企業法Ⅰ 講義レジュメNo.06 役員等の損害賠償責任 1. 会社に対する責任 2. 第三者に対する責任 3. 株主による監督是正 テキスト参照ページ:198~248p 1 1 役員等の会社に対する責任 (1)総説 • 取締役・会計参与・監査役・執行役および会計監査人(以 下「役員等」とよぶ)は、会社に対し善管注意義務を負い (330、民644)、これに違反したときは任務懈怠として損害 賠償責任を負う(423Ⅰ) • 会社法は、役員等の任務懈怠責任とその免除に関する規 定を423条から428条に設けている。このほか、株主の権 利行使に関する利益供与(120Ⅳ)や剰余金の配当等(46 2・464・465)に関する取締役・執行役の責任、さらに設 立時や募集株式の発行等が行われた場合の取締役・監 査役・執行役の責任等が個別的に規定されている(52~ 56、103Ⅰ・213・286) 2 参考:会社法での変更点 • 規定の仕方の変更 • 役員:取締役、会計参与および監査役(329) • 役員等:役員+委員会設置会社の執行役お よび会計監査人(423Ⅰ) • 善管注意義務:役員および会計監査人(330、 民644)、執行役(402Ⅲ、民644) • 忠実義務:取締役(355)、執行役 (419Ⅱ→355) • 株主代表訴訟:役員等は全て対象(847Ⅰ) 3 • 会社に対する責任(旧商266Ⅰと比較) ① 違法配当→違法な剰余金配当(462Ⅰ柱書き・ ⑥) ② 利益供与→120Ⅳ ③ 競業取引→356Ⅰ①、419Ⅱ、423Ⅰ・Ⅱ ④ 利益相反取引→356Ⅰ②③、419Ⅱ、423Ⅰ・Ⅲ ⑤ 法令・定款違反→任務懈怠責任:423Ⅰ ※①、②、④は、無過失責任と解するのが通説だっ た。(委員会等設置会社では過失責任が原則) 第三者に対する責任:429 4 (2)違法な剰余金配当 • 責任原因:分配可能額(461Ⅱ)を超える剰余 金の分配(461Ⅰ⑧) • 連帯して損害賠償責任を負う者(462Ⅰ柱書 き・⑥):業務執行者(業務執行取締役:代表 取締役および業務担当取締役、委員会設置 会社の執行役、その他法務省令で定める者)、 違法配当の株主総会決議に議案を提案した 取締役(取締役会決議による場合は取締役 会議案提案取締役)及び配当を受けた株主 5 (2)違法な剰余金配当 • 過失責任化:「職務を行うについて注意を怠らな かったことを証明したときは」(462Ⅱ)⇒過失の証 明責任を転換し、無過失の抗弁を認めた • 総株主の同意によっても免除することができない (462Ⅲ本文)→特殊な資本充実責任であり、任務 懈怠責任ではない:全額免除は不可 • ただし、行為時における分配可能額を限度として 賠償責任を免除することについて、総株主の同意 がある場合は、その限度で一部免除は可能(同但 書) 6 株主に対する求償権の制限 • 分配可能額を超えることにつき善意の株主は、会 社に対する責任を果たした業務執行者等からの求 償請求に応じる義務を負わない(463Ⅰ) – 悪意の株主には求償請求できる • 会社債権者は、株主に対して、株主が交付を受け た金銭等の帳簿価額(会社に対する債権額を上回 る場合は債権額を限度とする)に相当する金銭の 支払を請求できる(同Ⅱ):債権者自身への支払請 求を認める – 善意の株主にも請求できる:違法な剰余金の配当は無 7 効 (3)利益供与の責任 • 過失責任化した上で、過失の証明責任を転換し、 「無過失の抗弁」を認めた(120Ⅳ)。 • ただし、自ら利益供与を行った者は、無過失責任 (衆議院における修正) • 株主権の行使に関する利益供与の事実:「特定 の株主に無償または著しく少ない対価での財産 上の利益を供与した事実」により推定される(法律 上の事実推定)(120Ⅱ) • 総株主の同意がなければ免除できない 8 利益供与の責任 • 違法な利益供与を受けた株主⇒会社に対する 返還義務を負い、会社が請求しない場合、他 の株主は代表訴訟と同様の方法により返還を 請求することができる(120Ⅲ・847Ⅰ) • 違法な利益供与に関与した取締役・執行役⇒ 供与した利益の額の弁済責任(連帯責任)を 負う(120Ⅳ):原則として過失責任化(無過 失の立証責任は取締役に) – 自ら利益供与をした取締役・執行役は無過失責任 9 利益供与の罪:「刑事責任」 • 利益供与をする行為、違法であることを知って 利益の供与を受ける行為、利益供与を要求する 行為は犯罪とされ、3年以下の懲役または300万 円以下の罰金に処せられる(970Ⅰ~Ⅲ):供 与した者は自首減刑(同Ⅵ) • 威迫の行為により取締役らを脅し利益供与をさ せた場合は5年以下の懲役または500万円以下の 罰金と加重される(同Ⅳ) • 利益供与を受ける側(970Ⅱ~Ⅳ)の情状に よっては懲役と罰金が併科される(同Ⅴ) 10 (4)任務懈怠責任 i. 任務懈怠の意義と損害賠償 • • • 役員等は会社に対して善管注意義務を負い(330、民 644)、また取締役は忠実義務を負うので(355)、役員 等の任務はこれらの義務に基づいて行われなければ ならない 善管注意義務・忠実義務に違反するような職務の遂 行があったとすれば、役員等は、任務を怠ったものと して、株式会社に対してそれによって生じた損害を賠 償する責任を負う:不完全履行(423Ⅰ) 他の役員等も責任を負うときは、これらの者は連帯債 務者となる(430) 11 法令・定款の遵守 • 役員等は当該役員等を名宛人とする法令 (その中心は、役員等の義務を定める会社法 の諸規定)を遵守する義務を負うとともに、取 締役・執行役は会社を名宛人とする全ての 法令を遵守する義務を負っていると解される ので(非限定説:最判平成12・7・7民集54・ 6・1767)、それらの法令を遵守することも役 員等の任務と考えることができる • 法令違反⇒任務懈怠に含まれる 12 法令・定款の遵守 • したがって、役員等が故意または過失により 法令・定款に違反した場合、任務懈怠に基づ く損害賠償責任を負うことになる • すなわち、会社法423条1項の責任は、平成 17年改正前商法266条1項5号の法令・定款 違反の責任に相当するものということができ る 13 責任の判断構造 • 一元論:取締役が負う義務は、「法令を遵守して行 動すべき義務」ではなく、「会社が法令を遵守しな いで行動することをさせないようにする注意義務」 である⇒法令に違反する行為が直ちに423Ⅰの要 件事実を充足するのではなく、当該法令違反行為 が上記の意味での取締役の注意義務に違反する かが問題となる • 任務懈怠の要件事実:「会社に法令違反をさせな いように注意して行動すべき取締役の注意義務に 対する違反(本旨不履行)」⇒善管注意義務違反= 14 任務懈怠=過失 責任の判断構造 • 二元論(従来の判例の立場):具体的な法令違反 行為があった場合と、取締役の善管注意義務違反 の場合とで異なった判断構造とる • 具体的な法令違反行為の場合:「会社が具体的な 法令に違反した」との事実さえ主張・立証されれば、 「取締役の任務懈怠」という客観的違法性について の主張・立証として十分。 • 法令違反=任務懈怠≠過失⇒無過失の抗弁が可 能(法令違反であることについての認識を欠いたこ とに過失がなかったといえる場合のような主観的 15 違法状態がないこと) 会社法423条1項の「任務懈怠」 • 会社法423条1項では、「法令違反」ではなく 「任務を怠った」という「任務懈怠」要件になっ ている。 • 旧商法特例法上の委員会等設置会社におけ る取締役や執行役に関する規定に合わせた 改正で、実質的な改正は意図されていないと いわれる。 • 文言上は、一元説に親和性があるが、会社 法のもとで、二元説が成り立たないわけでは ない 16 「因果関係」と「損害額」の立証 • 役員等は、自己の任務懈怠と相当因果関係のあ る会社の損害について賠償しなければならない (民416) • 因果関係・損害額の立証責任は、責任を追及す る側(会社側・代表訴訟における株主側)にある (原則) • 取締役・執行役が株主総会または取締役会の承 認を得ずに競業取引を行った場合には、当該取 引によって取締役・執行役または第三者が得た利 益の額は、会社の損害額と推定される(423Ⅱ) 17 経営判断原則 (business judgment rule) • アメリカの判例において形成された理論で、会社の経 営には危険がつきものであり、取締役の経営判断が裏 目に出て会社に損失が生じた場合に、常に判断を誤っ た取締役の責任が追及されることになると、取締役は 企業家として期待される冒険的判断を控え、経営を萎 縮させることとなり、結果として会社の成長を阻害し、 株主の利益を害する。そのため、取締役が誠実に行っ た経営判断に対して、裁判所は、後知恵的判断を行う べきではないというもの。 • 日本においても株主代表訴訟の件数が増加するととも に取締役の善管注意義務・忠実義務違反の有無を判断 する基準の明確化という観点から、判例の中に見られ 18 るようになった。 米国における経営判断原則 • あくまで判例によって形成された理論であるが、 ALIによる「コーポレート・ガバナンスの原理」にお いて定式化が試みられ、各州の判例法において 採用されている。 ① 経営判断の対象に利害関係を有しないこと ② 経営判断の対象に関して、その状況のもとで適 切であると合理的に信ずる程度に知っていたこと ③ 経営判断が会社の最善の利益に合致すると相当 に信じたこと ※以上の要件をみたすときは、取締役・役員は、注 意義務を尽くしたものとされ、判断の内容につい 19 ては司法審査を行わない。 日本における経営判断の原則 • 取締役の善管注意義務違反の有無(経営裁量の 逸脱)を判断する際の枠組みとして、経営判断原 則の基礎にある考え方を援用していると理解すべ きであろう(経営判断原則そのものは要件事実で はない) • 経営判断の手続・過程において十分に情報を集め、 検討し、事実の認識に不注意な誤りがなかったか を合理性の基準で審査 • それに基づく経営判断の内容は同様の地位にある 者を基準として、著しく不相当な判断であるといえ る場合を除き、裁量の範囲内にとどまる(相当性基 20 準) ⅱ)利益相反取引による責任 ① 直接取引における会社の相手方である取締役・ 執行役 ② 間接取引においてその者の利益と会社の利益が 相反する取締役・執行役 ③ 株式会社が当該取引をすることを決定した取締 役・執行役 ④ 取締役・会社間の利益相反取引(執行役・会社間 の取引は含まない)に関する取締役会の承認決 議に賛成した取締役(369Ⅴ参照)は、その任務 を怠ったものと推定される(423Ⅲ) 21 ⅱ)利益相反取引による責任 ⑤ 上記①~④の取締役・執行役は、推定を覆 すために、取引条件の公正性等を主張して 自己に任務懈怠がないことまたは帰責事由 がないことを立証すれば責任を免れる ⑥ なお、①の取締役・執行役が自己のために 直接取引を行った場合は、当該取締役・執 行役は、任務を怠ったことが自己の責めに 帰することができない事由によるものである ことをもって責任を免れることはできない→ 無過失責任(428) 22 (5)責任の免除 i. 一般的手続:総株主の同意 • • • 役員等の任務懈怠責任は、総株主の同意 がなければ免除できない(424) 株主の利益保護を厚くする趣旨であって、 代表訴訟提起権が単独株主権であること とも対応するものである 任務懈怠責任ではないが、利益供与に関 する責任も総株主の同意がなければ免除 できない 23 ⅱ)責任の一部免除 (ア)最低責任限度額:任務懈怠責任で役員等 に悪意・重過失のないもの(軽過失による責 任)については、以下に述べる手続きによっ て、役員等の賠償責任を一定額(最低責任 限度額)までに限定することが認められる (425~427) ・ただし、取締役等が自己のためにした会社 との利益相反取引(直接取引)に基づく責任 (無過失責任)は、一部免除の対象とはなら ない(428Ⅱ) 24 ⅱ)責任の一部免除 1. 最低責任限度額:役員等がその在職中に株式会社から 職務執行の対価として受け、または受けるべき財産上の 利益の一年間あたりの額として法務省令で定める方法に より算出される額を基準額として、 ㋑代表取締役または代表執行役について6を、 ㋺社外取締役、会計参与、監査役または会計監査人で は2を、 ㋩それ以外の取締役・執行役については4を、それぞれ 乗じた金額と、 2. 当該役員等が当該株式会社の新株予約権を引き受けた 場合(238Ⅲ各号の有利発行の場合に限る)における当 該新株予約権に関する財産上の利益に相当する額とし て法務省令で定める方法により算定される額の合計額 (425Ⅰ) 25 ⅱ)責任の一部免除 3. 役員等が425条以下の規定により責任免除を受 けても、報酬等の2年分から6年分に相当する金 額は賠償金として支払わせることとして、任務懈 怠の抑止効果と高額の責任追及による恐怖感の 緩和という2つの要請のバランスをとっている • 規制の趣旨を貫徹するため、責任の一部免除が あった後で、免除を受けた役員等に退職慰労金 の支給をしようとする場合、あるいは当該役員等 が新株予約権の行使もしくは譲渡をしようとする 場合には、株主総会の承認(普通決議)が必要で ある(425Ⅳ・Ⅴ・426Ⅵ・427Ⅴ) 26 (イ)株主総会特別決議による一部免除 • 会社は、株主総会特別決議をもって、取締役 の軽過失による任務懈怠責任を上記最低責 任限度額まで免除することができる(425Ⅰ・ 309Ⅱ⑧) • その場合、取締役は、株主総会において、① 責任の原因となった事実および賠償責任を 負う額、②免除することができる額の限度と その算定方法、ならびに③責任を免除すべ き理由および免除額を、開示しなければなら ない(425Ⅱ) 27 (イ)株主総会特別決議による一部免除 • 趣旨:総株主の同意によらない責任一部免 除を慎重に行わせるため • 取締役が、取締役(監査委員である者を除く) または執行役の責任を一部免除する旨の議 案を株主総会に提出するには、 監査役設置会社では監査役全員の同意が、 委員会設置会社では監査委員全員の同意 が、それぞれ必要(425Ⅲ) 28 (ウ)定款の定めに基づく取締役等に よる一部免除 • 監査役設置会社(取締役が2名以上ある場合に限 る)または委員会設置会社では、役員等の軽過失 による任務懈怠責任について、責任の原因となっ た事実の内容、当該役員等の職務執行の状況等 を勘案して特に必要あると認めるときは、取締役 (責任免除の対象となる取締役を除く)の過半数の 同意(取締役会設置会社では取締役会決議)によ り、(ア)に述べた最低責任限度額まで役員等の責 任を免除できる旨を、定款で定めることができる (426Ⅰ) 29 (ウ)定款の定めに基づく取締役等に よる一部免除 • 取締役・執行役の責任一部免除に関する定款変 更議案を株主総会に提出する場合 • 右定款規定に基づき取締役の同意により免除をす る場合または責任免除議案を取締役会に提出す る場合 ⇒監査役全員または監査委員全員の同意が必要で ある(同Ⅱ):(イ)の場合と同様 30 (ウ)定款の定めに基づく取締役等に よる一部免除 • 定款規定に基づき役員等の責任を免除する取締 役の同意または取締役会の決議があったときは、 取締役はその旨および異議申立て手続きに関す る事項を公告または株主に通知しなければならな い(公開会社でない株式会社では株主への通知のみ) • 一定期間(一ヶ月を下ることはできない)内に総株 主の議決権の3%以上(これを下回る割合を定款 で定めてもよい)を有する株主の異議申し立てが あれば、免除はすることができない(同Ⅱ~Ⅴ)⇒ 株主総会の特別決議による免除の余地はある 31 (エ)責任限定契約 • 社外取締役、会計参与、社外監査役または会計監 査人の軽過失による任務懈怠責任について • 賠償責任を負う額を予め定めておき、その額と上 記最低責任限度額(原則的に報酬の2年分に相 当)のいずれか高い方の額を責任の限度とする契 約を締結できる旨を、定款に定めることができる (427Ⅰ) • 定款変更議案の提出:監査役全員または監査委 員全員の同意が必要である(同Ⅲ) 32 2 役員等の第三者に対する責任 • 役員等がその職務の遂行に際し悪意または 重大な過失があったときは、第三者に対して 連帯して損害賠償の責任を負う(429Ⅰ・430) • 役員等と第三者は直接の法律関係に立つわ けではないから、この責任は第三者保護の ために法がとくに認めた特殊な責任であると 解するのが通説である(法定責任説):709条 との請求権競合を認める 33 (1)第三者の損害の範囲 • この場合の第三者の損害には、取締役・執行役の 放漫経営により会社の資産状態が悪化したため会 社債権者が債権を回収できなかった場合のように、 役員等の行為により会社が損害を蒙りその結果第 三者に損害が生じたとき(間接損害)と、 • 取締役・執行役が、すでに会社の資産状態が悪化 しており支払い見込みがないのに会社の状態が良 好であるとみせかけて第三者を会社との取引に誘 引する場合のように、役員等の行為により直接第 三者に損害が発生したとき(直接損害)の双方が 34 考えられる (2)対第三者責任の法的性質 • 法定責任説:第三者保護のため取締役の責任を加重した もの→悪意・重過失は任務懈怠についてあれば足り、損 害賠償の範囲は直接・間接の両損害を含み、一般不法行 為の要件が別に満たされれば、第三者は429条1項の責 任と不法行為の責任のいずれも追及できる(判例) • 不法行為特則説:取締役の職務内容の複雑性から取締 役が第三者に対して負うことのある不法行為責任(民70 9)の主観的要件を「悪意または重過失」に限定したもの: 同項は取締役の責任を軽減するものである→悪意・重過 失は第三者に対する加害行為について必要であり、損害 賠償の範囲は直接損害に限定され、当然のことながら一 般不法行為の責任は適用排除される 35 (3)第三者の範囲 • 429条1項の「第三者」に株主が含まれるか否 かについては争いがある • 両損害包含説においても、間接損害の場合、 株主は代表訴訟により損害の回復が可能であ るから、第三者には含まれず、直接損害の場 合には株主も含まれるとする見解、代表訴訟と 429条の場合とでは、要件・効果が異なるので、 いずれの場合にも株主も第三者に含まれると する見解がある 36 (4)監視義務違反と対第三者責任 • 第三者の損害を発生させる経営行為を行った取締 役・執行役のほか、取締役・執行役の不当な経営 行為を防止しなかったことにつき悪意重過失のあ る取締役にも、監視義務違反により、第三者に対 して損害賠償責任を負うことがある。 • 選任決議を欠く登記簿上の取締役や辞任登記未 了の取締役について、908条2項の類推適用を介し て、第三者に対する責任が認められる場合もある (最判昭和47・6・15民集26・5・984、最判昭和62・ 4・16判時1248・127) 37 (5)書類の虚偽記載等に基づく責任 • 取締役・執行役が株式・新株予約権・社債・新株 予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に 通知しなければならない重要な事項等について の虚偽の通知や募集のために用いた資料の虚 偽記載等および計算書類・事業報告・臨時計算 書類に記載・記録すべき重要な事項についての 虚偽の記載・記録または虚偽の登記・公告を行っ た場合:そのことによって第三者に生じた損害を 賠償しなければならない(429Ⅱ①) • 不実の情報開示を信頼した第三者を保護するた め立証責任の転換された過失責任(同Ⅱ柱書但 書)とした 38 (5)書類の虚偽記載等に基づく責任 • 会計参与が計算書類および附属明細書、臨 時計算書類ならびに会計参与報告に記載 すべき重要な事項について虚偽記載を行っ た場合 • 監査役・監査委員が監査報告に記載すべき 重要な事項について虚偽記載を行った場合 • 会計監査人が会計監査報告に記載すべき 重要な事項について虚偽記載を行った場合 ⇒同様の責任が課される(429Ⅱ②~④) 39 3 株主による監督是正 1. 総説 会社の業務執行に対する株主の監督は、原 則として株主総会における取締役等の選任・解 任等を通じて間接的に行われるにすぎない。し かし、会社法は、次の二つの場合には、株主に 直接会社の機関的地位を認め、業務執行に対 する監督是正の権利を認めている いずれも単独株主権であり、公開会社では6ヶ 月前(これを下回る期間を定款で定めることが できる)から引き続き株式を有することが要件と 40 されている 2 違法行為の差止請求権 • 取締役(執行役)が会社の目的の範囲外の行為そ の他法令または定款に違反する行為をし、または するおそれがあるとき • 取締役(執行役)のそのような行為により会社に回 復できない損害が生じるおそれがある場合 • 株主は、会社のために取締役に対してその行為を 差し止めることを請求することができる(360Ⅰ・Ⅲ、 422) • 監査役設置会社でない株式会社および委員会設 置会社でない株式会社では、著しい損害が生じる 41 おそれがあれば差止請求できる(360Ⅰ) 3 代表訴訟 • 取締役、会計参与、監査役、執行役または会計 監査人(以下役員等という)の会社に対する責任 は、本来は、会社自身がその代表機関によってこ れを追及する訴えを提起すべきであるが(349Ⅰ・ Ⅳ・386・408・420Ⅲ参照)、責任を問われる者が 役員等である関係から、会社による責任追及が 十分に行われず(仲間意識からの責任追及・提訴 懈怠)、結果として株主の利益が害されるおそれ がある。 42 (1)総説 • 会社に対する役員等の責任追及が会社自身 によって行われない場合に、株主自らが原告 となって、会社のために役員等の責任を追及 する訴え(いわゆる代表訴訟)を提起できる 制度(第三者の訴訟担当) • 代表訴訟によって追及できる役員等の責任 の範囲については、役員等が会社に対して 負担する一切の債務に及ぶとする「全債務 説」が多数説・判例(百選74事件参照):弥 永(限定説)リーガルマインド233p参照 43 (2)提訴手続(提訴権者) • 代表訴訟提起権は単独株主権であり、6ヶ月(これ を下回る期間を定款で定めることもできる)前から 引き続き株式を有する株主が行使できる(847Ⅰ) • 公開会社でない株式会社では6ヶ月の株式継続保 有要件は不要(同Ⅱ) • 議決権の有無は問わないが、単元未満株主の権 利について定款で代表訴訟に関する権利を制限し ている場合は、当該会社の単元未満株主は代表 訴訟を提起できない(189Ⅱ参照) • 公開会社:訴え提起請求(847Ⅰ)の時点で6ヶ月 44 保有要件をみたしていることが必要 (2)提訴手続 • 株主は、まず株式会社の代表者に対し、書面又は電磁的 方法(会施217)により、役員等の責任を追及する訴えを提 起するよう請求(847Ⅰ) • 監査役設置会社において、株主が取締役の責任を追及す る訴えの提起を請求する場合は、監査役が会社を代表し てこれを受ける(386Ⅱ①:その他の会社353、364) • 委員会設置会社において、株主が取締役・執行役の責任 を追及する訴えの提起を請求する場合は、監査委員が会 社を代表する(408Ⅲ①) • 株主による提訴請求の日から60日以内に会社が訴訟を 提起しない場合には、株主は自ら会社のために訴えを提 起できる(847Ⅲ) 45 (2)提訴手続(不提訴理由書) • 提訴請求を受けた会社が60日以内に役員等の責 任を追及する訴訟を提起しない場合 • 提訴請求をした株主または提訴請求で責任を追及 されるべきとされた役員等は、会社に対し、訴えを 提起しない理由を通知すべきことを請求できる:不 提訴理由書(同Ⅳ、会施218) • なお、60日の期間の経過により請求権が時効にか かるなど会社に回復することができない損害が生 じるおそれがあるときは、株主は直ちに代表訴訟 を提起できる(同Ⅴ) 46 (2)提訴手続(実体的訴訟要件) • 株主は、自己もしくは第三者の不正な利益 を図りまたは株式会社に損害を加えることを 目的として提訴請求をすることはできない (847Ⅰ但書) • そのような目的で代表訴訟が提起された場 合は、裁判所は訴えを却下できる 47 (2)提訴手数料(貼付印紙代) • 役員等の責任を追及する代表訴訟では、訴 訟の目的の価額の算定については財産権 上の請求でない請求にかかる訴え(民訴費 4Ⅱ)とみなす(847条6項) • 原告株主があらかじめ裁判所に納付すべき 手数料は、請求額の如何を問わず ⇒一律1万3000円 48 組織再編行為と原告適格 • 原告株主は、代表訴訟係属中株式を保有していな ければならず、譲渡によって株主の地位を喪失す れば、代表訴訟は却下される • ただし、訴訟提起後に①株式交換または株式移転 により、原告が完全親会社の株式を取得した場合、 または②原告が株主である会社が消滅する吸収 合併もしくは新設合併により原告が新設会社もしく は存続会社もしくはその完全親会社の株式を取得 した場合は、原告適格を喪失しない(851) • 東京地判H16.5.13(LEX/DB28092207)参照 49 • 東京地判H13.3.29(LEX/DB28060901)参照 担保提供命令 • 被告が、訴えが原告株主の悪意に出たものであ ることを疎明したときは(悪意の疎明)、裁判所は 担保の提供を株主に命ずることができる(847Ⅶ) • 担保提供制度は、直接には被告取締役が原告株 主に対して有する可能性のある不法行為に基づく 損害賠償請求権を担保するものであるが、これに は濫訴防止機能も認められる • 「悪意」の意義についてLEX/DB28030665 参 照 50 (3)訴訟参加 • 役員等の責任を追及する訴訟が提起され ているとき(代表訴訟に限られない) • 株主または株式会社は(参加人) • 共同訴訟人(共同訴訟参加)として、または 当事者の一方を補助(補助参加)するため • 訴訟に参加できる(849Ⅰ) • 訴訟告知制度:株主および株式会社に参加 の機会を与えるため(同Ⅲ・Ⅳ) 51 補助参加の利益 • 代表訴訟において、会社は、補助参加の利益(民訴42) の有無にかかわらず、被告役員等の側に補助参加するこ とができる • 平成13年商法改正以前は、被告取締役の側への会社の 補助参加は認められないという解釈が有力だったが、平 成13年の最高裁判決以後、補助参加の利益が認められ る場合には、監査役の同意を要件に認める改正がなされ た⇒会社法は補助参加の利益の有無を問わず認めた • ただし、取締役・執行役(これらの地位にあった者も含む) の責任を追及する訴訟において、会社が被告側に補助参 加するには、監査役設置会社では監査役全員の同意が、 委員会設置会社では監査委員全員の同意が、それぞれ 52 必要(849Ⅱ) (4)和解 • 役員等の責任を追及する訴訟においては、会社が 提起した場合と株主代表訴訟の場合のいずれで あっても、当事者は和解をすることができる • 代表訴訟の原告株主と被告の間で行われた和解 の効果は、株式会社の承認がなければ会社およ び他の株主に及ばない(850Ⅰ) • 和解は、役員等の責任を一部免除する内容を含む のが通常であるが、会社法上の責任の免除には、 原則的に総株主の同意が必要であるから その理由は? 53 (4)和解 • 代表訴訟の原告・被告間で和解がなされた場合: 裁判所は会社に対しその内容を通知し、会社が右 和解内容につき2週間以内に異議を述べないとき は、和解を承認したものとみなされる(同Ⅱ・Ⅲ) • 会社を代表して通知を受け、異議を述べるかどう かを判断するのは、監査役設置会社では監査役、 委員会設置会社では監査委員(386Ⅱ②・408Ⅲ ②) • 異議を述べなければ和解の効果が会社に及び、 責任免除に総株主の同意を要するとする諸規定 (55・120Ⅴ・424・462Ⅲ但書・464Ⅱ・465Ⅱ)の適 54 用がなくなる(850Ⅳ) (5)判決の効果 • 判決の効力は、勝訴・敗訴いずれの場合にも会社 におよぶ(民訴115Ⅰ②) • 勝訴(一部勝訴を含む)した株主は、会社に対し、 相当額の弁護士報酬とともに調査費用等の相当 額の訴訟追行費用(訴訟費用は敗訴被告の負担 になるのでこれに含まれない)を請求できる (852Ⅰ) • 株主が敗訴した場合で悪意があったとき(会社を 害することを知って不適当な訴訟を追行した場合) には、会社に対して損害賠償の責任を負う(同Ⅱ) 55 馴れ合い訴訟 • 役員等の責任追及の訴えが提起された場 合において、原告である会社または株主と 被告である役員等が共謀して、訴訟の目的 である株式会社の権利を害する目的をもっ て判決をさせたとき • 株式会社または株主は、確定した終局判決 に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立 てることができる(853Ⅰ) 56
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