合唱と学校音楽教育の問題 −教員養成・教育実践の立場から− 上越教育大学 小 川 昌 文 私のバックグラウンド 父親ー地方の小学校音楽教師、校長 小学校−合唱部、地方局放送合唱団 中学校−吹奏楽部(パーカッション) 高校−合唱部、米国の高校に1年 大学−声楽科、日本歌曲作曲グループ、 バロック以前の音楽 大学院−音楽教育科 日本(修士)、ア メリカ(博士) 問題の捉え方 1.学校の音楽教育そのものの問題 2.学校の音楽教育における合唱につ いての問題 (1)授業 (2)課外活動−コンクール他 (3)行事、その他 視点とねらい これまで、学校教育においては、合唱 はどういう働きと役割を担ってきたの か 現在の学校のの音楽教育においてはど のような問題点が見られるのか 今後、どのようなことをしていけばよ いのか 構 成 歴史と特徴 教員養成 教育現場 教材 展望・提言 歴史と特徴 戦 前 戦後の合唱と音楽教育に関する重要な 出来事 明治から現在までの合唱と音楽科教育 に関する傾向と特徴 小学唱歌集第三編(明治17 年) 中等唱歌集(明治22年) 女学唱歌第二集(明治34年) 小学校教則大綱(明治24年) 唱歌ハ耳及発声器ヲ練習シテ容易キ歌 曲ヲ唱フコトヲ得シメ兼ネテ音楽の美 を弁知セシメ徳性ヲ涵養スルヲ以て要 旨トス 尋常小学校ノ教科ニ唱歌ヲ加フルトキ ハ通常譜表ヲ用ヒスシテ容易キ単音唱 歌ヲ授クヘシ 高等小学校ニ於テハ初メハ前項ニ準シ 漸ク譜表ヲ用ヒテ単音唱歌ヲ授クヘシ 高等女学校令施行規則(明治34 年) 第十二条・・・・・音楽ハ単音唱歌ヲ 援ケ又便宜輪唱歌及複音唱歌ヲ交ヘ楽 器使用法ヲ援クヘシ 戦前の合唱と学校教育(1) 合唱は、音楽教育の創始期から指導されて いた 輪唱は合唱への導入形態である。 合唱は、斉唱よりも高度な価値をもつ。 (技術性、芸術性双方において) 声部が多いほど難易度、芸術度が高い ホモフォニ ック、外国曲が中心 合唱は一般の学校音楽教育の最終到達点で ある。 戦前の合唱と学校教育(2) 女学校、女子教育において合唱が盛ん であった。 尋常小学校においては合唱は教えられ ていなかった。 大正以降、国民学校にいたるまで合唱 教材は一般義務教育からは合唱が事実 上ほとんど教えられていなかった。 合唱と学校音楽教育をめぐる 重要なエポック(戦後) 研究指定校:頭声発声 斉藤喜博の教育実践−風と川とこどもの うた 小学校の合唱創作(教育音楽作曲家) 中学校合唱運動と校内合唱コンクール (大地讃頌、河口シンドローム) モノドラマ「合唱」 頭 声 発 声 ウィーン少年合唱団の来日と児童合唱 団ブーム 品川三郎『児童発声』 風と川とこどものうた 教育実践家(教授学者)斉藤喜博の群 馬県島小、境小での合唱実践 タンホイザー序曲、創作ミュージカル 等 1970年、筑摩書房からLP4枚6000円で 発売 中田喜直「精薄児のコーラス」 丸岡秀子「立派な健康児の合唱」 中学校合唱ブーム 東京都下中学校音楽研究会 調布市立神代中学校 戦後の音楽授業時数の変遷 900 800 700 時間数 600 小学校 中学校 合計 500 400 300 200 100 0 昭和22年 昭和26年 昭和33年 昭和43年 昭和52年 平成元年 平成10年 学習指導要領改訂 教 員 養 成 教育職員免許法 教員養成カリキュラム 教員採用試験 中学校音楽教員一種免許 最低必要単位数 教科に関す 教職に関す 教科又は教 る科目 る科目 職に関する 科目 20 31 8 中学校音楽教員一種免許取得のための 必要最低専門科目およびその単位 科 目 ソルフェージュ 声楽(合唱及び日本の伝統的な歌唱を含 器楽(合奏及び伴奏並びに和楽器を含む。) 指揮法 音楽理論、作曲法(編曲法を含む)及び音楽史(日 伝統音楽及び諸民族の音楽を含む。) 左記の5科 目よりそれ ぞれ1単位 以上計20 単位を履修 する わが国の音楽教員養成と免許法 音楽科目履修ゼロで小学校の音楽の授業が担 当できる!(@o@) 音楽教育は教職科目か専門科目かが曖昧(米 国のように独立していない) 理論系専門科目がすべて1つのカテゴリー (音楽学と作曲・音楽理論はどちらかを学べ ばいいのか) 少なすぎる最低単位(1単位) アンバランスな科目構成を後押し 教員採用試験 大学での習得内容との不一致 「バイエル」は小学校の音楽教育のための基 礎たりうるか? 音楽指導力を中心に考査するのは稀である 大学が関与できない 県単位での一括採用 学校、学校種、職務内容についての選択権が ない 音楽教師養成と教師に関わる三 重苦 音楽能力、一般学力を兼ね備えた入学 生の不足(アンサンブル経験ほとんど ゼロ) 貧弱なカリキュラムと指導体制、免許 要件に拘束される 就職難と、就職後の(音楽専門に関わ る)研修、学習機会の乏しさ 現行の養成制度と学校教育 合唱指導の力量を一定レベル以上に大 学で養成することは不可能 合唱指導よりも、あまり大学で習得す る機会が少ない日本(伝統)音楽、民 族音楽の指導が優先される傾向 大部分の教員養成大学の教官は西洋音 楽を中心に教えている 就職後の合唱指導技術の研鑽 個人の自覚と良心、使命感(向上心) のみに頼っている 中央から講師を招いて講習会(コン クールのリハーサルを兼ねる) 大学、海外等で短期研修 地元の合唱団等での音楽活動 努力に対するサポートは一切ない:コ ンピテンシーベースではない 教 材 小学校低学年 小学校中学年 中学校 全体の傾向 全体の傾向 狭隘なレパートリー ホモフォニックに傾倒 体系性、傾倒性の不足 教 育 現 場 学習指導要領と理念 小学校 中学校 反「合唱」運動 学校教育における合唱の特徴 手段としての合唱 ホモフォニック、編曲、教育用作品 レベル、技術は第二義 戦後の学校教育と合唱(中学 校) 合唱は、中学校では、「合唱コンクー ル」の行事が定着し、学校経営、学級 経営の手段として用いられている 学習指導要領の特異点 心情目標中心、具体的評価基準がない 能力目標はない 音楽を「美」とのみ捉えている 今後の学校音楽教育の目的 情操教育から「音楽」教育へ 音楽の持つ様々な役割、機能を理解 最大限の効果を目指す=技術指導を ベースにする(技術主義ではない) 今後の展望−教員養成 レベル、コンピテンシーに基づく「ナ ショナル・スタンダード」普及へ 教員養成大学、音楽大学における合唱 専攻および専任教官の配置 音楽科の教員免許法の再考(校種別か らジャンル別へ) 教師に求められる音楽能力・ 知識 西洋音楽理論、音楽史 西洋音楽声楽、合唱 西洋音楽器楽(特にピアノ)、合奏 日本伝統音楽、声楽、器楽 民族音楽、声楽、器楽 日本、東洋音楽理論、音楽史 コンピュータ、電子音楽 今後の展望−教育現場 音楽専科教員の恒常的確保 専科教員が低学年を指導 検 討 課 題 合唱、音楽活動を手段とするか、目的 とするか キーワードの再検討 自己表現 情操教育 基礎・基本 音楽を愛好する心情 異文化理解 ま と め 戦前は、合唱は教育実践における頂点 であり、いわば一つレールの上に乗っ かっていれば良かった。 戦後は合唱は様々な活動の一部となり、 ますます教育に占める一は低くなりつ つある。 今後の展望−教育現場 コミュニケーションとしての音楽教育 総合的な学習ての音楽教育−音楽を学ぶ ことはあらゆることを学ぶこと(人間、 世界、情操、自分、他者) 芸術至上主義とは異なる−しかし、技術 的レベルは向上させなければならない 合唱に関わることの意味 一つの合唱曲にアプローチ することは、音楽のすべて を含んでいる。(三善晃)
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