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平成 25 年度
精神保健福祉士(保護観察所/イギリス)
はじめに
1
社会復帰調整官として 10 年目を迎えて
報告者は、大学を卒業して、精神保健福祉士として、民間の精神科病院や社会復帰
施設等で相談援助業務を約 10 年間行い、平成 16 年から高知保護観察所において、社
会復帰調整官として触法精神障害者に関わっている。
英国での司法精神医療は世界的に高く評価されており、日本における心神喪失者等
の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下「医療観察
法」という)のモデルとなっている。
そのため、平成 18 年 3 月に、法務省保護局の関係団体である更生保護法人日本更
生保護協会の社会内処遇研究開発事業により、グレートブリテンおよび北部アイルラ
ンド連合王国(以下「英国」という)に全行程 13 日間、住居施設等の見学や Home
Treatment Team による日常業務の同行等の機会に恵まれた。
2
司法領域との関係性について
報告者は社会復帰調整官であり、保護観察官ではないため、保護観察対象者に直接
関与することはない。
しかし、平成20年犯罪者予防更生法に代わって更生保護法が施行され、保護観察
対象者に「精神科医の指示に従って、幻覚、妄想の症状抑制又は緩和に必要な服薬を
継続すること」が、対象者個人の問題等に応じて更生のために特に遵守すべき事項
(特別遵守事項)の標準設定例として新たに示された。
そして、医療観察法の申し立てには、裁判で実刑を伴わなかった対象者が存在した
ため、北九州医療刑務所の見学研修等を行い、司法領域と精神医療福祉領域の緊密な
連携の必要性を感じ始めた。
ほかに、医療観察法対象者の退院の困難に直面し、精神障害者だけではなく、家族、
被害者、近隣住民へと視野を広げていくと、精神障害者だけが暮らしやすい社会とい
うものは存在せず、
「共生社会」こそが精神保健福祉士を土台とした社会復帰調整官
として、目指すものではないかと考え始めた。
以上のことから、過去研修することができたことで、より理解と興味が深まった英
国の司法領域の制度運用と精神医療福祉領域との連携について、改めて研修を行った。
おわりに
外国は、自国と違う歴史、宗教、文化、法律等が土台にあるため、「社会福祉」や
「更生保護」という一領域の知見で理解しようとすることは難しく、何事も全体を見る
必要性を実感させられる。
その一つとして、英国が雇用と防犯を一体に考えて実施しているのではないかと思う
ほど、早朝から深夜に至るまで、プラスチック製の大きなごみ箱を押して収集を行って
いる多くの清掃員を頻繁に見かけ、経済や貧困施策の視野も必要であると思った。
ほかに、英国の特徴の一つとして、ケンブリッジ大学に留学中の立教大学小長井賀與
教授に英国と日本の違いについて聞いたところ、例えば、就職をあっせんするスタッフ
が、法の前で人は平等であり、個々の人権を尊重している考えがあり、職業の訓練とあ
っせんの両方を行うことができる「社会政策の充実」があると答えてくださった。日本
の「本人の努力や精神力」という雰囲気は感じられない。
そして、ある教会のパンフレットに「受け入れるという伝統」、「与えるという伝統」
という記載や YJB や YOT のスタッフには、「人は間違いを犯すものである。だからこそ、
機会が必要である。」という考えを聞き、宗教や文化が影響していることが推察され、
日本とは違う「精神的な余裕」も感じられた。
報告者は今回の研修において、制度運用の実際と多機関連携を研修の目的の中心とし
ていた。
日本と英国の精神医療福祉領域と更生保護領域を研修し、一番、英国の更生保護領域
が制度運用を円滑に行い、専門職の面接技術やケースマネジメント力が高いと感じた。
さらに、YOT において、多機関連携について運用を聞くことができたが、「問題はあ
る。難しい。しかし、しなければいけないことである。」ときっぱりと言われ、意識の
高さにも敗北感を感じた。
しかし、日本は「自己責任」のような、厳しい国民性もあるかもしれないが、「勤
勉」、「真面目」、「親切」、「優しい」等長所もある。
研修中に YOT スタッフからも「日本に帰ったら、この研修を生かしてあなたは何を行
う?」と聞かれた。本研修を関係者に報告すると、皆、納得はしているが、悔しさをに
じませている。「外国の施策だから日本ではできない」ではなく、「英国でできている
ことが、日本でできないはずはない。」という意識を持って、学んできたことを日常業
務に生かし、高知県精神保健福祉士協会の定例研修会や機関誌等へ積極的に報告しよう
と考えている。