日本の図書館は大丈夫か? -『続・図書館はだれのものか』 から改めて考える- 松林 正己

日本の図書館は大丈夫か?
-『続・図書館はだれのものか』
から改めて考える-
松林 正己
(中部大学附属三浦記念図書館)
日本図書館研究会愛知研究例会 図書館問題研究会
愛知支部 大学図書館問題研究会愛知支部
第179回例会 2010年7月21日(水)18時45分~
名古屋都市センター14階 第5会議
アメリカを代表する図書館
New York Public Library
暫定的要旨
『図書館はだれのものか』続編で割愛した結論
を報告し、ご参加諸賢に検討頂く
図書館の背後にある知識観が、社会資本への
展望が脆弱で<人類の知的遺産>という認
識を精確に社会が共有していない
教育史での識字率の高さや印刷史の古さに対
し、<知の商業化>が定着し、戦後教育にも
残り、民主主義未確立の原因である
執筆の動機
1 1994年にオハイオ大学ヴァーノン・ロジャー・オールデン図書館に
勤務した経験から、アメリカ図書館界の紹介事例は中途半端で、
社会的な存在としての実像が見えない
2 菅谷明子著「未来をつくる図書館」(岩波新書)
NYPLという極めて特殊な<公共図書館>の紹介
NYPLはアメリカの平均的な公共図書館ではない
3 上記2点を補正する目的
∵ 2を標準や基準にして日本の現状を批判するのは、場違い
運営のヒントはあるが、NYPL/SIBLの利用者は富裕層が多い
(地元の経済力が違いすぎる)
アメリカでの図書館の意義は、<アメリカの価値(the American Value)>と
自覚的である (図書館専門職大学院の教科書で)
社会資本(social overhead capital)維持
制度が未整備
大別すれば次の四つに分類できる
(1 )産業基盤――道路、港湾、土地改良等
(2 )生活基盤――公園、上下水道、公営住宅、
病院、学校、保育所、老人福祉施設等
(3 )国土保全――治山・治水、海岸整備等
(4 )収益的事業――国有林野事業、政府系金
融機関などの資本
広義に解して、大気・河川・海水などの自然資
本、司法・教育などの社会制度まで含める
非営利経済における公共財の位置
社会資本としての財務基盤
• 人的資本養成は教育
• 教育機関を維持する基金がEndownment
Fund 専用の金融機関がある 公民連携で
あるPPP(Public Private Partnership)
• 対象機関 大学 図書館 博物館 など非営
利公共サービス機関
• 法・税制での優遇 恒久基金、非課税で取り
崩しできない 運用益の活用 寄付の浄財で
積み立てる
ヴォランティア制度
• アメリカの図書館や美術館のヴォランティア
制度
• 現金の報酬は支払われていない
• ピッツバーグの場合、市営の駐車場料金が
無料に近い特権を与えている(現金換算価値
が非常に高い)
知的風土 教育の前提としての知性史
諸
外
国
日
本
知 識 観
公共知
(public knowledge)
知の私物化と商業化
(private knowledge)
近代以前
の知の制
度化
学校制度 大学 学会
(但し欧米)
一子相伝 家元制度
習い事 (寺子屋 学習塾)
証言者 ドナルド・キーン
知の現状
MLA専門
知の伝承
制度
同
上
専門職大学院修了者が
現場を担当管理
学校制度
学会
大学 (外形式は欧米並み
内形式は江戸時代)
指定管理者制度 業務委託
NPMを口実にしたただの商業化
知の作法とマナーが伝承できない
学位が不要
国家が国家として「知」を位置づけていない
情報政策評価
今後の公共サービスを護るために
アメリカの情報専門職大学院では
情報政策として図書館政策を位
置づけている 概論の教科書
Rubin, Richard. 2010.
Foundations of library and
information science. [S. l.]:
Neal-Schuman Publishers.
第8章 情報政策 利害関係者と計画
第9章 図書館政策としての情報政策
知的自由
日本最初の動向紹介論文
著者 依田紀久(国立国会図書館調査及び立
法考査局国会レファレンス課経済係)
タイトル ピッツバーグ大学大学院情報学研究
科における情報政策セミナーの紹介
-2008年秋学期の参加の記録- <研究ノート>
掲載誌 同志社図書館情報学 ― 「同志社大学
図書館学年報」34号別冊(今月末刊行予定)
国内最初の行動(提案中)
国立国会図書館のカレント・アウェネスでも研
究レビュー(立法・行政評価を文献で行う)対
象に加える予定
新テーマ:日本の情報政策と図書館政策
・日本の情報政策と図書館情報政策の史的展
開を評価
・「情報」を日本が国全体としてどう考えてきた
か、考えているか、を知る
私見 情報政策を歴史的に分析すると政治的・
政策的な出鱈目さが暴露されよう
米国議会(立法)による行政評価
アメリカ合衆国連邦政府説明責任局
The U.S. Government Accountability Office (GAO)
日米比較から見えたこと
制度が確立しているアメリカ
• アメリカの図書館経営は「文化的市民主義」で、政策
ではなく「運動」である
• 共存共栄の経済システムあるいは文化システム相互
と市民の紐帯として運営されている
制度が流動的な日本
• 図書館は、政治経済的にも過渡期である現在から
ここ数十年社会的役割がさらに重要になる
• 新たな動きより、過去を見直し、必須の未実現課題
の実現が全館種にあてはまるのではないか