転換期を迎える中、本道の住宅不動産業界では、多くの中小零細企業が事業承継の 悩みを抱えたまま、経営者の世代交代が進んでいる。そこで、本稿では昨年十二月に 発足した北海道翔経塾のメンバー六名の若手経営者に事業承継者としての自覚と経営 した。 星野 二月に社長に 就任しましたが、入社 してまだ二年ほどで す。十代の頃に父から 後継者の話がありまし たが、当時あまり興味 が な く「 絶 対 な ら な い」と言った記憶があ ります。大卒後は証券 会社に十年勤務し、仕 事自体は充実していて 成果も上がっていまし たが、正直自信を持て るものがなく、何かチ ャレンジできるものは ないかと探している時 に、大進ホームに行き 当たりました。住宅産 業は社会情勢を含めて 宅とは関係のない仕事 だったので、住宅関連 の知識を習得すること に苦労しました。また 営業職で部下がいない 環境から、入社して部 下を持ち、「成長してほ しい」という気持ちで 指導にあたっても、そ こが伝わらないことが あり、今も試行錯誤し ているところです。 藤井 私も入社当時 上司だった人が逆の立 場になり、同じように 悩んだ時期もありまし たが、最近はそういう 楽な仕事ではありませ んが、いろいろなこと に挑戦出来ますし、経 営者は重責ではありま すが、その分自分自身 の成長にもつながると 思い入社しました。 安田 私は長男でし たが、父からはそれほ ど強く跡を継ぐことを 言われてはいませんで した。大学卒業後は金 融機関に就職していま したが、当時の役員な どから「そろそろ(後 を継いでは)どうか」 と言われ、平成六年に 入社することにしまし た。 受け継ぐものと変革していくもの ホテルを行っていって いるのでそちらにはや や惹かれる事はありま なり、私はこの商品の した。そもそもこの不 販売企画責任者になり 動産業界自体、自分自 ました。もちろん入社 身だけの偏見かもしれ したからには後継者と ませんが、あまり良い いう自覚を持っていま 印象が無く思っていま したが、父からは「実 した。ただ行っている 力がなければ別のもの うちに良い印象に変え にやらせる」と言われ ればチャンスではない ていました。おかげさ か、という使命感にか まで役員やスタッフに られて継ぐ事を決めま も恵まれた環境の中、 四月に社長に就任いた しました。 藤井 私は次男でし ──皆さん入社のき たから当初は会社を継 ぐ気はなく、将来は設 っかけはさまざまです 計者になろうと思って が、経営者になられて いました。ところが、 苦労していることはあ 大学三年の時、当時ア りますか。 安田 平成十九年に メリカに渡っていた兄 から「日本には戻らな 就任していますので八 いので会社を頼む」と 年ほど社長を続けてい 言われ、不動産業も建 ますが、当初は技術的 物 に 関 連 し て い ま す な部分や現場の知識を し、目指していたもの 身に着けていくことに とそう遠くないと思い 苦労しました。また、 継ぐことを決めました。 サラリーマンと違い責 前川 入社してから 任は重いですが、その しばらく、当社の社長 分やりがいを感じてい になるという自覚はあ ます。 星野 私も前職が住 まりなく、グループで 悩みはなくなりまし た。役員はじめブレー ンも力になってくれて いますし、厳しい社長 ですが、この頃は私の やりたいことをやらせ てもらえるようになっ てきました。 安田 年上やベテラ ンの社員が部下になる など、途中から入社す るとやりにくい部分も ありますが、そこは経 営者としてのマネジメ ントと割り切って、部 下を信じて任せるとこ ろは任せるようにした 方が良いのかもしれま せんね。 前川 私はどちらか といえば、社内で認め てもらうためには実績 を上げなければならな いという、実績至上主 義だったので、年上を 含めて社員の方と、う まくリレーションを取 って仕事をするタイプ ではなかったかもしれ ません。その為社員の 星野覚一朗氏 戦略、さらに住宅・不動産業界の今後の展望を聞いた。 を聞いたり、自ら勉強 していくうちに、やり がいのある良い仕事と 思うようになり、ごく 自然に入所していまし た。 竹内 私は平成十九 年六月に当社に入社す るまではサービス業の 仕事をしていました が、九年目に竹内建設 の創業三十周年記念旅 行があり、それにたま たま私が参加したのが 転機となり入社しまし た。当時、当社は事業 承継を考え始めた時期 で、経営的にも岐路に 立っており、外部から 参謀役を迎えて、財務 面の強化や旧社屋の隣 のビルを購入して二階 にショールームを設け て、来場型の集客営業 に切り替えるなど営業 面の改革を図りまし た。また、当社の新築 のトップブランド「コ コ・ティーク」もこの 年に三十周年記念商品 として発表することに 安田敦司氏 事業承継者としての自覚と課題 ──北海道翔経塾の 目的と設立の経緯につ いてお話しください。 前川 昨年、私たち が加盟している北海道 住宅都市開発協会の上 部団体である全国住宅 産業協会(全住協)か ら要請があったのが、 直接的なきっかけで す。事業承継者として のスキルアップや、情 報交換、協調関係の構 築などを目的に、昨年 十二月に立ち上げ、実 質的には今春からスタ ートします。 ──どのような活動 を行っていくのです か。 前川 年四回ほどを 予定していますが、外 部講師による講演をは じめ、創業者である各 会員のお父様をお呼び して創業のエピソード やご意見をお聞きした り、会員本人が実行し ていることなどを発表 して、経営の参考にし ていこうと考えていま す。 ──皆さんが後継者 となったきっかけを教 えてください。 干場 資格がなけれ ば始まらない仕事です から、資格を取ってか らでも跡を継ぐのは遅 くないと思っていまし た。実際、学生の頃は 司法書士が何たるかも よく分かっていなかっ たのですが、先輩の話 前川大輔氏 (10) 第921号 聞 新 業 産 宅 住 第三種郵便物認可 平成27年4月1日 座談会 若手経営者に聞く! 事業承継者としての自覚と経営戦略 出席者:前 川 大 輔 氏(㈱日動 代表取締役) 安 田 敦 司 氏(三王建設興産㈱ 代表取締役社長) 星 野 覚 一 朗 氏(大進ホーム㈱ 代表取締役社長) 干 場 輝 明 氏(干場輝明司法書士事務所 所長) 竹 内 哲 也 氏(竹内建設㈱ 代表取締役社長) 藤 井 將 博 氏(㈱藤井ビル 代表取締役専務) 司 会:盆子原薫(㈱住宅産業新聞社) 方々に「任す」という ことは苦労しました。 自分自身が至らなかっ たのかもしれません。 そこからどうしたら 「任す」ことが出来る だろうかと考え、結果 色々な仕組み創りに取 組ました。 竹内 私は基本的に はバランス派だと思い ます。入社当時、当社 には営業マンがいな く、私が最初の営業マ ンでした。三年間死ぬ 気で人の三倍やれば約 十年分になるので、そ れで一人前になると考 え成果を上げました。 また前職でマネジメン トをしていたので、リ ーダーシップやコミュ ニケーションスキルな どを学んでいましたの で、それらを活かしな がら実績をつくってい きました。その結果、 私についてきてくれる スタッフや上の方々に も認めてもらえるよう になっていきました。 ただ、営業でトップに 立つことと、経営者と しての目線から物事を 見るというのは全然違 う観点なので、役員に なって五年になります が、実際に経営者に少 し近づいたのは昨年副 社長に就任してからで す。 干場 私は父や祖父 が築いてきた実績によ る今までのお客様に認 めていただくために、 誠実に私のカラーを出 しながら二十年間やっ てきましたが、いまだ に勉強中です。事務所 はほとんど同族なの で、私自身がしっかり やっていかなければな らないと自覚していま す。 ──先代から受け継 ぐものと今後、皆さん の代で変革していくも のについてお話しくだ さい。 干場 司法書士に求 められる業務の正確性 はもちろんですが、祖 父や父が続けてきた 「誠実さ」を忘れずに 引き継いでいきます。 一方で、司法書士に簡 裁訴訟代理等関係業務 が認められたことか ら、賃貸住宅の敷金返 還請求など不動産関係 の仕事も増えていま す。法律改正ごとに業 種が広がっていく傾向 がありますので、今後 は業務を広げていき、 税理士さんや弁護士さ んなどともゆるやかな パートナーシップを取 って対応していきま す。 竹内 アットホーム な社風は継承していき たいのですが、楽しい 中にも厳しさがある社 風にしていきたいと思 っています。昔を知ら ないスタッフも増えて きたので、現在の事務 所やショールーム、モ デルハウスが「あるの が当然」といった「な まぬるい雰囲気」にな らないよう気を付けて いきたいと思います。 また、人が育っていく 環境をつくっていきた いですね。事業の面で は、グループ全体とし ては、リフォームや店 舗系、サ高住など非住 宅の建築受注に力を入 れてきましたので、最 近はその売上が伸びて います。今後は新築に 特化した拡大路線とい うよりも、事業領域を 増やして、トータルで 安定した経営が出来る ような組織体にしてい きたいですね。それが より多くの社員に事業 責任者として、やりが いを持たせられること になると考えていま す。 藤井 先代から守り 続けていることはたく さんあります。たとえ ば、毎週朝礼で唱和し ているものに「企業は 人なり」「人は和なり」 「和は心なり」という ものがあります。また 不動産に関する経営理 念 と し て は「 職 住 接 近」です。これは当社 で は「 地 下 鉄 五 分 圏 内」を基本に物件を開 発するということで す。そして私なりに事 業承継で考えているの は「守破離」です。大 事なことは守りつつ、 それを破って自分の境 地を見出すという武道 の世界の言葉ですが、 あくまでも賃貸業に付 随することで、やって みたいことを見つけて 新しいことに挑戦して いきます。最近はサ高 住やシェアハウスなど 新しいものが出てきて いますが、今の時代に 何が合うのかは時代に よって違うと思いま す。当社がススキノの 飲食ビルから居住系に シフトしていったよう に時代背景を見ながら やっていきたいと考え ています。 前川 少子高齢化の 進展によって、住宅マ ーケットが今後大きく なることはないと考え ています。以前は当社 の事を総合不動産業と 竹内哲也氏 り、二回目の建替えを される地域のお客様も いらっしゃるなど、長 年のご縁でつながって いることがたくさんあ ります。ただ、新築需 要が減少するなど時代 も変わってきています を広げなくても生き残 っていけると考えてい ます。ただ、新築に固 執していてはダメで、 私としては工場を持っ ている強みを活かした いと思っています。国 の方針も公共建築物の 木造化を進めています し、非住宅の分野の可 能性も感じています。 また既存のお客様が高 齢になり、サ高住をご 紹介したり、中古住宅 をリノベーションして 転売したりなど、不動 産の複合的なサイクル が昨年あたりから加速 しています。今後は成 長していく分野と落ち ていく分野を見極めて バランスよく組み合わ せていく必要があるで しょうね。 星野 近い将来、電 力やガスの自由化が進 展し、消費者の方もエ ネルギーへの関心がさ らに高まってきますの ので、今後はリフォー ムや中古住宅に係るリ ノベーションや不動産 に関わる情報収集、不 動産仲介流通を強化し ていこうと考えていま す。 で、エネルギー効率の 良い住宅が増えていく と思います。また、目 先の動きでは所得の二 極化が進んでおり、当 社の顧客層を考える と、ローコストで良質 な家を提供できるか、 そうした需要に対応し ていくことが課題と考 えています。 ──分譲マンション はいかがですか。 前川 新規の分譲の 減り方が激しいです ね。二〇〇九年に四千 戸台で底と言われてい ましたが、昨年は一千 二百戸です。建築費の 高騰が主な原因です が、多くの物件は一般 的な道民が買える価格 帯ではなくなってきて います。ただ、常々疑 問に思っているのです が、現状ではファミリ ー層がものすごい勢い で先細りしているにも かかわらず、ほとんど のマンションデベロッ パーは相変わらずファ ミリー向けの商品を供 給し続けており、需要 と供給がどんどん乖離 していっています。当 社は単身者や二次取得 者、セカンドハウスを ターゲットとしてお り、実はこれが当社の 「強み」なのですが、 「強み」を掘り下げて いるおかげでうまく住 住宅不動産業界の将来展望と戦略 言われた時代もありま で、直接的な住宅産業 すが、もうそういう時 に関わらず、地域貢献 代に入ってきていると をしながら会長が続け 感じます。私は当時至 てこられましたので、 ら な く、 見 栄 だ け で この地域密着というベ 色々な事を行いまし ースは守っていきま た。その結果、失敗も す。そのおかげで新築 たくさんいたしました やリフォームはもとよ が、そのおかげで日動 という会社の「強み」 を見つけることができ ました。 企業が「強み」 を発揮することがお客 ──これからの住宅 さんにも喜んでもらう 不動産業界を皆さんは ことや、社員がいきい どう見ていますか。 きとすることにつなが 安田 新築戸建てに ると信じています。 ついては省エネや環境 星野 私は守るべき 問題などから、国の方 は新築戸建事業で、こ 向性でもあるゼロエネ の分野で強い会社にし ルギー住宅にシフトし ていくことが使命だと ていくと思われます。 考えています。さまざ 戸数的には減少してい まな要因から、今後は くと思いますが、当社 縮小傾向と言われる分 の規模ですとやり方に 野なので危機感は持っ よっては維持していく ていますが、それを打 ことは可能ですし、新 開するために、改めて 築の落ち込み部分は他 新築事業を考えなけれ の事業で補完していこ ばならないと思ってい うと考えています。 ます。また同時にリフ 竹内 確かに新築は ォーム事業など、新築 減少していくでしょう 事業を活かす形で伸ば が、新築がゼロになる せる分野を研究しなが ことはありません。札 ら、 時代背景を考えて、 幌近郊の着工のうち、 新しいことにチャレン 一%のシェアを取ると ジしていきたいと思っ 考えれば決して無理な ています。 数字ではないと思いま 安田 昨年創業五十 す。当社の規模であれ 周年を迎えましたが、 ば 市 場 環 境 に 関 係 な 当社は西区に特化した く、やるべきことをや 地域密着型の経営方針 っていれば、事業規模 干場輝明氏 藤井將博氏 平成27年4月1日 第三種郵便物認可 聞 新 業 産 宅 住 第921号 (11) 本紙創刊満45周年記念企画 北海道翔経塾メンバー 住宅不動産業界の明日を語る み分けができていま す。 ──賃貸市場はどう ですか。 前川 家具・家電付 の賃貸住宅などは人気 があります。単身用の マンションが一気に出 来過ぎたので、今後は 高齢者向けへのコンバ ージョンもあり得ます ね。 藤井 単身、夫婦共 稼ぎなどさまざまです が、最近は1LDKよ り2LDKのほうが決 まり方が早いですね。 分譲マンションの価格 が上がれば、ファミリ ー物件の需要も出てく ると思います。賃貸の 場合、グレードの違い を出せるので、富裕層 向けなど住み分けと需 要が見込めます。当社 については、現状は高 い入居率を維持してい ますが、今後の新築物 件については高齢者に 対応した設備を設けて いこうと計画していま す。玄関や風呂場に手 すりを設けるなど最小 限の設備や、緊急対応 できるようなオプショ ンを用意するなど健康 な高齢者に対する物件 を手がけていく予定で す。 干場 高齢化に伴っ て財産管理の相談が増 えてきています。そこ で成年後見制度に力を 入れています。また贈 与税や相続税の税率が 上がってきていますの で、税理士とのコラボ によって節税をしなが ら、次の世代に引き継 いでいくということを 勧めています。 ──皆様、お忙しい 中、ありがとうござい ました。
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