医学生にとっての患者学

医学生の患者視点
〜先行研究をあたって〜
東京大学医学部M1 李 真煕
医者−患者間のへだたり
2008年4月27日 読売新聞
胎盤早期剥離により母子ともに死亡
父「事故当日、病院は『出血はさほどなく、(死亡の)理由はわ
からない』と言っていたのに。今の時代に、母子ともに死亡す
るなんて信じられない。提訴も検討したい」
病院「『胎盤早期剥離は予防できず、早期発見するしかない』が、
『死亡2日前の診察では異常は見られなかった』」
医者と患者には大きな認識の差がある
⇒それを埋める医師側の対策は?
一般人から医師になるまでのプロセス
・小学生:医療を受ける側の立場
・中学生、高校生:医学部入学を決定
・大学生:基礎的な医学教育を受ける
・研修医:実際に医師として患者に接する
・それ以降:医者としての立場を確立
⇒医学的な知識が増えていくのに対して、
知識の少ない患者の視点を失うのでは?
医師が病気になった場合…
• 思ったほど病気のことについて聞けなかった
• 説明を受けている病気のこと以外に気になっ
たことが聞けなかった
• 医療器具(松葉杖、補聴器など)を使用した
生活における苦労が初めてわかった
(患者学:神前 格)
⇒医師にはわかっていない
患者の苦労がたくさんある
ではどうするのか?
患者としての視点を医師が持っていることが必要
but 患者視点はどんどん失われていくかもしれない
⇒医学生に患者視点を意図的に習得させることがで
きれば、それが医師として実際に患者と接するとき
に役立つのでは?
また、医学生の間も学習するについて医師視点に…
⇒患者視点を習得させた方がよい
患者視点の獲得に対する
文献的な考察
1. SP体験
2. 患者の意見を実際に聞く
1. SP体験
• 信州大学において1年生がSPとして5〜6年
生の医療面接実習においてSPとして参加した
• SPが医学生であるという事は伏せていた
• 医学生の正規授業外の時間を用いて行った
(参考:医学教育31版)
結果
• 医師役の学生は60.4%が機会があればSPを
自らもやる事を希望した
(理由)
・患者の立場や気持ちを理解できる
・患者の対場で医師となる自分を見つめ直せる
などがアンケートに書かれていた
SPを演じた学生からのフィードバック
•
•
•
•
質問の意図が分かりにくい
患者の質問を受け止めてくれない
応答がマニュアル的
Closed question が多くて話したい事が言えない
• 質問が連続していて、気持ちや疑問が整理出来な
い
• 沈黙が長くて不安
⇒これらは医学生が得た患者視点
医学生がSPになるメリット
• 医師役・患者役の学生の双方が同時に患者
心理に対しての理解を深められる
• 実際に患者を演じることによって、どう患者と
接すればよいのか具体的にわかる
• モチベーションが上がる
• 患者視点に気づくことができる
課題
• SPの年齢に限界がある
• フィードバックに際してSP側にとって低学年で
あるが故の遠慮がありうる
• 正規の講義時間外に行い、また時間的な拘
束も長い為に、負担が大きい
2. 患者の意見を聞いてみる
• 病気になった患者が自分の体験談を語る姿
をそのまま掲載しているサイトのDIPExを実際
に用いた授業が藤田保健衛生大学などで用
いられている
• 実際の患者にきていただいて話を聞くという
ことを行っている
患者の意見を聞くことによるメリット
• EBMと相補的な関係にあるNBM (Narrative
Based Medicine)を学習することができる。
• 教科書的でないひとりひとりの患者体験に耳
を傾けることができる。
課題
• 患者が人前で話すということはある程度病気
を乗り越えられた「選択された人々」である
• その一人の患者に対して適応する事柄が別
の患者にとって適応できるとは限らない
これらを授業に導入すると…
• 評価することが難しい
• カリキュラムが更に過密化する
• 体験による学習内容が
・医師役を誰が行ったか
・どの患者に来てもらうか
によって学生の意識が変化してしまう
東大のカリキュラムにこれらを導
入するならば…
• 2年生の後期以降は専門科目が多くなってし
まう
• 一方、2年の前期は大半の人が必修・選択科
目とも少なく余暇の時間が多い
⇒2年の前期に導入してみてはどうか?
まとめ
• 患者視点を得るためには低学年での教育が
必要だと考えられる
• 患者視点について学ぶことは医学生が実際
に患者に接するときにどうすればよいのかと
いう指針になりうる
• 実際に導入するにはまだまだ課題が多い