3) 景品表示法 特定商取引法 • 消費者庁に移管 • 消費者庁は、公正取引委員会に権限の一部を委任 • 消費者保護に係る企画立案、執行を消費者庁に移 • • • 管 消費者庁が法律に係る執行を一元的に行う 経済産業省は、商一般等の立場から連携 消費者庁は、地方経済産業局長に権限の一部を委 任 20 健康食品の場合(4) 食品安全行政については原則的に変わらない 食品安全基本法自体は移管し、食品安全行政の基 本方針を消費者庁が所管 • 食品安全委員会の地位や権限は変更なし • リスクコミュニケーションに関する行政機関間の事務の 調整は消費者庁 食品等の規格基準等の策定・改正は従来通りで厚生 労働省。ただし、消費者庁に協議 すき間事案について、消費者庁に独自権限 薬事法による取締については従来どおり 21 特定保健用食品の審査と表示の許可 消費者庁が持つ事業者に対する唯一の許認可 権限(健康増進法26条) • 許可の前にあらかじめ、厚生労働大臣の意見をきく必 要 「内閣総理大臣は、特定保健用食品の安全性 及び効果について、食品安全委員会(安全性に 係るものに限る。)及び消費者委員会の意見を 聴くものとする。」(内閣府令4条1項) 「消費者庁長官は、前項の意見を踏まえ、・・・許 可を行うものとする。」(同条2項) 22 特定保健用食品の再審査と許可の取消し 内閣総理大臣は、「許可を受けた日以降における 科学的知見の充実により当該許可に係る食品に ついて当該許可に係る特別用途表示をすることが 適切でないことが判明するに至ったとき」、許可を 取り消すことができる。(健康増進法28条) 「内閣総理大臣は、・・・許可を行った特定保健用 食品について、新たな科学的知見が生じたときそ の他必要があると認めるときは、食品安全委員会 (安全性に係るものに限る。)及び消費者委員会 の意見を聴くものとする。」(内閣府令5条1項) 23 24 25 25 3 消費者行政をめぐる今後の課題 26 消費者庁・消費者委員会設置の意義 2001年の省庁再編は数を減らしただけ 2003年の食品安全基本法成立、食品安全委員 会発足では、行政の機能の一部組み替え 消費者庁は、行政の仕組みの大幅組み替え • • 明治以来の産業官庁は、縦割りの産業振興が主で、消 費者保護はおまけ 縦割り消費者行政から、横割り行政への転換 ただし、実際の運用が課題 監視と消費者とのパイプ役となる消費者委員会 27 国会修正における附則の追加 2年以内に、消費者委員会の委員について常勤化を図ること を検討 3年以内に、消費者関連法律について消費者庁の関与の在 り方を見直し 3年以内に、消費者庁・消費者委員会・国民生活センターの 体制整備を検討 3年以内に、消費生活センターの法制上の位置づけ、相談員 の待遇改善その他の自治体に対する支援の在り方について 検討 3年以内に、適格消費者団体への支援の在り方について見 直し 3年を目途に、多数消費者に被害を生じさせた者の不当収益 剥奪、被害者救済のための制度について検討 3年以内に、消費者庁への報告義務やすきま事案の対象とな る重大事故等の範囲について検討 28 民主党のマニュフェスト(1) 消費者の権利を守り、安全を確保する • • • ○消費者に危害を及ぼすおそれのある製品・物品等に関 する情報の公開を企業に義務づける『危険情報公表法』 を制定する。 ○消費者行政を強化するため、地方消費生活相談員及び 国民生活センターの相談員の待遇を抜本的に改善する。 ○消費生活相談の過半を占める財産被害の救済と消費 者団体訴訟制度を実効あるものとするため、悪徳業者が 違法に集めた財産をはく奪する制度を創設する。 29 民主党のマニュフェスト(2) 食の安全、安心を確保する • • • • • ○食品の生産、加工、流通の過程を事後的に容易に検証 できる「食品トレーサビリティシステム」を確立する。 ○原料原産地等の表示の義務付け対象を加工食品等に 拡大する。 ○主な対日食料輸出国に「国際食品調査官( 仮称)」を配 置して、輸入検疫体制を強化する。 ○BSE対策としての全頭検査に対する国庫補助を復活し 、また輸入牛肉の条件違反があった場合には、輸入の全 面禁止等直ちに対応する。 ○食品安全庁を設置し、厚生労働省と農林水産省に分か れている食品リスク管理機能を一元化する。併せて食品 安全委員会の機能を強化する。 30 福島大臣の方針 4つの重点課題 独立した総合的事故調査委員会構想 • 事故情報の一元化 • 地方消費者行政の充実強化 • 不当利益の剥奪 • すき間事案対応 31 消費者行政の4つのタイプ A B C D 規制行政 → 消費者庁への一元化 支援行政 → 消費生活センターの強化 協働行政 救済行政 消費者庁関連法案の成立で前進したのは、 A+B 32 協働行政 企業と消費者と行政の三者ないしはそのうちの二 者による協力・協働を促進 Co-regulation 共同規制 事業者や事業者団体の自主行動基準の制定支 援 民間ADR支援 消費者参加による標準化 安全安心で持続可能な未来のための社会的責任 に関する円卓会議(2009年3月発足) リスク・コミュニケーション(食品安全基本法) 33 救済行政 OECD理事会勧告(2007年)で3つのタイプの被 害救済の整備 • • • 1 少額訴訟やADRによる個別被害救済 2 団体訴訟やクラスアクションによる集団的被害救済 3 消費者保護執行機関による被害救済のための損害賠 償訴訟 わが国では、第3タイプが不足 • 「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する 法律」のみ 34 4 むすび 35 企業や生活への影響は ただちに大きな影響はない • • 法律の内容が変わらないままに移管されるだけだから 唯一の例外が、すき間事案への対処 中期的には執行の姿勢の変化の可能性 • 関係行政の一体化、効率化、情報の収集、司令塔機能 新たな法整備による影響 • 利益剥奪、被害救済、その他新規立法あるいは既存法の 改正 36
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