厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業) 22年度 分担研究報告書 「わが国における新しい妊婦健診体制構築のための研究」 分担研究:妊婦健診体制の整備 研究テーマ:早産妊娠高血圧腎症ハイリスク症例の抽出 分担者 大口昭英 自治医科大学産科婦人科学講座 特任教授 芳賀赤十字病院 部長 松原茂樹 自治医科大学産科婦人科学講座 教授 研究要旨 【目的】現在、妊娠高血圧腎症(preeclampsia, PE)の発症を高感度、高特異度でスクリ ー ニングする方法が確立されていない。平成20年度、21年度の研究で、我々は、妊娠中期 の子宮動脈血流速度波形計測、血圧レベル、血管新生因子のplacenta1 growth factor(PIGF) を組み合わせると、早産となる妊娠高血圧腎症(preterm PE)の発症を高感度かっ高特異 度で予知できる可能性を示した。平成22年度の研究では、preterm PE及び正期産となる PE(term PE)のリスク因子を明確にすることが目的であり、そのリスク因子を母子手帳に 記載することを目標とした。 【方法】最初に、1554名の妊婦コホートから、初産・経産の別、年齢、妊娠前の体格指数 (body mass index, BMI)、妊娠中期の血圧レベル、妊娠中期の子宮動脈血流速度波形計測 のdataがすべて揃っている1321名について、これらの因子がpreterm PE及びterm PE 発症のリスク因子であるかどうかを検討した。続いて、1554名の妊婦コホートから、妊娠 中期の両側子宮動脈血流速度波形の両側拡張早期切れ込み波形(以下bilateral notch, BN) を認める妊婦、また、妊娠中期の平均血圧(mean blood pressure, MBP)≧97mm且gの妊婦 を全て含む、528例のサブコホートを抽出し、妊娠20∼23週、妊娠27∼30週での血管新 生関連因子(PIGF、 soluble fms・like tyrosine kinase 1 [sFlt’1]、及びsoluble endoglin {sEng])が、その後のpreterm PEおよびterm PE発症のリスク因子であるかどうかを検 討した。 【成績】(1)preterm PEは16名(1.2%)に、 term PEは21名(1.6%)に発症した。年齢、妊 娠中期のMBP、及び、妊娠中期のBNはpreterm PEの独立危険因子であり、各々のodds ratio[OR](95%con丘dence interval[CI】)は、1.19[1.05−1.34]、1.11[1.07−1.16】、及び、9.0 [2.9・28]であった。ROC曲線解析の結果、最もpreterm PEの感度と特異度を良くするMBP のcutoff値は92であり、その時の感度、擬陽性率は各々83%、19%であった。また、妊娠 中期のMBPのみがterm PEの独立危険因子であり、そのOR(95%CI)は1.08【1.04−1.11] であった。MBPのcutoff値を92とすると、term PE予知における感度、特異度は各々56%、 20%であった。(2)妊娠20・23週のPIGF、 sFlt・1、 sEng、 sFlt−1/PIGF比にっいて、 preterm 一 254一 PE発症のOR(95%CI)は各々、not signi丘cant(NS)、5.7(1.5・21)、23(2.8−184)、7.0(1.9・26) であり、妊娠28・29週のPIGF、 sFlt−1、 sEng、sFlt・1!PlGF比についてpreterm PE発症 のOR(95%CI)は各々、9.4(2.4−37)、55(6.5・457)、49(5.9’413)、41(4.9・339)であった。ま た、妊娠20−23週のPIGF、 sFlt・1、 sEng、 sFlt・1/PIGF比について、 term PE発症のOR (95%CI)は各々、NS、5.0(1.1・22)、 NS、12(2.7・52)であり、妊娠28−29週のPIGF、 sFlt・1、 sEng、sFlt−1!PlGF比にっいてterm PE発症のOR(95%CI)は各々、 NS、9.4(2.0−44)、 4.7(1.02・22)、7.2(1.6・33)であった。 【結論】 高年齢、妊娠中期のMBP高値、 BNはpreterm PEのハイリスク因子であった。また、 妊娠中期のMBP高値は、 term PEのハイリスク因子でもあった。このように、妊娠中期の MBP高値はPE発症の時期を問わず、 PE発症の最も重要なリスク因子であり、そのcutoff 値としては92mmHgが適切と考えられた。このMBP値は、およそ収縮期血圧120mmHg、 拡張期血圧80mm且gの妊婦に相当する値である。また、血管新生関連因子は、妊娠20・23 週の妊娠中期以降、preterm PE及びterm・PEのハイリスク妊婦を抽出するために用いる ことができることが示された。特に、妊娠27・30週にsEngあるいはsFlt・1/PIGF比を測定 すると、preterm PEを後に発症する妊婦を高いオッズ比で抽出できることが明らかになっ た。 これら一連の結果は、妊婦健診において、一 旦9蝿Lを呈する妊婦をPE発症のハイリスク妊婦として認識することが重要であ ることを示唆している。最も理想的には、妊娠中期に、血圧レベル、子宮動脈血流速度波 形計測の何れかに異常を認めた妊婦をPE発症のハイリスク妊婦とし、その後妊娠28週前 後にsEngあるいはsFlt・1!PIGF比測定を行えば、高感度、高特異度でpreterm PEを発症 する妊婦を絞り込むことができるようになるであろう。一方、term PEについては、 MBP 高値がリスク因子になるものの、その予知は非常に難しい。 (sFlt 1:PIGF比)及びsoluble endoglin A.緒言 Papageorghiouらは8000人以上の妊婦 (sEng)濃度をそれぞれ計測・測定した2)。 を対象に、妊娠22・24週で子宮動脈血流速 その結果、正常妊婦におけるsFlt 1:PIGF比 度波形を計測した。その結果、子宮動脈血 及びsEng濃度の上位25%を高値(異常) 流速度波形異常は、結果的に早産となる妊 と定義した場合に、両者が異常を示した場 娠高血圧腎症(preeclampsia:PE)(preterm 合には、結果的にpreterm PE発症リスク PE)の発症予知能が高いことをROC分析に は約32倍と高かった2)。以上の知見は、子 より明らかにした1)。一方、Levineらは 宮動脈血流速度波形計測と血管新生因子関 4500人以上の妊婦コホートを対象に、妊娠 連物質(sFlt 1, PIGF, sEng)の測定を組み合 21−32週でsoluble fms・1ike tyrosine わせれば、preterm PEの発症を高率に予知 kinase 1:placental growth factor比 できる可能性を示唆している。preterm PE 一 255一 の発症を予知できれば、妊婦健診でこれを に臨床で使用できるようになっており6・ 7)、 取り入れ、preterm PE早期発見および早期 本研究の成果は、近い将来、臨床応用可能 介入への道が開ける。 になると予想される。 我々は、平成20年度、21年度の研究で、 平成22年度の研究の目的は、平成22年 すでに以下の成果を得ている。 度の研究では、preterm PE及びterm PE (1)sFlt・1, PIGF, sFlt1:PIGF比、および のリスク因子を明確にすることである。ま sEngの4指標について、正常妊婦85例の た、本研究で同定されたPE発症のリスク 妊娠20∼39週でのデータの分布を用いて、 因子を母子手帳に記載することを目標とし 在胎週数との関係を最も近似する数式を求 た。 め、最終的に在胎週数別の95%値および B.研究方法 5%値を決定した3’5)。 以下2つの研究を行った。なお、本研究 (2)妊娠中期の子宮動脈血流速度波形を は、施設内倫理委員会の承認を得ており、 用いて、mRI, mPI,およびmNDIの3指 また、全ての対象患者からの同意を得た。 標について、妊娠16∼24週の80%値、90% 1.【妊娠中期におけるpreterm PE及び 値、95%値および97.5%値を決定した。 term PEのリスク因子の同定】 (3)妊娠中期のMBP、 mNDI、および 2003年∼2008年において、自治医科大 PlGFの3つを組み合わせることで、大部分 学で登録された1554名の妊婦コホートに のpreterm PE妊婦(93%)を、90%の特 より、初産・経産の別、年齢、妊娠前の体 異度で、妊娠中期にスクリーニグできるこ 格指数(body mass index, BMI)、妊娠中 とを示した。しかし、妊娠中期のPIGFは、 期の血圧レベル、妊娠中期の両側子宮動脈 子宮動脈血流速度波形異常、血圧レベルと 血流速度波形における拡張早期切れ込み波 比較してpreterm PE発症への関与が小さ 形(bilateral notch, BN)が、preterm PE及 かったので、妊娠中期におけるpreterm PE びterm PE発症の独立リスク因子であるか 発症のハイリスク妊婦の同定には、子宮動 どうかを、多重ロジスティック回帰分析を 脈血流速度波形異常と血圧レベルで十分と 用いて検討した。収縮期血圧(systolic blood 考えられた。 pressure, SBP)及び拡張期血圧(diastolic 以上の結果から、我々は、妊娠中期に血 blood pressure, DBP)は妊婦健診時に自動 圧レベル、子宮動脈血流速度波形計測を行 血圧計で測定し、16∼23週の2回の平均値 い、PE発症のハイリスク妊婦の同定を行い、 から求めた。血圧レベルは、平均血圧(mean 続いて妊娠28週前後にsFlt 1:PIGF比及び blood pressure, MBP)を用いて判断した。 sEllgを測定すれば、 preterm PEの発症リ MBPは(SBP・DBP)/3+DBPの計算式に スクの高い妊婦を早期診断できるのではな より求めた。 いかと考えた。現在、sEngは研究レベルで 2.【妊娠20・23週、妊娠27・30週における あり、実用化段階に至っていないが、欧米 血管新生関連因子を用いたpreterm PE及 では、PEの診断に用いるための びterm PEの予知】 sFlt1:PIGF比測定キットが開発され、すで すでに、BN及び血圧レベル高値はPE発 一 256一 症のリスク因子であることがわかっていた 値を92とすると、term PE発症予知の感 ため、研究1と同じコホートからサブコホ 度と特異度は各々56%、20%であった。 ー トを選択し、妊娠20∼23週、妊娠27∼ 2.【妊娠20−23週、妊娠27・30週の血管新 30週の血管新生関連因子(PIGF、 soluble 生関連因子によるpreterm PE及びterm fms・like tyrosine kinase 1[sFlt・1]、及び PEの予知】 soluble endoghn[sEng])が、その後の 妊娠20・23週のPIGF、 sFlt・ 1、 sEng、 preterm PEおよびterm PE発症のリスク sFlt−1/PIGF比にっいて、 preterm PE発症 因子かどうかを検討した。サブコホートと のOR(95%CI)は各々、not signi丘cant(NS)、 しては、BN+は全例195例を、 BN一の場 5.7(1.5・21)、23(2.8・184)、7.0(1.9・26)であ 合は妊娠中期のMBP≧97mmHgの妊婦全 り、妊娠28−29週のPIGF、 sFlt・1、 sEng、 例110例を、そして、それ以外に sFlt・1/PIGF比にっいてpreterm PE発症の MBP<97mm且gの妊婦223例を、コントロ OR(95%CI)は各々、9.4(2.4・37)、55 ー ル群として登録の早い順から選択した。 (6.5・457)、49(5.9・413)、41(4.9・339)であっ これら計528例のサブコホートについて、 た。また、妊娠20・23週のPIGF、 sFlt・1、 妊娠20・23週及び妊娠27・30週で採血され sEng、 sFlt−11PIGF比について、 term PE 保存されている血清のsFlt・1、 PIGF、 発症のOR(95%CI)は各々、NS、5.0(1.1−22)、 sFlt・1/PIGF比、 sEngをEHSA(Roche)で NS、12(2.7・52)であり、妊娠28−29週の 測定した。PIGFは正常域の5%タイル値未 PIGF、 sFlt・1、 sEng、sFlt・ 11PIGF比につ 満を、sFlt1、 sEng、 sFlt1!PIGF比は95% いてterm PE発症のOR(95%CI)は各々、 タイル値以上を異常と定義した4・5)。 NS、9.4(2.0・44)、4.7(1.02・22)、7.2(1.6・33) C.研究結果 であった。 1.【妊娠中期におけるpreterm PE及び D.考察 term PEのリスク因子の同定】 本年度の研究により、以下の4つのこと preterm PEは16名(1.2%)に、 term PE が明らかになった。(1)preterm PEにおい は21名(1.6%)に発症した。年齢、妊娠中期 ては、血圧レベル、BNのみならず、年齢 のMBP、及び、 BNはpreterm PEの独立 がリスク因子であった。(2)term PEにおい 危険因子であった。各々のodds ratio【OR】 ては、血圧レベルのみがリスク因子であっ (95% con丘dence interval[CI】)は、 1.19 た。(3)preterm PEでは、妊娠20・23週に 【1.05・1.34]、1.11[1.07−1.16】、及び、9.0 sEng、 sFlt・ 1/PIGF比の異常が多く発生し [2,9・28】であった。ROC曲線解析の結果、 ており、さらに、妊娠27・30週のsEng、 最もpreterm PEの感度と特異度を良くす sFlt・11PIGF比によりpreterm PEを発症す るMBPのcutoff値は92であり、その時の るリスクの高い妊婦を高いオッズ比で抽出 感度と擬陽性率は各々83%、19%であった。 できた。(4)term PEではpreterm PEより また、妊娠中期の血圧レベルのみがterm も発症予測が困難iであったが、一部の症例 PE’ の独立危険因子であり、OR(95%CI)は では、妊娠20・23週からすでにsFlt・・1/PIGF 1.08[1.04・1.11]であった。MBPのcutoff 比の異常が発生しており、また、妊娠27・30 一一 257一 週でもsEng、 sFlt・1ZPIGF比の異常が疾患 を始めて示した。全てのPEにおいて、妊 発症前に起こっていることが確認された。 娠中期の血圧レベルを考慮すると、妊娠前 今回の研究により、BNは、 term PEよ のBMIがPE発症に与える影響が消失する りもpreterm PEの予知に有用であること ことはすでに報告しているがlo)、今回の解 が示された。BNは非常に簡単に子宮動脈 析結果は以前の報告とは異なるコホート集 血流速度波形異常を同定する方法であり、 団を用いていることから以前の我々の結果 pulsatihty indexやresistance indexのよ を裏付けるものであった。このように、 うな連続変数を用いないため、一次施設に preterm PE及びterm PEの何れにおいて おいても導入しやすく、また、これまでの も、妊娠中期の血圧レベルを考慮すると妊 子宮動脈血流速度波形を用いた研究におい 娠前のBMIの影響が消失することから、妊 て最も多く使用されてきた指標でもある8)。 娠前のBMIは血圧レベルの上昇を介して 子宮動脈血流速度波形単独では、PEの発症 PEの発症に関与しているものと推測され 予知の感度、陽性的中率が低いとされてい る。 るが8)、これは、PEの中に子宮動脈血流速 今回の研究では、preterm PEの発症を予 度波形の異常と関連が低いterm PEが含ま 知する最適なMBPのcutoff値は92mm且g れていて、その結果PE全体に対する予知 であった。この値はおよそSBP/DBP を行おうとすると感度、陽性予測度が低下 120180mm且gに相当し、ちょうど成人にお するためと考えられる9)。本研究で示され ける至適血圧と正常血圧を区別する値であ たように、preterm PEの予知においては、 る。以前我々が報告したように、正常血圧 BNは9倍と十分な大きさのリスクを示し の妊婦は、至適血圧の妊婦よりも約5倍PE ており、また、BNは血圧レベルと独立し の発症リスクが高い10)。このMBP92mm たリスク因子であった。しかし、preterm 且gをterm PEの発症予知に用いると、感 PE発症の感度、陽性予測度を臨床判断に十 度と特異度は各々56%、20%となり、約半 分な大きさにするためには、昨年度の研究 数以上のterm PE発症妊婦を妊娠中期に抽 で示したように、血圧レベルとの組み合わ 出できる。term PEでは、疾患発症前後で せが必要である。 の血管新生関連因子の異常発生率が低いた 妊娠中期の血圧レベルの上昇は、 め、sFk・ 1/PIGFやsEngが疾患の発症予知、 preterm PE及びterm PEの独立したリス 診断においてその意義が薄くなる3・4)。term クであった。妊娠中期の血圧レベルがPE PEはBNも発症に関連しておらず、唯一こ の発症予知に重要であることは、すでに のMBPのみがハイリスク妊婦を抽出する 我々が過去に報告しているが10)、今回、初 手がかりである。 めて、妊娠中期の血圧レベルが、preterm 本研究では、年齢がpreterm PEの独立 PEのみならず、 term PEのリスク因子で したリスク因子であるとされたが、本研究 あることを明らかにした。また、妊娠中期 では既往PI且妊婦、 GDM妊婦、高血圧合 のMBPを考慮すると、妊娠前のBMIは 併妊婦を交絡因子として調整していないの term PEの独立リスク因子とならないこと で、年齢が本当に独立した因子なのかどう 一 258一 かは実際のところ不明である。preterm PE sFlt・1/PIGF比が有意に上昇したのは、妊娠 のリスクも5歳上昇で2.4倍程度の上昇で 25’28週であり、妊娠17・20週、21・24週で あり、それほど重要視しなくてもいいかと は有意な上昇を認めなかったと報告してい 思われる。また、年齢区分を連続変数では る2)。この結果は我々の結果とは異なるも なく、〈35、35・39、40≦の3区分とする のであった。そこで、term PEにおいて、 と、年齢の効果は多重ロジスティクモデル 妊娠20・23週のloglo(sFlt・ 1/PIGF)について、 において有意なリスク因子とならなかった term PEと正常コントロールをt一検定で比 (データは略)。このことから判断しても、年 較したところ、各々その平均値土SEは、0.63 齢がPEの発症に与える影響は強くないと 土0.18、0.11土0.02であり、p<0.05で有意 思われた。 差を認めた。この結果も合わせて判断する preterm PEでは、妊娠20・23週のsEng、 と、我々のサブコホートにおいては、後に sFlt・1/PIGF比が異常を呈する妊婦が多く term PEを呈する妊婦であっても、妊娠 なり、その後preterm PEを発症した妊婦 20・23週の早い時期からすでに では、妊娠27・30週のsEng、 sFlt・1/PIGF sFlt・ 1/PIGF比が高値を呈する妊婦がいる 比オッズ比は極めて高値を示した。Levine といえそうである。 らは、preterm PEでは、疾患発症前の17−20 E.結論 週でsEngとsFlt・ 1!PIGF比が有意に上昇 高年齢、妊娠中期の血圧レベル高値、BN し、以後その値は正常群よりもどんどん逸 はpreterm PEのリスク因子であった。ま 脱していくことを報告しており2)、我々の た、妊娠中期の血圧レベル高値は、term PE 結果はLevineらの結果を支持するもので のリスク因子であった。このように、妊娠 ある。このように、妊娠20週前後から、 中期の血圧レベルは分娩時期を問わず、PE preterm PE発症のハイリスク妊婦を同定 発症の最も重要なリスク因子であり、その 可能であり、さらに、妊娠27・30週くらい cutoff値としては92mmHgが適切と考え にsEngあるいはsFlt−1!PIGF比を測定す られた。この値は、およそ収縮期血圧 れば、preterm PE発症のハイリスク妊婦を 120mmHg、拡張期血圧80mmHgの妊婦に 高いオッズ比で同定することができると考 相当する値である。また、血管新生関連因 えられる。 子を用いることで、妊娠20・23週の妊娠中 本研究では、また、term PEを後に発症 期にpreterm PE及びterm PEのハイリス した妊婦において、妊娠20・23週の ク妊婦を抽出でき、特に妊娠28・29週での sFlt−1/PIGF比、妊娠27・30週のsEng、 測定はpreterm PE発症と強い関連を認め sFlt−1/PIGF比が異常を呈する妊婦が有意 た。 に多いことを見出した。Levineらは、 term PEでは、 sEngが有意に上昇したのは妊娠 120/80mmH£上に目当)は、 PE発症のハ 25・28週であったと報告しており2)、我々 イリスクであり、この情報を母子手帳に記載す の結果はlevineらの結果を支持するもので ることで、妊婦自らが血圧レベルに注意をして ある。しかし、Levineらは、term PEでは、 妊娠経過を送るようになるであろう。それと同 一 259一 時に、周産期医療に従事する医師もまた、この Alteration of serum soluble endoglin levels ような血圧レベルの高い妊婦をPE発症のハイ after the onset of preeclampsia is more リスクと考えながら診療を行うようになるため、よ pronounced in women with early−onset り早期にPEが発見され、適切な対応が母児 Hypertens Res 2008;31:1541−8. に行われるようになるであろう。そして、近い将 5. Hirashima C, Ohkuchi A, Takahashi K, 来、血管新生関連因子が商業べ一スで測定 Suzuki H, Ybshida M, Ohmaru T, Eguchi K, できるようになれば、PE発症のハイリスク妊婦 Ariga H, Matsubara S, Suzuki M. において、妊娠28週前後でこれらの因子を測 Gestational hypertension as a subclinical 定することによって、より正確にPE発症を予 preeclampsia in view of serum levels of 測できるようになるであろう。 angiogenesis−related factors. Hypertens F.文献 Res.2010 in press. 1. Papageorghiou AT, YU CK, B indra R, 6. Verlohren S, Galindo A, Schlembach D, Pandis q Nicelaides KH;Fetal Medicine Zeisler H, Herraiz I, Moertl Mq Pape J, Foundation Second Trimester Screening Dudenhausen JW, Denk B, Stepan H. An Group. Multicenter screening for automated method for the determination of pre−eclampsia and fetal groWth restriction the sFlt−1/PIGF ratio in the assessment of by transvaginal uterine artery Doppler at 23 preeclampsia[Epub ahead ofprint Oct 20, weeks of gestation. Ultrasound Obstet 2009].ノ1〃1」 Obstet Gynecol 2009. Gynecol 2001;18:441−9. doi:10.1016/j.ajog.2009.09.016. 2. Levine RJ, Lam c, Qian c, Yu KF, 7. Ohkuchi A, Hirashima C, Suzuki H, Maynard SE, Sachs BP, S ibai BM, Epstein Takahashi K, Ybshida M, Matsubara S, FH, Romero R, Thadhani]& Karumanchi Suzuki M. Evaluation of a new and SA;CPEP Study Group. Soluble endoglin automated electrochemiluminescence and other circulat輌ng antiangiogenic factors immunoassay for plasma sFIt−1 and PIGF in preeclampsia. N Engl J Med 2006;355: levels in women with preeclampsia. 992−1005. Hypertens Res 2010in press. 3.Ohkuchi A, Hirashima C, Matsubara S, 8. Cnossen JS, Morris RK, ter Riet q Mol Suzuki H, Takahashi K, Arai F, Watanabe T, BW, van der Post JA, Coomarasamy A, Kario K, Suzuki M. Alterations in placental Zwinderman AH, Robson SC, B indels PJ, growth factor levels before and after the Kleij nen J, Khan KS.CMAJ. Use of uterine onset of preeclampsia are more pronounced artery Doppler ultrasonography to predict in women with early onset severe pre・・eclampsia and intrauterine growth preeclampsia. Hypertens Res 2007;30: restriction:asystematic review and 151−9. bivariable meta−analysis.2008;178:701−11. 4.Hirashima C, Ohkuchi A, Matsubara S, 9. Papageorghiou AT. Predicting and preventing Pre−eclampsia−where to next? Suzuki H, Takahashi K, Usui R, Suzuki M. 一 260一 Ultrasound Obstet Gynecol 2008;31: but not body mass index, are risk factors 367−70. for the subsequent occurrence of both 10.Ohkuchi A, Iwasaki R, Suzuki H, preeclampsia and gestational hypertension: Hirashima C, Takahashi K, Usui Rう aretrospective cohort study. Hypertens Res Matsubara S, Minakami H, Suzuki M. 2006;29:161−7. .Normal and high−normal blood pressures, 一 261一 厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業) 22年度 分担研究報告書 「わが国における新しい妊婦健診体制構築のための研究」 分担研究:妊婦健診体制の整備 研究テー一・一‘マ:早産妊娠高血圧腎症ハイリスク症例の抽出 分担者 大口 昭英、松原 茂樹 〈研究のまとめ〉 平成20年度、21年度の研究 妊娠中期の子宮動脈血流速度波形計測、血圧レベル、血管新生因子のPlacental growth fhctor(PIGF)を組み合わせると、早産となる妊娠高血圧腎症(preterm PE)の発症を高感 度かつ高特異度で予知できる可能性を示した。 平成22年度の研究 高年齢、妊娠中期の平均血圧高値、BNはpreterm PEのハイリスク因子であった。また、 妊娠中期の平均血圧高値は、term PEのハイリスク因子でもあった。このように、妊娠中 期の平均血圧高値はPE発症の時期を問わず、 PE発症の最も重要なリスク因子であり、そ のcutoff値としては92mm且gが適切と考えられた。この平均血圧92mmHg以上の場合、 preterm PE発症の感度、偽陽性率は各々83%、19%であり、term PE発症の感度、偽陽 性率は各々56%、20%であった。この平均血圧値92mmHgは、およそ収縮期血圧120mmHg、 拡張期血圧80mm且gに相当する値である。また、血管新生関連因子は、妊娠20・23週の妊 娠中期以降、preterm PE及びterm PEのハイリスク妊婦を同定できた。特に、妊娠27・30 週にsEngあるいはsFlt・1/PIGF比を測定すると、 preterm PEを後に発症する妊婦を高い 尤度比で同定できた。 <提言> 3年間にわたって行われたPreterm PE発症予知に関する研究から、我々は、妊婦健診に おいて、血圧が120/80mmHg以上を呈する妊婦をPEの発症時期を問わず、 PE発症の最 も重要なハイリスク妊婦として認識することが重要であると結論した。母子手帳において は、妊娠中期の血圧レベルが120/80mmHg以上であると、妊娠高血圧腎症の発生リスクが 高いことを記載していただきたい。 一 262一
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