企業法Ⅰ(商法編) 講義レジュメNo.10 商事売買 (商人間の売買の特則) テキスト参照ページ:105~109p 1 1 売主の供託・自助売却権(524条) • 買主が「目的物を受け取ることを拒み」(受領拒絶)、 または「受け取ることができない」(受領不能)とき に、売主が有する供託権と競売権=自助売却権 • 供託・競売の通知について発信主義(524条1項) • 競売権:相当の期間を定めて催告すれば競売でき る – 損敗しやすい物等価格低落のおそれがある物の場合 は催告も不要 • 競売代金は、供託することを要するが、売買代金 への充当もできる 2 民法上の供託権・競売権 • 供託権(民494~496条) – 供託の通知に関して(到達主義)をとる • 競売権(民497条) – 目的物が供託に適しないか、滅失もしくは毀損のおそ れがあるか、または保存に過分の費用を要する場合 に限り、かつ、裁判所の許可を得た場合にのみ競売で きる – 競売代金は、供託することを要し、売買代金への充当 はできない 3 1 売主の供託・自助売却権(524条) • 買主の受領遅滞(民413)を前提条件とするか? • 判例(大判明41.10.12)はこれを肯定する – ただし、売主の受領拒絶が明白な場合には、口頭の 提供なしに供託することを認める • 学説は、供託は買主に不利益を与える制度では ないことから、買主の受領遅滞は供託の前提条 件ではないと解する 4 2 定期売買の解除(525条) • 定期売買:商人間の売買において、契約の性質ま たは当事者の意思により、一定の日時または一定 の期間内に履行をしなければ、契約をした目的が 達せられない場合 • 当事者の一方が履行をしないでその時期を経過し た場合 – 相手方が直ちに履行を請求しない限り、契約を解除し たものとみなす。すなわち解除の意思表示も不要 • 民:「定期行為」(売買に限らない:年賀状の印刷注 文、結婚式のウエディングドレス) – 相当の期間を定めて催告(民541)する必要はないが、 解除の意思表示が必要(民542) 5 3 買主の目的物検査・瑕疵通知義務 • 売買の目的物に瑕疵または数量不足がある場合 の、買主の契約解除・損害賠償・代金減額の請求 (売主の担保責任)について:526条 • 買主は、目的物を受領後遅滞なく検査する義務を 負う(Ⅰ) • 瑕疵を発見したら直ちに、直ちに発見することがで きない瑕疵については、6ヶ月以内に発見して、直 ちに、売主に通知を発しないと、売主が悪意の場 合を除き売主の担保責任を追及できない(Ⅱ、Ⅲ) 6 3 買主の目的物検査・瑕疵通知義務 • 趣旨 – 売主を長期間不安定な地位に置かない – 売主に善後策を講じる機会を与える – 買主が売主のリスクにおいて投機を行うことを防止 – 商人である買主は容易に瑕疵を発見できるはず • 民:特に目的物を検査する義務はない • 担保責任の追及は(1年以内)にすればよい(民 570、566、565、563、564条参照) 7 3 買主の目的物検査・瑕疵通知義務 • 担保責任の性質については、法定責任説、契約責 任説(債務不履行責任の特則)の争いがあるが、 商法526条の適用に関しては、特定物・不特定物 を問わず、適用ありとされる(通説・判例) • 根拠: – 526条の趣旨は特定物・不特定物を問わず妥当する – 商人間の売買の目的物は不特定物であることが圧倒 的に多いので、特定物に限ると526条の存在意義が薄 れる • 不特定物の場合、完全履行請求権の行使が考え られるが、これについて検査・通知義務を不要とす る合理的根拠はないことから、通知を怠ると完全 履行請求権も行使できなくなる(判例) 8 4 買主の保管・供託義務 • 売買の目的物の瑕疵または数量不足により買主 が解除した場合:売主と買主の営業所(または住 所)が同一市町村の区域内にある場合を除き、買 主は売主の費用で売買の目的物を保管または供 託しなければならない • 目的物が滅失・損傷のおそれのある物であるとき は、裁判所の許可を得てこれを競売し、その代価 を保管または供託しなければならない(527) • 民法上は、原状回復義務(目的物の返還義務)を 負うにすぎない 9 4 買主の保管・供託義務 • 買主が目的物を競売に付した場合は、遅滞なく、 売主に対してその旨の通知を発しなければならな い(発信主義)(527Ⅲ) • 品違い、数量超過の場合についても同様(528) • 趣旨:目的物が放置されることによる売主の損害 からの保護、返品された場合の運送上の危険や 転売の商機逸失等の売主の不利益を防ぐ。目的 物の現在の所在地において他に転売可能な場合 の売主の便宜(運送コストの削減)など商取引に おける売主の保護と取引の円滑を図る 10 要点チェック 1. 商事売買とは何か 2. 商事売買に関する規定の基本的コンセ プトは? 3. 瑕疵担保責任と債務不履行責任との 違いを説明しなさい 11
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