ゲーム理論入学:経済学のフロンティア

ゲーム理論で現代社会を紐解く
一橋大学大学院経済学研究科
岡田 章(おかだ あきら)
内容
1.ゲーム理論とはどんな学問か? (10分)
2.ゲーム理論の基礎
(10分)
3.現代社会の問題とゲーム理論
(30分)
人間、経済、社会、国際協調
ゲーム理論とノーベル経済学賞
1994年 ナッシュ、ゼルテン、ハーサニ
(非協力ゲーム理論)
 2005年 オーマン、シェリング
(利害対立と協力)
 2007年 ハービッツ、マスキン、マイヤーソン
(メカニズム・デザイン理論)
 2009年 ウイリアムソン、オストロム
(経済統治、組織ガバナンス、共有資源管理)

1.ゲーム理論とは何か?

遺伝子や生物の行動から人間、企業、国家の行
動や意思決定を研究する科学

自律的な行動主体の相互依存システム
互いに影響し合っている
生命、人間、組織、社会、経済、政治、環境、
情報、ネットワーク
ゲームの成立 1940年代
数学者 フォン・ノイマン (20世紀の天才)
経済学者 モルゲンシュテルン
1944年 『ゲーム理論と経済行動』 プリンストン
大学出版局
プリンストン高等研究所
(アインシュタインもいた研究所)
プリンストン高等研究所
フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの考え
経済(人間)社会は、一つのゲームだ
複数のプレイヤー(個人、企業、国家)が社会の
ルール(法律、規則など)を守りながら、それぞ
れの目的を実現するために対立したり協力し合
う「ゲーム」のようなもの。
フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの考え
自然科学と社会科学の研究に本質的な
違いはない
物理学 = 自然現象のメカニズムを理解
経済学 = 経済現象のメカニズムを理解
「社会を紐解く」=社会の問題を理解して解決案を
探る
天才ジョン・ナッシュ: 1950年代
プリンストン大学の数学科の学生
1950年博士論文「非協力ゲームの理論」(24歳)
ナッシュ均衡点
現代の経済理論の基礎
(1994年ノーベル経済学賞)
映画「ビューティフル・マインド」
「ゲーム理論」の土台を完成させ、
その後の経済学に大きな影響を及
ぼしたジョン・フォーブス・ナッシュ・
ジュニアの伝記にインスピレーショ
ンを受けて作られた作品。
(2001年公開)
この物語の主人公ナッシュは、1994年、66歳のとき
ノーベル経済学賞を受賞し、今日もプリンストン大学で
研究を続けている。
2.ゲーム理論の基礎
囚人2
黙秘
黙秘
自白
1年、1年
10年、3ヶ月
3ヶ月、10年
8年、8年
囚人1
自白
囚人のジレンマ

二人の囚人は、「黙秘すべきか自白すべきか」
のジレンマに陥る

合理的な選択とは、何だろう?
これまでの経済学者の考え


(黙秘、黙秘)は二人にとっていい結果
合理的な個人は「全体として最善な結果」を選ぶ
パレート最適性
経済学の基本命題
「ある条件の下で市場はパレート最適な資源配
分を実現する」 (市場原理主義?)
ナッシュの考え
(黙秘、黙秘)が実行される保証はない
理由: 一方が裏切れば、得をするから。
囚人の選択は、 (自白、自白)に落ち着く
(自白、自白)は、安定(均衡)点=ナッシュ均衡
ナッシュ均衡点
すべてのプレイヤーが他のプレイヤーの
行動に対して最適な行動を選択している
状態
ゲームの基本原理
3.現代社会の問題とゲーム理論
市場と規制緩和
公共財と財政問題
非正規労働者と雇用問題
地球環境問題
国際協調
自由と社会秩序
市場と規制緩和
A社とB社が市場シェアの獲得競争
をしている
パソコン、携帯電話、ファッション
ゼロ和二人ゲーム
B社
新製品
新製品
現状
50 , 50
70 , 30
30 , 70
50 , 50
A社
現状
規制緩和の意義


新製品や新技術の源泉は企業の自由な競争で
ある。
規制緩和が、経済を活性化させ私たちの生活を
豊かにする。
公共財と財政問題
公共施設、社会保障、医療問題、年金問題など
さまざまなレベルで公共サービスの質の低下と
財政問題が生じている。
これらの問題の背後に何があるのだろうか?
公共財ゲーム
公共事業に1000円までの金額を自
由に寄付して下さい。公共事業の総
利益は寄付金総額の2倍です.皆さ
んは公共事業の総利益を寄付金額と
は無関係に均等に分配して下さい。
全員にとって最適な結果
例 人口10人のケース
全員が1000円を寄付すれば、一人の
利益は
(2×10×1000)÷10 – 1000=1000円
ナッシュ均衡は?
もし一人だけ寄付をしなかったら、利益は
(2×9×1000)÷10 – 0=1800円 > 1000円
各人は寄付をしない方が得!(ただ乗り)
ナッシュ均衡は
誰も寄付をせず、公共事業はできない
公共財ゲームの結果
社会の最適な状態 全員が寄付をする
ナッシュ均衡
誰も寄付をしない
人々の自由にまかせておけば、社会の最適な
状態は実現できない!
これまでの解決策
国家による解決 (大きな政府)
国家が寄付を命令する 罰則
 市場による解決 (小さな政府)
民営化する 公園を民間のスポーツク
ラブにする
いずれも欠陥がある!

2009年度ノーベル経済学賞
セルフガバナンス(自主統治)
当事者(住民)が自主的に公共事業をする仕組
みを作る
政府、市場、住民
非正規労働者と雇用問題
非正規労働者(失業者)は自己責任である?
そうではない! いろいろな要素が関係する
 産業の生産性
 正規労働者は、幸運なだけ
 誰でも非正規労働者となる可能性がある
3人雇用ゲーム



1人の経営者と2人の労働者
労働者は同じ能力をもつ
経営者の利益は、2人雇用すれば100万円、1
人雇用すれば80万円、誰も雇用しなければ0
問題 経営者は何人の労働者を雇用するか?
二つの答え
これまでの経済学
2人の労働者を雇用する。
完全雇用が社会的に最適だから
ゲーム理論
賃金交渉を考えれば、1人しか雇用されな
い場合もある。(不完全雇用)
国際協力の問題
B国
協力
協力
非協力
5 , 5
0 , 8
8 , 0
2 , 2
A国
非協力
国際協力が実現するためには?
世界政府はない
利害が異なる国家が協力をする仕組みを作る
話し合い、交渉
例 地球温暖化問題 金融危機
ゲーム理論からのメッセージ

社会を「勝ち組対負け組」ととらえる見方は
間違い、偏狭な見方

社会は、利害の対立と協力の可能性が混在して
いる

互いの自由を尊重して協力の実現を目指す