職場におけるメンタルヘルス対策と 自律訓練法について ~勤労者のこころの健康づくり~ 北海道中央労災病院 勤労者予防医療センター 保健師 小宅 千恵子 職場のメンタルヘルス対策の意義 1、健康の保持増進活動の一環 ・労働安全衛生法が求める 2、労働生活の質の向上と事業所の活力の向上 ・生産性等の向上に寄与する 3、リスクマネジメント ・作業効率の低下、労働力損失、健康障害 (自殺)を防止する (労働者のメンタルヘルス対策に起案する検討会報告書より) メンタルヘルスとは • 心と精神の健康のこと 職場のメンタルヘルスケア • 労働者(働く人)の心の健康の保持増進の ために事業者(会社)が行なうことが望まし い措置のこと 事業者(会社)は、従業員が、健康で働き続けら れるように、心の健康づくりも考えなければなら なくなって来ている なぜメンタルヘルスケアか? 職業ストレスの増加 健康障害や自殺者の増加 メンタルヘルス対策の開発 行政の指針 こころの病の増加傾向 有効回答:269社(平成20年4月実施分) 70 コミュニケーションの 減少が影響 30代に集中傾向 60 (%) 50 40 2002 2004 2006 30 20 10 0 増加傾向 横ばい 減少傾向 「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート 不明 (財)社会経済生産性本部 平成20年8月 近年、産業構造が変化する中、働く人の6割以上が、職業生活でのス トレスを感じています。(図1) 昇進・昇給の問題 〈職業生活におけるストレス等の原因〉 系列1 雇用の安定性の問題 強い不安、悩み、 ストレス 定年後・老後の問題 がある労働者 昇進・昇給の問題 58.0% 仕事への適正の問題 職場の人間関係 会社の将来性の問題 仕事の量の問題 仕事の質の問題 職場の人間関係 0 0 10 10 20 20 30 30 ストレスを感じる者の割合を100とした時の割合(%) 40 40 資料:厚生労働省「労働者健康状況調査報告」〈平成19年) 労働者の抱えるストレス 強い不安、悩み、 ストレスがある労働者 40 35 30 25 20 15 10 5 0 61.5% 仕 事 の 質 の 問 題 仕 事 の 量 の 問 題 仕 事 へ の 適 性 の 問 題 2002年厚生労働省調査 情 報 化 応 ・ 技 の術 問 革 題 新 へ の 対 職 場 の 人 間 関 係 の 問 題 昇 進 、 昇 給 の 問 題 配 置 転 換 の 問 題 転 勤 に 伴 う 転 居 の 問 題 雇 用 の 安 定 性 の 問 題 会 社 の 将 来 性 の 問 題 定 年 後 の 仕 題事 、 老 後 の 問 そ の 他 精神障害による労災認定件数も年々増加しており、職場における心 の健康作りは重要な課題となっていますが、多くの事業場では取組が 十分でない状況です。(図2) 職場での心の健康対策取り組み状況 職場における心の健康作りは重要な課題となっていますが、多 くの職場では「専門スタッフがいない」「取り組み方がわからない」 等の理由で、取り組みが十分でない状況です。(図3) 心の健康保持増進のための指 針 2006.3月31日厚生労働省発表 1、事業者は具体的な方法等についての「心の健康づくり計画」の策定・実施 ・衛生委員会等における調査審議 2、同計画に基づき、次の4つのメンタルヘルスケアを推進すること ・労働者自身による「セルフケア」 ・管理監督者による「ラインによるケア」 ・健康管理担当者による「事業所内産業保健スタッフ等によるケア」 ・事業所外の専門家による「事業所外資源によるケア」 3、メンタルヘルスケアの具体的すすめ方 ・管理監督者や労働者、産業保健スタッフに対して教育研修、情報提供を行うこと ・職場環境等の把握と改善を図ること ・メンタルヘルス不調への気づきと対応(相談) (職場復帰における支援) 4、メンタルヘルスケアに関する個人情報保護への配慮 ・労働者の同意、情報の加工、事業所内の取り決め 5、小規模事業所におけるメンタルヘルスケアの取り組み (労働安全衛生法大70条の2条1項に基づく) メンタルヘルスケア ・・・ 4つのケア ・・・ セルフケア ラインによるケア 事業場内産業保健スタッフ等 によるケア 事業場外資源によるケア メンタルヘルスケアは 継続的かつ計画的に 行われるようにするこ とが重要 ①セルフケア 自分で自分の健康を管理する=セルフケア • ストレスへの気づき • ストレスに対する正しい知識 事業場は・・・ • ストレスへの対処 セルフケアの支援 ②ラインによるケア 事業場が雇用者の健康管理を行う=ラインによるケア 産業保健スタッフ (産業医・保健師)と協力 • 労働者に対する相談対応 • セルフケアに関する教育研修、情報提供 • 職場環境などの把握と改善 ラインによるケアを推進するための環境整備 事業場内産業保健スタッフ等よるケア 労働者及び管理監督 者に対する支援 メンタルヘルスケアの実 施に関する企画立案 ネットワークの形成 事業場内産業保健スタッフ等は、事業場と事業場外資源との ネットワークの形成及び維持に中心的な役割を担います。 事業場内産業保健スタッフ等による ケアを推進するための環境整備 事業者は、事業場内産業保健スタッフ等に対し、教育研修、知識修得等の機会を 提供します。また、事業場内産業保健スタッフ等に方針を明示し、必要な支援を 行うとともに、自発的相談制度・体制の整備や事業場外資源の活用の措置を取ります。 事業場外資源によるケア 事業場外資源の活用 事業者は、専門的な知識の入手や人材の活用など必要に応じ、 それぞれの役割に応じた事業場外資源を活用し、情報提供や 助言を受けます。 ネットワークの形成 事業者は、必要が生じた場合のスムーズな活用のため、日頃から 事業場内産業保健スタッフ等が窓口となって、事業場外資源との ネットワークを構築しておきます。 労働者等に対する教育研修 • セルフケアのための教育 メンタルヘルスケアの基礎知識 セルフケアの重要性・ストレスへの気づき ストレスの予防・対処の方法・自発的な相談の有用性 事業所内の相談先 ・ラインによるケアのための教育 メンタルヘルスケアの基礎知識 ラインの役割・職場環境等の評価や改善の方法 労働者からの相談への対応の仕方 事業所内産業保健スタッフ等との連携の方法など ・事業所や労働組合幹部に対し、メンタルヘルスケアに関する情報 提供 セルフケア 1、ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解 2、ストレスへの気づき ・自己チェック(「職業性ストレス簡易調査表」 等) ・対人交流パターンや性格を知る(交流分析 等) 3、ストレスへの対処 ・健康的なライフスタイル(運動・栄養・休養のバランス) ・日常のストレス発散(趣味、スポーツ、会食、雑談など) ・手軽なリラックス法の実践 (ストレッチング・呼吸法・筋弛緩法・自律訓練法 他) ・「ものの見方やとらえ方の偏り」への気づきと修正 ・自発的な健康相談 自律訓練法 • 自律訓練法は、催眠の研究から体系化され、 その修得が比較的容易なことから、心身症の 治療法や、リラクセーション技法として広く利 用されている。 • 自律訓練法は、ストレスを解消して不安や緊 張をほぐし、筋肉を弛緩させ、自律神経系の 働きのバランスを整える。 職場における自律訓練法の活用 1.ストレスへの対処方法として ●個別指導や相談の場面で ●セルフケアセミナーや管理監督者セミナーで 2.仕事や会議の合間のリラックス法として ●疲労回復、気分転換のために (職場体操の変わりに) ●各種研修や会議の合間に 自律訓練法の実際 ~勤労者のこころの健康づくり~ 自律訓練法の成り立ち 自律訓練法とは • • • • • 自己催眠法である 自己弛緩法である 自己暗示法である 自己調整法である 自律神経調整法である 自分のために、自分で練習して、 リラックスする方法 自律訓練法の効果 • 蓄積された疲労の回復 • イライラせず、穏やかになれる • 衝動的な行動が少なくなる • 仕事や勉強の能率が上がる • 身体的な痛みや、精神的苦痛が緩和する • 自己向上性が増す ストレス緩和 リラクセーション効果 自律訓練法注意事項 ①、できれば指導を受けることが望ましい ②、静かな場所で行う ③、空腹や満腹、便意のない状態で行う ④、ベルト・ネクタイ・時計等ははずす。 ⑤、全身の力を抜く ⑥、最初は短時間から練習を ⑦、受動的注意集中 ⑧、必ず消去動作を行う ⑨、胃の悪い人は第5公式を避ける ⑩、心臓の悪い人は第3公式は避ける 自律訓練法の標準練習 〈標準練習〉 四肢の弛緩を中心とした公式化された語句を反複 暗誦しながら、 その内容自受動的注意集中を行うとともに、 関連した身体部位に心的留意を保つことにより、 段階的に生体機能の調整を図る技法。 自律訓練法の練習の公式 • 背景公式:「気持ちが落ち着いている」 • 第1公式:「両腕・両足が重たい」 • 第2公式:「両腕・両足が温かい」 • 第3公式:「心臓か静かに規則正しく打っている」 • 第4公式:「楽に呼吸をしている」 • 第5公式:「お腹が温かい」 • 第6公式:「額が涼しい」 *消去動作 自律訓練法をしない方がいい場合 1. (自律訓練法をする)意欲がない場合 2. 急性精神病や分裂病など気持ちが不 安定な時 3. 5歳以下のひと 4. 体調が悪い人 自律訓練法の禁忌 1. 心筋梗塞の患者 2. 低血糖状態の患者 3. 重い精神病の人 4. 消化性潰瘍など、急性期の病気の人 練習中に起こる反応 • • • • • • • • (体の)おもだるさ 温かさ 眠気 眼瞼や手足の筋肉がピクピク 動く お腹がゴロゴロ鳴る 唾液が出る しびれやかゆみ 心と身体が離れている感じ • • • • • • • • • • 回転感 浮揚感 幸福感 無感覚な感じ 不安感 憂うつ感 孤独感 イライラ感 涙がでる 笑いたくなる 標準練習 マスターのためのポイント(1) • 自分の状態を知ること 自律訓練法の適応範囲が非常に広いといっても、 やはり練習を行うのに注意が必要な病気や症状 があります。 自律訓練法を効果的に修得する為 には、事前に医学的・心理的な検査を通して専門 的なチェックを受けることが望ましいです。 標準練習 マスターのためのポイント(2) • リラックスしやすい環境を整えること 実際の練習は、まず環境をリラックスしやすいよ うに整えることから始まります。 騒音など、練習を妨げるような外界からの刺激が 少なく、精神的にくつろげる場所を選びます。 ~身体の緊張のもとをできるだけ取り除きます。~ 標準練習 マスターのためのポイント(3) • 受動的態度を保つこと 練習では目を閉じて公式を心の中で繰り返しま すが、そのとき最も大切なことは、受動的な態度 を保つことです。 公式は「腕(脚)が重たい(温かい)」ですが、これが「重 たくなる(温かくなる)」ではないことに注意します。 ゆっくりと公式を繰り返しながら腕(脚)にさりげなく注意 をむけて、自然に感じられる感覚を味わいながら、変 化が現れるのを待つという態度です。 標準練習 マスターのためのポイント(4) • 完全欲や焦りは禁物 練習中、少し落ち着いてきたときは、「少しは落ち 着いている。うまくいっている」というように、現れ 始めた変化を認めて自分を調子に乗せていくこと が大切です。 「重感や温感がでない」とつい焦ってしまいがちですが、 焦りは練習を余計遅らせるだけです。焦らず、たゆ ます練習を続けることが一番の近道です。 練習中の注意 • 練習の雑念 – 当たり前の現象 – 浮かぶに任せて「公式」を繰り返す – 練習を続けると消える • 消去動作 – 効果を感じなくても必ず行う 実施の手順 1、静かな部屋で、ベッドに仰向けに寝ます (椅子でも可)。 2、軽く目を閉じて、体の力を抜きます。 3、公式を繰り返し心の中で唱えます。頭の中に イメージしながら、何回か繰り返します。 訓練姿勢 〈安楽椅子姿勢〉 〈仰臥姿勢〉 *腹部温感練習時 〈単純椅子姿勢〉 背景公式;安静練習 「気持ちが(とても)おちついている」 〈ポイント〉 1、(準備)体を締め付けているものをゆるめる。 2、(準備)意識して抜ける力は、深呼吸に合わせて抜く。 3、(準備)訓練の前に済ませておけることは済ませる。 4、開始時の心の状態を確認する公式。 5、落ち着きにくい時も、数回繰り返してみたら、次の公式へ。 6、次の各公式を繰り返す間にこの公式を適宜挿入する。 7、草原にゆったりと寝転んでいるところをイメージするなど補助 的な手段を用いてみる。 第1公式:四肢重感練習 「右腕(みぎて;利き手)が重たい」 ⇒「左腕が重たい」⇒「両脚が重たい」 1、重感を出そうという積極的な努力を行うと緊張してしまう。 2、何か変化が起こってくるのをまつという受動的態度で行う。 3、筋肉のゆるんだ、だらんとした感じがする。 4、脚の重感は腕と比べると弱く感じられる。 重症筋無力症の人はこの公式を省略 消去動作 1、手を握ったり、開いたり(グー、パー)を三回 繰り返す。 2、両手で握りこぶしを作り、肘の曲げ伸ばしを 三回繰り返す。 3、背中を大きくそらせて背伸びをする。 練習してみましょう 背景公式⇒第1公式⇒消去動作 第2公式:四肢温感練習 「右腕(みぎて;利き手)が温かい」 ⇒「左腕が温かい」⇒「両脚が温かい」 1、第一公式で感じた重たさに意識を向けながら行う。 2、血管がゆるんで血液の循環が良くなった状態。 3、補助的に日光浴などのイメージを活用することもある。 4、気候により温かさのわかりにくいときがある。 「熱く」なる人は「かすかに温かい」とする 受動的注意集中(受動的態度) 達成努力を伴わない、さりげない 態度で注意を集中すること、例え ば、両腕・両脚を重くしようと努力 するのではなく、両腕・両脚に軽く、 もしくはぼんやりと注意を向けると、 自然に感じることのできる感覚が ある。その感覚がどのように変化 するのだろうかと、興味深く眺め るといった態度である。 (佐々木雄二「自律訓練」より) 右図では、腕と脚から伝わってくる感覚、例えば 掌や指先が触れている脚やズボンの感覚、衣類 が肌に触れている感覚に注意を向けて行う。 練習してみましょう 背景公式⇒第1公式⇒第2公式⇒消去動作 練習回数と時間 1セッション を心 軽 整身 く えの 目 る練 を 習閉 姿じ 勢、 練習2回目 練習1回目 2~3分 消 去 動 作 2~3分 練習3回目 消 去 動 作 練習を繰り返すことでリラックスが深まる 2~3分 消 去 動 作 もう一度練習してみましょう ご清聴ありがとうございました
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