所属集団の変更可能な SDゲームにおける 協力行動の規定因 ~規制の小さい状況でも発動する 他者からの疎外回避動機~ ○針原 素子 辻 竜平 (東京大学大学院 人文社会系研究科) 数理社会学会第35回大会 大分大学 3月15日 先行研究: 日本人被験者の方がアメリカ人被験者よりも 一般的信頼が低い 制裁制度が存在しない社会的ジレンマ状況にお ける協力率が低い 制裁制度が存在する状況では、アメリカ人と同 程度の協力傾向を示す (e.g.Yamagishi, 1988; 山岸, 1990) 社会のしくみとしての 集団主義的文化 日本=集団間の移動が少なく相互監視と 相互制裁のしくみが大きな役割を果たす社会 一般的信頼感を失う 協力行動をとるのは制裁が確立している場合。 制裁がない状況では自発的な協力行動が 起こりにくくなる。 問題: 社会的ジレンマ状況において協力行動を促す要因: 高い一般的信頼 非協力行動に対する制裁制度 一般的信頼を低下させ、 制裁制度のないところでは非協力 日常経験する制裁や教育を通して、 「制裁を受けないためにも、自分の利益にこだわらず、 集団の利益をめざすべき」という集団奉仕規範として内在化 目的: 以下のようなSDゲームにおいて、一般的信頼、集団 奉仕志向が協力行動に及ぼす効果を検討すること。 制裁制度が存在しない 匿名・・・心理的な制裁もなし 所属集団を自由に変更可・・コミットメント形成が難 予測: 一般的信頼が高い人ほど、他者も協力すると予期 するので、協力率が高いだろう。 ?集団奉仕志向の高い人ほど、他者から疎外され ることを恐れるので、協力率が高いだろう。 方法 1セット15~20人の被験者により、4つの集団間で所 属変更が可能な社会的ジレンマ実験 被験者は、所属集団(“会社”)内で、協力行動(“熱 心に働く”)か非協力行動(“あまり熱心に働かない”) を選択 6プレーを「1期(6ヶ月)」とし、7期(3年半)で終了。 1期終了ごとに所属集団変更(“転職”)のチャンス 他の被験者の所属集団は匿名 サンクションは皆無 質問項目(事前質問紙) 一般的信頼:4項目単純加算(α=.76) -「ほとんどの人は基本的に正直である」 -「私は人を信頼するほうである」 -「ほとんどの人は他人を信頼している」 -「ほとんどの人は信頼できる」 「1.全くそう思わない」~「7.強くそう思う」 集団奉仕志向:3項目単純加算(α=.73) -「面倒なことでも自分から進んで行なう方だ」 -「給料が同じなら、必要以上に働きたくない(反転)」 -「掃除当番などの義務はなるべく避けたい(反転) 」 質問項目(事後質問紙) 他者の協力予期: 「あなたは、実験を始める前に、同じ会社の人たちが熱 心に働くと、どの程度思いましたか」 他者からの疎外回避: 「会社のメンバーとして、他のメンバーに嫌がられないこ とを重視しましたか」 結果: 7セッションの被験者131人中、続けて3回の転職チャン スを迎えられた4セッション71人のデータを分析 一般的信頼 r =.21† 平均協力率 集団奉仕志向 r =.37** **p<.01, † p<.10 実験前、実験中の意図 一般的信頼 .38** 他者の 協力予期 .46*** .24* 集団奉仕 志向 .31** .79 他者からの 疎外回避 平均協力率 .29** (R2=.38) *p<.05, **p<.01, ***p<.001 一般的信頼 .38** 他者の 協力予期 集団成員 協力率 .28** .40*** .24* 集団奉仕 志向 .31** .75 他者からの 疎外回避 平均協力率 .21* (R2=.44) *p<.05, **p<.01, ***p<.001 結果の解釈: 一般的信頼の効果は従来の知見とおり。 集団奉仕志向の効果も大きい。 → 制裁もなく、所属集団も変更可能な匿名状況 であったのに、他のメンバーから嫌がられな いようにという「疎外回避」の意図を介して、 協力行動に影響していた。 相互監視・規制システムが規範として内在化し、 他者からの監視が必要ない状況においても、 協力行動を引き起こした可能性 一般的信頼の高い人は見極めがよいか 高信頼者の方が相手の信頼性についての情報 に敏感で、相手の行動を正確に予測できる。 (小杉・山岸,1998;菊地・渡邊・山岸,1997) 高信頼者の方が、他のメンバーの非協力に敏感 に反応する。 所属集団変更後は、ひとまず協力行動を取るが、 他のメンバーが協力しないことが分かると非協 力行動をとるのでは? 非 0 協 力 P7M5 2期・・・ P7M3 協 4 力 P7M1 P6M5 P6M3 P6M1 P5M5 P5M3 P5M1 P4M5 P4M3 P4M1 P3M5 P3M3 P3M1 P2M5 1期 P2M3 P2M1 P1M5 3 P1M3 P1M1 一般的信頼の高低別の協力率推移 高信頼者 低信頼者 2 1 「一般的信頼の高低」の主効果の傾向(p<.06) 「月(1ヶ月目~6ヶ月目)」の主効果が有意(p<.001): 転職後は協力率が高く、次第に低くなる。 「月」×「一般的信頼の高低」の交互作用はなし: 一般的信頼の高い人ほど、協力率の低下率が 大きいということはない。 「一般的信頼」と「他のメンバーからの 影響の受け方」に関係はあるか? 一般的信頼の高群、低群ごとに、集団成員協力 率と被験者の平均協力率の相関を見る。 一般的信頼高群:r =.42 (p<.01) 一般的信頼低群:r =.57 (p<.001) 相関係数の差の検定の結果、相関係数に差は 見られなかった。 一般的信頼と、集団成員の協力率に応じて自分 の協力率を決める程度(トリガー的戦略を取る程 度)に関係は見られなかった。 集団奉仕志向の高い人は、 どんなときでも協力するか 社会の相互監視、規制のシステムが集団奉仕 規範として個人の心の中に内在化しているのだ としたら、 集団奉仕志向の高い人は、他のメンバーの行動 に関わらず、協力行動をとるだろう。 集団奉仕志向の低い人の方が、他のメンバーが 協力しないことが分かると非協力行動をとるだろ う。 非 協 0 力 協 4 力 P6M3 P6M5 P7M1 P7M3 P7M5 P2M5 P3M1 P3M3 P3M5 P4M1 P4M3 P4M5 P5M1 P5M3 P5M5 P6M1 P1M1 P1M3 P1M5 P2M1 P2M3 集団奉仕志向の高低別の協力率推移 高集団奉仕 低集団奉仕 3 2 1 「集団奉仕志向の高低」の主効果が有意(p<.05) 「月(1ヶ月目~6ヶ月目)」の主効果が有意(p<.001): 転職後は協力率が高く、次第に低くなる。 「月」×「集団奉仕志向の高低」の交互作用はns: 集団奉仕志向の低い人ほど、協力率の低下率が 大きいということはない。 「集団奉仕志向」と「他のメンバーからの 影響の受け方」に関係はあるか? 集団奉仕志向の高群、低群ごとに、集団成員協 力率と被験者の平均協力率の相関を見る。 集団奉仕志向高群:r =.46 (p<.01) 集団奉仕志向低群:r =.43 (p<.05) 相関係数の差の検定の結果、相関係数に差は 見られなかった。 集団奉仕志向の高い人と低い人の間で、 集団成員の協力率に応じて自分の協力率を決める 程度(トリガー的戦略を取る程度)に 差は見られなかった。 考察: 一般的信頼も、集団奉仕志向も、協力率を全体的に 高める影響。 制裁のない状況にも関わらず、集団奉仕志向の高い人ほ ど、他者からの疎外回避を動機として、協力率が高かった。 日本社会の相互監視・規制システムが、日常の経験や教 育を通して内在化し、他者からの疎外を気にする必要の ない状況でも協力行動を引き起こした可能性。 山岸: 社会の相互監視・規制システム → 一般的信頼の低下 → 制裁制度のない状況での協力行動の低下 課題と展望: 時系列データの分析が不十分。 実際に被験者が経験する社会の相互監視・規制 システムが、彼らの集団奉仕志向に影響している かどうかが不明。 千葉県の都市部・村落部比較調査実施中。
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