最適化アルゴリズムを用いたプロペラ設計 法の研究

最適化アルゴリズムを用いた
プロペラ設計法の研究
環境海洋工学専攻
応用流体工学研究室
16287 竹腰善久
1
背景1
舶用プロペラは
通常不均一流(伴流)中で作動しているため、
キャビテーションが発生する
有害
2
背景2
キャビテーションの発生・・・
• エロージョン
• 性能低下
• 振動、騒音
フェイス・キャビテーション
クラウド・キャビテーション
シート・キャビテーション体積
• 非定常キャビテーションの推定は、いまだできていない。
⇒クラウド・キャビテーション、シートキャビテーション体
積は求められない
• フェイスキャビテーションの発生の判定はある程度できる。
3
背景3
プロペラ設計においては・・・
• 推進性能向上
• 伴流による非定常キャビテーション発生の考慮
伴流は、船体によって大きく異なるため、十分な経験
を持つ設計者にとっても非定常キャビテーションの発
生を考慮した設計は困難
設計の効率向上の手段
最適化アルゴリズムを用いて設計を一部自動化
4
過去の研究
• コード長さと、翼厚翼幅比の最適化
⇒質量の最小化 Dai et al. (1994)
• 推力一定のもと、キャンバの最適化
⇒効率の最大化 Mishima et al. (1997)
• ピッチの最適化
⇒効率の最大化 Jang et al.(1999)
主に伴流のない一様流中での設計であり、
伴流中における非定常キャビテーションの発生を考慮に
入れた設計は計算機負荷が大きいため困難
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目的
自由な目的関数や制約条件を選択できる実用的な
プロペラ設計支援ツールの開発を目指す
特徴
• 従来困難であった不均一流中でのキャビテーション発生
の判定を組み込む
• 近年性能向上かつ安価になった並列計算機を用いて、計
算時間の短縮を図る
原型プロペラ、目的関数、制約条件
最適化ルーチン
新プロペラ
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発表の流れ
• 性能評価プログラム
• プロペラ幾何形状
• 圧力分布を目的関数とする設計
(制約のない設計)
• 検証実験
• 汎用性の高い設計
(制約のある設計)
• まとめ
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プロペラ性能評価プログラム
性能評価プログラムに求められること・・・
• 1000回以上の反復計算を行うため計算時間が短い
• 翼断面形状を忠実に表現できる
• 性能を十分な精度で計算できること
• 不均一流中での計算ができること
揚力体理論(パネル法)やCFDを用いる
ことは計算機負荷を考えると困難
ポテンシャル理論の渦格子法に基づいた石井の方法を用いた
• 揚力面理論
• 翼厚は、既知の吹き出し量の線形和で表現
• 後流渦の適切なモデル化を行っている
渦格子法一般
石井の方法
8
プロペラ後流渦について -石井の方法後流自由渦は、流線に沿って置くことが出来る。
という仮定のもと、繰り返し計算によって求める
初期形状
最終形状
プロペラ後流渦
後流渦の適切なモデル化により、
短い計算時間で十分な計算精度が得られる
9
渦格子法による効率計算の問題点
ポテンシャル理論のため、
粘性の影響を経験式で与えているだけであり、
抗力を正しく求めることができない
摩擦損失を正しく
計算できない
計算では、回転流損失の
違いしか求められない
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幾何形状の説明 - ピッチ p -
• 一回転中に進む距離
• 半径位置(r/R) によって異なる
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幾何形状の説明 - 翼断面 展開図
コード長さ(翼幅)を1とする
• キャンバ h :翼断面中心の座標
• 翼厚 t
:翼上下面の座標の差
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プロペラ幾何形状の表現式
ピッチ
キャンバ
翼厚分布
p(r) = p0(r) + Dp(r)
h(r,x) = h0(r,x) + Dh(r,x)
t(r,x) = t0(r,x) + Dt(r,x)
原型プロペラ
増減分
増減分の表現式・・・ ピッチ :Dp(r )   a j r j 1
j
キャンバ:Dh(r, x)   b j (r ) sin( jx)
j
翼厚分布:複雑なため
、あとで説明
ベクトルX を以下の様に表現すると、プロペラ形状を表現できる
X  (a1, a2 ,, b1,1, b1,2 ,)T
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圧力分布を目的関数とする設計
(制約条件のない設計)
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設計の概要
設計における目的関数
• プロペラ単独効率向上
• キャビテーション量最小化
• プロペラ質量最小化
トレードオフの関係
あらかじめ設定した圧力分布Cp をプロペラの三次元曲がり
流れ中で実現
merits
• 制約条件が必要ない
• 目的とする圧力分布によっては、効率向上とキャビテーション
量の減少を同時に達成
適切な圧力分布を与える必要がある
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目標とする圧力分布
UT-NC翼型・・・高性能シリーズ翼型
Merits
• 高い揚抗比
⇒ 高いプロペラ効率
• 平坦な圧力分布 ⇒ キャビテーション量の減少
Design parameters
最大翼厚比
tmax/C
analytically
設計揚力係数
+ CL + CL-mid.
2D 翼断面形状
荷重分布
強度面等の制約から設計揚力係数のみが任意性の残る設計変数
設計者が決定(高レベルの判断)
UT-NC翼型の設計揚力係数CL-mid.
キャビテーションバケットの中心の揚力係数
キャビテーション性能に影響
キャビテーション性能を考慮しながら、設計者が決定
CL
back cavi.
キャビテーションバケット
ノンキャビ
CL-mid.
プロペラ一回転中の作動点
face cavi.
-Cp
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キャビテーションの発生基準
• 渦格子法は薄翼理論であるため、前縁において流速
が無限大になり、圧力を求められない。
• 計算格子での圧力から1%Cまで外挿し、 そこでの圧
力が蒸気圧より小さければキャビテーションが発生す
ると判断する(実績のある判定法)。
s:無次元化された蒸気圧
キャビテーションが発生しない
キャビテーションが発生する
圧力をあわせることの困難さ
渦格子法は、薄翼理論のため
圧力分布をあわせることは困難
翼上下面の圧力差である荷重分布DCpを
ピッチ、キャンバで合わせる
目標とする翼型の翼厚分布をそのまま用いる
目標とする圧力分布を得る
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原型プロペラについて
原型プロペラ主要目
直径
ボス比
スキュー角
翼数
0.25m
0.18
36[deg.]
5
20
荷重分布の比較
原型プロペラの荷重分布
UT-NC翼型の荷重分布
そのままプロペラ翼断面
としたときの荷重分布
最適化アルゴリズムの必要性
目的とする荷重分布DCp’を実現する
には、プロペラ幾何形状を繰り返し計
算により変形する必要がある
start
プロペラ幾何
形状変形
DCp の計算
逆問題である
DCp = DCp’?
end
最適化アルゴリズムを用いて解く
22
設計における目的関数
目的とする荷重分布DCp’を実現
プロペラの3次元曲がり流れの荷重分布DCpと
目標とする荷重分布DCp’の差の二乗平均和で
目的関数を定義
target
f (X) 
M
N
i
j
2

(
)
D
Cp
(
i
,
j
)

D
C
p
(
i
,
j
)

M N
DCp  DCp
f (X)  0
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設計の流れ
原型プロペラ(初期形状)
CL-mid. 変化
荷重分布を求める
t, DCp’
最適化アルゴリズム
プロペラ性能評価(均一流)
目的関数 f(X)
収束?
yes
No
幾何形状変化
(Xk is upgraded)
キャビテーション性能(不均一流)
新プロペラ
Blue : 自動 (均一流)
Green: 手動 (不均一流)
設計したプロペラ翼断面等
原型プロペラ
新プロペラ
翼断面形状(0.7R)
荷重分布ΔCp
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設計のまとめ
計算で0.46% 効率の向上が得られた。
ただし、計算では揚抗比の向上の影響が
考慮されていないので、更に向上する可
能性がある。
また、キャビテーション量の減少も確認す
る必要がある。
模型を制作し、検証実験を行った
26
検証実験
• プロペラ単独性能試験 ・・・均一流中
at 三井造船昭島研究所
• キャビテーション試験 ・・・不均一流中
at 東京大学舶用プロペラキャビテーションタンネル
27
プロペラ単独性能試験
計算では
0.46%up
プロペラ単独効率の向上
計算では考慮できない翼断面の揚抗比の向上
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キャビテーション試験 - キャビティスケッチ -
Base Propeller
New Propeller
キャビティボリュームの減少
平坦な圧力分布
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無次元変動圧力
キャビテーション試験 - 変動圧力 -
振動
騒音
変動圧力の減少
キャビティ体積の減少
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本設計法のまとめ
• プロペラの三次元曲がり流れ中において、任意
の目標荷重分布を実現するような自動最適設
計プログラムを作成した
• 本研究において、高揚抗比と平坦な圧力分布
を与える二次元理論のシリーズ翼型の荷重分
布を選んだ
• 模型試験の結果、効率の向上及びキャビテー
ションの減少を確認した
31
本設計法の問題点
• 手動で荷重分布を与える必要がある
• シリーズ翼型に基づいたプロペラを設計す
るだけであり、汎用性に欠け、必ずしも「最
適なプロペラ」を設計できるわけではない
荷重分布を与える必要がなく、汎用性
の高い設計法を提案する
32
汎用性の高い設計
実際の設計において要求される用件を
満足する汎用性の高い設計システム
例 キャビテーション量最小
プロペラ単独効率最大
トルク、推力一定
一例として、推力一定の制約条件のもと、効率
の最大化を目的関数とする設計を行う
制約条件が必要⇒逐次二次計画法を用いる
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逐次二次計画法
目的関数を二次近似、制約条件を一次近似
一般的な最適化問題
逐次二次計画法
行った設計条件
目的関数
制約条件
設計変数
設計1 効率最大化 推力一定
ピッチ、キャンバ
設計2 〃
推力一定
+ フェイスキャビテーション抑制
ピッチ、キャンバ
設計3 〃
推力一定
+ フェイスキャビテーション抑制
ピッチ、キャンバ
+ 翼厚分布
※設計1の結果、有害なフェイスキャビテーション
が発生することが分かった
35
設計1
目的関数:効率最大化
制約条件:推力一定
設計変数:ピッチ、キャンバ
0.7Rにおけるキャンバ
約2.5%の効率向上
36
非定常圧力分布
(q=120[deg.])
Base Propeller
Designed Propeller
有害なフェイスキャビテーションの発生
設計2
目的関数:効率最大化
制約条件:推力一定、フェイスキャビテーション抑制
設計変数:ピッチ、キャンバ
フェイスキャビテーションを抑制する制約条件式
翼下面のすべての圧力が蒸気圧より大きい
g(X)  min .(Cp(face)  s )  0
不均一流中
最適化における各反復において
不均一流中での計算結果g(x) の偏微分が必要
計算時間が膨大になる
(均一流中の100倍の計算時間)
MPI(Message Passing Interface) を用いての並列計算
38
設計結果
0.7Rにおけるキャンバ
0.8%の効率向上
39
非定常圧力分布
(q=120[deg.])
Base Propeller
Designed Propeller
フェイスキャビテーション抑制
設計3
目的関数:効率最大化
制約条件:推力一定、フェイスキャビテーション抑制
設計変数:ピッチ、キャンバ、翼厚分布
圧力分布は、翼厚の影響も大きいことが知られている
翼厚も変更することにより、フェイスキャビテーションを
抑えつつ、更なる効率向上が期待できるのではないか
41
翼厚の変形 その1
増減をフーリエ級数で表現
4
Dt  ci, j sin( jx)
j 1
0.2R
0.7R
形状が滑らかでない
42
翼厚の変形 その2
翼厚分布を式でそのまま表現⇒ほとんど発散
計算できた例
t (r, x)  c1 (r ) x * (1.05  x)  c2 (r ) x * (1.05  x) * x
 c3 (r ) x * (1.05  x) * (1.05  x)  c4 (r ) x * (1.05  x) * x 2
 c5 (r ) x * (1.05  x) * (1.05  x)2  c6 (r ) x * (1.05  x) * x3
0.9R
0.7R
形状が滑らかでない
43
翼厚分布に対する考察
揚力面理論は、翼厚分布を吹き出しによって線形的に
表現しているため、翼厚に対する感度が低く、高い自由
度のある設計は困難
少ないパラメータで翼厚を表現したい
9
3
3
yt  x / C  (1.05  x / C)   Ai, j ,k  ( x / C)i  c j  (tmax / C)k
i 0 j 0 k 0
設計変数は、c と、tmax/C の二つであるが、各半径位置に
おいてtmax/C は一定であるため、c のみが設計変数になる
UT-NC 翼型で使われている式である
44
パラメータc を変化させたときの半翼厚分布
9
3
3
yt  x / C  (1.05  x / C)   Ai, j ,k  ( x / C)i  c j  (tmax / C)k
i 0 j 0 k 0
tmax / C  0.05
一つのパラメータであるc を変えるだけで、翼厚が大きく変化45
設計結果
0.7R におけるキャンバ
0.7R における半翼厚分布
翼厚を変形しない設計2
・・・0.8%効率向上
翼厚も設計変数とした設計3・・・1.2%効率向上
翼厚変更により更に0.4%効率向上を果たした
46
非定常圧力分布
(q=120[deg.])
Base Propeller
Designed Propeller
フェイスキャビテーション抑制
非定常圧力分布
(q=0[deg.])
Base Propeller
Designed Propeller
負圧のピークが小さいため、バックキャビテー
ションが抑えられていると推定できる
48
本設計法の限界
渦格子法を用いているため、以下のような限界がある
• 薄翼理論であるため、前縁における圧力を求めること
ができない
⇒キャビテーション判定精度が低い
• 翼厚分布を吹き出しの線形和によって表現している
⇒翼厚に対する精度が低い
• ポテンシャル流れであるため、粘性の影響がほとんど
考慮されていない
⇒翼断面の揚抗比変化の影響が考慮されない
より精度の高い設計を行うためには
揚力体理論(パネル法)やCFDをソル
バーとして設計する必要がある
49
まとめ1
実用的な制約条件のもと、プロペラ翼断面の最適設計を
行うことのできるプロペラ設計支援ツールの開発を行った
1. まず最初に、プロペラの荷重分布をあらかじ
め設定したものに近づけるということを目的と
してピッチ、キャンバの最適化を行った。
計算で0.46%、実験で2% の効率向上
及び、キャビテーション量の減少を確認
50
まとめ2
2. 次に、推力一定という制約条件のもと効率の最大
化を目的とし、ピッチ、キャンバの最適化を行った。
2.5% 効率向上
3. その際、フェイスキャビテーションが発生すること
が分かったので、フェイスキャビテーション抑制を
制約条件に加えた設計を行った。
0.8% 効率向上
4. 更なる効率向上のため、翼厚分布も設計変数に
加えて設計を行った。
1.2% 効率向上
(翼厚変更により更に0.4%向上)
51
52
補足資料
53
ピッチの変化
54
効率とキャビテーションマージンの相関
キャビテーションマー
ジン:min .(Cp(face)  s )
効率の向上に従い、フェイスキャビテーションマージンも単調に減少
効率とフェイスキャビテーションマージンの間には相関がある
キャンバの変化 0.7R
56
57
Convergence history
More than 80% is achieved
58
first
first
Comparison of load
distribution DCp
Base propeller
target
UT-NC foil section
after
New propeller
59
原型プロペラ
設計1
設計2
60
61