航空規制の理論 国際交通 平成22年12月14日 村上 Ⅰ 産業規制の根拠(一般 論) 自然独占 同じような費用水準の会社が数社存在し、規模の 経済性が働いている状況を考える。その場合、1 企業に生産を任せたほうが、複数企業に任せる よりも低費用で操業できる。すると先発企業が後 続企業よりも低費用で生産できるから、結局市 場が独占となる(自然独占)。このような場合、政 府は参入を規制すると共に、企業による独占水 準の価格・生産量(運賃・輸送量)設定を阻止す る規制政策をとる。なお、自然独占の場合必ずし も規模の経済性が働いているわけではないこと に注意。 産業規制の根拠 続き2 費 用 費 用 差 0 q 輸送量 0 q 輸送量 ・所得の再分配:規制政策により、たとえば低所得地域に低 価格サービスを供給すると共に、高所得地域には高価格サー ビスを供給。日本の航空輸送に関しては、沖縄方面(および諸 島内)路線の運賃は低めに設定してある。 産業規制の根拠 続き3 価格(運賃)の安定化 航 空 輸 送 の 場 合 、 International Air Transport Association (IATA) の 設 置 目 的の1つがこれである。IATA加盟は各々 の航空会社の意思決定に依存。 公正 地域間で差がなく消費者がサービスを利 用できるようにするための規制。 産業規制の根拠 続き4 公共財 消費者が競合することなく消費できる財 (つまり逆にいうと特定の消費者を排除 できない)の供給を政府が担当。通常、 市場の需要曲線は個別需要曲線の水平和 であらわされるが、公共財の場合は垂直 和になる。 産業規制の根拠 続き5 一般の財の場合は、 市場の需要曲線は 個々の需要の水平和で 表される。 価 格 価 格 一方公共財の場合は 垂直和であらわされる。 ある利用者層が欲すれば 欲するほど価格が上がる。 →民間による供給は 困難なことも。 公共財の需要曲線 市場需要曲線 数量 数量 産業規制の根拠 続き6 外部性の存在:第3者への意図せざる影響 外部性の良い例:花畑の所有者と養蜂業者の関 係 外部性の悪い例:空港の騒音、工場の煤煙や排 水の地域への影響 個人・企業は通常、社会的費用・便益ではなく 個人的な費用・便益に基づいて意思決定する。 社会的費用を認識させるために政府が介入する 場合がある。 産業規制の根拠 続き7 費 用 需要曲線 社会的限界費用 A B 個別限界費用 外部費用 生産量 社会的限界費用=個別(私的)限界費用+外部費用 A点は社会的に望ましい価格と数量の点、B点は外部費用を 考慮しない価格と数量の点。 なお正の外部性の場合は縦軸が利益となり、社会的利益が 発生する。 産業規制の根拠 続き8 安全性の維持 航 空 輸 送 の 場 合 、 International Civil Aeronautics Organization(ICAO)が設置以 来これを担当。 ICAOはシカゴ条約批准国が 全て国レベルで加盟する。 非対称情報の解消 サービスの供給者は消費者の情報を把握して いても、消費者はそうでない場合がある。そ のとき、逆選抜(アドバースセレクション)、 およびモラルハザードという現象が生じかね ない。これを防止するための規制。 産業規制の根拠 続き9 略奪的価格決定:長期では損益分岐点以下、短 期では閉鎖点以下の価格設定を行って需要を略 奪する行為。これを防止するための規制。 他の目的 たとえば軍事とのかかわりなど。米国の場合、 軍事関連物資の輸送にしばしば民間航空を使用 する為、対外的には航空自由化(オープンスカ イ)を主張する一方で、一部について自国航空 貨物の自国航空会社積取り政策をとっている (Fly America Act)。 産業規制の根拠 続き10 米国の場合、Civil Aeronautics Board (CAB)(運輸省とは独立の規制機関)が1938 年に設立される以前、郵便輸送を巡って略奪 的運賃競争があった。それを契機に規制政策 が始まったが、実際に規制政策を導入するに あたって、厳密に上記の項目について産業分 析を行ったわけではない。安全性規制以外は あとあと『そうではないか』と暗黙のかたち で追認したに過ぎない。 また、政府介入の根拠が与えられる場合でも、 市場が解決できる事は市場に任せ、解決介入 はあくまで慎重に行うほうが良いとされる。 規制を欲する論理とその顛末(1) 企業は以下の施策を欲する(Lobby for)。 ・ 政府からの補助 ・ 参入規制 ・ 価格の固定化、安定化 ・ 補完財の開発促進 ・ 代替財の廃止 規制を欲する論理とその顛末(2) しかし結果的にしばしば次のような意図せざる 結果を伴う。 ・ 強力なアウトサイダーの登場と、それとの競 争による利潤消滅。 ・ 非効率的操業(高い販売・投入価格、非効率 的生産(X非効率)) ・ 規制のコスト(手続きの煩雑さ、概して手続 きが遅い) そして以下のような代表的な弊害を伴う。 規制を欲する論理とその顛末(3) ★ 虜 囚 理 論 (Capture Theory, by Peltzman):産・官癒着の構造 選挙で選ばれる規制者は、支援者による サポートVを最大化したい。 Zは消費者の利益、πは生産者の利益で、 ともに規制者が認可する価格の関数。 価格を認可する規制者は、価格を変数と してを最大化する。 規制を欲する論理とその顛末(4) max V V Z ( p), ( p) p dV V dZ V d dZ d VZ V 0 dp Z dp dp dp dp ・・・※ 価格が上昇すると消費者の利益が減るから、簡便のために 1 dZ q とする。また pq( p) TCq, q とすると p dp 利潤極大化の1階条件は、 規制を欲する論理とその顛末(5) q p q p MC TC q q MC q1 MC 0 p q p p p p q p p MC dZ d q , q1 dp dp p を※式に代入して整理すると、 p MC V VZ 1 となる。左辺は価格・費用マージン率。 p V 通常、独占の価格・費用マージン率は、 p MC 1 p であることと比較せよ。もしも規制者が消費者の利益を 無視したら 規制を欲する論理とその顛末(6) VZ 0 となり、企業は独占の価格・費用マージン率 p MC 1 を手にすることとなる。 p 一方、規制者が消費者の支援を考慮すればするほど、 企業の価格・費用マージン率は消滅していく。 (企業の支援と消費者の支援を同等であるとみなした ときに消滅する) 一般的にみて、規制者は企業の支援に依存する傾向がある。 価格規制の方法 社会的総余剰を最大化する価格は限界費用水準。 しかし規模の経済が働いている状況で、限界費 用価格を決定すると、企業は赤字になる。(な ぜならこの場合限界費用曲線は、利潤ゼロとな る平均費用曲線よりも下方に位置するから) では単純に平均費用価格規制を行うべきか? そうではなく、より大きな社会的余剰を追求し つつ、企業に赤字が発生しないように考える。 セカンドベスト価格(1) 二部料金制:赤字を生み出す固定費用を 利用者全員から頭割りで加入料金として 事前に徴収して、以後利用料金は限界費 用価格。上の図のようなケースを下記の 数字を用いて近似してみよう。 TC 10 2Q P 24 4Q ⇒ 10 AC 2 Q (逆需要関数) MC=2 セカンドベスト価格(2) 限界費用価格形成では利用者5.5で価格2の水 準、平均費用価格形成では利用者5、価格4に なる。 二部料金では総費用の中の固定費用10を限界費 用価格形成の場合の利用者数5.5で頭割りして 利用者に負担してもらう。以後利用につき限界 費用価格2が利用者に科される。この場合、二 部料金は2+10/5.5=約3.82で、平均費用価格よ りも安くて利用者が多い(つまり消費者余剰が 大きい)上に、企業にも損失が発生していない。 セカンドベスト価格(3) 二部料金では、企業が負担する固定費用を利用者 数で頭割りすることにより、固定費用を利用者負担 しもらっていた。 更に三部料金では、利用者の支払い意欲(あるい は契約後どれだけ使用するか)に応じて、固定費 用を利用者負担してもらう。 例えばある空港を自社の拠点空港として利用する 航空会社があれば、発着枠の使用料金を割り引き、 その分長い期間利用してもらうなど。(割引に対し 割り増しする例もある。顧客の回転率を向上させた い場合等) セカンドベスト価格(4) ラムゼイ価格 企業の特定の利潤目標を前提として消費者余剰を 最大化する方法。いま、企業がn個の市場で結 合生産を行っている。このとき、以下の2つの 式を満たして導出される価格がラムゼイ価格で ある。Aはゼロまたは正の値。 n maxTS pi qi dqi Cq qi i 1 qi 0 n s.t. pi qi Cq1 A i 1 セカンドベスト価格(5) ラグランジュ乗数λを用いて目的関数Lを以下 のように書く。この目的関数は、企業のゼロ または正の利潤を保証した上で、消費者余剰 を最大化するという意味を持つ。Lを最大化す るために、数量で微分してゼロと置く。 n max L qi , i 1 qi 0 n pi qi dqi Cq pi qi Cq A i 1 pi p L pi MCi pi qi MCi 0 1 pi MCi i qi qi qi qi pi MCi pi pi 1 pi 1 qi qi 1 ei セカンドベスト価格(6) つまり、ラムゼイ価格では独占の価格・費用 マークアップ率以下で価格が決まる。 単一市場では平均費用価格に等しい。 複数市場の場合は、各市場の運賃は平均費用価 格より上か下かは不明。全市場での利潤を合計 するとゼロまたは正(つまりAの値)となる。 価格水準は価格弾力性次第で決まる。 Λは政策変数で、政府が決める。 米国の航空規制の目的 規制の根拠(1938年法、58年法) 国内通商、郵便事業、国防の現在及び将来ニーズ に適切に適合した航空輸送システムの育成、発展、 競争(の制限)。 航空輸送に固有の優位性の確保、安全性の維持、 健全な経済条件の助長、航空会社間の関係改善・ 輸送調整。 企業間での不当な差別の撤廃、破滅的競争の防止。 企業が妥当な料金で適切・経済的かつ効率的に サービスの提供を行うことを助長。 民間航空の振興、奨励、発展。 米国航空産業の規制(1) 企業の認可と事業領域指定:幹線企業は 主要都市乗り入れ航空会社で、代表的な のはユナイテッド、アメリカン、デルタ、 イースタン(のち倒産)、TWA、ノース ウエスト、コンチネンタルなど10社。 ローカルサービス企業は1945~51年の間 に19社が認可された。 米国航空産業の規制(2) その他、需要の多い路線でCABに認可された定 期輸送航空会社の輸送を補完する補完的チャー ター航空会社、アラスカ・ハワイ州内のみで操 業する航空会社、その他の州内航空会社、小型 機(のち1969年に正式にコミューターと名づけ られた)使用航空会社、貨物専用航空会社、 CABに認可されたヘリコプター航空会社。この 内、州内航空会社とコミューター航空会社は CABによる規制政策を受けなかった。(CAB は州際事業を規制、州内事業は各州の規制を受 けた) 米国航空産業の規制(3) ・ 新規参入の完全な排除:新規企業設立の制 限、上記企業の他事業領域進出の制限。 ⇒その結果企業の輸送量のシェアは安定。1- ④の目的は達成された。 ・ 運賃規制。運賃の公表の義務(1958年)。 結果として運賃の硬直性。 ・ 企業は指定しても、それら企業の便数は規 制せず。また機材導入競争も規制せず。 実際に見られた規制の弊害(1) ジェット機導入競争による座席利用率の 低下。 便数競争による座席利用率の低下。旅客 シェアは便数シェアとS字型の関係を保 ちながら増加することを航空会社は経験 的に把握(S字型カーブ、教科書参照の こと)。その結果増便競争を展開。結果 として限られたパイ(旅客数)を争奪し 合い、座席利用率が低下。 実際に見られた規制の弊害(2) ① Trapani & Olsonの分析 企業が規制下で利潤を極大化する行動(注:規 制下では運賃が既に決まっているので、利潤極 大化は輸送量を極大化するのと同じ)を前提と して、規制下の運賃と座席供給数を導出。次い で規制が緩和された場合の運賃と座席供給数を 予測。両者の値をそれぞれ比較すると、規制下 の方が、規制緩和された競争状態よりも高い運 賃がもたらされる一方で、多くの座席が供給さ れる(これを高いレベルのサービスと解釈する か、超過供給と解釈するかは意見が分かれると ころ) 実際に見られた規制の弊害(3) 規制により、航空市場のみならず、航 空サービスの生産要素市場も非効率化し、 生産要素価格が上昇する。 例としては、CAB認可企業の高い労働 組合組織率など、生産要素を調達する側、 買う側が双方独占状態となる。 非規制企業の好成果(1) カリフォルニア・テキサス州内企業の効率性 技術革新(与圧機の導入、タービン動力機の導 入など)は幹線航空会社が一貫して早い。次い でカリフォルニア州内企業、ローカルサービス 企業の順。 運賃と収益性:カリフォルニア州の代表的な企 業であったPSA(パシフィックサウスウエスト 航空)の収益率はCAB認可企業(幹線+ローカ ル線航空会社)より上。また州内の運賃は、 CAB算定基準により算出された同一距離の州際 路線よりも32-47%低かった。 非規制企業の好成果(2) カリフォルニア州の3大市場(LA、サンフラ ンシスコ、サンディエゴ)では幹線企業とカリ フォルニア州内航空会社が競合、幹線企業は CAB認可水準の運賃を設定できなかった。テキ サス州ではサウスウエスト航空が認可企業より も低運賃を設定。 単純な路線構造、機材の統一による運航・整備 の効率化。 低い労働組合組織率⇒労働コストを低いレベル で維持可能だった。 チャーター航空、コミューター航空が、やはり 効率的に運航したという実績も存在。
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