第10章 情報技術と社会 - lecture.ecc.u

第10章
情報技術と社会
Copyright © the University of Tokyo
本章の目的
現代社会において科学研究および技術開発の
成果は、社会全体やその構成員の将来を左右
するような形であらわれる。
<ライフサイエンスと医療>
新しい治療法、生殖医療、再生医療の応用は、社会
の構成員の一人一人の生や死と直結
<情報技術>
技術の流通は、社会構成員一人一人のリスクや安全、
セキュリティとプライバシーの問題と直結。
<2>
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本章の目的
科学技術に関係した(安全と安心に関わる)重大な社会的政
治的問題が発生したとき、未来を選択する権利は、民主主義
社会においては国民一人一人にある。
→社会の構成員は、科学技術の研究成果について、その選択
に必要な程度の基礎知識をもっておく必要がある。
情報についても然り。
民主主義社会において、「情報」に関する選択主体は私達、
その選択に必要な程度の基礎知識はもっておく必要あり。
=情報を学ぶ意義。
概略。およびその技術の人間や社会に対する意味。
<3>
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この章の目的

情報技術とどうつきあってゆくべきか?
―― 答えはない

情報技術が世の中にどのような影響を与えるか?
 良い・悪い影響両方ある
 いくつかの事例
 情報技術の特徴がどう関係するのか?
 どのような点が問題になるか (論点)

情報技術とどうつきあってゆくべきか?
<4>
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技術上の変化
500年に一度の革命が今、世界で進行している。
その名をIT革命という。約5世紀前、グーテンべル
クが発明した活版印刷はカトリック教会の独占物で
あった聖書を大衆に普及させ、宗教革命を勃発させ
た。テレビは鉄のカーテンを突破して社会主義国家
を崩壊させ、冷戦を終結に導いた。情報メディアは
それまで社会を支配していた権威をひっくり返して
しまう破壊力を秘めている。そしていま、インター
ネットが日本でもIT革命に火をつけた。」
(AERA,2000年、7月5日臨時増刊)
<5>
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情報技術がもたらした変化と社会への影響
年代
技術
影響
’60s, 商用・科学技術用 大規模なデータを処理が可能に
’70s
コンピュータ
“Big brother”
’80s
マイクロ
コンピュータと
ビジネスソフト・
ゲーム
個人の道具としての
コンピュータ・ソフトウェア
インターネット・
WWW
個人による情報発信が可能に
’90s-
ソフトウェアの所有権
プライバシ,情報の所有権
<6>
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コンピュータによる事務処理とその影響

それまで: 事務処理は紙と手作業であった
 例: 国勢調査・戸籍管理・犯罪記録・預金管理
 データの保管場所 = 使用する場所 → 分散
 調べるのも手作業

コンピュータ登場後 (’60s-)
 データを集中管理・集中処理 (← ネットワーク)
 広範囲にわたる統計・検索が可能に
 広域サービス
→ 監視社会への懸念
<7>
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マイクロコンピュータの登場とその影響

それまで:
 個人レベルの活動は道具+人間
• 事務: 紙・ペン, ゲーム: モノ

マイクロコンピュータの登場後(’80s-)
 コンピュータ+ソフトウェア によって
個人レベルの活動が支えられる
• しかもソフトウェアが本質的
→ ソフトウェアの複製は容易
(cf. 道具はコピーできなかった)
<8>
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インターネット・WWWの普及とその影響

それまで:
 通信にはコストがかかる
 放送は限られた人だけに許される

インターネット・WWWの普及(’90s-)
通信コストが大幅に下がる
誰もが情報発信できる
入手可能なコンテンツ・
利用可能なサービス増加
利用者の増加
インフラの整備
<9>
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インターネット・WWWの普及とその影響

それまで:
 通信にはコストがかかる
 放送は限られた人だけに許される

インターネット・WWWの普及(’90s-)
通信コストが大幅に下がる
誰もが情報発信できる
入手可能なコンテンツ・
利用可能なサービス増加
→ 権力構造の変化
→ 情報の所有権の問題
<10>
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技術的にどのような変化があったのか?

「インターネットは通信コストを大幅に下げ,誰もが
情報発信できるようにした」――その技術背景
 通信コストを下げた要因
• パケット交換方式 (ルーターの能力は弱くてもよい)
• ベストエフォート方式
 個人による情報アクセス・発信を可能にした要因
←規模の拡大に耐え得る設計だった
• 分散ルーティング (核攻撃に耐えるという目標)
• 階層的なドメイン名システム
• 全ての端末にIPアドレスを付与
<11>
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技術の変化が与えた影響とは?

通信コストの低下
 場所・時間・経路の制約からの解放
 輸送コストをほぼゼロに
→ アウトソーシング
→ 革新的なネットビジネス

個人による情報アクセスと発信
 「情報 = 権力」という図式を弱める
 権力が情報を制御することが困難になる
 権威付けのない情報が増える
<12>
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技術上の変化の影響

メディアの発展
 インターネット技術を含めた情報技術の影響は幅広
い
 それまでの社会の体制や権力を支えていた構造を
ひっくり返す力を持つ
 社会を変革させる力を持つ
<13>
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技術上の変化
インターネット技術
 ホストコンピュータ管理
による閉じられた世界
↓
村(ネットワーク)中心
の開かれた世界へ.
インターネットで村から村へ。
・ 村の「境界」から外へでてゆける。
・ 中央集権的やりかた(ホスト対端末)でなく、村(地
方)中心
<14>
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技術変化の結果としてもたらされたもの

4つの変化
 場所の制約からの解放
 時間の制約からの解放
 経路の制約からの解放
 輸送コストをほぼゼロとした

例)メールによるコミュニケーション
 コミュニケーション形態を一変
 地理的要素に依存しないコミュニケーションが可能
<15>
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権威の崩壊

例1)流通機構の変化と規制
 税務署も手の届かない巨大オークションの普及
• 流通経費がかからないために巨大店舗をもつものが
優位を維持できない
• 従来の流通システムに対応した税システムが機能し
なくなる可能性あり

例2)系列会社優遇の壁の崩壊
 ウェブ上の部品取引による系列会社壁の崩壊
• 瞬時にして最安値の部品を仕入れることが可能
• 系列企業優遇の障壁が少なくなる可能性あり
<16>
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権威の崩壊
オンライン書店
 展示場所 + 在庫 による商売
 無限の展示場所
 大量に売れる本から利益
 在庫の極小化
 大型書店が売らない本は売
れない (→ 権威)
 「ロングテール」から利益
←
大型書店
売
れ
行
き
→本の種類
マスメディア
WWW+検索システム
 設備が必要→発信者の限定
 権威が無くとも発信可能
 発信者が選ぶ人 = 権威者
 玉石混淆
 選ばれる→質が保たれる
<17>
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権威の崩壊

例3)情報流通,検閲機能の低下
 検閲なしの情報の流通
• 出版社などのチェック機能なしに,すぐに電子出版が
可能
• 個人のホームページを通じた情報の公開
• 情報は玉石混交
– ex. 原爆の作り方が個人で入手できる.個人の意見が「事
実」のようにweb上に載せられるなど

例4)文化や宗教への影響
 イスラム教徒でもアクセスできるアダルト画像
• 従来の検閲機能の機能不全.宗教への脅威
<18>
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技術領域を超えた問題
例1=税制や法への影響
例2=経済面の影響
例3=情報検閲の問題
例4=宗教や文化への影響
 技術の普及によって、国境がない、法律が効かな
い、既存の権力が及ばない範囲での交流が可能に
なった。
 しかも、国家はネットなしで生きていけない。
 アナーキー(既存の秩序が及ばない)でかつ必要
不可欠、破壊と創造の同居。
<19>
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技術領域を超えた問題

技術領域を越えた問題の山積

既存の社会規範(法、倫理)によっては十分に制御しえず、新
たな社会規範の形成が必要
 法の側面
• 有害情報の規制,著作権の保護,知財の分類
 経済の側面
• 商取引の秩序と規制,流通機構の変化など
 文化の側面
• 情報検閲の可否,デジタルデバイド

サイバースペースの良い影響
 情報技術を使った情報空間が公共的な議論を促進、
 電子民主主義を促進。民主主義の発展に貢献する可能性
<20>
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情報技術と社会の軋轢
情報技術は、既存の社会規範(法、倫理)によっては十分に制
御しえず、新たな社会規範の形成を必要とさせている。
しかし、情報技術に限らなくても、新しい技術の開発は常に技術
領域を越える問題を発生させ、新しい創造と破壊を作り出
 例:遺伝子組換え食品技術 → 食の安全についての新しい議論
 再生医療や脳死移植技術 → 生命倫理についての議論
 ナノテクノロジー → 安全性にかかわる新たな議論
それでは、情報技術に特徴的な社会との軋轢とは?
<21>
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情報技術と社会の軋轢
コンピュータと情報技術の特徴
(1)無形性と複製可能性(ジョンソン,2002)
• 無形性=ソフトウェアやデジタルコンテンツが、従来の
「モノ」概念とは異なる性質をもつこと
• 所有と権利に関わる法制度や倫理との間の軋轢
(2)グローバルな通信射程と匿名性
• ネット上の自由で規制のない議論空間、公共空間の構築
として、電子民主主義を促進や情報技術によるガバナン
スといった展望を開く
• 同時に、プライバシーやセキュリティといった側面での軋
轢を生む
<22>
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権利と所有概念への影響

情報技術は、市場に流通するものの「媒体」を変えつつある
 例:これまでのCD、ビデオテープ、現像された写真、本、コピーと
いった物質的な媒体で扱われてきたもの
→電子的に取り扱われることになる(電子媒体)
↓
 保有あるいは所有といった概念も変容
• 複写する行為、著作権の侵害に対する利用者の意識の希薄さ目の
前のモノ(物質的媒体)のときは所有者がはっきりし、コピーをとるこ
とに対して対抗があったのに対し、電子媒体になったときにこのよう
な抵抗が少なくなる
このことが端的にあらわれるのが、著作権をめぐる議論。
<23>
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保護される著作物
1.
小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
2.
音楽の著作物
3.
舞踏または無言劇の著作物
4.
絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
5.
建築の著作物
6.
地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型そ
の他の図形の著作物
7.
映画の著作物
8.
写真の著作物
9.
プログラムの著作物
<24>
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著作権 (一般)

本・映画・音楽などを作った人を複製から守る権利
 創作の労力に比べて複製は非常に簡単
 複製技術が登場して以来の概念

文化の発展が目的
 作者が安心して製作できるようにする
 誰もが安心して二次利用できるようにする
(パロディも文化)

「物質」に依らないものなので,問題点も多い
 過ぎたる保護は発展を阻害
<25>
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コンピュータプログラムの著作権

プログラムの特異性
 小説のように人間が読むものではない
 配布メディアから複製をしないと動かない
 「情報」である → 創作の労力は大きく,複製は容易
 デジタルコンテンツである → 完全な複製が作れる

1985年の著作権法改正で「著作物」に
 保護されるのはプログラム
 プログラミング言語・アルゴリズムは対象外
<26>
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権利と所有概念への影響

著作権をめぐる議論
 著作権法
<27>
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コンピュータープログラムの著作権

事例
 A社はビデオゲームXを開発し,その著作権を所有し
ている.
 B社は都内で経営する喫茶店にゲームXの無断複
製ビデオゲームを設置して,顧客に利用させた.
 A社は著作権侵害をB社に対し訴えることができる
だろうか?
<28>
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コンピュータープログラムの著作権

答え : できる
この場合,ビデオゲーム機に取り付けられたROMに収納さ
れているオブジェクトプログラムは,A社の著作物(ソースプロ
グラム)の複製物である.したがって,Bが使用したビデオ
ゲーム機のように,ROMのオブジェクトプログラムを他のRO
Mにコピーして製造した偽造ゲーム機は,Aのソースプログラ
ムの著作権を侵害する.
<29>
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デジタルコンテンツの著作権

アナログコンテンツとの違い
 完全な複製が作れる
 簡単に複製が作れる
 (+ネットワーク) 低コストで広範囲に配布できる
 複製しないと利用できない場合もある
 システム次第では,利用方法を強く制限することもで
きる (cf. デジタル放送のコピー制御)
<30>
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ネットワークによる情報発信と著作権

放送と性質が似ている

放送との違い
 必要な設備が非常に安い
 許可がいらない
 「送信」ではない (受信側がサーバに要求すると,
サーバが返答しているだけ)
 世界中に発信する場合も組織内で共有する場合も
仕組みが同じ

1997年の著作権法改正で「送信可能化権」が「公
衆送信権」の1つに
<31>
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デジタルコンテンツの著作権

使用許諾の概念が曖昧
 メモリ上の電子情報は市場や流通機構なしに直接
個人の手にわたることが可能

Winny開発者の起訴問題
 Winny:ファイル交換が完全に匿名化されていること
が特徴
 デジタルコンテンツの著作権の侵害を幇助する側面
を持っている
<32>
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Winny開発者の起訴問題(1)

起訴した側の主張
 現行の法律から鑑みて、開発者の行動は著作権侵害
を幇助するという意味で罪である

開発者の支援者や技術者の主張
 技術の進歩とともに法律も進化しなくてはならず、現在
の技術によって簡単に著作権法違反が発生してしまう
現状のほうが問題である
 技術進歩と共に法律も進歩すべき

論争における論点の幅が大きい
<33>
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Winny開発者の起訴問題 (2)

Winny: 匿名ファイル交換システム
 中央集権的なサーバが不要
 端末どうしでファイルを交換
 匿名: 最初に公開した端末が分からない・実際にファ
イルが置かれている端末はファイルの内容が分から
ない

Winnyの利用実態
 著作権のあるデジタルコンテンツ(音楽・映像)の交換
 サーバが無いので規制が難しい
<34>
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Winny開発者の起訴問題 (3)

2004年5月に開発者が著作権侵害幇助の疑いで
逮捕・起訴

論争における論点の幅が大きい
 現実の著作権侵害をどう解決すれば良いのか?
 侵害目的でモノを作るのは犯罪に問えるか?
 モノを作る人間は,使われ方にまで責任を負うか?
 匿名システムはプライバシー保護につながるが,そ
れを一切禁じることにならないか?
 良い流通システムが無いからファイル交換ソフトが
使われたのではないか?
<35>
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他の問題

プライバシー
 コンピュータ技術による情報収集の規模の増大
 個人情報保護法

セキュリティ
 情報システムに大きく依存する社会
 認証・署名・暗号・電子投票などの技術

表現の自由・通信の秘密とネットワーク
 組織的な通信の傍受・制限・監視
 セキュリティ vs. 自由
<36>
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プライバシー

プライバシーの保護と
民主主義を支える自由
との関係
 個人情報保護法
(2003年5月成立,
4月施行)
• 個人情報の有用性に
配慮しながら個人の
権利利益を保護する
ことが目的
<37>
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セキュリティ

情報セキュリティ
 情報システムにおける安全性の確保のこと
• 機密性:認可されたものにのみ情報にアクセスできる
ようにすること
• 完全性:情報が正確で完全であること
• 使用可能性:必要な時に必要な情報資源にアクセス
できること
<38>
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セキュリティ確保の技術的取組み

個人認証技術
 情報システム管理者がアクセスしてきた人間を,利
用権者であるかどうかを識別する技術

暗号化技術
 元のデータを解読できないデータに変換すること

公開鍵暗号方式と
PKI (Public Key Infrastructure)

電子署名
<39>
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公開鍵暗号方式とPKI

公開鍵暗号方式
 送信者:受信者が公開している公開鍵を入手し,そ
の鍵で暗号化を行った結果を送信
 受信者:送信者から送られてきたデータを自分の秘
密鍵で復号し,元のデータに戻す

PKI (Public Key Infrastructure)
 公開鍵暗号方式を利用したセキュリティインフラスト
ラクチャーのこと

認証局
<40>
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情報技術論
(1)技術は中立か
(2)技術と民主主義
(3)倫理
(4)情報リテラシー
<41>
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技術は中立か
技術本質主義
 技術は社会の形態や要望にかかわらず“独立に”発
展するという立場
↑
↓
技術の社会構成主義
 今ある技術は、多くの可能性のなかから社会の構成
員によってそのつどそのつど選択された結果である
という立場
<42>
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技術は中立か
 社会構成主義
 確立された判断基準や分類境界に対する懐疑的態
度、現在当然視されている事柄がどのようにしてそう
みなされるようになったのかを問い直すこと
 技術に応用:技術の社会構成主義(SCOT)
 現在確立されている技術に対する懐疑的態度、現
在当然視されている技術がどのようにしてそのよう
に確立したのかを問い直すこと
<43>
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技術は中立か

情報技術の場合
 ハードウェアが選択淘汰され、基本ソフトウェアが選択
淘汰され、情報技術やブラウザが選択淘汰され、現在
の形になってきている。

今もさまざまな情報技術や情報をめぐる制度が選択
淘汰されつつある時代に生きている。

我々の今の選択は、将来世代の情報技術に影響を与
える。

技術開発と同時に社会への影響を考え,選択を公に
開くことが必要
<44>
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技術と民主主義

インターネットのありかたと民主主義
(1)ITは多対多の通信を可能にする
→地理的に離れていたがゆえに少数派だったひとたちを結びつける
(2)「情報は力である」という考え
→多数者に情報という力を与える
(3)かつて存在していた団結に対する障壁を打ち壊し,
弱者に力を与える
→系列企業、既存流通機構、検閲機構の壁を壊す

民主的な手続きや制度を支援するかたちで,情報
技術は構築される必要あり
<45>
Copyright © the University of Tokyo
セキュリティとプライバシー

開かれた討議の必要性
 個人情報の保護を優先するのか,不正者の追跡の
ほうを優先するのか?
 上記を決定するのは,最終的には国民

国境を越えての情報流通
→国ごとの”セキュリティ文化”が争いのもとに
 セキュリティ文化が異なると、プライバシー、所有権、
犯罪、賠償責任など、多くのことがらで調整が必要。
<46>
Copyright © the University of Tokyo
OECD情報システム及びネットワークのセキュリティ
のためのガイドライン
セキュリティ文化
 情報システム及びネットワークを開発する際にセキュリ
ティに注目し、また、情報システム及びネットワークを利用
し、情報をやりとりするに当たり、新しい思考および行動の
様式を取り入れること
・認識(Awareness)
・責任(Responsibility)
・対応(Response)
・倫理(Ethics)
・民主主義(Democracy)
・リスクアセスメント
・セキュリティの設計および実装
・セキュリティマネジメント(Security Management)
・再評価(Reassessment)
<47>
Copyright © the University of Tokyo
デジタルデバイド

情報技術は情報格差を拡大
 情報技術にふれる機会がある人はますます多くの
情報を手に入れることができる
 それら技術にふれる機会の少ない人にはますます
情報が入らなくなる

教育と雇用の機会均等論と関係
コンピュータと情報技術が教育機関において不平等に分配
→将来における不平等な技能取得機会配分
→不平等な雇用機会配分
→不平等な所得、社会的地位
デジタルデバイドが民主主義に対する脅威
<48>
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倫理

情報技術の3つの特徴が広範囲の倫理的諸問題
を引き起こす
 グローバルで多対多の通信射程
• 短い時間とわずかな努力で他人に害を及ぼしうる
 匿名性
• 不可視性の感覚が,多くの人々に他の仕方では行わ
ないかもしれない行動を自由に行わせる
 複製可能性
• 上記の問題を悪化させる

人権侵害,肖像権侵害,著作権侵害,プライバ
シー侵害
<49>
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情報倫理

倫理とシステム設計は相互依存性を持つ.

システムがどういう使われ方をするかの設計段階
での仮定は,流通するプロセスで検証される
 専門家倫理
 情報システムの管理者倫理
 システム攻撃行為に対する倫理
 一般ユーザに対する倫理
<50>
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技術と倫理の考え方
技術本質主義をとると:
 新しい技術は倫理の空白を生み出す
 技術は社会の要請とは独立に進展し、技術のあとか
ら倫理的問題がでてくる。
社会構成主義をとると:
 技術の進展が倫理の空白を生み出すとともに、
倫理的問題の存在が技術を導く。
両者が相互作用をもって進展。
例:プライバシー保護をめぐる倫理的問題→不正アクセス防止のため
の技術、プライバシー保護のための次の技術
<51>
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情報リテラシー
一般にリテラシーとは=読み書き能力、識字率のこと

科学技術リテラシーとは
 科学や技術を使う上での基本的な能力、科学・数学・技術に関係
した知識・技術・物の見方。物事を論理的に考える能力も含まれ
ている。

情報リテラシーとは
 ただ単にパソコンを操作できるという意味の情報機器操作能力で
はない。
• 情報を主体的に選択、収集、活用、編集、発信する能力をもつこと
• 情報機器を使って論理的に考える能力
 マウスでクリックしたときに「裏で何が動いているのか」についてのおおま
かな想像力がおよぶ程度の理解能力
<52>
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情報リテラシー

情報技術の日常生活への浸透度が高い

日々の技術革新の速度が速い
 広範囲の人に情報における批判的思考の育成が必
要
 情報における批判的思考=自分の操作の裏で何が
動いているのかについて、ある程度論理的に考える
こと

技術の便利さの進展が操作の裏側を知らずに行う
操作を増やしている
 情報技術の特徴(多対多の通信射程、匿名性、複製
可能性)を押さえた上での批判的思考が必要
<53>
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これからの世代の情報

情報技術の普及
 よい側面とダークサイド双方が同居。社会の新陳代謝加速。
 面白いものにぶつかるチャンスもあるし、危ないものにぶつか
るチャンスも多い。
 その場面場面で技術開発者、利用者、法律の専門家や倫理の
専門家などの相互の議論が必要。

我々の今の選択は、将来世代の情報技術に影響を与える。
 文明時代の野蛮人になるのではなく、
 問題が発生するごとにそれらの議論に「参加」し、
 新しい社会規範の構築に参加できる情報リテラシーを身に付け
ること
<54>
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