尹東柱 - 熊本学園大学

尹東柱
道
 序詞
 もうひとつの故郷
 たやすく書かれた詩
について。
ユンドンジュの生い立ちについて①
ユンドンジュは1917年12月30日に満州の
誠実なキリスト家庭に生まれました。その後、1
8歳(1935年)に転校したピョンヤンスンシ
ル中学校で神社参拝反対運動に参加して学校が廃
校の危機に追われ、自ら学校を辞めます。
当時、日本は韓国を植民地化して韓国のあらゆる
所に神社を作り、学校の朝礼時間などに無理やり
参拝を強要しましたが、それで多くの韓国人は怒
りを感じました。
その後、ユンドンジュは満州に戻り、文学を反対
する父と対立して家出をしてヨンヒ専門文科に入
学して本格的に詩作活動を行います。
ユンドンジュの生い立ちについて②
 その後25歳(1942年)に日本に渡り、東京立教大学
校英文科に入学しましたが、同志社大学英文科に移り、1
943年7月帰国しようとするとき日本の警察に逮捕され
ました。独立運動との関わりなどで投獄され、裁判にかけ
られたユンドンジュは実刑2年を宣告されます。
 そして、韓国の独立を6ヶ月残した1945年2月16日
ユンドンジュは日本の福岡刑務所で実験用の注射をうたれ
て亡くなりました。当時九州帝国大学生体解剖実験と関連
して、戦争時足りない血しょうの代用食塩水の開発の実験
が進んでいましたが、ユンドンジュもこの生体実験の犠牲
になったという噂があります。
 そのとき、ユンドンジュは28歳でした。
道について
 1941年9月31日に
作られた。
 23歳のときに作られ
た。
「道」について
 突然目的語のない「失くしてしまったので
す」から始まっていて、独自の注意を引く効
果がある。
 道を歩くことを人生を生きていくことに置き
換えて表現してある。
『序詩』 について
 尹東柱 が24歳
(1941)に書かれた。
 詩人として後期の作
品
 尹東柱の詩集” 空と
風と星と詩”の中でも
とても有名な詩である。
『序詩』の内容について①
 場面は夜。星が見える事から天気は良い。
(星が見えるということは、空気も綺麗ということ
→尹東柱の心も 清い・純粋ということも表現)
夜は色で表すと<黒>→暗鬱な時代状況も表している。
 最初の4行は過去形で書かれている。
・空→届かない理想の人生、自分の思い
・そよぐ風→尹東柱の追い求める心に対して想いを振るわせているもの
(現実的に楽に暮したい日常的な欲望もある)
・“星をうたうこころ”→夢見る理想的な生活 (詩人であること)
・“すべて・・・愛さねば”→基督教信者でもあるのか隣人愛的
『序詩』の内容について②
 5~7行は未来形で書かれている
・“与えられた道”→これからの未来、人生(詩人と云う事)
 最後の1行は現在形で書かれている。
・“今夜も”→日々我について考えている
∴)⇒今までどんなに暮して来たし, これからどうやって
暮らすはずであり, 今現在はどうだという考えを表す。
◎彼の詩の中には色を対比させる言葉が沢山出てくる。
ex)“空”→青 “葉あい”→緑
“そよぐ風”→透明 “星”→黄色 今夜(夜)→黒
もうひとつの故郷
故郷に帰ってきた自我は
白骨という現実にくたび
れた自分の姿である。そ
れを見ながら苦しんでい
る途中、夜を追い出す志
操高い犬を見て、現実に
消極的だった自分に気づ
く。また他の姿である白
骨を捨てて、別の故郷を
尋ねて去る詩人の姿を描
いている。
「作品について」
 この作品は1941年9月に書かれた作品。
 ユンドンジュは故郷である北間島で美しかった幼年時代
を過ごしたが、ソウル留学をしながら現実の悲惨な状況
を悟るようになる。その後故郷に帰ってきたが、心にしの
んだ故郷を喪失して内的自我が分裂を起こしている状態
を形象化したのがこの詩。
 『私』 『白骨』 『美しい魂』の関係→本来の自分を表現し
ている。
『故郷』の意味→詩人の内面の世界。
『犬』の意味→志向を変えない意志。
たやすく書かれた詩
・夜の雨の音が聞こえる。朝鮮を支
配する日本の六畳下宿。禁じられ
た朝鮮語の詩人とは運命の皮肉
だが、わたしは詩を書こう。家族の
気持ちと苦労のこもった仕送りを
受け、大学に通うわたしは。幼友
達を失ってきたわたしが、今、詩に
託す願いとは。思いとは? 人生
にくらべて詩はたやすすぎ、恥ず
かしい。友達を失い、最後のひとり
としてわたしは、時代の夜明けを
待つ。たやすく詩を書いて、仕送り
で学生生活を送るわたしだが、そ
んなわたしに、わたしは手をさしの
べ、涙ぐみながら慰める。
~内容~
 ユンドンジュが日本で作った5篇の詩のひとつ。
東京の立教大学時代に作ったもの。
 独立運動に参加した友人たちが死に、孤独と絶
望的時代を痛切に感じている。
 尹東柱は友人らに手紙と一緒に詩を書き送って
いたが、延禧専門時代の友人が、日本の警察の
目を恐れて手紙は捨て、詩稿を保管していた。
執筆時期が明確で完全な形の詩は、これが最後
の作品。
尹東柱 :他の作品について
*「十字架」*「夜明けまで」
*「八福」*「奇蹟」
*「星をかぞえる夜」 *「ツルゲーネフ
の丘」
*「風は吹いて」
*「おそるべき時間」
・・・等がある。
福岡・ユンドン・ジュの詩を読む会
1945年2月に旧福岡刑務所において獄死した韓国の国民的詩
人・尹東柱の詩を丁寧に振り返りながら、日本と韓国の新し
い関係づくりを深めていこう、考えていこうとする会。 1995
年の尹東柱詩人の50周忌を機に、西岡健治先生(福岡県立大
学教授)が始めました。
主な活動内容は、毎月1回3時間の例会。交代であたる2人の
チューター(講師・報告者)が、詩人の一編の詩について自
分なりに解釈。その後、みんなで意見交換をして、詩人の思
いや歴史的背景、韓国の文化などを想像しながら詩を読み解
いていきます。
さまざまな職業や年齢の一人ひとりが、一つ一つの言葉や
一瞬の心の動き、自分の気持ちや考えを真剣に語る姿が印象
的な会です。韓国語ができるとかできないとかにかかわらず、
韓国の文化、歴史に興味のある人、詩や文学が好きな人など
が集まって活動をしています。
感 想 ①
 彼の「序詩」の表現は、言葉(単語)の裏にも色彩表現などを
取り込んでいたので、詩に絵が無くとも背景が写し出されてい
て美しいと感じました。(三苫)
 ここでいう「道」とは尹東柱の人生の道のことを言っているの
ではないかと思いました。「道は朝から夕べへ 夕べから朝へ
と通じました。」という部分が人生を表しているようで一番強
くそう思いました。(馬原)
 「道」について、はじめの言葉から深い喪失感を感じさせ、全
体的に暗いイメージの詩だと思いました。でもどこかに希望は
あって、それを見つけ出すために、がんばって生きていこうと
する気持ちが込められているように思いました。 (小牧)
 尹東柱は時代の波にのまれて死んだが、彼の才能と豊かな詩は
現代でも通じる為人気なのだと感じた。(大久保)
感想 ②
 朝鮮人弾圧のさなかにあって、それでもなおハン
グルで詩を書き、故郷や星、弟に対する詩を歌い
続けた作者は心優しい人柄だったんだと思いまし
た。(守山)
 全ての詩に私が出てきて、自分の存在する意味を
探しているような気がしました。(森山)
 4つの詩で印象に残ったのが「もうひとつの故郷」です。
ユンドンジュの人生を表現している詩だと思いました。
(長田)
 ユンドンジュの他の詩を調べてみて、キリスト教徒だっ
たせいか神に対する思いが込められてる詩が多いと
感じた。(富永)